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この度、「福祉×おしゃれ」を理念に、障害に対する理解向上や、福祉業界へのイメージを明るく華やかにすることを掲げて活動されている、平林景さんにインタビューさせていただきました!
平林さんは、一般社団法人日本福祉医療ファッション協会の代表理事で、児童福祉にも力を入れており、兵庫県尼崎市では、4つの放課後等デイサービスの運営にも携わっていました。
平林さんが今最も力を入れている事業のミッションは、『おしゃれなおむつ』の開発です。
2025年6月24日、大阪・関西万博に出展され、平林様が代表理事を務める、日本福祉医療ファッション協会主催で、「O-MU-TSU WORLD EXPO」を開催しました。
「どう世界が変わるのか、そのボールを社会に委ねたんだ」
あの素晴らしい舞台で、平林さんはそう話されました。
今回のインタビューを通じて、その反響や開発の経緯、デザインに込めた想いや今後の計画など、様々な角度からお話を伺いました。
今おむつをはいている方やそのご家族、これからはくかもしれない世代や若い方も、いつかはお世話になるおむつの未来を、一緒に読みながら考えていただければと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。
万博で紹介されていた『O-MU-TSU』の反響について

2025年6月24日、大阪・関西万博で開催された『O-MU-TSU WORLD EXPO 2025』。
「未来のおむつコレクション」をテーマに、様々な人種、体形、信仰、身体状況のモデルがランウェイで堂々たるウォーキングを披露しました。
ファッショナブルではく抵抗感もほとんどない『おしゃれなおむつ』をファッションアイテムの1つとして紹介し、様々なメディアが特集するなど、大きな話題となりました。
『O-MU-TSU WORLD EXPO 2025』では、平林さんの世界に対する”提案“がされました。

その提案に、我々がどう応えていくのか、そして、世界はどう変化していくのか。
新しい世界へ、我々がどんな反応をするのか、それを平林さんは楽しみにしています。
本イベントには日本のみならず、海外からのお客様もいました。

ファッションショーでは圧巻のステージで、実際に会場に訪れた多くの方の感想が平林さんの元へ届いています。
『見ていて、おむつだということを忘れていた。』
『実際にはいてみたい。』
『一日も早く近くのお店で買える日が来てほしい。』
多くの感動と賛同の声に、平林さんは意外な感想を抱きました。
「もうちょっと賛否分かれても面白かったんじゃないかなとは、思うんですけどね」

賛同する声は確かに力になります。
しかし、それだけでは味気ないものなのかもしれません。
世界に向けて投げたボールの返し方は、人によって様々あって然るべきものなのでしょう。
おしゃれなおむつ開発のきっかけ

平林さんがおしゃれなおむつを開発するきっかけは何だったのでしょうか?
その答えは、平林さんがパリでファッションショーを目指していた頃にありました。
「パリでファッションショーを目指していた時に、色んな車いすユーザーとお会いして、どんな服があったらいいですか?と実際の声を聞いて、その服を形にしていたんです。
話が終盤になると、必ずといっていいほど『おむつ』の話題になる方が多かったんです。」
車いすユーザーにとって、おむつの話題は身近なものです。
平林さんはパリで5年という期間の中で何度もおむつの話を聞いてきました。
「周りから見てると僕って、『服作りから、急におむつ作りに行った』ように見えるかもしれないですけど、自分からすると本当に『5年ぐらいずっと聞き続けた話をようやく実現できた』というところでした。」
おしゃれなおむつを作る、というのは平林さんの中で、特別なことではなくて、車いすユーザーの声を形にした、今までの服作りの延長線上にあるものだったのです。
おむつは今まで白色がメインで、そのほかの色はあまりありませんでした。
皆様の中にもおむつに対して、「ダサい」「おむつをはくのは恥ずかしい」。
そんなイメージがある方もいらっしゃるかと思います。
それは普段からおむつを使っている人の中にも同じように思っている人達も多いのです。
ファッションショーのページには、『私達のすぐそばにははきたいと思えるおむつの選択肢が少なくて、心や行動の自由を失っている人達がいます』と書かれています。
今回のおしゃれなおむつが、そんな思いをしている人の手元に届いたら、生活や行動はどのように変わるのでしょうか?

平林さんはそのことについてこのように話しています。
「少なくとも、今はいているおむつが『恥ずかしい』と思っている方に関しては、その思いは払拭されるんではないかなとは思うんです。
皆さんも一緒だと思うんですけど、『恥ずかしいな』って思っている状態で外出したいかって言われると、あまり気乗りしないかなと思うんですね。
出なきゃいけなかったら出るけど、前向きにはなれない。
そこのハードルがまずクリアされて、逆に外に出たいと思えるまで昇華できれば、今まで出れなかった方が出れるようになるでしょうし、何よりQOLが上がりますよね。
そこが1番大きいんじゃないかなと思うんですよ」
おむつ開発でぶつかった壁やその機能性、デザインについて

翼祈:平林さんの書かれた書籍には、『やりたいことがあるけど、何かの壁にぶち当たってる人、変な価値観や偏見に悩まされている人にこそ読んで頂きたい』とありました。
おむつの開発を通して、平林さんも何かしらの壁があったのでしょうか?
おむつ開発についての取材班の質問に、このような回答をいただきました。
「大手が動いてくれるまでにまあまあ期間がかかったので、そこが感じた壁です。すんなり一緒にやりましょう、という感じには流石にならないっていうのは、凄く実感しましたね。
結局、自分たちが思い描いている世界や、声を上げてくれた方が望んでる世界がこれが終わったからすぐ実現する訳じゃないと思っていて、そのことに常に難しさを感じています。
世界が変わっていくのも、何か起こした後にじわっと年月をかけて変わっていくものなのかなと思っているので、ちょっとでもそれが早回しできてりゃいいなと思うんですけど、やっぱりそこかな、1番難しいなと感じるのは」
色んな壁を乗り越えて完成したおしゃれなおむつ。
ファッションショーではかっこいいデザインをしたおむつを見ることができました。
今回のショーのテーマは『ロック&モード』。
平林さんは「プリティーだったりとかキュートだったりとかではなくて、クールだったりとか、どっちかというとかっこいい系で持っていきたかった」といいます。
ファッションショーを通して、クールさを感じる寒色系や、近未来感を演出するシルバーやゴールドの色使いが多く、テーマに沿った統一感のあるショーになっています。
デザインだけではなく、おむつの機能面でもこだわりがあります。
それは『本来のおむつとしての機能を損なわないようにする』というものです。
「基本的に機能性に関しては今回はいじってないんですよ。 要は『機能性を落とさずにどこまでデザイン性を上げれるか』ってところにフォーカスをしていたので。」
平林さんが色んな方の話を聞いた時に、機能性に不満を持ってる方は、そこまで多くなく、
圧倒的にデザインの部分に不満が集中していたそうです。
「恐らく今のニーズに届いていないのは、機能性ではなくデザイン性なんだと感じたので、今回は機能性をそのまま据え置いた上でデザインを上げていって、ニーズと合致できるものを表現しました」
このように、実際におむつを使用している人たちの声を聞いて、平林さんは今回のおしゃれなおむつを開発しました。
取材班の翼祈からは、開発過程についてこんな質問があがりました。

翼祈:機能性を維持した場合、デザインとのバランスは難しくなるものなのでしょうか?
「今回で言うと、物自体の形っていうのは、そこまで変えていないので、実はそうでもないんです。あくまで外観というか、外の不織布の部分をいじったに過ぎないので。
実際、オムツメーカーさんにも聞いたんですけど、おむつの形を変えるとなった場合には、色んな特許の問題があったりとか、本当に作っている機械ごと変えないといけないので、それこそとても大きな金額がかかってしまうんです。」
お話の通り、形状を変えるのには、いくつものハードルがあるため、今回はもともとあった形を生かし、外装のみを変えることで、チャレンジのハードルを低くしました。
ただ、表面の色であったり、柄などを変えるのは、実は技術的には難しくないそうで、コストもそこまで変わらないため、そこに活路を見出したのが今回のデザインです。
従来のおむつの機能面を維持しつつ、デザインにこだわったおしゃれなおむつ。
そんなおむつのデザインには、色んな人の協力があったといいます。
「おむつのデザインに関しては全メーカーに関わっていたので、メーカー側の開発の人たちに、今回僕はアドバイザーという形で入らせていただいていました。
自分たちの協会から、アイデアとして出してるデザインに関しては、ほぼ僕の方に一任してもらっていましたね」
今回のファッションショーには花王、ユニチャーム、プレシア、ワコールや伝統工芸など、幅広い企業が賛同し、開発を進めました。
各メーカーの開発者様の協力がなくては、開発はもちろん、ファッションショーも上手くは行かなかったでしょう。
平林さんの熱意とメーカーの技術力、どちらも必要不可欠だったのではないでしょうか。
そんなおむつ開発の際に苦労した部分について、平林さんは次のようにお話されました。
「作るというところにフォーカスをするのであれば、 各メーカーそれぞれの色を出したい部分はあったんですけども、テーマが『ロック&モード』っていう形で決まっていたので、どうしてもデザインがメーカーさんごとにも被りやすかったりするんですね。
1つのショーとして、同じもの、似たようなものを出すわけにもいかないので、被った時はそれを振り分けながら、それぞれのメーカーが被らない形の特色を表現していくバランスを取っていくのは、意外と難しかったです」
もし被ってしまった場合、どれだけ自信があっても、ショー全体のことを考えてボツにすることもあり、ファッションの世界は華やかなイメージもありますが、厳しい世界でもあるようです。
販売の予定や、今後の開発について

『O-MU-TSU WORLD EXPO 2025』の舞台では、平林さんの”提案“に賛同する声が多く上がりました。実際に平林さんの方には、かなり数の問い合わせがあったようです。
その中でも「購入したい」という問い合わせは多くあるようですが、平林さんはこのようにお答えするといいます。
「我々はメーカーではないので、基本的にはうちの協会が、これに対して何かビジネスを仕掛けていくっていうことはありません。
元々それをするためにやってるわけではないですし、うちの協会自体が、僕を含めて、理事関連は全員『役員報酬を取らない』というルールで動いているので。
ひたすら大人が『面白いと思うことを一緒にやっていこう』ということで集まっている団体なので、あくまでビジネスを仕掛けるというのは、メーカーの使命で、我々の使命ではないと思っています。
自分たちの使命はどっちかっていうと、 逆に企業側から出しにくいものであったりとか、何のしがらみもなく自分たちでいろんなことを想像して実行して、社会に提案をしていくことだと思っているので。
商品化の話とかの問い合わせが来た時には、そんなふうにお答えしてる感じですね。」
平林さんは決して、ビジネスをしているわけではないのです。
平林さんたちの使命は社会に”提案“していくこと、そのことがよくわかるお話でした。
平林さんはおむつを黒に染めてSNSで発表した時に反響があったことに触れ、「僕らがやるぐらいは楽ですけど、メーカーさんの苦労はとんでもない」と話されました。
平林さんの立場とメーカーの立場では、使命という部分で違いはあります。
ですが、メーカーにとっても平林さんとのおむつ開発で得たものは大きいようです。
『メーカーの若手社員は、斬新で新しいデザインに挑戦できる機会は、本当に少ないので、今回のクリエイティブな、こだわったデザインのおむつを作るという経験は凄くいい経験だった』
メーカーの方からもそう言ってもらえたそうで、求めているものは違うけれど、メーカーの方もおしゃれなおむつの開発に対して真摯に向きあっていることが伝わってきました。
また、今回の開発は普段とは違い、製品化を目的にしていないので、メーカーも平林さんもクリエイティブに開発することができたといいます。
ただ、本当に今回のショーだけの話で終わりかと言うと、そうではないそうです。
「今後、様々なおむつメーカーが色のついたおむつの販売を進めていく可能性は、間違いなくあります」
実際に大王製紙さんが黒の吸水ショーツを9月19日に販売を開始しました。
「今回は吸収ショーツですけど、この流れだと、おむつの方にも間違いなく転用してくるでしょうね」
平林さんは、そう嬉しそうに語っていました。
メーカーから黒色のおむつが出しにくい理由についても話を聞きました。
白いおむつの製造ラインの中で、黒の不織布を使って黒いおむつを製造した際に、どうしても不織布の細かいほこりが出てしまい、次に白いおむつを製造する時に混入するそうです。
「真っ白のものだから衛生的な感じがするんですけど、その中に黒いものが混じってたりすると、凄く不衛生に感じてしまう方が日本人だと特に多いので、日本で黒色のおむつを作るっていうのは、難易度が高いんですよねっていうお話を聞きましたね」
黒専用のラインにしないといけませんが、そうするととんでもない金額になる。
もし、販売に向かったとしてもそこにはコスト面など、課題はまだ残っているようです。
ですが、是非、多くの皆様がお近くのドラックストアなどで気軽にかっこいいおむつが買える時代になって欲しいなと思います。
今回のおむつの開発は大人向けの開発になっています。
理由としては子供向けのおむつは既にかなり色んな柄などが揃っているようなのです。
ただ、意外な部分に需要があることが平林さんのお話から見えてきました。
子供の頃から病気など何かしらの理由でおむつを外せない方が、中学生になって体が大きくなった時に、ちょうどその辺りのサイズ感のものが、実は無いそうです。
「子供のものを付けるには、サイズが小さ過ぎるし、大人のものを付けるには大き過ぎる。大きすぎると今度はその隙間から漏れてしまうので、そういった子供たちの選択肢が本当にないんですよ。
対策として女性だと女性用のSSサイズのものなどを使用しているんですけど、白しかないので、そういったところで色がついたおむつというのは活用できないのかなって思います」
ただ、メーカーもそこを商品化するには、それを求めている人の数がかなり少ないため、なかなか手が出しにくい部分があるようです。
需要が多くなければ、商品化することは難しい。メーカーの苦悩がよくわかるお話です。
おしゃれなおむつの今後

翼祈:現在、おしゃれなおむつは全て使い捨てで、コストをなるべく抑えて開発中だといいます。使い捨てではなくコストも抑えるためには、どんな工夫が必要なのでしょうか?
「旅行用の紙パンツがあるんですけど、ああいうのって、実は何回か洗えちゃったりもするぐらい、頑丈にできてたりするんですね。
日本ではあんまり馴染みが無いですが、海外でいうと、フィクセーションパンツとかフォルダパンツとかって言われたりする布製のパンツがあるんですけど、パンツの中にパッドを入れて使うおむつの形が主流な国もあるんですよ。
そういった形だと、紙パンツの中にパッドを入れて、その中を入れ替えるだけで使えちゃうので、トラベル用とかで相当使い勝手いいオムツになるんじゃないかなと思いますね」
平林さんは、実際にパンツを見せながら我々、取材班に詳しく説明をしてくれました。
今後おむつは、中のパッドだけを変えるものが登場してくるのではないか、アウターとしてもおしゃれではないか、そういったお話をしてくださいました。
また、平林さんは、抗菌作用のある藍染めなどを取り入れたおしゃれなおむつも構想中だといいます。今後コラボしたい伝統工芸については、考えがあるようです。
「伝統工芸とコラボするんだったら、アウターのものがいいですね。西陣織とかですね。色々なカラーの西陣織もあるので、組んでいくと結構面白いんじゃないかなとか思います」
取材班より、おむつにワンポイントでプリントするなどのデザインを施すのは難しいのかも尋ねてみたのですが、「おむつに縛ると、可能ではあってもコストがかかってしまう問題がある」という回答をいただきました。
「使い捨てではない、布製のフォルダパンツならコラボの可能性は全然ありますよね。それこそワンポイントは余裕でできるんじゃないかなって感じました。
サイドラインに西陣織とかが、いい感じに入ってたりとかしたら、めちゃくちゃかっこいいし、それがインナーやアウターであったら、面白いなと思いますね」
前編はここまでです。後編では、おむつの意外な活躍の場についてや、おむつの未来について、そして、平林さんの今後目指すことや、読者へのメッセージをいただきます!

平林様関連の公式ホームページや公式SNSの一覧
一般社団法人日本福祉医療ファッション協会のホームページ:https://wel-fashion.jp/
平林様の公式ホームページ:https://keihirabayashi.com/
平林様の公式インスタグラム:https://www.instagram.com/kei.hirabayashi?igsh=c2t6Z2kwOWVmZmw3
平林様の公式X:https://x.com/keihirabayashi?s=21

→後編に続く
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