A型事業所でリモートワークを始めた私たちの「いま」

リモートワーク

この記事は約 10 分で読むことができます。

 4月7日、新型コロナウイルス対策法に基づく「緊急事態宣言」が東京、神奈川、埼玉など7都道府県を対象に発令されました。

 これに伴い、人と人との接触機会を7割から8割削減させ感染者の増加を抑える目的で事業者への休業要請や個人への外出自粛の呼びかけがなされ、対象の都道府県では街中から人が消えるという珍しい光景が見られるようになりました。

 また、緊急事態宣言以前からも一部の企業では感染リスクを下げるために時差出勤やリモートワークが実施されており、これまでとは違った「働き方」の形が徐々に広まりつつあります。

 私が通っているA型事業所でも4月上旬からリモートワークが導入され、現在は自宅からこの記事を執筆しているのですが、普段の働き方とは違って楽な部分も大変な部分もあり、少し新鮮な気持ちで仕事に取り組んでいます。

 今回は、私の通う事業所でどのようにリモートワークが行われているか、またリモートワークに切り替えたことでどんな変化があったのかを簡単に紹介していきたいと思います。

リモートワーク導入までの流れ

 リモートワークが導入される以前から、私が通うA型事業所『TANOSHIKA CREATIVE』では出勤時の検温やアルコール消毒の徹底、密集・密閉の改善などさまざまな感染予防策が取られてきましたが、福岡にも徐々に感染が広がっている状況を考慮して3月末にリモートワークを導入する旨が告知されました。

 リモートワークの前段階として、まずは利用者全員にネット環境の有無・PCの所持やスペックについてのアンケートを配布し、リモートワークができる環境が整っているかどうかを確認。就業時間を使ってビデオ通話アプリの使い方の説明を受け、リモートワークへの準備を進めました。

リモートワークへの移行と実際の勤務内容

 リモートワークが開始されたのは4月6日、緊急事態宣言のちょうど前日のことでした。

 TANOSHIKA CREATIVEにおけるリモートワークは、以下のような仕組みで行われました。

【使うもの】

・データ共有サービス(クラウドストレージ)

・ビデオ通話アプリ(テキストチャット、グループ作成機能あり)

・PC(自宅にPCがないメンバーにはTANOSHIKAの備品を貸与)

 

【一日の流れ】

・ビデオ通話で全体朝礼後、班ごとに分かれて身だしなみと体調面のチェック

・身だしなみチェックが終了したら作業開始。休憩の後は班ごとにビデオ通話で点呼

・日報はクラウドストレージ上にファイルを作って記入

・ビデオ通話で全体終礼を行い、退勤。通常より長く作業を行うメンバーは4時から作業を開始

 

【仕事の進め方&日常的な支援】

・作成したデータは普段からTANOSHIKA内で使用しているクラウドにアップする

・質問やデータチェックの依頼は作業用グループ内のテキストチャットに書き込む

・作業のこと以外で個人的に相談したいことがあれば支援員と個別でチャット、または通話をする

・週に一度のペースで健康チェックや生活面・作業面の目標設定のために支援員と面談を行う

リモートワークを始めてみたら…

 満を持してリモートワーク体制に移行したTANOSHIKA CREATIVEですが、実際にリモートワークを体験してみると良いことばかり……というわけではなく、慣れない働き方だからか色々と困った部分も見えてきました。

 ここからは、リモートワークを2週間ほど続けた感想を「良かった部分」と「悪かった部分」に分けて書いていきます。

リモートワークのメリット

 リモートワークの最大の利点は、やはり「出社する必要がない」という部分です。

 バス・電車や職場などで不特定多数と接触する機会が大幅に減って感染リスクが抑えられるだけでなく、遠くから通勤をしている場合は通勤時間が丸々なくなるので朝の時間にゆとりが生まれます。

 また、TANOSHIKA CREATIVEでは備品のPCは日替わりでメンバーに割り当てられるため、WindowsやMacなど使い勝手の違うPCを使うことになった日は作業がしづらかったのですが、リモートワークは自宅の使い慣れたPCを毎日使うのでそうした問題はありません。

 他にも、職場だと他人の声や物音が気になってしまうが自宅なら一人で集中して仕事に取り組める、室温が寒すぎたり暑すぎたりしてもエアコンの操作や着替えで体温調節が容易にできる、といったメリットがありました。

リモートワークのデメリット

 一方で、自宅で仕事をすることには「仕事とプライベートの切り替えが難しい」という欠点もあります。

 さらにリビングで仕事をしている場合は他の家族の生活音が気になったり、人目がない環境だと気が抜けてだらけやすくなったり…と、環境面においては一長一短な印象です。

 また、チャットで作業の報告や質問をする都合上、相手がこちらの投稿に気付いたり返信したりするのに時間がかかることが多々あるため打ち合わせに時間がかかり、クラウドストレージを使ってデータのやりとりをするのでログインやアップロードの際にトラブルが生じると仕事が進められない、などの問題点もあります。

 仕事以外では、出勤の必要がないので意識して外出や運動をしないと家から出る機会がなく運動不足に陥りやすかったり、ストレスがたまってメンタルの不調につながるおそれがあると感じました。

リモートワークの導入について、社長に聞いてみた

 緊急事態宣言の前日にリモートワークを取り入れたTANOSHIKA CREATIVEですが、実は当時久留米でリモートワークを導入していたA型事業所はTANOSHIKA CREATIVEだけであり、他のA型事業所に先駆けてリモートワークを始めた形になるそうです。

 TANOSHIKA CREATIVEがいち早くリモートワーク導入に踏み切れたことには、何か理由があるのでしょうか。さっそくTANOSHIKAの本社である株式会社SANCYOの社長・嘉村裕太さんとTANOSHIKA CREATIVE所長の田代亮一さんに話を伺いました。

株式会社SANCYO

代表取締役 嘉村裕太

株式会社SANCYO 代表取締役社長。2016年にA型事業所「TANOSHIKA」を設立。

農業部門の「TANOSHIKA FARM」、IT部門の「TANOSHIKA CREATIVE」、

清掃部門の「TANOSHIKA CLEAN」の三つのA型事業所を運営している。

 

 

TANOSHIKA CREATIVE

所長・プロジェクトリーダー 田代亮一

IT部門「TANOSHIKA CREATIVE」のスタッフ代表。

デザイン・プログラミング・ライティングなど、IT業務に携わるメンバー達の指導・支援を行っている。

 

――TANOSHIKA CREATIVEは久留米のA型事業所の中で最初にリモートワークを始めたと伺いましたが、本当でしょうか。

嘉村:本当です。おそらく全国で見ても一番早かったんじゃないでしょうか。

――他のA型事業所でリモートワークが導入されていなかったのはなぜだと思いますか?

嘉村:他の事業所で導入ができないのは(リモートワークについて)わからないからだと思ってます。TANOSHIKAの場合は、最先端のテクノロジーや技術や時代の流れを取り入れる工夫や柔軟な考えをもってやっています。僕達が理解しないと、メンバーのみんなの可能性を奪ってしまうので。まず僕達が知る、触れる、取り入れるをやってメンバーに還元できる姿勢が常にあるから高速でリモートワークに切り替えられたんじゃないかなと。

田代:様々考えられますが、一番は「決断、判断できるか」だと思います。何か新しいことを始めるときは必ずデメリットが発生します。そのデメリットと、今一番大切なことは何かを天秤にかけて決めていかなければいけません。勇気を持って決めて実行する、これに尽きると思います。「やったことがない」「わかる人がいない」といったことを言う方もいますが、解決策はたくさんあります。

――リモートワークの導入を考える上で、解決すべき課題などはありましたか。

嘉村:僕としては早い段階で田代さんからテレワークの要請があったので、それに関してGOを出しただけで、制度上の確認しかしていないんです。現場での対応は田代さんをはじめとしたTANOSHIKAのスタッフが地道に勢いよくしっかりやってくれたと思ってます。会社として判断はしたけど、構築は現場がしたという認識です。

田代:『メンバー・支援員の環境を把握すること』『ツールを決めて運用方法を決めること』『メンバー・支援員ができるだけ安心して在宅に移行していくこと』『スピード感を持って推進すること』この辺りが課題でしたが、支援員やメンバーも今回は通所を続けることの方が不安が多かったので、みなさんとても前向きに、一緒に課題に立ち向かえたと思います。なので、あまり問題には感じませんせした。

――TANOSHIKA CREATIVEでは以前から一部のメンバーが在宅勤務を行っていましたが、その時はどうしていましたか。

田代:基本的には今TANOSHIKAが行なっているようなスタイルで支援してました。なので僕たちにも少しはノウハウがあり、(全体でのリモートワークに)移行しやすかったのかもしれません。

――実際に事業所全体がリモートワークに移行した後で、改善点や今後の課題などは見えてきましたか。

田代:やっぱりメンタルの問題ですね。ただみんなの仕事のやりとりは格段にスムーズになったので、そこは良かった点かなと。『仕事に集中できる環境をどう作るか?』『落ち込み気味なメンバーにどう支援するか?』『人とのつながりを感じてもらうには?』などが今後の課題になってくると思ってます。なので、工夫としてはしっかりWEB上で朝礼・終礼を行い、時には笑ってもらえるようなことを喋ったり、安心してもらえるような工夫をしていきたいです。

まとめ~リモートワークを始めて見えてきたもの~

 リモートワークという働き方は元々日本では馴染みが薄いものでしたが、コロナウイルスの流行を機に少しずつ導入する企業が増え、徐々に認知度が上がってきたように思います。

 実際にリモートワークを導入すると、これまでの働き方との違いや在宅ワークゆえの不便さなど解決すべき課題も多いのですが、リモートワークにしかない利点があるのも確かです。

 さまざまな事情で通勤や出社が難しい人にとって、リモートワークは従来の働き方よりも就労がしやすい勤務形態です。また、療養のための休職などで長期間のブランクがある人もなるべく負担をかけずに職場復帰ができます。

 「出社して働くのが当たり前」という価値観が根付いている日本ではリモートワークの浸透には時間がかかりそうですが、できれば新型コロナウイルス対策のための一時的な処置にとどまらず、働き方の選択肢のひとつとして広く定着して欲しいものです。

心理学や日本文学に精通しているnonoのおすすめ記事

HOME

リモートワーク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。