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「配慮のためだから。」
もし、職場でそんな理由から、
本人の知らないところで障害について共有されたとしたら、
あなたはどう感じるでしょうか。
会社としては善意だったのかもしれません。
働きやすい環境を整えるためだったのかもしれません。
しかし2026年、東京高等裁判所は、
そのような障害情報の無断共有(アウティング)について「違法」と判断しました。
この判決は、障害者雇用だけではなく、
すべての職場にとって大切なメッセージを含んでいると思います。
「アウティング」とは何か
「アウティング」とは、
本人の同意なく、
性的指向や性自認、
病歴、
障害などの機微な個人情報を第三者へ伝えることを指します。
障害の有無は、とても個人的な情報です。
誰に伝えるのか。
いつ伝えるのか。
そもそも伝えるのか。
それを決める権利は、本来なら本人にあります。
この「自分の情報を自分でコントロールする権利」は、
人格権やプライバシー権として法的にも守られています。
裁判で何が起きたのか
裁判の原告は、
発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)の特性を持つ男性でした。
採用時には障害を伝えない「クローズ就労」という形で
障害者福祉事業所に勤務し、およそ3年間、大きな問題なく働いていました。
ある日、業務量について相談する中で、
自身の特性を理解してもらうため、代表者へ「実は発達障害があります」と打ち明けます。
ところが翌日、
代表者は本人の同意を得ないまま、
サービス提供責任者など複数の職員へメールで障害について共有しました。
さらに、
「採用時のアンケートで障害を申告していなかった」
という理由を挙げ、男性を解雇しました。
男性は、不当解雇と障害情報の無断開示による人格権侵害を理由に提訴します。
私には、この一連の流れが、
「発達障害があるなら働き続けてもらうのは難しい」と判断されたように映りました。
実際には、
約3年間大きな問題なく勤務していたにもかかわらず、
障害を打ち明けた直後に解雇されています。
だからこそ裁判所も、「障害を理由とした差別的な解雇」と判断したのでしょう。
裁判所の判断
横浜地方裁判所、そして東京高等裁判所は、ともに会社側の主張を退けました。
会社側は、「職場での管理や配慮のために必要な情報共有だった」と説明しました。
しかし裁判所は、
「本人の同意なく障害という機微な個人情報を共有する正当な理由は認められない」
と判断しました。
その結果、
障害情報を無断で共有した行為は人格権を侵害する違法行為であると認定され、
慰謝料の支払いが命じられました。
また、解雇についても、
「採用から約3年間問題なく勤務していたこと」
「障害を打ち明けた直後に解雇されたこと」
などから、実質的には障害を理由とした差別的な解雇であると判断されました。
東京高裁は一審の判断を維持し、
未払い賃金の一部などを含め、およそ106万円の支払いを会社側へ命じています。
「合理的配慮」と「無断共有」は違う
この裁判で特に重要なのは、
「合理的配慮」と「アウティング」は全く別のものだという点です。
障害のある人が安心して働けるよう配慮することは、企業に求められる大切な責任です。
しかし、そのために本人の同意なく障害情報を共有してよい、ということにはなりません。
本来であれば、
「誰に伝えてもいいですか。」
「どこまで説明しても大丈夫ですか。」
「配慮の内容はどのように伝えましょうか。」
こうした確認を本人と行い、
納得した上で必要最小限の範囲に情報を共有することが、
本当の意味での合理的配慮だと思います。
配慮とは、本人の意思を尊重することから始まります。
今回の判決を見ると、障害に関する個人情報の扱いや、
合理的配慮について十分な理解が組織内で共有されていなかった可能性も感じます。
「配慮のため」という善意だけでは足りず、
本人の同意や自己決定権を尊重するという視点が欠かせないことを、
この判決は示しています。
クローズ就労を選ぶ権利
障害があることを職場へ伝えるかどうかは、本人が決めることです。
障害を公表して働く「オープン就労」もあれば、
障害を伝えずに働く「クローズ就労」という選択もあります。
どちらが正しいというものではありません。
人それぞれ事情があり、不安があり、職場環境も異なります。
だからこそ、
障害を伝えなかったことだけを理由に不利益を受けることがあってはならないのです。
今回の判決は、その権利を改めて示したものとも言えるでしょう。
おわりに
障害を打ち明けることは、決して簡単なことではありません。
「理解してもらえるだろうか。」
「働き続けられるだろうか。」
「評価が変わってしまわないだろうか。」
そんな不安を抱えながら、自分のことを話す人も少なくありません。
だからこそ、その勇気は尊重されるべきです。
私自身も、前職ではうつ病のことを職場には伝えていませんでした。
当時は、オープンにすることで理解してもらえるという安心よりも、
不利益な扱いを受けるのではないかという不安の方が大きかったからです。
障害や病気を打ち明けることは、それほど勇気のいることなのだと思います。
今回の判決は、企業を責めるためだけのものではありません。
本人の意思を尊重しながら、必要な配慮を一緒に考える。
そんな当たり前のことこそが、
安心して働ける職場づくりの第一歩なのだと教えてくれています。
障害者雇用は、「雇うこと」がゴールではありません。
一人ひとりが安心して働き続けられる環境をつくることこそ、
本当の意味での障害者雇用ではないでしょうか。
「配慮のためだから」という善意だけでは、人は守れません。
本当の配慮とは、本人の声に耳を傾け、
本人の意思を尊重しながら、一緒につくっていくものなのだと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また次の記事でお会いしましょう。
ねこパンクでした。
参照元 : (社会保険労務士 荻生労務研究所)「良かれと思って」が命取りに?発達障害社員の情報共有で起きた労務トラブル2025年6月25日
参照元 :(弁護⼠ 井上洋⼀「273 の資格を持つ弁護⼠による最強の法務戦略︕」2026年6月号)あいさん事務所便り(PDF)2P
参考元 : (あしたのあるきかた)クローズ就労はバレる?会社に知られるリスク・原因と開示範囲に悩んだときの相談窓口2026.06.02
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