始業時間より1時間早い出社命令、問題はないの?ー三菱重工長崎造船所の裁判よりー

この記事は約 5 分で読むことができます。

こんにちは、金次郎です。

 ある日突然、上司から「明日から始業時間より1時間早く出社するように」と言われたら、どうしますか?
 本来の始業時間は9時だけど8時に出社した場合、勤務時間前ですから時間外労働として「残業代と言うか、早朝勤務代」みたいなのを請求する事はできるのでしょうか?

始業時間前の仕事は給料でるの?

 先ず、労働基準法の第32条で、労働時間の大原則として「1日8時間勤務、週40時間の労働」と定められており、大多数の企業はこの法律を元に所定労働時間を設定しています。
 ただし、労働組合との労使協定で時間外勤務や休日勤務の取り決めを行い、労働基準監督署に届け出た場合は、法定の労働時間を超えて労働させる事が可能になります。
 この取り決めは、労働基準法36条に規定があるので、通称36(サブロク協定)と呼ばれています。

 始業時間より1時間早く出社するように求められた今回の様な場合、それが従業員による自発的なものでは無く、会社の命令によると判断されると、労働基準法上の労働時間とみなされます。
 労働時間とみなされれば、1日8時間の労働時間を超えた場合は、割増賃金(残業代)を請求する事ができます。
 労働時間に当たるか当たらないかは、その時間が「使用者の指揮命令下におかれた時間」かどうかが焦点になります。

 過去に最高裁判所まで争った「三菱重工長崎造船所事件」について次に書いてみます。 

参考:(ファイナンシャルフィールド)「始業1時間前には出社しろ」と言われたけど、これって違法?「残業代」は請求できる?

三菱重工長崎造船所事件とは?

 三菱重工長崎造船所では、完全週休二日制の実施に伴い、就業規則を変更し、所定労働時間を1日8時間と定め、始業時間と終業時間の勤怠把握を、タイムレコーダー方法から次のように変更しました。

1・始業時間には作業を開始出来る様に、作業服への着替えを完了させる
2・午前の終業は、所定の終業時間に作業を中止する
3・午後の始業は、所定の始業時間に作業を開始できる様に作業場に到着している事
4・終業時間に作業を終了して、終業時間の後に私服に着替える

 勤怠把握は、始業時間までに着替えを済ませて作業場にいるか否か、終業時間に作業場にいるか否かを基準とする事にしました。

 会社からは、造船作業をするに当たって、作業服や保護具等の装着を義務付けられていて、これらの装着は決められた脱衣所で行うものとされ、これを怠ると懲戒処分や就業させない、成績査定にも反映して賃金の減額に繋がる場合があったそうです。

 この様な就業規則の変更によって、所定の勤務時間外に移動や着替え等を行う事を余儀なくされたのが、以下の7項目です。

1・午前の始業時間までに、入場門から更衣室までの移動時間
2・更衣室での着替えから準備体操場までの移動時間
3・始業時間前の資材搬出や水撒きの時間
4・午前の終業時間後に食堂へ移動する時間
5・午後の始業時間前に食堂から作業場まで移動して、脱いでいた作業服や保護具を装着する時間
6・終業時間後に作業場から更衣室に移動して、作業服や保護具を外す時間
7・入浴をして、私服に着替える時間
8・更衣室から退場門までの移動時間

 これらの準備時間や移動時間が、全て労働時間に該当するとして、1日8時間を超える時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めて訴訟を起こしました。

 裁判所での判決は以下の通りです。

 「業務の準備行為等を事業所内で行う事を会社から義務付けられ、これを余儀なくされた時は、その行為を所定労働時間外に行うものとされている場合であっても、その行為は特段の事情のない限り、会社の指揮命令下に置かれたものと評価できる。
 したがって、その行為に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当する。」

と言う事で「着替えの時間や移動時間も、労働時間に含まれる」と言う判決でした。

参考:(キノシタ社会保険労務士事務所)労働時間の原則【三菱重工業長崎造船所事件】

もう一度確認しよう「労働時間と休日」

 では、最後に再度働き方について確認しておきましょう

・法定の労働時間、休憩、休日

 ・使用者は、原則として、1日に8時間1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。
 ・使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上8時間を超える場合は1時間以上の休憩
  時間を与えなければいけません。
 ・使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりま
  せん。

・有給休暇

 ・使用者は、労働者が「 6ヶ月間継続勤務」および「その6ヶ月間の全労働日の8割以上を出勤
  した場合」は、10日(継続または分割)の有給休暇を付与しなければなりません。
 ・6ヶ月の継続勤務以降は、継続勤務1年ごとに1日づつ、継続勤務3年6ヶ月以降は2日づつ増加
  した日数(最高20日)を与えなければなりません

参考:(厚生労働省)労働時間・休日に関する主な制度
 

終わりに 

 私が、新卒で入社した会社は、長時間労働が常態化している会社でした。
 1ヶ月の残業時間が、法定上限の80時間は当たり前で、100時間を越える月も多々有りました。
 ですから、しょっちゅう労働基準監督署から、勤務時間の是正勧告を受けていました。
 なので、月の残業時間が80時間を越えたら「タイムカードを定時に退勤打刻してから、また席に戻って仕事を続ける」なんて事もしていました。
 こんな勤務をしていたら身体を壊すのは当たり前ですよね。

HOME

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です