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どうも、ゆたです。
前の記事では『バウルテスト(樹木画テスト)』と『箱庭療法』について体験談を交えながら、記事を書きました。
今回から、本格的に入院生活が始まっていきます。
その中で様々な人たちと出会い、色んな想いを知ることができました。
そして、本記事では、その中でも思い出深いとある少年とのお話です。
殺風景の部屋から移動! 他の患者さんたちと共同生活?
3日ほど真っ白な何もない部屋にいた私は、流石に飽きがきていました。
そんなタイミングで朗報が舞い降ります。
「午後から、病室を移動するからね」
その言葉通り、午後になるとすぐに移動が始まりました。移動といっても、大した荷物はないのでリュックを背負って、看護師さんについていきました。
病室に着くと私は思わず、「……え?」と声を漏らしてしまいました。
その病室は、なんと、大部屋だったのです。
正直、物凄く嫌ではありましたが、文句言うほどその看護師さんと仲良くもないので、仕方なくその病室で過ごすことにしました。
そこは4人で一つの部屋を使っています。元からいた3人の男性は年齢も雰囲気もバラバラで、その中でも子どもだった私はかなり戸惑っていましたが、1人の20代前後の男性がとても親切で、沢山、話しかけて頂いたので、少し気が楽になりました。
そして、大部屋を出ると広々とした共有スペースがあります。
お風呂やトイレ、キッチンも全て共有です。
その後、既に入院している方々に挨拶をする機会を設けられました。
男女問わず、皆が集まり、人数は15人程度。
私は注目の中、挨拶しようとすると、私の目の前の席で足をぷらぷらさせている少年が1人。
私は中学2年生だったので、てっきり、1番年下かなって思っていましたが、私より明らかに若い男の子にかなり驚き、頭の中で考えていた自己紹介を忘れながらも、なんとか挨拶をしました。
その夜。
その男の子が大部屋に勝手に入ってきました。
病院のルールで自分が使用している部屋以外の立ち入りは禁止されています。ですが、同じ病室の方々は注意しません。
きっと、子どものすることだろう、と目を瞑ることにしたのでしょう。
その男の子は私に近づき、
「よろしく」
と笑顔で言いました。
少年と楽しく過ごす日々の中で見えてきたこと。
その少年はAくんと言います。
Aくんは凄く明るく活発の小学生でした。
彼は、毎日のように悪さをしては、看護師さんを困らせていました。
私も一緒になって悪さをして、彼共々、怒られることもありました。
私は末っ子なので、弟妹はいません。なので、弟ができたみたいで、嬉しかったんだと思います。本当によく遊んでいました。
この病院は三階あり、階層ごとに北病棟と南病棟があります。私とA くんがいたのは北病棟です。実は南病棟や他の階には小学生の患者さんは沢山います。しかし、Aくんは中々、友達を作れずにいました。
それは彼の病気が所以しているように思えました。
Aくんは俗に言う、『狂言癖』があったのです。
わざとではないけど。周りの理解を得るのは難しい。
Aくんはことあるごとに嘘をつきます。が、基本的に絶対嘘とわかるようなものばかりでした。
例えば、「俺、家にバッファロー三匹いるぜ?」とか「うちに奈良の大仏あるぜ?」とか。
100歩譲ってバッファローは可能かも知れませんが、奈良の大仏は私が住んでいる県にはありません。だって、奈良にあるはずですから、奈良の大仏って。
私はそうなんだねーと軽く頷いていましたが、それは私がAくんを弟のように思っていたからであって、同い年の子からしたら、やっぱり、いい顔はされませんでした。
嘘をつくし、見栄っ張りで目立ちがり屋な面もあって、中々、友達ができず、ほとんどを私か、大人と共に行動していました。
そんなある日。
私は先生から誘われ、勉強会に参加することにしました。病院では定期的に勉強会が開かれていて、多種多様な病気についての授業を受けることができます。
そこで扱われていた題材が『虚言癖』についてでした。
虚言癖と言っても実は複数のタイプに分かれています。
下にまとめていますので、興味があれば一読のほどお願いします。
虚言癖のタイプ
・虚偽性障害/作為症 …明らかに嘘をつく必要がない場合なのに嘘をつく症状。
例、傷口を再び傷つけ直らない傷だと主張する。自分の尿に砂糖を入れ糖尿病だと主張する。
・演技性パーソナリティ障害 …自分をよく見せようとして嘘をつく症状。
例、有名人の知り合いだと言って注目を浴びる。妄想を事実のように語る。
・妄想性パーソナリティ障害 …根拠がないことを真実だと思い込み、結果として嘘をついてしまう症状。
例、自分が皇室の人間だと思い込み、それを信じて疑わないために周囲からは嘘つきだと思われてしまう。
・反社会性パーソナリティ障害 …自分の利益や目的のために嘘をつく。
例、人を騙してお金を奪う、性交渉のために身分を偽って異性に近づく。
こういったことを一通り話し終えた後、授業をしている先生は明らかに私をみて、説明を始めました。
「こういう症状がある方が周りにいる場合、あまり2人だけでの行動や変に過度なリアクションをするのは控えるようお願いします」
当時、その言葉はどこか冷たく感じましたが、後々、それを本当の意味が明かされます。
それから1週間も経たないうちに、Aくんは病棟を移動になりました。
私は、急なことで驚き、先生に相談することにしました。
すると、先生は少し考えた後、真剣な表情で話を始めました。
「君はずっと、Aくんといるけど、それは彼の治療にはよくないことなんだよ、勿論、君にもね」
先生そういうと私の肩をポンポン、と叩きました。
思い返してみると。
その後、Aくんは退院したことを知りました。
最後の挨拶もできず、今も連絡を取ることはできません。
今になって思えば、先生の言わんとしていることはわかります。
虚言癖の治療において、環境や周りの人間関係はかなり重要です。
しかし、それは決して、居心地の良い環境で生活すればいいというわけではないのです。
私はAくんを弟にように可愛がり、先生曰く、Aくんも君が来てから楽しそうだ、と言っていました。
ですが、先ほども言ったようにAくんは、同学年とはあまりうまく行ってませんでした。
小学生には小学生なりのコミニティーがあって、やっぱり同学年の子供達と仲良くするべきなのです。
それはこれから、大人になるまでの学校生活はやはり同世代との関係が多くなるし、私が甘やかしてしまっては彼の成長には繋がらないのでしょう。
嘘をつくことで彼は同学年とうまく関係が気づけなかった、でもここは病院で、そういった失敗を繰り返すことで自分の症状と向き合うことができるのです。
虚言癖やパーソナリティ障害は、自分が治したいと思わないと治りにくいと言われています。
Aくんはお喋りが好きでしたし、寂しがりやな面もありました。
もし、私があのまま入院しなかったら、彼は同学年の子たちと仲良くするために自分の症状と向き合うチャンスがあったかも知れません。
それを潰してしてしまったと思うと、今でも仲良くしていたことが間違いだったのではないか、そう、思ってしまうのです。
参考:虚言癖は治せる? 虚言癖がある人のセルフケアや治療法をご紹介します!
それでも。
病院の先生からしてみれば、私は治療に横やりを入れてしまった、いわゆる、邪魔者だったのかも知れません。
ですが、Aくんと悪さをしたり、折り紙をしたり、トランプをしたり。
そんな日々が全部無駄だったとは思いません。思いたくありません。
少なくとも私は楽しく毎日を過ごしていましたし、私が知る限り、Aくんも楽しそうでした。
Aくんのお父さんから本当に何度も感謝されました。
でも、本当に感謝したいのは私の方なのです。
精神科に入院する、そうなった時、不安で胸がいっぱいでした。そんな私に「よろしく」と声をかけ、いつも連れ回す彼に私は救われたと思っています。
もう一〇年近く会っていませんが、いつの日か彼と再会できたのなら、あの時のお礼を言いたいですね。
そんなことを思いながら今回はこの記事を〆させていただきます。
以上、お相手はゆたでした。また、次回の記事でお会いしましょう。
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