『アイラブみー』。インクルーシブ教育をベースに、5歳の子どもの疑問に問いかける番組。 

アイラブみー

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こんにちは、翼祈(たすき)です。

今の時代、LGBTQの象徴的だった多様性という言葉は、障害者や国籍関係なく、広い意味で使われる様になりました。

1つのカテゴリーとして使われてきた言葉も、その言葉の浸透と共に、広い意味で使われる様になったと思います。

そういう意味では、この記事で取り上げる、インクルーシブ教育(包括的性教育)もそうだと思います。

インクルーシブ教育とは、月経など生殖のメカニズムだけでなく、人権尊重を基盤に、人間関係や健康、ジェンダー平等など、幅広いジャンルを学習する教育のことを指します。2009年にユネスコが作成し、2018年に改訂された性教育の指針「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の中で、発達段階に対応させた5歳から学ぶべき内容が提言されています。

そんなインクルーシブ教育を、2023年3月から、5歳の子ども目線で繰り広げられる、教育番組をご存知ですか?

NHK-Eテレで水曜15時45分に放送の『アイラブみー』は、主人公・みーが、「友達は、『触られるのが嫌』って言うけれど、何でだろう?」など色んな疑問を投げかけ、家族や近所の人、友達と話し、アイディアを膨らまし、どんどん“みー”の思考実験や空想が繰り広げられ、見つけていく、子ども向けじぶん探求ファンタジーアニメーションとなっています。

タイトルにも示されている様に、「自分を大事に」を子ども達に理解しやすく伝えたいとの想いが託され、「インクルーシブ教育」が導入された番組です。

今回は、『アイラブみー』がいかに優れたインクルーシブ教育番組かを特集します。

『アイラブみー』の制作が始まった理由

藤江千紘チーフ・プロデューサー(NHKエデュケーショナル)に、この『アイラブみー』を制作した経緯などを質問しました。

―思い返すと、友達に優しくしなさい、周りの人の気持ちを考えて行動しなさい、とばかり娘に要求し、「自分の身体や気持ちを大事に」とは言ってこなかったことには、この番組を通して、私は反省するばかりでした。

『アイラブみー』を監修して下さる専門家の方は、親自身も分からない中で、あれこれ子どもにさせなきゃと追い込まれている状況は非常に良くない状況だ、と述べられていました。全部自分の力でやらなくても大丈夫ですし、絵本とかアニメとか、様々なものの手を借りながらチャレンジすれば良いですよね。

ですが、子どもを出産をする方法などの情報ということではなく「自分の身体を大事にする」というインクルーシブ教育のポリシーは、ご両親全てが分かっている方が良いのでは?と考えています。『アイラブみー』の各回が「自分を大事にするとは何か?」に関して今一度考えてみるエッセンスになればとの想いで制作しています。

第1回の放送では子どもが大好きなパンツをテーマにしようと、何気なく決めつつ『アイラブみー』の骨組みを作っていきました。パンツをメインテーマに描くことは、パンツの中にある性器についても発信しなきゃいけない、本当にアニメで性器を描いても大丈夫?と議論を重ねました。監修して下さる専門家の方にもアドバイスを頂いて、女の子はこう、男の子はこう、というのは子どもが少しずつ自然に理解できて、アニメで絶対に描かなければいけないことではない、という結論に辿り着きました。

とても複雑な心境ですが、それならパンツがメインテーマの回で何を訴えたらいい?と思うと、パンツの中はとてもプライベートゾーンで、だけども身体のパーツ全てがプライベートなところで、身体を触られるとか見られるとかは自分の意志で決めていいものなんだ、と。自己決定ができる話に辿り着きます。なので自分で自分自身を大事にしなきゃいけない、自分自身のことは自分しか大事にできないんだよ、というメッセージ性に繋がっていきました。

―『アイラブみー』のタイトルに託した想いとは?

自分自身を大事にすることは、同様に大事な存在である他人も大事にすることに繋がって、それが人権尊重に繋がっていきます。これこそがインクルーシブ教育の基盤ですよね。そこから『アイラブみー』というタイトル案が上がりました。

実は私自身、初めは『アイラブみー』というタイトル名に抵抗感を抱きました。数年前に、自己肯定感を上げるためのライフスタイルのお洒落やヒントなどを発信した若い世代対象の番組に携わっていた時に「アイラブミー」ってタイトルはどうですか?を発すると、周りの人から、「エッ?」と言われて。自分自身を指した言葉だと自意識過剰と思われて、恥ずかしいねという意見が出ました。

それに対し、この『アイラブみー』の制作スタッフ全員が、心に引っかかりを抱えていますし、良いアイディアなのでは?、という意見に至りました。『アイラブみー』が子ども達に馴染んで貰えて、「アイラブミー」と伝えることを相手は全く違和感も感じず、スッと受け止められる様になる、「何それ?恥ずかしいよ」と思われない様になる、そこを目標に番組を制作していこうと考える様になりました。

―第1回のパンツの回で「女の人は生まれた時から穴が3つあるんだよ」と説明しました。「赤ちゃんはどこから生まれるの?」という子ども達の疑問に、大人のほとんどがどう答えるか迷う質問だと言えます。

届いた反響は、大事なことをサラッと伝えてくれて良かったという声が、ほとんどでした。画面上に表示されているQRコードから『アイラブみー』の公式ホームページに飛べる仕組みになっていますので、監修をして下さる先生方のアドバイスを読んでその通りに息子に説明しました、という意見も届きました。動揺してしまう親御さんに、じゃあどうやって伝えたらいい?まで示せる番組でなりたいと思っています。

その上で家庭によって考えは十人十色です。絵本だとご両親が選んで買ってお子さんの年齢に適したタイミングで向き合えますが、時計の代用でEテレを点けているご家庭もあり、テレビは受動的に目や耳から流れて来てしまいます。性に関するテーマに拒否感を示す人がいるのは当然のことであって、その人たちの気持ちを考えて制作しています。その人たちにも向き合うのがテレビ制作の難しさであり、日々の生活にスンと馴染むやり方を番組スタッフみんなで模索する毎日です。

―主人公のみーだけでなく登場人物の全員の声を俳優の満島ひかりさんが担当されています。

みーの性別をどう扱うかー、と考えていた時に、女の子の声も男の子の声も演じ分けられる満島さんに相談しました。番組の骨組みができてきた時にみーの性別を決めない判断をし、では満島さんにみーの声をやって頂けるなら、それ以外のキャラクターもお願いできないかと相談を持ちかけると、満島さんが「じゃあチャレンジしてみます」と快諾して下さって。

満島さんのみー以外のキャラクターの演じ分けは素晴らしいですし、結果論では、お母さんがお子さんに絵本を読み聞かせする様な温かみがあって、あるいは、自分と同様に周りの人を大事にする、というメッセージ性も込められました。

画像引用・参考:Eテレ「アイラブみー」アニメで伝える包括的性教育「自分を大切に」 5歳の主人公と一緒に大人も学べる 東京すくすく(2023年)

その他の細かな設定

―みーはパパと2人暮らしですが、ママは何をしているのですか?

『アイラブみー』は、全部のキャラクター設定をしているわけではありません。制作を始めた当初は、心配性なママが家でみーのことを待っていて、みーが出かけて自宅に戻って来るまで、というストーリーにしていました。

ですが、他にも同様の設定にしているアニメはあって、正統派な性別役割にしない方がいいのではないか?、という意見も出て、設定を変更しました。みーのママは偶然離れて生活しているのか、離婚しているのか、まだ描かれていません。描かれていることは死別ではなく、とりあえず元気に生きているけれど、みーとは一緒に生活していないことでした。

私たちが描きたかったテーマは「みーは可哀想な子ではない」ということでした。ママはみーが大好きで、みーはパパもママも大好き。シングル(ファーザー、マザー)の親と生活する子ども達が増えている現代で、自分の親がシングル(ファーザー、マザー)でなくても、お友達がそうだった場合、「あの子は決して可哀想ではない」となる社会になっていって欲しい。普通の光景としてそういうこともあるよね、と描きたいと思いました。

まとめ

インクルーシブ教育の理念は、私が大学を中退した後にできた理念ですね。私が学生の時は、性教育も分離授業でしたし、昔から言葉としてあったかもしれませんが、自分の中にプライベートゾーンという言葉もよく分かっていなかったですし、今の様な配慮もありませんでした。

体育や学校健診での着替えも、時間は違えど、同じ教室で、男女が時間差で着替えるといった、インクルーシブ教育などには全く沿わない考え方だったと思います。

私が去年記事を書いた、「学校健診で上半身裸にしないで」というテーマで書いた記事も、今のインクルーシブ教育に適した考え方だと思います。

私が学生時代の時には考えられなかった、集団行動だからではなく、一人ひとりの人権というか、権利に寄り添うところは、大きく変わったところだとも感じています。

昔は一人の人が声をあげても、かき消されていた声が、今は一人の声に賛同する人がいれば、大きな集合体となって、凄いパワーを発揮する。これって、本当に昔だったら考えられなかった時代の変化です。

恥ずかしいと言われていた時代を経て大人になった私は、今の様にインクルーシブ教育にしろ、みんなで「これはこうだよね」と言える時代になったのは、とても喜ばしいですし、羨ましくもあります。

noteでも書いています。よければ読んでください。

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左耳感音性難聴と特定不能の発達障害(ASD,ADHD,LD全ての要素あり)、糖尿病、甲状腺機能低下症、不眠症、脂漏性皮膚炎などを患っているライターです。映画やドラマなどのエンタメごと、そこそこに詳しいです。ただ、あくまで“障害”や“生きづらさ”がテーマなど、会社の趣旨に合いそうな作品の内容しか記事として書いていません。私のnoteを観て頂ければ分かると思いますが、ハンドメイドにも興味あり、時々作りに行きます。2022年10月24日から、AKARIの公式Twitterの更新担当をしています。2023年10月10日から、AKARIの公式Instagram(インスタ)も2交代制で担当。noteを今2023年10月は、集中的に頑張って書いています。昔から文章書く事好きです、宜しくお願い致します。