10代の君たちへ〜2022年度から40年ぶりの「精神疾患教育」の復活〜

精神疾患教育

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はじめに

皆さんは、「うつ病」「パニック障害」「不安障害」「摂食障害」「統合失調症」などの「精神疾患」を知っていますか?言葉として聞いたことがあっても具体的にどんな病気なのか知っている人は少ないでしょう。

これらの「精神疾患」は誰にでも起こる「」の病気です。

人は生涯において少なくとも1度は精神疾患にかかると言われています。身近な病気でもあります。

「精神疾患」はその存在は古くから知られていますが、未だにはっきりとした原因がわかっていません。それゆえに差別偏見の対象になることも少なくありません。

精神疾患は早期発見、早期治療で回復できます。

10代は第二次成長期をむかえ、心と身体ともに飛躍的に成長します。誰でも気持ちが不安定になり、精神疾患にかかりやすい時期でもあります。

下記のグラフは、簡単に言うと日本において、どんな病気にかかったかという2002年における年代別のグラフですが、10代の中盤から20代の後半にかけて精神疾患への罹患率が他の年代比べて飛びぬけて高いことが伺えます。




引用:厚生労働省「早期支援について」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/04/dl/s0423-7d.pdf

今、精神疾患について皆さんの周りで大きな変化が起きようとしています。精神疾患にまつわる学校側の取り組みや精神疾患を発症した子どもを持つ親たちの活動や精神疾患についての海外での動きなどをご紹介します。

教員の教育

学習指導要領の改訂により、2022年度から高校の保健体育の授業で「精神疾患の予防と回復」を学ぶことになります。「精神疾患教育」として約40年ぶりに復活します。

精神疾患教育」において一番大切なことは、子どもたちが正しい知識をもとに精神疾患を学習し、自分を含めた周囲の人間の心の不調に気づくことです。そして、不調のときには、きっちりと「助けて」と言えるようになることが重要です。そして適切な援助を求める行動をとることも重要になります。

子どもたちから学校側に助けを要望した際にきっちりと相談に応じて、医療をはじめとした対応を適切に受けられるような体制があることを子どもたちに示すことが大切となります。

そのために教職員の教育をきっちりと施し、保健体育の教師だけでなく、担任や養護教諭など学校全体でこの問題に対応できるようにします。

思春期の若者は自分のこころの不調を認識しにくいことや、自ら助けを求めにくいともいわれています。

甘え」「怠け」が原因だと考えたり、「気の持ちようで治る」といった誤った認識により精神科治療の開始が遅れたりすることがあります。また治療が開始されても、正しい知識を持って対応しないと治療が効果的に進みません。

また、精神疾患について学ぶことは教員自身のメンタル向上にもつながります。

当事者の親たちの願い

森野民子さん(活動名)の息子が統合失調症と診断されたのは、高校2年のときでした。統合失調症は、幻覚妄想などの症状がある精神疾患です。約100人に1人の割合でなる病気でそう珍しいものではありません。思春期ごろが発症のピークと言われています。

看護師だった森野さんは、早い段階で症状に気付き、病院に受診することができました。しかし、息子さんの病気が発覚した当初「自分の育て方が悪かったせいだ」と思い、自分を責め続けてしまったそうです「最初の丸2年くらい、泣いて過ごしていた」といいます。当時は森野さん自身のなかにも、病気への偏見があったようです。

病気になってしまうのは、誰のせいでもありません。森野さんは看護師ですから、理屈では自分のせいではないとわかっていたはず。それでも当時は、「状況を客観的に見ることができる自分と、母親として非があったのではないかと考えてしまう自分」がいて、「母親として考える自分は、とにかく自分に非があったのだとしか思えなかった」のだといいます。

その後、森野さんは統合失調症の原因を調べ尽くし、「原因は不明」だと納得するにいたりました。息子さんは、「このままだと進級できない」と言われたことをきっかけに(前駆症状で認知機能が低下し、成績が下がっていたため)、それは単なるきっかけに過ぎず、原因ではありません。環境因子が重なって、それも人によっては、発病したりしなかったりするので明らかとは言えませんが、数々の要因が折り重なってたまたま発病するものだと理解するようになったのです。

「病気について正しい知識を学んだことで、長い間苦しんだ森野さんは、やっと『うちの子、統合失調症なんだよ』と人にも打ち明けられるようになりました」と、森野さんは過去を回想します。

病気に対して学習する過程で、森野さんは、ストレスがあたえる影響についても考えるようになりました。「ストレスは万病の元」というように、ストレスから心臓を悪くする人もいれば、胃を悪くする人もいるし、腰が痛くなる人もいる。ストレスから「身体の不具合」が出ることは誰に限ったことではない、息子のケースは、たまたま「脳の不具合」として症状があらわれたのではないか。森野さんはそう考えるにいたりました。

「でもなぜか、脳に不具合があったときだけは、何となく人に言えないじゃないですか。 100人に1人は発病する病気なので、身近な人に何人か、あるいは家族の中にいる方が存在すると思うんですけれど、話に聞かないですよね。『叔父が糖尿病で』とか『いとこが、がんなんだ』といった話は聞かれると思うんですけれど、『統合失調症なんだ』という話は、聞かないと思うんです」

確かに、そうです。発症率を考えれば、周囲にも絶対いるはずなのに、話に聞こえてこない。それは実は、みなさん人に言わない、言えないでいる、ということでしょう。

「どうして人に言えないんだろう、と思うと、れは『子育ての仕方が悪かったんじゃないか』とか『本人の心が弱いせいじゃないか』と、周りも間違った思い込みがあるし、その本人もそのように思い込んでしまっているから。では、どのようにしたら、統合失調症をみんなでオープンに語り合えるようになるかと考えると、思い込みや決めつけのない社会が大事になってくると思うんです。

もし、みなさんが統合失調症のことをもっと開放的に話せるようになれば、良い効果がいっぱいあると思います。いまは周囲の人に知られたくないからといって、発病後に住居の移転や、学校を転校してしまう人もいますが、もし同じ場所に住み続けることができて、近隣の人々や、友人などに『最近どうしてるの?』って話せる仲を保つことができたとしたら、どれだけいいことでしょう。統合失調症を含め、精神疾患には孤独・孤立が一番よくありません、それを回避することができます」

では、偏見のない社会にするにはどうしたらいいのか? それにはやっぱり、偏見や差別意識がまだない白紙の状態の子どもたちに、正しい知識を教えるのがベストだ。森野さんはそう考えました。

私ぐらいの年代の人は偏ったものの見方をするし、もっと高齢の方になればなるほど、偏りは大きくなります。そう考えると、余計な情報を得ていない子どもたちに正確な知識を得てもらうのが、重要と感じました。

『精神疾患は誰にでもかかるときはかかるものだし、心配しなくてもいいよ』『心が弱虫のせいでかかるわけではないし、すみやかに病院に受診してきちんと治療すれば、よくなる病気だからね。』と教育をうけていれば、その後、その子がもし発病したとしても、本人も周囲も、不安の感じ方は全然違いますよね」

そう、いまはすみやかに治療を進めれば、寛解してよくなる人がとても多いのです。

森野さんはいまいく人のグループで、署名活動に取り組んでいます。LINEを通した家族会で知り合った人たちで、森野さんと同様に親の参加もあれば、統合失調症の本人や、支援者の方もいるそうです。

署名の数は今のところ、約4万筆です。国を動かすための要望書作成など、準備を着実に進めているということです。

なお、高等学校では2022年度から、精神疾患が保健体育の授業で行われることが決まっています。働きかけを続けてきた団体のひとつ、「みんなねっと(全国精神保健福祉会連合会)」によると、約40年ぶりに精神疾患についての記述が教科書に載ります。

日本全国の関係団体たちが、精神疾患について義務教育で教育を行ってほしい」と長い間、要望を上げ続け、第一歩として高等学校の学習指導要領に記載されることが決定しました。

みんなねっと事務局長・小幡恭弘さんは、こう話します。

「統合失調症の発病の第1の頂点は中学2年生くらいです。正確な知識がないと、思春期特有の問題と交じり合ってしまい、発見することが遅くなってしまうこともあるので、やはり義務教育での教育が必要となってきます。いずれかは、小学生の時点から何度か繰り返して教育をし、その積み重ねで知識を定着させるようなカリキュラムを施してもらいたいです」

 

義務教育で精神疾患を教えて偏見を無くしてほしい

国際的な動き

精神病早期支援宣言(WHO&IEPA,2004)によれば,15歳の生徒全員が精神病について教育を受けるようにするとありますが、日本の中学、高等学校の教科書に精神病についての記述は約40年間ほとんどありませんでした。

早期介入を先駆的に実施しているオーストラリアでは,1990 年代から 早期精神病の予防・介入の活動がされており,12 歳から 18 歳までに,メンタルな Well-being の促進と支援す るための資源と専門的に開発された学校精神保健プログ ラムとして「Mind Matters」(2002)への国家レベルで の取り組みがなされています。18 歳までに若者の 24%がうつ病エピソードを体験してい ること,人生初期における教育的・啓発的な精神保健活 動の実践が,国民の精神的健康を維持する上で極めて重要な課題であることの認識をもって実施されています。 

また,イギリス,カナダ,アメリカでは,大体 6 歳から 18 歳時において全国規模で学校精神保健プログラムが 実施されています。 国家レベルで取り組みがされている 点においては,かなり日本の実情とは大きな隔たりがあ ると言わざるを得ません。どの国も早期の段階でメンタルヘルスプログラムが計画導入されています。

皆さんは知りたいですか?

研究結果により保護者たちはこのように考えています。皆さんはどう思いますか?

画像引用:メンタルヘルスの早期教育に対する当事者家族の望み

https://core.ac.uk/download/pdf/228943814.pdf

終わりに

小中高の児童生徒の自殺者数は近年2016年289人、17年315人、18年333人、19年339人と微増傾向が続いていましたが、コロナ禍となった20年は499人に急増しました。自殺者数が増える一方で、子どもの数自体は年々減っていますから、自殺率は明らかに増えていますよね、正確なデータはありませんが、ストレスの多さや生きづらさから、子どもの「心の病気」は増えていると言っていいでしょう。

さらに不登校、引きこもり、いじめ、自傷行為(リストカット)、非行などの問題も重要です。

皆さんの90%以上は当たり前のように携帯電話やスマートフォンを持ち、いろいろな情報が容易に調べることができます。

この機会に精神疾患について自分たちで調べてみてはどうでしょうか。正しい知識を得ることはとても大切です。

そして、自分自身を守ってほしい。自分を大切にしてほしい。自分を大切にできれば他人も大切にできるようになり、お互いを大切にできるようになれば少しずつ世界を変えていくことができます。

参考サイト:

40年ぶりの「精神疾患教育」高校からでは遅い訳

https://toyokeizai.net/articles/-/428955

早期支援について

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/04/dl/s0423-7d.pdf

「精神疾患」を義務教育に 突然、息子が統合失調症になった母親の決意

https://news.yahoo.co.jp/byline/otsukareiko/20201103-00205101

メンタルヘルスの早期教育に対する当事者家族の望み

https://core.ac.uk/download/pdf/228943814.pdf

”若者のこころ”の支援者テキスト~思春期危機への対応

https://www.pref.nagano.lg.jp/seishin/tosho/documents/youth_2013-sec_1.pdf

https://www.pref.nagano.lg.jp/seishin/tosho/documents/youth_2013-sec_2.pdf

https://www.pref.nagano.lg.jp/seishin/tosho/documents/youth_2013-sec_3.pdf

https://www.pref.nagano.lg.jp/seishin/tosho/documents/youth_2013-sec_4.pdf

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