選択肢の一つとしての無痛分娩~そのメリット・デメリット~

女医の診察を受ける妊婦とその夫

この記事は約 8 分で読むことができます。

はじめに

「透明なゆりかご」という漫画で妊婦が出産の痛みに耐えきれるかどうか悩んでうつになってしまうエピソードがありました。妊婦の義母は皆痛みに耐えて出産してきたのだから、麻酔なんて使わずに出産しなさいと説得します。

出産は女性にとって命をかけて行うものです。

産む本人の心情に合わせて出産も変化してもよいのではないでしょうか?

歯医者でも麻酔を使って治療するように、出産も麻酔を使ってはいけないのでしょうか?

そこで、日本において無痛分娩とはどのように行われているのか、その現状と安全性についてご説明していきたいと思います。

参考元:講談社『透明なゆりかご(1)』(沖田 ×華)

日本で無痛分娩が普及しないわけ

フランスでの無痛分娩実施率は2021年時点で82.7パーセント(※1)。一方、日本の無痛分娩実施率は2023年度のデータとなりますが、全体の13.8パーセントにとどまっています。(※2)

引用元:日本財団ジャーナル 広がりつつある「無痛分娩」という選択肢。基礎知識を識者に聞いた 2025年3月6日 

このように、無痛分娩はフランスでかなり浸透していますが、日本ではあまり普及していないようです。

普及していない理由にはいろいろなわけがあります。

まずは、思い込み

「お腹を痛めて産んだ子だからかわいい」という言葉は誰しもきいたことがあるのではないでしょうか?

これは単なる都市伝説に近いと思います。

出産の痛みを経験しない帝王切開で産んだ子どもがのちに虐待を受けるケースが増えることはありませんし、無痛分娩により、母子関係に悪影響が及ぶことは科学的にも証明されていません。

参照元:京都医療センター 無痛分娩Q&A|麻酔科

次に過去からの風潮が考えられます

太古の昔から出産は行われており、その際に先人たちは麻酔なしで行ってきました。

私たちは我慢してきたのだから、あなたも我慢をしないさいと我慢を強いる場面が現代でも見受けられます。

先の漫画の義母もその典型例でした。出産の痛みを乗り越えてこそ、母親の資格があると誤った認識が現代でもまだ根強く残っているように感じます。

そして、麻酔医の不足です

コストや人手不足あり、無痛分娩を設置している医療機関が少ないことも原因の一つです。

また、麻酔科医が不足しています。

出産に専任の麻酔科医がつくことはまずなく、産科医が麻酔を兼任して行っていますが、それにより安全性が確保されないわけではないです。

産科医の抱える負担は大きく、専任の麻酔科医を配置する体制を整えることは今の日本では難しいようです。

参照元:okamura clinic 無痛分娩の割合は?世界の実態や日本で普及しない理由を解説

また、費用の問題もあると思います

無痛分娩は保険が適用されません。

一部の自治体では、無痛分娩の費用の一部を助成する制度を設けています。

費用の相場は約10~20万円で、地域や病院によって差があります。

予算を確認しておくことが大切になります。

参照元:富永愛法律事務所「無痛分娩」 費用の助成があれば選択しますか? | 産科医療LABO 2024年6月27日

マタニティスタイル 無痛分娩の費用はどのくらい?地域差・内訳・保険適用などを徹底解説 2024年10月8日

妊婦と女医

無痛分娩のメリット

痛みを抑える

一番にあげられるメリットでしょう。

出産は想像をはるかにこえた痛みをともなうことは予測できると思います。

その不安を少しでもやわらげる効果があります。

無痛分娩がまったく痛みがないわけではありませんが、リラックスして出産を行うことは赤ちゃんにもよい効果が期待できます。

緊急時にすぐ対応できる

自然分娩から帝王切開に切り替える際、すでにカテーテルを挿入している場合、麻酔の対応もスムーズに変更できます。

赤ちゃんの対応は1分1秒を争うことが多いです。

この時間の短縮はかなり大きいといえます。

重大なトラブルを回避することができるでしょう。

出産後の体力の回復が早い

出産はとても体力を奪われます。

無痛分娩は、痛みを抑えることにより、体力を温存させ、出産後の赤ちゃんのお世話を心安らかにすることができます。

参照元:okamura-clinic 無痛分娩の割合は?世界の実態や日本で普及しない理由を解説

出産の経緯、赤ちゃんが生まれるまで

進化を遂げた無痛分娩

無痛分娩の麻酔技術は日々進化を遂げています。

20年前までは麻酔が急激に強く作用するため、「いきむ」ことができず、帝王切開率が高かったですが、「少量分割投与」が主な処置となり、「いきむ」ことが可能になり、帝王切開の確率も自然分娩と差がなくなっています。

参照元:日本財団ジャーナル 広がりつつある「無痛分娩」という選択肢。基礎知識を識者に聞いた 2025年3月6日

無痛分娩で麻酔を行っている様子

無痛分娩のデメリット

分娩時間の長期化

麻酔によって陣痛をやわらげているので、赤ちゃんを押し出す力が弱くなり、分娩がなかなか進まないこともあります。

陣痛促進剤を使用することで対処可能です。鉗子、吸引分娩を使用して赤ちゃんを取り出すこともあります。

麻酔の効果には個人差がある

適量の麻酔を投与していても、効果が出ない場合、体位変換やお薬を追加して対処します。

それでも調整がつかない場合は、管の入れ直しをしますが、足の感覚が鈍くなり、力が入りにくくなるなどの副作用のリスクもあります。

発熱

38度以上の発熱が出ることがあります。排尿障害や神経障害、血圧の低下などの合併症の危険性もあります。

稀に後遺症が残ったり死亡する可能性もないわけではありませんが、適切な処置で防げます。

無痛分娩は安全なものへと進化をしています。メリットとリスクをよく考えてから実践しましょう。

参照元:okamura-clinic 無痛分娩とは?メリット・デメリット・注意点を詳しく解説 

女性の権利としての無痛分娩

フランスの無痛分娩が広まった背景には、このような意識改革がありました。

フランスでは、1994年に保健大臣であったシモーヌ・ヴェイユが「分娩時における硬膜外麻酔はぜいたく品ではない。それは、望む全ての女性が持つべき権利である」と演説したことが、大きな契機となりました。

引用元:日本財団ジャーナル 広がりつつある「無痛分娩」という選択肢。基礎知識を識者に聞いた2025年3月6日 

女性に負担をかけない出産にシフトを切ることはいけないことでしょうか?このように権利として認めている国もあります。

終わりに

私は出産経験はありませんが、無痛分娩が安全性の高いものならば選択したいを思います。

女性の権利の一つといっていいのではないでしょうか。

ただでさえ、少子化が進み、子どもを産む人は減ってきています。

その負担が軽くなるなら、軽くしていく努力はなされてもいいはずです。

お腹を痛めて産めば赤ちゃんに愛着がわくというものではないし、無痛分娩で産んでも、帝王切開で産んでも、その愛情に悪影響が出るということは科学的にも立証されていません。

医療がこれだけ発展してきているので出産もアップデートして、妊婦に負担がないように進化し続けていいものだと思います。

赤ちゃんを産めるのは女性だけです。

その女性が赤ちゃんを産みやすい環境を作っていくのも今後の課題と言えます。

人類の存続にかかわることです。

今まで我慢するしかなかったことにしないで、より快適になってもバチは当たらないと思います。

「案ずるより産むがやすし」なんてことわざがありますが、出産は時間が経てば自然に産まれてくるものかもしれません。しかし、女性にとっては命がけのことです。

より安全で産む本人が安心して出産できる環境を改めて見直してみてはいかがでしょうか?

これからの新たな命のために日々進歩していく医療技術を信じて、無痛分娩が選択肢の一つになればいいと思います。

少子化対策もこのような無痛分娩を助成するために税金を使ってほしいものです。女性ばかりが負担を背負う出産はせめて金銭面でも安心して産める環境を整えてほしいと思います。

女性は痛みに強いと言われていますが、それが緩和できるのなら、緩和させた方がいいと思いますし、より安心して出産を迎えたいと思うのに無痛分娩はその安心材料の一つとして選択してもよいのではないかと考えます。

ひと昔前の危険な無痛分娩とはだいぶ進化してその様子はかなり違ってきています。女性を大切する社会は赤ちゃんを大切にする社会であると感じますし、赤ちゃんを大切にできれば人口も増えて、皆の生活が潤う社会となるはずです。

みなさんはどう思われますか?

赤ちゃんを想像する妊婦

noteでも書いています。よかったら、読んでみてください。

おすすめ記事の紹介

HOME

女医の診察を受ける妊婦とその夫

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です