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こんにちは、nonoです。
2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催まであと半年を切りましたね。
パラリンピックには高次脳機能障害や視覚障害、知的障害、肢体不自由などさまざまな障害を抱えた選手が集まりますが、そんな選手達の活躍を支えるのが「ガイド」「コーラー」といったサポート役の人や車いす、義足などの補助具です。
世界代表として十分なパフォーマンスを発揮するためには選手個人の努力も重要ですが、サポーターや補助具もまた選手達には欠かせない存在です。現に、陸上競技に用いられる義足は軽量化や耐久性の向上など改良を重ねた結果、昔よりも良い記録が出せるようになっています。
良い義足をつけただけで簡単に好記録が出せるわけではありませんが、選手達が自分の実力を遺憾なく発揮するためには重くて歩きづらい義足よりも軽く動かしやすい義足が必要です。競技用義足や車いすなどといった補助具の発展は選手の実力を最大限に引き出し、さらなる世界記録に貢献してくれるでしょう。
このまま技術が進歩すれば、10数年後には高性能な義肢が当たり前になって、手足の代わりだけでなくもっと違った役割が与えられているのかもしれません。今回は、そんな『未来の義肢』に関連したニュースを紹介します。
シンセサイザーを「直接」操作できる特製義手
ドイツのケムニッツ工科大学で心理学の教授を務めるベルトルト・マイヤーさんには、生まれつき左腕の肘から下がありません。
そのためマイヤーさんは普段から筋電義手を使用しているのですが、DJやエレクトロニックミュージシャンとしても活動しているマイヤーさんにとって義手には不便な点がひとつありました。それは、義手の指ではシンセサイザーの小さなダイヤルを微調整したり素早く回したりするのが非常に難しいという点です。
筋肉が伸び縮みする時に発生する弱い電気信号を読み取って動く電動義手のこと。
物を掴む、持ち上げる以外にも細かい動作ができ、外観も人間の手に近いものになっているのが特徴。
そこでマイヤーさんは音楽機材のメーカーであるKOMA ELEKTRONIKのエンジニアと協力して、シンセサイザーの操作に特化した義手用のアタッチメント『SynLimb』を制作しました。このアタッチメントは腕の筋肉から発せられる微弱な電気信号を増幅し、シンセサイザーが読み取れるCV信号に変換する機能を備えています。
このアタッチメントを使う最大の利点は、「ダイヤルを回さずともシンセサイザーを操作できる」ことです。シンセサイザーにはダイヤルの代わりに電圧で遠隔操作を行うためのジャックがついています。このジャックにプラグを挿してアタッチメントと接続すれば、あとはシンセサイザーに触れなくても腕の動きだけで直感的に操作ができるのです。
自分の手でスイッチやダイヤルを操作するのではなく、自分の手そのものを操作デバイスにして演奏や作曲をするのは義肢ユーザーのマイヤーさんだからこそ可能だった試みでしょう。
触覚を備えた最新の義手
先程紹介したベルトルト・マイヤーさんは「生身と同じように動かせる義手」ではなく「生身ではできないことができる義手」のアイデアを実現させていましたが、実は最新の義手は「生身と同じ感覚で動かせる」というレベルに近づきつつあるのです。
アメリカのユタ大学の研究チームによって開発された『LUKEアーム』は、シリコン製の人工皮膚で覆われた電動義手です。外部のコンピューターに接続しバッテリーで駆動するこの義手は、なんと「触覚がある義手」なのです。
LUKEアームは独自に開発された100本の微小電極をユーザーの腕の神経繊維に埋め込み、外部のコンピューターと接続する仕組みになっています。ユーザーの神経とLUKEアームに接続されたコンピューターは、腕の神経が出した電気信号をLUKEアームを動かすための指示に変換する役目を果たします。
さらにLUKEアームには電極から神経に電気信号を送るセンサーも備わっており、研究チームが開発した独自のアルゴリズムによってLUKEアームのセンサーが感じ取った情報を脳に伝え、「触覚」を再現します。
義手に触覚が備わることによってもたらされる最大の変化は、「力加減のしやすさ」です。たとえばトマトを掴む時、強く力を込めるとトマトは潰れてしまいます。一方で、固いリンゴは少し強く握っても簡単には潰れません。私達はこの違いを触った時の感触—触覚によって感じ取り、適切な力加減を考えているのです。
実際に、触覚を備えたLUKEアームは臨床試験で卵を割らずに持ち上げたり、実を潰さずにぶどうを掴んだりと、適切な握力で物を掴むことができたそうです。
現在は外部のコンピューターと接続させない携帯型LUKEアームの試作機も作られており、2021年までには家庭でLUKEアームの試作機を使用できるようにすることを視野に入れているそうです。
余談ですが、LUKEアームの名前の由来は映画『スター・ウォーズ』シリーズの登場人物であるルーク・スカイウォーカーから来ているのだとか。スター・ウォーズのルークは機械の義手を身に付けたキャラクターですが、現実の義手も少しずつフィクションと変わらないほどの性能を備えつつあるのかもしれませんね。
まとめ—将来的に「義肢ができないこと」はなくなる?
走り幅跳びでオリンピック金メダル選手の記録とほぼ変わらない記録を出した義足の陸上選手や、触覚を備えた義手など—部分的にではありますが、義肢と生身の手足の差は少しずつ縮まってきています。
昨今の技術の進歩を見る限り、近未来を描いたフィクションに登場するような「生身と全く同じ感覚で扱える義肢」が現れる日もそう遠くはないでしょう。さらに、「生身と同じ機能」が当たり前になれば「義肢でなければできないこと」が求められるようになるかもしれません。
数十年後の未来では、義肢を身に付けたアスリート達が憧れの的になり、義肢ユーザー達が社会で活躍する姿が一般的になっているのかもしれませんね。
参考元:NHK SPORTS STORY—義足の進化で記録UP!パラ陸上走り幅跳び
Futurism—THIS GUY HACKED HIS PROSTHETIC ARM TO CONTROL MUSICAL INSTRUMENTS
Newsweek—「ルーク」と名付けられた最先端の義手が開発される……意のままに動き、触覚もある
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