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こんにちは、翼祈(たすき)です。
日本脳炎とは、日本脳炎ウイルスにより発生する疾病で、ウイルスに感染したブタなどから蚊が媒介して拡大し、高温多湿な気候で、ブタなどを飼育し、蚊が発生しやすい水田が多い地域で発生しています。
温帯地域では夏の季節に、その他亜熱帯・熱帯地域では雨の時期に日本脳炎の発生が多くなります。
日本脳炎はアジアで広く流行している疾病で、毎年およそ3万5000~5万人の感染者が発生し、およそ1万~1万5000人が亡くなっていると推定されています。以前は高齢者や子どもに多くみられた感染症です。
1960年代までは子どもを中心に日本脳炎に感染する人が多かったとしますが、予防接種が開始されて、生活環境の変化により、1990年代以降の感染者数はほぼ年間10人前後と、顕著に減りました。
今回は日本脳炎が2023年に初めて確認された熊本県の話、原因、感染経路などについて多角的にお話しします。
2023年9月、
2023年9月22日、熊本県玉名郡に住む70代の男性が日本脳炎を発症したことが明らかになりました。2023年は、日本で初の感染事例で、熊本県内では2年連続で日本脳炎の確認がされました。男性は、有明保健所管内にある病院に入院しています。
熊本県健康危機管理課の発表によりますと、男性は2023年9月4日に発熱や、ろれつが回らず、上手く発語できないなどの症状が出て入院しました。
9月7日に意識レベルが低下し、呼吸状況が悪化。人工呼吸が必要な状態になりました。
9月21日に日本脳炎と診断を受けて、意識低下の状態が続いているとされます。
9月22日に熊本県が保健所に届け出たということです。
熊本県内では2022年も日本各地の感染者5人の中で3人の患者が確認され、このうち70代の女性が亡くなっています。
参考:熊本の男性が日本脳炎に感染 ことし国内初確認 意識ない状態 NHK NEWS WEB(2023年)
熊本県の担当者は「長袖長ズボンの着用、虫除けスプレーの活用することで蚊に刺されない様にして頂きたいです」と発信しています。
▽原因
日本脳炎は、フラビウイルス科に属する日本脳炎ウイルスによって発症するウイルス感染症です。ヒトからヒトへ直接感染することはありません。
日本脳炎ウイルスはブタやイノシシの体内で増殖し、蚊によってブタからブタにウイルスが伝播します(ブタ→蚊→ブタの流行)。一方ヒトへの感染は、ブタから感染した蚊に刺されて感染します(ブタ→蚊→ヒト)。ウイルスの媒介蚊は、主にコガタアカイエカ(コガタイエカ)で、日本を始めとし、アジア諸国の多くに生息しています。
飼育されているブタからの日本脳炎の流行は毎年6月から10月まで続きますが、この間に地域によってはおよそ80%以上のブタが日本脳炎に感染しています。
ただし、日本脳炎のウイルスを保有する蚊に刺されても、多くの人は「不顕性感染」というもので、症状が出現しませんが、100~1000人に1人の割合で感染するといわれています。
通常6~16日の潜伏期間を経た後、数日間の突然の高熱、嘔気、頭痛、目眩、嘔吐、悪心などが起こります。その後、意識障害やけいれん・麻痺などの中枢神経系障害(脳の障害)、異常行動、光への過敏症、筋肉の硬直、不随意運動などを引き起こす病気で、後遺症を残すことや死に至ることもあります。
子どもでは、下痢、腹痛も多く見受けられます。
一般的に、日本脳炎ウイルスに感染した場合、発症した人の重症例の中で50%が亡くなってしまうと言われています。また、生存者の30~70%に精神障害や運動障害などの後遺症が残ってしまいます。
脳炎以外では、夏風邪や髄膜炎の症状で終わる人もいます。
▽かかりやすい年齢
ワクチンを広く予防接種をする様になってからは子どもの患者は減少し、現在の患者の中心は、予防接種を受けていない高齢者となっています。
ですが、2006年〜2015年の10年間では、子どもの日本脳炎の報告例も8人あって、最も小さい子どもは生後10ヵ月の乳児でした。
最近の子どもの日本脳炎罹患状況を顧みると、熊本県で2006年に3歳児、2009年に7歳児、高知県で2009年に1歳児、山口県で2010年に6歳児、沖縄県で2011年に1歳児、福岡県で10歳児、兵庫県で2013年に5歳児の報告がされました。また、2015年千葉県では生後10ヵ月の乳児の日本脳炎への感染が報告されました。
▽重症化しやすい人
子どもでは特に重度の障害を伴う後遺症になることが多いと言われていて、パーキンソン病様症状や精神障害、麻痺、けいれん、精神発達遅滞などが挙げられます。
▽感染経路
日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカ(コガタイエカ)は、昼間は雑草の茂みや水田などに潜み、日没した後に活動が活発化します。そのことで、蚊が屋内に侵入しない様に網戸を使うこと、夏季の夜間の外出を控えること、夜間の戸や窓の開閉を少なくする事など、蚊に刺されない工夫をすることが大事となります。また、蚊がヒトを刺す時期は10月まで続くため、夏が過ぎてももう暫くは蚊に注意が必要となります。
▽日本脳炎の多い国
日本、中国、韓国、ベトナム、カンボジア、タイ、マレーシア、ミャンマー、ラオス、フィリピン、ネパール、インドネシア、バングラデシュ、スリランカ、インド、パプアニューギニア、ブルネイ、台湾、パキスタン、米領サイパン、米領グアム、オーストラリア(クイーンズランド州北部)、シンガポール、ロシア(極東部)
韓国や中国では、夏から秋に、ネパールやインド北部などでは6月から9月頃の雨期に、蚊の発生が多くなります。他の熱帯地域では、年間を通して防虫対策を忘れないで下さい。
日本脳炎の流行は西日本地域がメーンとなりますが、日本脳炎のウイルスは北海道など一部を除いた日本全体に分布しています。以前北海道は日本脳炎の定期接種の対象外でしたが、住民の国内の移動や海外渡航の可能性を想定し、2016年4月からは定期接種となりました。
▽診断基準
日本脳炎だと疑われた時は、血液中の抗体価を測定して診断を下します。夏の季節に脳炎の感染者がいた時は日本脳炎を疑う必要もあります。ですが、検査には日数がかかることから、臨床診断に頼らざるを得ない現状です。
▽治療法
特別な治療法はなく、症状に応じた対症療法が行われます。
▽予防策
蚊に刺されない対策を取ることとワクチンの予防接種がメーンとなります。蚊取り線香や虫除けスプレーなどを使い、長袖・長ズボンなど肌を露出しない服装を意識して下さい。
養豚場の多い地域や日本脳炎を媒介するコガタアカイエカ(コガタイエカ)の生息しやすい水田の近くにお住まいの方などでは特に注意を払って下さい。
日本脳炎ウイルスをヒトに媒介するコガタアカイエカ(コガタイエカ)は、古タイヤやバケツなど、ちょっとした水たまりにも産卵することから、蚊の発生を減らすために、水を溜めずに空にする様に意識して下さい。
▽ワクチン
生後6ヵ月から90ヵ月未満の1期に3回、9歳以上13歳未満の2期に1回接種します。
しっかりと日本脳炎への免疫を付ける為には「4回」の予防接種を受けることを推奨します。1回の接種だけでは十分な免疫は付きません。日本脳炎に感染するリスクを75〜90%減らすことが可能です。
その上で、日本脳炎の予防接種については、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)との因果関係の疑いがあったことや、脳の中で日本脳炎ウイルスを増殖させ、獲得したウイルスを高度に精製し、ホルマリンなどで不活化して製造されていた、マウス脳による製法の日本脳炎ワクチンという旧日本脳炎ワクチン接種後に重い病気を発症したケースが報告されたことで、2005年から暫く積極的推奨の差し控えの時期がありました。日本脳炎ワクチンの予防接種を受けにくかった世代(特例対象者:1995年4月2日〜2007年4月1日生まれ)の人は、20歳未満まで接種可能です。
また、2007年4月2日〜2009年10月1日生まれの人は、予防接種が完了していない残りの回数を、定期接種の年齢の範囲内で接種を受けることが可能です。
2009年2月に、「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」が薬事承認されたことから、積極的勧奨の差し控えは2010年3月31日に終了し、現在は通常通りにワクチンが接種可能です。
現在使われている乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンは、日本脳炎ウイルスをVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)で増殖させて、獲得したウイルスを採取し、ホルマリンなどで不活化して製造されたワクチンとなっています。
以前のマウス脳による製法の日本脳炎ワクチンという旧日本脳炎ワクチンを使用して日本脳炎予防接種を受けたことがある人も、乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンで接種を受けることが可能です。
▽特例対象者
画像・引用:日本脳炎予防接種 豊中市(2023年)
▽ワクチンの副反応
予防接種を接種した箇所が赤く腫れたりするのが3%未満、発熱も3%未満です。発熱は1回目の予防接種をした3日以内の出現が多く、2回目以降の予防接種では少なくなります。接種した箇所の腫れは4回目に少し多い傾向となっています。それ以外には、発赤、しこり、内出血、疼痛、かゆみ、頭痛、じんましん、鼻水、咳、のどの痛みです。
極めて稀な重篤な副反応では、アナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、ショック、急性血小板減少性紫斑病、けいれん…0.001%未満
▽接種できない人
画像・引用:日本脳炎ワクチン 日本小児科学会
▽日本脳炎ワクチンの追加接種
定期の予防接種を完了していたとしても、予防接種の有効な期間は3~4年と推定されています。この期間を過ぎた後に、特に海外などの農村部の流行地域に長い間渡航される方は、追加で1回ワクチンを接種し、それ以後3~4年毎にワクチンを接種することが推奨されています。日本脳炎が流行している地域への海外渡航の際も、蚊取り線香や虫除けスプレーなどを使い、肌を露出しない服装を意識しましょう。
参考サイト
日本脳炎(Japanese Encephalitis) 厚生労働省検疫所 FORTH
日本脳炎予防接種について 名取市 子育て応援サイト eなとりっこ(2023年)
日本脳炎について こどもとおとなのワクチンサイト(2023年)
蚊を増やさない工夫は?
- 蚊の繁殖を予防するために、雨水タンクに蓋を被せ、ペット用の水・タイヤに溜まった水・鉢植えの皿の水を外に放置しないこと
- 外出する時は肌の露出を可能な限り避けること
- 屋内の花瓶の水などは最低週1回は替えること
- 屋内に侵入しないように窓や戸の開け閉めを減らし、エアコンや網戸を使うこと
- 虫除けスプレーを適切に使うこと
- 必要な清掃や、網戸の設置が行われているなど、海外渡航をする際は設備が整っているホテルを利用すること
などです。
私が年齢的に接種していたのは、マウス脳による製法の日本脳炎ワクチンなんだなと思いました。やはりワクチンがある分、重大な疾病でした。
私はこの間お話しした方に、「今度日本脳炎の記事を書くんです」と話したら、「日本脳炎ですね。私も子どもが受ける時にワクチンの回数、多いなと思いました」と言われました。
日本脳炎のワクチンの定期接種は回数が多いので、親御さんにはお子さんに接種する時には、各自治体の定期接種の案内を見逃さないで頂きたいと思います。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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