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この度、NPO法人の『helpwell』を立ち上げた櫻田千江里様に、お話を伺うことができました。
『helpwell』では、「支援者ケアを常識に」を目的に、社会を支える人に対話の場を届けています。
櫻田様は、元は小学校、放課後等デイサービスでの支援など子どもの発達支援領域に従事された後、子どもが幸せに育つ教育福祉の探求のため、2018年デンマーク・オランダの教育視察に行かれました。
帰国された後 「子どもが幸せに育つには、大人の幸せが重要なのではないか」と思い至り『helpwell』は任意団体として開始し、クラウドファンディングを経て、NPO法人を設立されました。
櫻田様は、「当たり前のように心に触れ対話を重ね、そしてどんな子が生まれてきても大丈夫、な社会になれば」という願いを胸に、今日も活動を続けられています。
今回お話を伺ったのは、ゆた、翼祈、Pink、島川です。
どうぞ最後まで、ご覧になってください。
支援者ケアについて

ゆた:helpwell様にとって、豊かな支援・豊かなケアとは、具体的にはどんなことを指すのでしょうか?
私達は、豊かな支援・豊かなケアについて、「相互支援」とか「助け合いのあるケア」と言ったりしているんですけれど、今、一対一の支援とか、ケアの形って、「一方向なことが多いな」って思うんです。
コミュニティとしてや、私も現場にいた対人支援職に絞って活動をさせてもらってるのですが、支援という関係性の中だと、『支援職』と『支援を受ける側』みたいな形になっていて、それも一つ大切な関係性であるなと思いつつも、それ以外のいろんな関係性の中で、支援とかケアが広がっているものもあるな思っているので、そういったものが増えたり、広がったりするといいなと思っています。
ゆた:相互ケア関係を醸成するために、helpwell様では、どんな取り組みをされていますか?

ケアの場の集合写真です
まず、対人支援職同士の相互ケアの関係を、私達は主に取り扱っているんですけども、具体的に言うと、全国でケアの対人支援職が集まるケアの場っていうのを開いています。
この中で『ケアする側』と、『ケアされる側』って関係性じゃなくて、いわゆる『ピアサポート』(※注1)と言うような形に近かったりするかなと思うんですけども。
開催者や、場を開く企画者、主催者っていう人はいるんですが、その人がケアする側っていうわけではなく、その人からの問題提起であったり、こういった難しさがあるよねって、いう語りを起点に、お互いにこんな思いがあったのか、と聞きあったりするような取り組みをしています。
なので、場によっては主催者がすごくケアされるような場があることもありますし、テーマにすごく響くような、誰かの声がすごく聞いていくような会になることもあります。
そういった意味で『相互ケア』って言葉を使っていますし、取り組みをしております。
※注1:ピアサポートとは
「ピア」は英語のpeerで、仲間、対等、同輩を意味します。「サポート」は英語のsupportで援助を意味し、「仲間同士の支え合い」を表します。
ゆた:「すこやかな助け合いが当たり前」というhelpwell様の理念が生まれたきっかけを教えて下さい。
これはめちゃくちゃいい質問だなと思って見ていたんですけれども。
元々私が、対人支援職で働いて、その中でプライベートで周りの人のケアも重なった時期があって、そのときに抱えきれなくなって「バーンアウト」(※注2)したっていう経験が、7~8年前ぐらいにありました。
その体験を通して、自分の心のどこかで、いつも「自分は人を助けなければいけない」というとちょっと言い過ぎですけど、そういう役割にどんな関係性の中でもなろうとしたというか、そんなこと無理ですし、実際そんなわけないんですけど、思い込んでしまっていた部分があったなっていう経験がありました。
そんな中で、人って多分そのときの私も助けられてたし、誰かを助けていたんだと思うんですね。
助けよう!って、頭で考えてやるようなことじゃないはずだったんですけども、そういうふうに頭で捉えすぎてしまったんです。
それが、すごく健やかでなかったなって、個人的に振り返って思うところがあって、そういった意味で反対に、「健やかな助け合い」。呼吸じゃないですけど、自然に助け合うみたいな、当たり前にあるといいなっていうこと、願ってこの理念が生まれました。
※注2:バーンアウトとは?
「バーンアウト(burnout)」とは、それまで熱心に物事に取り組んできた人が、突然燃え尽きたように意欲を失ってしまう状態を意味します。
バーンアウトは感情労働の疲弊や人間関係のストレスなどから生じ、近年では対人サービス職だけでなく様々な職種で増加しているため注目されています。
引用元:ALL DIFFERENT株式会社 バーンアウトとは?バーンアウト症候群の診断からうつ病との違い、対策方法 (2024年6月18日公開)
ゆた:受け取ったケアを、次の方へつなぐ、「ケア送り方針」を採用していますが、具体的には、どんな方針となりますか?
この質問って、すごい隅々まできっと読んでいただいたんだろうな、と思って大変ありがたいなと思っていたんです。
「ケア送り」っていうのがいわゆる寄付文化でよくある「恩送り方式」(※注3)というのを調べると、近い形なのかなと思ってて、ほとんど同じような仕組みです。
簡単に言ってしまうと、寄付とか、カンパ制みたいなものと、近い形になります。
ケアの場をどういう風に運営しているかっていうと、クラウドファンディングで集めたお金でまず1回目を開催して、寄付を集めてまた2回目を開催していくような形になっているんですが、ケア送りって名前を付けているのは、お金を払うときに、私はケアを受けたから、それに対してお金を払うっていう形よりは、こういう場がまた誰かにも繋がるといいな、という意味で「ケアを送るよ」という意味を込めたくて、ケア送り方式っていう風に名前を付けました。
※注3:「恩送り…ペイフォワード(Pay it forward))」とは
ペイフォワード(Pay it forward)とは、自分が受けた善意を他の誰かに渡すことで、善意をその先につないでいくこと。直訳すると「先に払う」という意味。善意を与えてくれた本人に恩を返す代わりに、他の誰かに(先に)善意を送ることから、日本では「恩送り」とも言われている。
翼祈:人に接し続け、相手ファーストであることを期待される対人支援職では、そのことで、どんな心身の不調が出ると、helpwell様には報告がありましたか?
心身の不調に関して言うと、いろいろあるんですが、身近な例だと、私もお話した様にバーンアウトの経験がありまして、実際にお仕事していたんですけど、続けることが難しいなと感じた機会がありました。
私の場合はメンタルダウンが起きる手前ぐらいで「ちょっとやばいかも」というところで、まず、お休みさせていただいたっていうところから始まって、現場からは離れようって、3~4年ぐらい、対人支援をお休みしていた経験がありました。
他のケースだと、お仕事行くことが難しくなって休職されたっていうケースや、休職して復帰したっていう方もいれば、子育てのタイミングと重なったので、そのままやめますって言われた方もいらっしゃれば、と様々な事例を聞いていたりしています。
翼祈:対人支援職自身が、ケアされずにストレスを抱え続け、離職するという現実を打破するために、どの様な支援が必要とされていますか?
いやあ深イイ質問ですね(笑)ありがとうございます!
そうですね、何かバチンてくるこの一つで打破できるみたいなものが、私自身もあんまりピンとくるものが見つかってないなっていうのが正直なところです。
私達で、ケアの場を作るであったりとか、NPOっていう形で活動を広げるっていう方式をとっているのも、やっぱりバーンアウトした自分の体験を振り返ったり、皆さんとお話を振り返っていっても、「助けてもらっていい存在である」っていうことを対人支援職が簡単にいうと、ヘルプを出せるというか、「今ちょっときついかも、しんどいかも」っていう、ヘルプを適切に出せるようになると、この問題は起きにくくなったりとか、起きたとしても、早めにお休みできたりだとか、適切なケアが届きやすくなったりするのかなって思っているんです。
けれど、やっぱりネックになってるのが、助けを求めることが、個人の責任だけでもないような気がするなっていうのも、すごく感じることがあります。
個人の助けを求める力っていう側面もありますし、社会として対人支援職にすごく期待してるとか、そういった面も複雑に絡まってるなって思うので、『個人に助けを得る力・スキルを高める』というアプローチと、社会側に『こういった矛盾をはらんだ仕事でもあるんだよ』ってことを伝えていくアプローチと両方やって、打破したいなと思っています。
47都道府県ケアプロジェクトについて
ゆた:47都道府県地域ケアプロジェクトが立ち上がった経緯を教えて下さい。
47都道府県に、対人支援職向けのケアの場を届けようというのが、47都道府県地域プロジェクトなんですけど、昨年度は13地域に実は、モデル版じゃないですけど、実施したっていう経緯がまずありました。
実は、もっとその前には、コロナの関係もあったので、オンラインでピアサポートの場みたいなものは、2年前から本当に4~5人で集まって、たまにオフラインだと、カフェみたいなところで集まって、ささやかにやっていたんですけれども、その中で「すごくニーズがあるよ」っていう話を聞いたのと、コロナが明けたっていうのがあったので、昨年度は13地域ぐらいでまずやりました。
その中で、もっと他の地域で、やりたいなっていう人がいるよっていうお話であったり、うちでも開いて欲しいといったお話がたくさん出てきたので、「よっしゃこれは全国に広げてみよう」ということで立ち上がった形です。
ゆた:47都道府県地域ケアコミュニティでの活動は、どんなことが行われてきましたか?
コミュニティの活動では、まず「私の地域でケアの場を開きたい」という、ファシリテーター(※注4)の方々が集まっている、もしくはそのファシリテーターの活動を支えたい方々が集まって動いているコミュニティになります。
まずファシリテーターの方が地域の場を開催するための企画を立てる動きをしたりだとか、企画に関していろいろわからないこととか、既に開催された会の知見を共有する会みたいなものがあったりだとか、あとはどんな風に場を開催すると、良い時間が過ごせるのかな?っていうような、ケアの場の勉強会みたいなものでもあります。
そもそも支援者ケアって何なんだろうねみたいな。ちょっと哲学的な対話チックな会があったりだとか、そんな形で今コミュニティの活動が行われています。
※注4:ファシリテーターとは?
ファシリテーターとは、会議や議論、研修などの場で進行役や意見調整役を務める人のことです。司会進行とは異なり、参加者同士の意見を引き出して議論が活性化するように支援しながら、目的に沿った結論を先に進めるのが役割です。
引用元:企業向け人材育成・社員研修サービスのユーキャン ファシリテーターとは?司会との違いは?意味や担う役割、課題を紹介(2025年6月12日公開)
ゆた:47都道府県地域ケアプロジェクト内で、「模擬ワークショップを考えて企画書を埋めてみる!」のテーマで開催されましたが、参加された方同士で、どんな相乗効果が生まれましたか?
参加された方同士で、ファシリテーターとして開きたいという人同士で集まって、企画書を考えるっていう会だったんですけども、相乗効果としては、ここは自分と似たような考えとか思いで企画をしたいっていう人と、よりその考えをブラッシュアップできました。
あともう1点は、既に実は昨年度、開催された方っていうのがいらっしゃるので、開催された方の企画書を振り返ってみたんですけど、企画の内容とかを聞いて、企画だったりワークショップの内容を深めたり、そんな相乗効果があったなって思いました。
クラウドファンディングについて
翼祈:クラウドファンディングのページに書いてあった、この印象的なキャッチコピーは、どうやってその考え方に行き着きましたか?
めちゃくちゃ深い質問ですね!
実は一番最初は全く違う冒頭文で、こういう問題があります。と書いてあったんですけど、2週間前ぐらいに、「これじゃ駄目だな」って思い、このキャッチコピーに変えたっていう背景が実はありましたので、質問されてちょっと驚いてます。
違うなって、気づいた背景としては、helpwellが、助ける・助け合うみたいなことに、求めてるものって何なんだろうっていうのを、いろんな人とテーマで対話で深めていったっていう背景がありました。
最終的に、考えたときには、自分の体験に基づいちゃうんですけど、私が小さいときに、一番最初に「助ける」場面に遭遇したときがあって。
母と散歩してたときだったんですけど、私がすごくちっちゃくてわからなかったんですけれども、白杖を持った方がお店の前で、すごく困ってそうな雰囲気で、入口を探しているっていう場面に遭遇したことがありました。
そのときに母が、その方に駆け寄って「入口ここですよ」みたいなやり取りをしたのを見たことがあって、そのときに、助けられるということよりも、2人の間に「すごい素敵なことが起きたような気がする」っていうのを幼いながらに感じたんです。
ちょっとクサくて恥ずかしい経験なんですけど、その経験があったことを思い出して、本当に5歳ぐらいなんですけど、そのときから、キャッチコピーの最後にあるような巡りだしてるようなように感じたクサさっていう、そういう経験を思い出して、このキャッチコピーにたどり着いたっていうところがありました。
Pink:クラウドファンディングですが、目標金額には達しなかったものの、約7割もの資金が集まり、素晴らしいと思いました。「もう一度プロジェクトをやって欲しい」という声もありますが、そのことについてどのようにお考えでしょうか?
本当によくこんなに集まったなっていうのが、実は私も思っていたところです。
こんなに多くの方と、関心を共有できたっていう、団体にとっても、成功体験っていうか、何か一つ達成したような、そんな体験だったんですね。
団体を継続していくにあたって、いろんな方に応援されながら、この話題を共有しながら、プロジェクトを進めることって、すごく素敵なことだし、「支援者ケアを常識に」と言ってるんですけど、すごくいいことだなと感じた部分もあります。
「もう一度プロジェクトをやって欲しい」っていう意見に背中を押されている部分もありますので、クラウドファンディングをもう一回やるかわからないですけど、引き続きクラウドファンディングぐらい、いろんな方と協同していけたらいいなと考えています。

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→後編に続く
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