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こんにちは、翼祈(たすき)です。
高次脳機能障害とは、事故などによる脳外傷、脳血管障害(くも膜下出血等の脳出血、脳梗塞)、脳腫瘍、心肺停止による低酸素脳症、脳炎など、脳が傷ついたことで起こる認知機能の障害です。さらに発達障害、パーキンソン病、脳性まひ、統合失調症、うつ病、アルツハイマー病などの病気が原因で、高次脳機能障害の症状が見られることもあります。
原因は、脳卒中が8割、頭部外傷が1割で、男性の方が多い傾向です。2008年時点で全国に50万人の患者がいて、年間3万人が新たに患っているとの推計もあります。高次脳機能障害が、完全に完治することは極めて少数です。
高次脳機能障害は「外から分からない」ことで、周囲に気付かれず、「怠けている」などと誤解されがちです。当事者に障害の自覚がないこともあって、理解されにくい難しさがあります。食事や身なりを整える、トイレといった身体的な日常生活動作は、75%の人が1人で自立している人が多く、一見、健康そうに感じます。
その反面で、手段的日常生活動作と呼ばれる「バスや電車で1人で外出できる」「日用品の買い物ができる」人は5割前後、「預貯金の出し入れなどの金銭管理、銀行や役所の手続きなどが1人でできる」人は4割を下回り、多くの人が社会生活に介助が必要な困難を持つ人が多いです。
日本でも数少ない「高次脳機能障害」専門クリニック・はしもとクリニック経堂の院長の男性は、こうした「見えない障害」に対する社会の理解が未だに十分ではないことで、周りとの人間関係の構築に困惑し、当事者が孤立しがちと危惧します。「本人はこんなに大変なのに、“気にしなくていいですよ”といった医師とか専門家の些細な一言にもとても傷付き、PTSDになってしまう当事者もいます」と説明します。
今回は高次脳機能障害の症状、患っている人の家族が陥る介護うつ、社会復帰へのリハビリの支援などについてお話しします。
▽症状
⑴記憶障害
病気や怪我の前のことは覚えているのに、すぐ忘れやすく、新しい出来事を覚えられない、または過去の記憶や知識を思い出せなくなる。物の置き場所を忘れる。同じことを繰り返し質問する。事実と違う話をする。何を食べたか忘れる。何度も同じことを言う。どこにしまったか忘れる。学校では友達や先生の名前・日付を覚えられない、暗記する科目が苦手。買い物に行っても何を買うのか忘れてしまう。大切なものをどこにしまったかわからなくなる。忘れていることさえ忘れる。
⑵失語
聞いていても言葉の理解ができなくなる、または言葉が出てこない、言いたいことが言えない。言い間違いをする。なかなか言葉が出ない。読み書きができない。簡単な計算ができない。
⑶注意障害
ぼんやりしていて、集中力がなくなりミスが連発し効率が上がらない。周囲のことですぐ気が散りやすい、物事に集中できない、または同時に2つ以上のことができない。作業を長く続けられない。周りの状況に気が付かず、落ち着かない。話の筋が飛ぶなど要領を得ない。
⑷失行
麻痺はないのに、簡単な動作、一連の行為が上手くできない。お茶を入れる時に、順序が逆の順番になる。歯ブラシを反対に持つ。洋服を着る時に袖口から手を入れたり、後ろ前逆に着たりする。
⑸失認
視覚、聴覚、触覚に異常がみられないのに、対象を認識できない。声を聞かないと誰なのか分からない。聞こえているのに、何の音か理解できない。見えているのに、そのものが何であるか理解できない。絵を見ても全体のまとまりが理解できない。
⑹遂行機能障害
計画を立てることが困難で、自ら計画を立てて、段取り良くきちんとした形で行えない。優先順位が決められない。人に指示して貰わないと何もできない。時間を守れず、約束の時間に間に合わない。行き当たりばったりの行動をする。1つ1つ指示されないと行動に移せない。優先順位が決められない。何かを行う時に、どこから手をつけていいのか分からなくなる。出来栄えを気にしない。仕事をやりかけてそのまま放っておいてしまうことが多くなった。
⑺半側空間無視
見えているのに脳がその空間を認識しなくなり、あらゆる刺激(視覚、聴覚、触覚など)を認識できなくなる。片側に注意がいかないことで、見落としたり、ぶつかったりしやすい。
⑻社会的行動障害
自己中心的になる。行動が取れず、感情のコントロールが上手くできない、欲求が抑えられないなどの欲求・感情の抑制低下。突然怒り出したりするなど、コミュニケーション能力・意欲が低下し、行動や感情を状況にあわせて上手くコントロールすることができなくなる。やる気や意欲が低下。人柄が変わってしまう。場違いな場面で、笑い出したりする。気持ちが落ち込んで、引きこもってしまう。思い通りにならないと興奮し、暴力を振るう。急に泣き出したり、大声を出す。場の雰囲気に無頓着で思ったとおりに行動することができない。
浪費がひどくなった。依存的になった。みんなのいる前で不適切な発言をするようになった。何もしようとしない。イライラしやすい。1つのことにこだわるなど、こだわりが強くなった。すぐパニックになる。過度にしつこく馴れ馴れしい。子供っぽい。欲しいものが我慢できない。
⑼コミュニケーションの障害
話はできるのに、まとまりがない。共感ができない。言葉通りの理解しかできない。脱線しやすい。感情やニュアンスが伝わらない。
⑽自己意識性の障害
自分自身を客観的にとらえることができない、障害の認識ができない。病識欠落もこの中に含まれます。能力以上のことを平気で行おうとする、周囲の助言を聞き入れない、必要な治療や訓練を「必要がない」と受け入れない。事故や病気の前のように何でもできると思う、逆に何もできないと思う。
(11)地誌的障害
よく知っているはずの建物や風景が分からない。地理や場所が分からなくなる。道順や方角が分からない。自宅内で迷いトイレに行けない
頭部外傷では脳の前方が傷付きやすい傾向があり、行動と感情の障害などを経験することが多い傾向です。複数の症状が同時に起こる時もあります。
参考:高次脳機能障害のリハビリ治療 検査と症状に合わせた対応について NHK 健康ch(2022年)
高次脳機能障害の家族が発症する、介護うつ
東京慈恵会医科大付属第三病院リハビリテーション科の教授の男性らは2018年、全国60ヵ所余りの患者会などにアンケート調査を実施し、およそ1000の家庭から回答が届きました。
この中で、19歳以上の当事者がいる964家庭に関してまとめました。原因は脳外傷が5割、脳血管障害が3割、それ以外では脳腫瘍や低酸素脳症などでした。発症の平均年齢は脳外傷は28.8歳、脳血管障害は46.4歳となりました。
高次脳機能障害の当事者の介護をする人はパートナーや親御さんが多い傾向でした。介護の負担感を「本人の近くにいると気が落ち着かない」「本人が自宅にいるので、友人を呼びたくても自宅に呼べない」などの質問から、介護負担尺度(32点満点)を使用し集計すると、「介護うつ」の症状の恐れがあると考えられる13点以上の人は44%に達しました。
介護する側の負担の感じ方は、当事者が一般就労をしている群や、週4日以上の外出をしている群のほうが、一般就労もしていなくて、外出もしない群より軽度でした。
高次脳機能障害の急性期の病院を退院した後、家族にとって1番精神的な負担になる出来事は「人格の変化」が5割以上と1番多くなり、次いで「就学、就労の可能性や継続性」となりました。
その反面、急性期の病院で主治医から高次脳機能障害に関して説明を受けた家庭は15%程度に過ぎず、適切な情報提供を受けていない実態も鮮明となりました。
参考:高次脳機能障害、介護する人の44%「うつ傾向」 孤立しない対策を 朝日新聞デジタル(2022年)
高次脳機能障害の当事者は退院後に社会生活を戻ろうとして壁にぶつかり、病気が発覚する事例も多いです。相談できるところも分からず、当事者もその家族も、閉じこもって孤立してしまいがちに陥ります。アンケート調査の自由記述覧には「高次脳機能障害の認知度の低さに生きづらさを抱えている」「各種支援制度機関へのアクセスが悪く、利用まで至らない」という悲痛な声も届きました。
高次脳機能障害のリハビリの支援
香川県の相談窓口は高松市田村町の「かがわ総合リハビリテーションセンター」です。
現在は25人が社会復帰に向けて、言葉を聞き取きとったり公共交通機関で外出したりと、さまざまな訓練を受けています。期間は障害の程度によって変わりますが、1年半から2年ほどが多いということです。
(かがわ総合リハビリテーション事業団/理学療法士)
「なかなか職場復帰も難しい状態の方でも、そういった高次脳とかのプログラムを続けることで、(復帰が)可能になるという可能性が広がると思います」
引用:自分でわかっていない人も実は多い…高次脳機能障害 当事者「まずは知ってほしい」 社会復帰支援の現状は 香川 KSB 5ch(2022年)
手足の運動障害と同じ様に、高次脳機能障害へのリハビリがあって、言語療法や作業療法という専門的なリハビリが必要です。
リハビリが掲げる目標は、当事者や当事者家族が高次脳機能障害を正確に理解して、当事者のいる環境を改めることで、日々の暮らしや社会生活での困りごとを減らすことです。
例を挙げると、記憶障害があるケースでは、メモをこまめに取り、そのメモをもう1回見ることを習慣化します。当事者、周囲の人たちが高次脳機能障害をきちんと理解し、何が可能で何が不可能なのかを理解した上で、必要となるシーンごとに支援を行うことが大切です。
高次脳機能障害の当事者によるガイド本
交通事故などで頭部を打ち、記憶障害などの後遺症のある高次脳機能障害を持つ会社員の男性が、患者本人との関わり方のアドバイスを1冊にしたためました。男性は「私たちが発信したいことが網羅しました」とトータル40項目でまとめました。
男性が製本した冊子の題名は「回復のために必要なこと40」。脳卒中に倒れたアメリカ人の脳科学者が回復するまでに至る軌跡を綴った本をベースにしました。ベースにした原本では周りの人に届けたい40項目があって、男性は、追記でオリジナルの解釈を添えました。
例を挙げると原本の「今の私をそのまま愛して欲しい。昔の私だとは思わないで」。この翻訳を「私の人格はそのままで変わってないけれども脳が自由に働きません。これまでとは違うアクションをしてしまいます」と追記しました。違う項目の「上手にこなせない時は障害があるだろうと発見して」には「昨日行えたことも、教になると行えない時もあります。どうしてできなくなったのか、それには理由があります。小さな原因を探して下さい」と追記しました。
脳科学者の本に出会ったことで、「当事者としては当然のことが多く書かれていました」と腑に落ちる内容ばかりでした。SNSでこの原本に書かれている40項目を1つずつ紹介しましたが、反応は余りありませんでした。自身の経験を入れ込み、オリジナルの翻訳を追記したところ反響が多くありました。沖縄県の高次脳機能障害のリハビリスタッフや大学のゼミなど日本各地から問い合わせが届く様になりました。支援する人からは「感覚的に理解できました」、当事者本人からは「私が伝えたいことが全部書いていました」と好評を呼びました。
参考:高次脳機能障害 「見えない障害」に理解を タウンニュース(2022年)
父は多分高次脳機能障害。
私の父は2回、過去に頭も打つ怪我をしました。頭以外にも怪我をしましたが、2回頭を打ったせいか、すぐ怒りやすいです。
怒りの沸点が低く、些細なことで急に怒り出します。父がテレビを観ていて、母と喋っていると、「黙れ!!」と怒鳴って、ボリュームを上げたり。数年前私がテレビを観ていると、父が怒り出し、テレビを消され、額を殴られ、私が泣いてしまったこともありました。
突然怒り出すので予想不能ですし、以前は優しかったと母は言いますが、今はずっと怒られるので、そんなことがあったとも、思えない位です。
父の目の前で仕事をしていても、父の中では障害者の仕事=箱折りや野菜の袋詰めなど単純作業しか認識がなく、パソコンの仕事は障害者の仕事だと思わず、毎日「何サボってるんだ!!」しか言いません。
後母と私が昔話をしていると、父は決まって「全く知りません」と言ったりだとか。
父は怪我をして入院して、頭に関しては特に何も言われませんでしたが、頭を打つと性格が変わるとよく言いますし、父はきっと高次脳機能障害だろうなと思ってしまいます…。
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noteでも書いています。よければ読んでください。
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