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1.この本を手に取ったきっかけ
現在、サッカー・ワールドカップが開かれています。そこで、サッカーに関する本をいろいろ探していたところ、この本に出会いました。
「サッカー」と「数学」。一見、つながりがないように思えますが、実は深くつながっているのです。
数学とスポーツといえば、日本では野球が思い浮かべられます。単打数、二塁打数、三塁打数、打点、本塁打数、防御率、奪三振数。これらの数字が、野球では重要視されます。
しかし、本書『サッカーマティクス』の著者はサッカーこそ、美しい数学的なスポーツであると説くのです。
2.こんな人にオススメ
サッカーが好きな方、ワールドカップをきっかけにサッカーに興味を持たれた方、あるいは数学という学問が好きな方にオススメです。
3.サッカーの醍醐味
サッカーの醍醐味は何かと問われたら、チームの組織力が求められることです。1人のスター選手だけが思うがままにプレーしていても、それだけでは勝つことは難しいです。
すべての選手が自分の役割に責任を持ち、パスを通じて味方と連携することで、チーム全体がうまく機能する。逆にいえば、どれだけのスター選手であっても、自分の手柄だけを考えてプレーするとチーム全体に悪影響を及ぼす。本書の素晴らしい点は、こうした知見を、数値として分析・呈示しているところです。
サッカーの場合、2チーム22人もの選手がいっせいにフィールド上を動き回っているので、ゴールの要因や個々の選手の貢献度を正確に記述することは難しいです。しかし、著者はそうしたものを数学的モデルなどの手法を使って分析するだけでなく、図表という形でも分かりやすく明示しています。
最近のサッカー中継でも、ボール支配率などをテレビ画面に表示する試みが行われていますが、本書ではより奥深い数学的な手法が用いられています。
しかし、本書の本質は、サッカーを数学的に分析することだけにとどまりません。本書のテーマはサッカーですが、数学的なパターンはどこにでもあると言います。サッカー以外のスポーツ、そして身の回りの現象を数学的な視点で考えることも、広い意味での「マティクス」なのです。
4.読んだ感想
私の数学的な理解で本書のすべてを理解することは難しかったですが、要所要所で面白いと感じたところはあったです。
たとえば、サッカーの試合に勝利すると1試合につきポイントとして勝ち点が「3」与えられます。しかし、かつては「2」でした。なぜ勝ち点は「3」なのでしょうか。勝ち点を「2」から「3」に変更しただけで、「引き分け狙い」の試合が減少し、攻撃的な試合が展開されていったといいます。その理由が本書では数学モデルを使って明示されているのです。
5.バルセロナが繰り広げる幾何学模様
2011/12年のスペインリーグのチーム・バルセロナのパス・ネットワークを分析すると、360度あらゆる方向に対してパスを出せるように、選手それぞれの間に三角形が構成されていました。この三角形こそが、バルセロナの強みであると言います。
バルセロナのスター選手メッシに注目してみます。彼はチームメイトであるイニエスタやシャビ・エルナンデスにパスを出すと、前方に入ってすぐにまたボールを受け取るという動きを繰り返していました。
このパス回しにおけるメッシ、イニエスタ、シャビそれぞれの位置取りが素晴らしいと言います。彼らは相手チームのペナルティ・エリア際で、ゾーンを三角形で分割して担当していました。だから効率的なパス回しができるのです。
これは数学的に、「パス回しを成功させるべく、フィールド上で幾何学が繰り広げるられている」状況だと言います。
バルセロナはたしかにフィールド上で幾何学を繰り広げて繰り広げています。しかし、何も頭の中で数学を実践しているわけではありません。
たとえば、魚もさまざまな幾何学図形を繰り広げていると言います。イワシの群れは天敵に襲われると、回転する球体のようになった後、一瞬で広がって逃げます。このときイワシたちは、全体の位置を計算に入れて動いているわけではありません。近くにいる数匹の動きの変化に反応して、泳ぎのスピードや方向を変更しているだけなのです。
サッカーについても同様です。選手たちはチームメイトの配置を正確に把握しているわけではありません。いつ加速し、あるいは減速すれば良いのか、スペースをどう生かすのか、チームメイトの動きにどう反応すればといったことを、数千時間の練習を通じて習得しているのです。
6.この本の独自性
サッカーについての本は数多くありますが、これだけ数学的に深く突っ込んだ本は、あまり見当たらないでしょう。また、とくにこの本がおもしろいところは、「自腹でブックメーカーに挑んでみた」という章です。数学的な知識はどこまで、「賭け」に生かすことができるのでしょうか。
7.関連する書籍
この本に関連する書籍としては、『戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史』が挙げられます。移り変わるサッカーの戦術の歴史を紐解いていきます。
『スポーツを10倍楽しむ統計学』は、統計学とスポーツとの関連を知ることができる貴重な書籍です。
参考
デイヴィッド・サンプター(2017)『サッカーマティクス 数学が解明する強豪チーム「勝利の方程式」』千葉敏生訳、光文社.
ジョナサン・ウィルソン(2017)『戦術の教科書 サッカーの進化を読み解く思想史』田邊雅之訳、カンゼン.
鳥越規央(2015)『スポーツを10倍楽しむ統計学』化学同人.
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