ゲームで「こころのケア」はできるか?

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 こんにちは、nonoです。

 前回のゲーム依存についての記事は読んでいただけたでしょうか。

 今回は、前回の記事で紹介しきれなかった「ゲームのちょっといい話」を紹介したいと思います。

ゲームが与えるのは悪影響ばかりじゃない?

 昨年、「ゲーム障害」が新しい病気として認定されたこともあってか、何かと不安のまなざしを向けられることが多くなったコンピューターゲーム。

 ゲーム障害の認定以前からも、引きこもり、不登校、子どもの体力・視力・学力・倫理観・コミュニケーション能力の低下……といった悪影響があるとして「ゲームは悪いもの」という言説が度々唱えられてきました。

 世論ではしばしば悪者扱いされがちなゲームですが、実はゲームが人に「良い影響」を与えるというお話もあるのです。

「位置情報型ゲーム」はうつの改善に効果あり

 2016年にリリースされてから、世界中で人気を集めているアプリゲーム「ポケモンGO」。配信当時はポケモンを求めてあちこち歩き回るプレイヤーが続出し、歩きスマホ・ながらスマホの増加が問題視されていましたが、そんなポケモンGOがメンタルヘルスに良い影響を与えてくれることは皆さんご存知でしょうか。

 ポケモンGOはスマホのGPSを使って遊ぶ位置情報型ゲームです。普通のゲームと違って、「ゲームの中の世界」を冒険するのではなく「現実の世界」を歩くことでポケモンと出会ったり、バトルや捕獲・アイテム集めをしたりして楽しむゲームになっています。

 テクノロジーが人間の心身に与える影響について研究している心理学者のジョン・グロホル博士によると、ポケモンGOはメンタルヘルスの改善に大きく貢献してくれるそうです。

 運動は精神状態に良い影響を与える——という事実は20年以上前に明らかにされていますが、外を歩き回って遊ぶポケモンGOはうつなどでモチベーションが低下している人にとって外出と運動を行うための「動機」を作ってくれます。

 さらに、ポケモンGOはプレイヤーが多いためか、同じポケモンGOをプレイしている人と話したりして他人とコミュニケーションを取る機会も増えた、というユーザーの体験談も数多く見られます。

 アメリカの自殺予防団体Take Thisによれば「ゲームは精神の不調を抱える人々をコミュニティに結びつけるのに役立っている」とのこと。ポケモンGOのリリース以前に、ポケモンGOのベースにもなった位置情報型ゲーム「Ingress」がきっかけでうつ病を克服できたユーザーもいるため、ポケモンGOにも同様の効果は十分に期待できそうです。

ゲームと向き合うことで心の整理をつける

 先程紹介したポケモンGOは少し特殊なタイプのゲームですが、一般的なコンピューターゲームに心を救われた例も存在します。

 アメリカのゲームライター、デレク・バックさんは仕事を失ったことがきっかけでうつ病を発症した際に『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』と出会いました。

 当時のデレクさんは人との交流も途絶え、結婚生活も破綻し、自殺願望すら抱くようになって、まさしくどん底の状況にいました。しかし、何気なく手に取った一本のゲームが彼にとって大きな心の支えとなったのです。

 デレクさんは『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』(以降『ゼルダ』と表記)の世界にたちまち夢中になり、起きている時間はほぼずっとゼルダをしているほどにゲームにのめり込みました。一見すると不健康な生活に見えますが、それ以前のデレクさんは「何かをしたいという意欲が消え失せた状態」が数ヶ月間続いていたのです。

 デレクさんにとって、ゼルダの世界は心を落ち着けられる唯一の場所でした。ゲームの主人公であるリンクには子どもの頃に遊んだ友達と再会したかのような気持ちを抱き、リンクと冒険している間だけは息ができるような感覚だったそうです。

 ゲームを進めるうちに、デレクさんは自分にとって大切な居場所であるゼルダの世界を失うことを恐れるようになりました。ですが、ゲームを300時間以上プレイし、ゼルダの世界で遊びつくした時に「この世界で姫を救ったら、今度は自分自身を救いに行かなければ」と現実に立ち向かう覚悟を決めたそうです。

 デレクさんは確かに『ゼルダ』というゲームに救われました。ですが、一方でデレクさんは「ゼルダがうつ病を治癒するわけではありません」とも述べています。

 ゼルダはポケモンGOやIngressのように、外出やコミュニケーションを促してくれるゲームではありません。しかし、人生で最大の苦難の時を迎えていたデレクさんに落ち着ける場所を提供し、長い時間をかけて自分の心と向き合う手助けをしてくれたのです。

 人と会うこともできず、何かに取り組む意欲もなく、ただ自分の中にある不安や恐怖に押しつぶされそうになった時——自分を責めるでもなく急かすでもなく、息苦しさを和らげて「立ち直るまでの時間」を作ってくれる。ゲームは病気を治しはしなくとも、誰かにとって必要な居場所や心の支えには確かになれるのでしょう。

ゲームを「こころの支援」に役立てる

 ゲームがうつ病の克服に役立った例をいくつか紹介しましたが、ここまで記事を読んだ人の中には「本当に効果があるのなら、ゲームを使った治療プログラムがあってもいいんじゃないか?」と疑問を持っている方もいるかもしれませんね。

 実は、ゲームを治療や心のケアに役立てようという取り組みはもう始まっているんです。

ゲームで認知行動療法を学ぶ

 先進国の中で10代の若者の自殺率が飛び抜けて高い国であるニュージーランドでは、抑うつ状態や不安症状を改善させるためのプログラム「SPARX」を開発しました。

 国家プロジェクトで作られたこのゲームは認知行動療法の考え方を取り入れたRPG(ロールプレイングゲーム)で、ゲームを遊ぶことによって感情のコントロールや認知の歪みとの向き合い方を自然と学べるようにデザインされています。

 実際に、SPARXの有効性を確かめるための試験でうつ病などの気分障害を抱えた187人の若者を「SPARXをプレイするグループ」と「通常のカウンセリングを行うグループ」に分けたところ、SPARXをプレイしたグループの治療介入直後及び介入後3ヶ月目のうつの寛解率はなんと43.7%に達していました。

 通常のカウンセリングを実施したグループの寛解率は26.4%であったのに対し、SPARXは約4割のうつが寛解したと考えるとなかなか無視できない数字です。

 SPARXは日本でも「HIKARI Lab」によってリリースされており、スマホアプリで気軽にできる心理ケアとして企業研修や職場復帰のためのリハビリプログラムなどに取り入れられている例もあるそうです。

eスポーツで社会性を育む

 大阪府の通信制高校「ルネサンス大阪高等学校」では2018年からeスポーツコースが開設され、生徒たちは週2回の授業の中でeスポーツに採用されている戦略ゲームや格闘ゲームなどをプレイしています。

 授業の目的は不登校や引きこもりになった生徒が社会復帰できるよう支援することで、他のプレイヤーとのチームワークを考えながらゲームをプレイすることでコミュニケーション能力や協調制が身につけられるそうです。

 また、eスポーツの授業と並行して英語や心理学の授業も実施されており、生徒達はeスポーツの影響で徐々に不登校や引きこもりを克服しつつあるとのことです。

まとめ・ゲームを毒ではなく薬にしよう

 ゲーム障害の一件で「ゲームは怖い・有害なもの」という印象が広まっていますが、ゲームは誰かの心の支えになったりコミュニケーションの助けになったりと、良い役割を果たすこともあります。

 毒薬変じて薬となる、ということわざがあるように、ゲームの有用な部分をうまく人のために役立てる研究や活動がもっと進むといいですね。

 

参考元:HUFFPOST—「ポケモンGO」がうつ病や不安神経症を改善する

    ねとらぼ—うつ病をゲーム「Ingress」で克服

    Buzzfeed News—うつ病だった僕を「ゼルダの伝説」が救ってくれた話

    Cadetto.jp—「生きづらさ」はゲームで軽減できるか

    ITmedia NEWS—eスポーツで不登校を克服 ゲームを通して社会性を養う高校

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