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皆さんは、世間の同性カップルが子どもを望んだ場合、また子どもを育てた場合、どのようなことを感じ、どのような状況に置かれているか、ご存知でしょうか?
同性カップルの中にも異性カップルと同じように、愛するパートナーと一緒に子どもを迎えて「幸せな家族」を築きたいと願う人は少なくありません。
しかし、今の日本では同性婚が認められておらず、ロールモデルが少ないのが現実です。
欧米のように、同性婚が法制化されて「同性同士でも子育てするのは当たり前だよね」という文化ではないため、今まで多くの同性カップルが子どもを諦めてきました。
参照元:(日本LGBTサポート協会)同性カップルだけど子どもは育てられる?日本で同性カップルが子どもを迎える方法
この度、そんな日本で子どもを育てている/子どもを望む4組の同性カップルに密着取材して制作されたドキュメンタリー映画、『ふたりのまま』の監督、長村さと子さんにお話を伺うことができました。
長村さと子監督のご紹介と映画について

©一般社団法人こどまっぷ
長村さんは「一般社団法人こどまっぷ」の代表として、「LGBTQが子どもを持つ未来を当たり前に選択できる」社会を目指して活動され、相談支援として、医療や法律などの専門家の橋渡しも行っています。
ご自身も同性のパートナーとともに暮らし、2021年には自ら声を上げ足立区ではじまったパートナーシップ・ファミリーシップ制度に登録し第一号に。
長年の妊活の末に一児の母となり、レズビアンで母親の立場から、すべての女性が生殖補助医療を受けられる社会を目指してロビー活動を続けています。
また、多様性に開かれた街・東京新宿二丁目を拠点に、ジェンダー・セクシュアリティ・人種・障害などにかかわらず、子どもから大人まで誰もが安心して過ごせる居場所をつくることを目指し、飲食店を経営しておられます。
ご自身も同性カップルでお子さんを育てている当事者として、「私たちはここで懸命に生きている」「今の状況に風穴をあけたい」そんな熱い想いを胸にこれまで子育ての傍ら制作に取り組んできました。
映画は新宿K’s cinemaで9月20日(土)より公開され、現在全国で順次公開中です。

©一般社団法人こどまっぷ
映画はトロント国際女性映画祭などの海外映画祭で受賞&ノミネートされるなど、注目を集めています!
先行上映を拝見した我々AKARIのライター陣(salad、Pink、ゆた、どんはれ、島川)より、長村さんにお話を聞いてまいりました。
前編では、映画制作のきっかけや、どんな想いやメッセージを込めた映画になっているかについて伺っております。ぜひ最後までご覧ください!
映画制作のきっかけとなった『生殖補助医療法案』とは?
長村さんに、映画製作のきっかけになったできごとついて尋ねると、大きなこととして、2020年ごろからロビー活動をしてきた「特定生殖補助医療法案※補足①」を挙げられました。
同法案は、第三者による精子・卵子を用いた不妊治療について定めるものですが、法案の内容が法的婚姻関係にない人を対象外とする、つまり同性カップルが安全な医療のもとで子どもを産み育てることが実質的に不可能になる方向に進んでいました。
ご自分も当事者で、顔出しで活動していたのは、自身が代表を務める「こどまっぷ」だけだった中で、2020年ごろから「生殖補助医療法案」に関するロビー活動をしてきました。
声を上げる人達も少なく、更にその声も匿名であることで、「現実が見えていないまま勝手に決められてしまう」と、強い危機感を覚えた長村さん。
「こどまっぷ」の活動を10年ほどしてきた中で、色んなご家族に会ったり、当事者として色んな経験をしてきましたが「いくら『こういう家族がいますよ』と話したり書いたりして伝えても、見えづらさを感じる。そこを届けたい」と感じたことも、映画を撮るきっかけとなったそうです。
補足①:特定生殖補助医療法案とは?
特定生殖補助医療法案とは、第三者(提供者)からの精子または卵子を用いた不妊治療について、親子関係の法的整理や提供方法などのルールを国として定める法律案です。
本法案の問題点として、特に次の二点が深刻であると指摘されています。
一つめは、「出自を知る権利※」の保障が極めて限定的であることです。本人が18歳になるまで何の情報も得られず、成人後も情報が開示されるかどうかは、提供者(ドナー)がその時点でどう判断するかに左右されます。
二つめは、治療の対象が法律婚に限定され、事実婚や同性カップル、独身女性が排除されることです。これにより、安全な医療へのアクセスが制限され、提供した医療機関に罰則が科される可能性もあります。これらの制度設計は、子どもの福祉や多様な家族の在り方に深刻な影響を及ぼすとする指摘があります。
これまで国内に統一的な法規制がなく、学会の指針に沿って実施されてきましたが、今回の法案で初めて国が医療提供の枠組みを法的に整備しようとしており、2025年2月に国会に提出されましたが、同年6月に会期切れで一旦見送りとなりました。
映画制作時に感じたことや反響について

©一般社団法人こどまっぷ
「撮影に協力してもらえる人を探すところからスタートしましたが、それが一番大変なことでした。撮影期間は約1年半で、完成まで約2年間かかりました。皆さんの春夏秋冬を追おうと思っていたので、その間の皆さんの変化も知れたかなと思います」
撮影について感慨深げに振り返った長村さんに、映画の内容について、思い切った質問をぶつけてみました。
salad:過去に様々なLGBTQに関する映画などは見てきたのですが、今回このようなドキュメンタリーの映画ははじめてでした。長村さんの周りの反響はいかがでしたか?
撮影当時、私の子供が、1歳になったかなってないかくらいだったのですが、「生まれたばかりの子供を育てながら、映画を撮ってると思わなかった」っていうのはよく言われます。
皆さんが驚かれたのは、周りにあんまり言っていなかったというのもありますが。
映画の作り方も学んだことがないですし、生きている人達を撮ることの責任も感じていました。本当に完成させられるのか、法案がどうなってしまうのかなど、ドキドキしながらやっていました。
反響で言うと、「観られて、知ることができてよかった」という声や、応援してくれてる人達が多いですね。
一方で、心配してる人もいます。
当事者にとってはこの映画自体が、自分たちに関わることでもあるから、「どんな風に受け止められるんだろう」っていう恐怖は、多少なりともあるんだなっていうのは感じました。
当事者ではない人達が観たあとの感想を、チェックされている方も結構いると思いますね。
島川:制作前と制作後で、長村さんの考え方に、どんな変化がありましたか?
「制作前はやはりファイティングポーズで、『世の中に訴えてやる』『世界を変えてやる』『法律を止めてやる』ぐらいで考えていました。
『私達にとってどれだけ苦しくて、大変なのかとか、見えないところを映して伝えなければ』っていう想いでいたんです。
けれども、当事者を撮っていたらそういう気持ちはなくて、共に子供の成長を見守ったり、異性カップルと変わらない他愛ない日常に温かい気持ちや優しい気持ちになる。
そんな中で、『日常を撮りたい』『困難なこととかじゃなくて、生きてるっていうこと、この社会で共に生きてるっていうことを伝えたい』っていう思いが強まってきました。
また、私がそういうファイティングポーズを取ってしまっていたのは、1人の当事者として『こういう正しい姿を見せなきゃ』『私たちは間違っていないと伝えなきゃ』という想いが強いんだな、「社会的な圧力があるんだな」ということに気付くことができて、凄い良い経験ができたなって思ってます。
島川:映画を観てくれた方に、どんなことを感じたり、考えたりして欲しいですか?
皆さんそれぞれ観るところが違うのかなとは思いますが、まずは現状を知って欲しいです。
今回は4組の家族を追わせていただきましたが、家族にはそれぞれ色んな形があると思うので、全ての家族が違うと私は思っています。
4組を通じて家族の多様さを感じてもらえたら嬉しいです。
また、日々の生活を見てもらうことによって、『自分たちと変わらない人がいる』と思ってもらえたり、もしかしたら自分の周りにも見えていないだけで、いるかもしれないと感じてもらえたら嬉しいです。
当事者じゃない人、LGBTQの人達に会ったこともない、見たこともないっていう人に対しても、身近に感じてもらいたいって私は思います。
Pink:まだ世の中の理解が追い付いていない状況で、同性カップルを親にもつ子どもの将来について差別や偏見などあると思います。
そのことについてどのようにお考えでしょうか?
どんな家族もですけど、子どもが生まれる場所や親を選ぶことはできないので、子どもに背負わせてしまうところがあるんじゃないかとよく言われたりはしてます。
その子供達の声もゆくゆくは可視化していきたいと思っています。
人々の意識が変わっていくには、私たちの実際の声や姿を見せていくことが必要で、そうした積み重ねをしていくことで社会が少しずつ変わっていくのをこの10年で感じています。
そうやって周囲の人達を巻き込みながら、親ができることをサポートしていこうと思っています。
映画の内容について

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Pink:「ふたりのまま」で、同性カップルに育てられた女子高生の話す姿を見て、本当は彼女の中で色々な葛藤があったと思ったのですが、笑顔で話す姿が頼もしく思えました。彼女のように理解があるのは、生活する環境が大きいと思われますか?
そうですね、大きいと思います。
例えば、真実告知※補足②っていう自分の出生の部分に関わる部分についてです。
最初から「お父さんがいたんだ」と嘘をついて真実をかくして言わないことと、「あなたをどうしても育てたい産みたいと思ったからドナーという存在に助けてもらって妊娠したんだ」と小さい頃から話すことは、全然違います。
同性カップルにとって子どもを授かること自体にものすごい困難さがあるので、その最初の時点で「将来どうやって子供に伝えていったらいいだろう」ということも考えます。
日本では、男女で結婚していた人が離婚して、連れ子としてステップファミリーを形成するっていうことは、昔からあることですが、映画の中の女子高生は、海外の精子バンクで生まれた子として当時は先進的だったと思います。
彼女は撮影時もうすぐ17歳でかなり大きいですが、私が知るほとんどの家庭の子どもは大きくても小学生とか中学生なので、これからまた違う子達から色んな声が上がってくると思います。
でも、この厳しい社会環境で自分が子供を産んでいいのか深く考えた上で産む決断をした親たちばかりなので、私が知る限り、子供達が自分が愛されてるっていう実感を持って、すくすく育ってる家族が多いのではないかなと思います。
補足②:真実告知とは?
真実告知とは、
「私(養親)はあなたを生んでいないこと。
生んでくれた人に はいろいろな事情があって、あなたを育てることができないこと。
私たちはあなたを育てることを心から望んでいること。
あなたは私たちにとっ て大事な存在であること」を子どもに伝え、生い立ちをともに受け止めていく ことです。
子どもの権利条約にて【児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。(第7条第1項)】と出自を知る権利が明確に定められています。
Pink:誰が誰を好きでも、誰と誰が結婚しても、誰と誰の子どもでもそのようなことは何も関係ない世の中になって欲しいと思います。ただ、子どもや家族に対しての責任は常に伴うと思うのですが、責任についてどのようにお考えでしょうか?
映画で密着した家族達もそうなんですけれど、自然に生まれるわけではないので、責任の部分は、多分「考える必要もないようなところまでたくさん考えているな」と感じます。
「望んで産んでいる」ので、当然皆さん責任感は凄く強いのかなと思いますね。
私自身もそうでしたけど、「いい家族でいなければいけない」という必要以上のプレッシャーっていうのは、いつも感じています。
でもそれは、男女の夫婦でも思う人達もたくさんいますので。
ただそれ以上に、やっぱり「自分で選んだんだから」ということで、「ロールモデルとして間違えちゃいけない」というのは感じるなってのはあります。
同じように責任とプレッシャーを感じている当事者は少なくないと思います。
島川:今回は、女性のカップルに密着されましたが、男性カップルの話も聞かれたりすることはありますか?女性同士とは、また違った問題があったりするのでしょうか?
最初は色んな多様な家族を伝えるために、男性カップルの当事者の方にも声かけようかと考えてはいたんですけれども、男性同士のカップルはまた違う障壁に直面するんですよね。
例えば女性に協力してもらって、納得した上で出産し、子育ては男性側でっていうような話を個人間でしていたとしても、男性の同士の育児っていうものには、『代理母出産だ』とか、『女性の搾取だ』ということで、凄く批判の声が上がります。
確かに個人で産ませられるっていうのは、1つの課題であり、1つの問題でもあると思うんですよ。
実際に代理母出産がビジネス化することによる問題が浮上している国もあります。
ただ、やっぱりその個人間での契約や話し合い、やり取り全てを『搾取』とされてしまったり、実情として色々な点が異なるのにLGBTQの家族を全部一緒くたにして批判されてしまうことに、活動の中でも非常に私は苦労してるというか、難しさを感じています。
なので今回の映画では、元々のスタート地点である特定生殖補助医療法案の問題をクリアにするためにも、カップルのどちらか本人が「産む・産みたい」人たちのみを撮ることにしました。
やっぱり、そこからスタートするのが最初の一歩だなと思っています。
Pink:映画の中でインタビューしている長村さんの優しい声が、とても心に響きました。そして、この映画をたくさんの人に観てもらいたい、障がい者と同じく偏見や差別をなくしたいと強く思いました。
これから先の未来の子どもたちに向けて、LGBTQや同性カップルについて発信していくことができればいいなと思ったのですが、何か私たちがお力になれることはございますか?
よく色んな方から、「何か力になれる事ありますか」って聞いてくださって凄く嬉しく思うし、私自身も同じように、違うマイノリティーの人達と何か連携ができたらと思ってます。
なので、まず今回は「この映画について色んな人に観てもらいたい」って思いがあるので、ぜひそこで力になってもらえたら嬉しいです。
まずは「お互いに知っていく」ということができたらいいなって思っています。

©一般社団法人こどまっぷ
映画の上映に関するインフォメーション
映画『ふたりのまま』広報のアーヤさんによると、「ここから福岡も含め、ぜひ劇場公開が色々な地域に広がっていったら嬉しい」また、「映画館だけじゃなくて、公民館、カフェ、企業など、色々な所での上映の場っていうものが広がってきているので、この映画も草の根的に広げていきたい」とのことです。
こちらの映画が全国に公開が広がっていってもらうためにも、映画を見た皆さんや、興味を持ってくださった皆さんの声が必要です。
2026年1月以降は上映会の受付も以下のフォームで開始される予定です。
- これからお子さんを考えている同性カップル
- 啓発活動に取り組む方のイベントでの上映
- 企業のLGBTQに関する研修
このような様々な場面で活用できるのではないかと考えました。
ぜひネットでの反響を見て、ご興味持っていただいた方はご一報お待ちしております!
▼予告映像
前半はここまでです。後半は以下のような内容をお届けしていきます!
- 今回の特定生殖補助医療法案についてのお考え
- 同性カップルを取り巻く環境についてのお考え
- これまでのこどまっぷでの活動についてや、活動への想い
- 今後の活動予定や、メッセージについて など
ぜひ後編もご覧ください!
後編はこちら









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