障害者雇用代行ビジネス~一般企業に採用されたけど、待っていた仕事は畑仕事?~

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こんにちは、金次郎です。

 今年の1月に、企業が一定割合の障害者を雇用しなければならない「法定雇用率」が引き上げられると言うのを記事にしました。

企業の障害者雇用率、過去最大の引き上げが決定


 しかし、現在でもこの法定雇用率が重荷になっている会社が多いのか、障害者を採用しても、その会社の本来業務とは違う畑仕事などをさせている会社がたくさん有るそうです。
 更に、会社に代わって障害者を働かせる場所を提供する「代行ビジネス」と言う業者も有り、大企業をはじめ多くの会社が、この「代行ビジネス」を利用しているそうです。

「代行ビジネス」とは何ぞや?

 現在民間企業での障害者雇用率は、法律で2.3%となっています。
 つまり、従業員が43.5人いる会社は、障害者を1人雇用しなければなりません。
 ですが、障害者を受け入れるための社内設備を整えたりするのは、お金もかかり簡単ではありません
 そこで登場したのが「代行ビジネス」です。

 障害者を雇用した会社では、社内で仕事をさせるのではなく、「代行ビジネス」業者が運営する農園などに派遣して、労働させます。

1・雇用元は就職した会社のままですので、給料はその会社から支払われます。
2・そして、その会社は「代行ビジネス」業者に一定の金額を支払います。
3・支払われたお金が「代行ビジネス」業者の売上になり、施設の管理費や農園等に勤務する健常者従業員の給料などになります。 

ようするに、「代行ビジネス」を利用する会社は

1・法定雇用率が上がって行くと、障害者を新たに雇わなければならない。
2・でも、会社にはそれに合わせて、障害者にしてもらう様な仕事が増えていない。
3・ならば、その新たに採用した障害者を「代行ビジネス」に派遣して、そこで勤務してもらおう。

と言う考えです。

 そして、その「代行ビジネス」業者は、企業から派遣された障害者を、出来そうな仕事に従事させて、企業から委託金と言う形でお金を受け取ります。
 この様な形で、お互いのニーズが合った感じになるのです

「代行ビジネス」の問題点

 現状、障害者を採用した企業が、業務指示を出したり勤怠管理をするのではなく、「代行ビジネス」業者が、業務内容の選定や就労管理をしており、ほとんど「丸投げ」状態です。
 「代行ビジネス」を利用することで、企業側は障害者を自社で働かせなくても法定雇用率を達成できますし、「代行ビジネス」側は働き手が増えます

 更には、採用業務すら「代行ビジネス」業者へ投げてしまっている会社も存在する様です。
 「代行ビジネス」業者にすべてを任せてしまい、自社で雇用した社員がどこで何をしているのか分からない状態の会社も有る事から「法定雇用率を金で達成しているだけ」と言う批判も出ています。

(findgood)急増する障害者雇用代行業者の背景にあるもの
 

もちろん、国はNGを出しています

 「代行ビジネス」と言うのが世に出てきたのは、2010年頃からだそうです。
  日本全国の60近く有る障害者団体でつくる「日本障害者協議会」の藤井克徳代表は、こう言います。
 「『法律は守らないといけないけど、障害者を雇うのは面倒だ』という企業の意識が透けて見える」と言い、「柔らかな形だけど、本質的には企業による障害者の排除です」と指摘しています。

  この様な障害者団体からの批判を受け、2022年1月に厚生労働省が調査した結果、「代行ビジネス」業者は10数社存在し、管理している農園も全国に85ヶ所ある事が分かりました。
 利用している企業は大企業を含めて約800社ほどあり、働いている障害者も5000人ほど居ました。

  去年12月の国会で、障害者雇用促進法の改正案が成立しました。
 その際に、衆議院および参議院の両院は、付帯決議で「代行ビジネスを利用しないよう、企業の指導を検討すること」と言うのを政府に求めました。
 厚生労働省も、2023年3月までに対応策を打ち出すとの事です。

参考:(47 NEWS)「障害者は喜んで農園で働いている」はずが…国会がNGを出した障害者雇用〝代行〟ビジネス 大手有名企業を含め800社が利用

終わりに 

 この記事を書いている時に、聴力に障害を持っていた小学生が交通事故で無くなり、両親が「子供が就職して働いていたら、もらえていた賃金相当」を賠償額として、事故を起こした人に請求する裁判の判決が言い渡されました。

 判決で裁判官は「聴力障害は労働力に影響がない程度のものであった、とは言えない」と言う事で、「全労働者賃金の85%を基礎収入とするのが相当であると判断する」と言われ、両親は「障害を持っているが故に差別された」と無念の記者会見を開きました。

参考:(ABC ニュース)「裁判所は差別を認めた」両親が無念の思い 聴覚障害の11歳女児の逸失利益は“全労働者の85%” 重機死亡事故めぐる損害賠償訴訟で大阪地裁が判決 

 私は、作業が終わった夕方に、このニュースを両親と見ていて「障害者は健常者に比べて稼げないと言う事か?いや、新卒で入社した会社には、障害者だけど健常者と同じ仕事をして対等な給料をもらっていた社員いたぞ」と思い出しながら考えていました。
 裁判所しかり、一部の一般企業しかり「障害者は、与えられた仕事量をこなせない」と言う考え方が、未だにはびこっている証拠だなと言うのを考えさせられ、記事化しようと思ったニュースが続いた週でした。

参考記事

(朝日新聞)障害者雇用の「代行ビジネス」が波紋 「労働といえるのか」と批判も

(朝日新聞)【そもそも解説】障害者の雇用、企業にはどんな義務があるの?

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6 件のコメント

  • 記事を読ませていただきました。この記事を読んで思うことは、健常者と障害者を差別される場合もあります。一般企業でも同じ仕事ができると希望がもてることがわかりました
    。社会問題の他にも記事を楽しみにしています。

    • コメントありがとうございます。
      記事にも書いている通り、新卒で入社した会社では、障害を持っているからと差別はしなかったです。
      と言うか、パソコンを使っての文章作成のスピードは誰よりも早かったので
      社員の皆さん、その障害を持っている社員に書類作成は頼っていたくらいですから。
      これからも、記事を楽しみにして下さいませ。

  • 本日、水耕栽培を行っている代行会社の現場に訪問したところでこの記事を目にしました。その事業所では、複数の会社から障がいのある社員が派遣されハーブを栽培し、ハーブティーやハーブソルトなどに加工しています。食品であるため、衛生管理等もしっかり行いスタッフ含めて白衣を着用し、マニュアル化された手順に沿って働いている状況を見学しました。その成果物は商品としてではなく、各企業の社内食堂やノベルティグッズ等で利用されています。また、定期的に社員と面談し心身ともに健康に勤められるよう配慮しているとも説明がありました。本日、同行した方は高次脳機能障害を持ち就労B型事業所で働いていますが、ステップアップしたい気持ちがあり、複数の企業の面接を受けましたが採用されませんでした。それでも諦めずにハローワークから紹介され今回の会社を訪問しました。見学後にすぐに応募したい、というお話をされています。就労B型では月に1万5000円程度の賃金、就職できれば12万円程度にアップされます。働いた経験があり、趣味活動のお金がほしいという希望があるその方は、大きな魅力だと言います。また、中々採用されない理由は、コミュニケーションに難点があり企業の求めるスピードや効率に沿わないからだろうと推察されます。本文に「『法律は守らないといけないけど、障害者を雇うのは面倒だ』という企業の意識が透けて見える」と言い、「柔らかな形だけど、本質的には企業による障害者の排除です」と指摘しています。この意見も理解できるものではあります。しかしながら、実態として企業のニーズにあわず雇用されない方がたくさんいることも確かです。この状況を誰の視点でどう捉えるか、論点の整理が必要だと考えます。また、はたと思うことは「働く」ってなんだろう、ということです。お金を生み出すような経済活動に参加しなければ「働いた」ことにならないのか。社会を支えることや社会参加の仕方にもっと多様性があっても良いのではないか、と。社会の変化が激しい時代にあって法律が変わると新しいモデルが生まれます。単に批判するのではなく、深掘りされた検証が必要であり、当事者の方の意見の本意を反映させることが共生社会の鍵のように感じます。
     

    • コメントありがとうございます。
      当事者からしてみると、曲がりなりにも一般就労ですし給与面などで見てもステップアップではあるのは間違いないです。
      おっしゃるように、誰のための制度なのか、「働く」ことについてなど、当事者の視点で整理するべき点はあると思います。
      経済活動に参加すること以外の社会参加など、もっと多様性があっても良いのではないか、という点に関しても、うなずける点があります。
      私も一般就労を目指しながらA型事業所に勤務する者として、今後もこの話題について追っていきたいですし、記事の中にも書いている様に
      3月中には厚生労働省が見解と回答を出す様ですので、それを待ちたいと思っています。

      • コメントありがとうございました。事業所内でもこの件を話題にしていますので、ぜひ続報も楽しみにしています。

        • コメントありがとうございます。
          A型・B型、それぞれの事業所に勤務している人たちは
          一般就労目指して、ハローワークや街に置いている求人雑誌を見て
          「この仕事なら出来そうだ」と言う事で応募すると思います。
          それが、いざ採用されて見ると全然違う仕事だったとなると就労意欲も無くなってしまうでしょう。
          今回の「代行ビジネス」に関しては、厚生労働省の見解が出たら第二弾として記事を書きたいと思っています。

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