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1.キャッシュレス社会は実現するか
最近、「キャッシュレス社会」という言葉が注目を集めています。
キャッシュレス社会とは、現金をなるべく使わない取引を行う社会のことです。
以前から普及していたクレジットカードを用いた支払いのほか、デビットカード(預金口座と紐付けられた決済用カード)、インターネット上でのみ決済を行うネット銀行の利用、電子マネーの普及、携帯電話へのクレジット機能・キャッシュカード機能・電子マネーの搭載などITの進歩により、キャッシュレス社会が広まる一方、まだ他の諸外国と比べ、その遅れも目立ちます。
今回は、日本のキャッシュレス社会の現状と課題、世界の動向についてまとめてみました。
2.なぜキャッシュレス化が必要なのか
まず、少子高齢化や人口減少に伴う労働者人口減少の時代を迎え、キャッシュレス推進は実店舗の無人化を行うことができるとともに、電子化による現金資産の「見える化」と不透明な現金流通の抑止、支払いデータの活用も行うことができます。
また従来のプラスチックのカードで作られていないスマートフォン、インターネットやアプリを活用した技術も登場し、今後もさまざまば技術を活用したサービスの登場も予測されます。
現状、日本では個別の売買データの活用は十分に行われていません。世界に視野を広げれば、支払い手数料やインフラコストを安くして利用者を増やすことで、その結果として集まる支払い情報を蓄積・分析することで新しいサービスを開発するビジネスモデルも誕生しており、それを世界展開する企業も現れています。
3.日本のキャッシュレス化の現状は?
現状の日本のキャッシュレス支払い普及率は以下の通りです。
・電子マネー(交通系、流通系)・・・前払い・・・1.7%
・デビットカード・・・即時払い・・・0.3%
・モバイルウォレット(QRコードなど)・・・即時払い・・・データなし
・クレジットカード・・・後払い・・・18%
世界各国のキャッシュレス決済比率が40%~60%であるのに対し、日本は20%にとどまっています。
日本でキャッシュレスが実現しない理由としては、治安の良さや偽札の少なさ、「使いすぎ」などの不安感、店舗の端末負担コスト、ネットワーク接続料、加盟店の手数料などのコスト負担が背景にあります。
4.キャッシュレス化のメリット
キャッシュレス化のメリットとして、次の点が挙げられます。
・現金を持つ必要がなく、路上犯罪の危険性がない
・ポイント還元が期待できる
・カード会社の審査があるため、社会的信用が示せる
・帳簿をつける手間が省け、利用履歴が確認しやすい
・会計ミス、現金管理の手間が省ける
5.キャッシュレス化が進む海外
国際決済銀行のデータを日本銀行が分析した資料によると、2015年時点のスウェーデンに流通する現金はGDP(国内総生産)の1.7%、残りの98.3%は現金以外の支払いが行われているといいます。この比率は日本の約11倍です。
スウェーデンで急速にキャッシュレス化が進んだ背景には「Swish(スウィッシュ)」というスマートフォンのアプリの存在があります。大手11銀行が2012年に共同開発したこのアプリは、スマートフォンの電話番号と銀行口座が紐付けられ、QRコードなどで即時決済ができます。しかも利用者には手数料がかからないため、ATMから現金を引き出すよりもお得感があるのです。
Swishのホームページによると、2017年8月末時点でスウェーデンの人口約990万人のうち約570万人、実に半数以上がこのアプリを使用しているそうです。毎日新聞によると、「若年層(19歳~23歳)の利用率は95%になるそうです。最近は「現金お断り」という店や、お祭りの屋台でも支払いはSwishが主流で、教会の献金でさえ、Swishで支払われているそうです。
CBSNEWSによると、2008年に110件あったスウェーデン国内の銀行強盗が2011年にはわずか16件にまで減少したということです。現金を使わない決済は取引記録が残るため、脱税を減らすことにも繋がりました。
店舗では、キャッシュレス化によるスムーズな会計が行列を減らし、客のストレスを減少させたり、定員が貨幣を触ることなくがなくなったので、特に飲食店では衛生面でもメリットがあります。
キャッシュレス化の流れはスウェーデンだけにはとどまりません。デンマーク国立銀行によると、デンマークは2000年代に入ってカードでの支払いが現金を上回りました。2013年に登場したスマートフォン決済サービス「Mobile Pay」の後押しもあり、2016年には小売店での支払いの約8割がキャッシュレスでの決済となったそうです。
現金での決済比率が6%だったノルウェーでは、大手銀行が現金の受け渡しを停止すると発表。2020年までには、現金を完全になくすべきという話もでたそうです。
6.最後に
キャッシュレス社会の実現に向けては、増加する訪日外国人のためにも実現しなくてはなりません。
政府は「観光立国」政策を掲げ、2020年には訪日外国人旅行者数を4000万人に増やすとともに、8兆円規模の消費を見込んでいます。そのような中で、政府が発行する「日本再興戦略」の2016年版では、主要観光地における100%のキッシュレス決済対応を掲げています。
実際、訪日外国人旅行者が「不満に思ったところ」に関する観光庁の調査では、「クレジット、両替に関する不満」が4番目に挙げられました。
観光客が多い地域では、カードの利用環境を改善するさまざまな取り組みも始まっています。静岡県ぬまづみなと商店街協同組合は、カードを利用しやすい環境を一層整備するため、店舗において利用可能なカードをわかりやすく掲示するとともに、かざすだけで支払いができる「非接触IC」カード対応の最新機器も導入しました。
外国人旅行者の購買機会を増やし、消費拡大を目指すには、カードが利用できることを知らせる「ブランドマーク」を店頭などのわかりやすい場所に掲示することも重要です。
国内に居住する日本人ためのサービスも始まっています。LINE Pay 社が提供する「LINE Pay」は、個人間送金や実店舗等の加盟店での支払いが可能なサービスで、2014年12月のサービス開始以降、国内の登録ユーザー数が2017年5月に3000万人を突破しました。
キャッシュレス推進のためには、キャッシュレス支払いが行える店舗が拡大する必要があります。とくにキャッシュレス支払いの導入により、「レジの混雑解消」「資金管理の効率性向上」などのメリットが実店舗にはあります。
政府は10年後までにはキャッシュレス決済比率を40%にまで上げる目標を掲げています。それは、果たして実現するのでしょうか。注目ですね。
参考
経済産業省(2018)「キャッシュレス・ビジョン」
経済産業省(2018)「キャッシュレスの現状と今後の取り組み」
国土交通省観光庁(2017)「受入環境についての訪日外国人旅行者にアンケート調査を行 いました」
新R25(2018)「現金使用率は1.7%!?スウェーデンで進むキャッシュレス化がもたらす意外なメリット」
毎日新聞(2017)「フィンテック スマホ決済、現金消えた スウェーデン、パンも献金も」
松田典久(2017)「外国人旅行者の利便性を高めるインバウンド消費喚起の決め手」
CBSNEWS(2012)
Danmark Nationalbank 2017 “Danes are Front-Runners in Electronic Payments”
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