集団浅慮の落とし穴~みんなで考えた方が間違いやすい?

集団浅慮

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 「三人寄れば文殊の知恵」ということわざを知っていますか?

 文殊とは、仏教で知恵をつかさどる仏様である「文殊菩薩(もんじゅぼさつ)」のこと。たとえ特別に優れた人でなくても、三人が集まって相談すれば文殊菩薩のようなすばらしい知恵が生まれる、つまりは一人で物事を考えるよりも何人かで意見を出し合ったほうが良いアイデアが出るという意味のことわざですね。

 でも、一人より数人で考えたほうがいい、というこのことわざとは反対に、集団で物事を考えると一人で考えた時よりも間違った選択をしやすい、とする意見もあるのです。

 今回は、そんな集団での議論・意思決定の危うさを説く「集団浅慮(しゅうだんせんりょ)」という概念を紹介しましょう。

集団浅慮とは何か?

 集団浅慮という概念を最初に発表したのは、アメリカの心理学者アーヴィング・ジャニスです。
 集団浅慮のことを英語では「グループシンク」といい、直訳すると「集団思考」となります。

 ジャニスはベトナム戦争のようなアメリカの歴代大統領の誤った判断・選択がなぜ下されたのかを分析し、その結果「誤った判断は集団浅慮のもとで下された」として、その特徴や防止策を示しました。

集団浅慮の起こる条件

 集団浅慮はどんな集団に対しても起こるものではありません。

 ジャニスは集団浅慮に陥りやすい集団の特徴として、以下のようなものを挙げています。

①集団凝集性が高い集団である

 社会心理学には「集団凝集性」という用語があります。

 これは集団に属する個人を、その集団に留まらせようとする力のことです。

 凝集性が高い集団は、メンバー同士の結束が強くなり、成果が高まる傾向が見られます。
 しかし凝集性の高さはメリットばかりではなく、集団浅慮というデメリットも生んでしまいます。

②組織の構造に欠陥がある

 組織の構造上の問題も、集団浅慮に陥る要因のひとつです。
 きちんとみんなをまとめてくれるリーダーがいなかったり、一部の人が幅をきかせているような状態だと、誤った判断が下されやすいのです。

③外敵が存在するなど、刺激が強い状況にある

外部から強い圧力を受けたり、外敵が存在するような状況に置かれた集団は、時として集団浅慮に陥ってしまいます。

ベトナム戦争など、歴代アメリカ大統領の「誤った選択」の背景には、必ず外敵の存在がありました。

集団浅慮に陥るとどうなるか

①楽観的な思考にとりつかれる

根拠もないのに「自分達は絶対に負けない」「絶対に大丈夫だ」などと楽観的な考えをしてしまいます。
こうなると、最悪の場合を想定した判断ができなくなります。

②自分達が道徳的・倫理的に正しいと信じ込む

自分達の行動や思想は正しい、という思想が広がり、誰もそれを疑わなくなります。
そのため、自分の行動は本当に正しかったのかと省みることをしなくなり、間違った方向へ進んでいても気付けなくなるのです。

③自分達の行動・思想を合理化する

自分達が正しい、という考えが根付いてしまうと、たとえ間違った行動に出ても「これは必要なことだ」と自分達の行いを合理化し始めます。
また、他者から批判や忠告を受けたとしても、見当はずれだとか取るに足らない意見だと見なして聞き入れることをしなくなります。

④他の集団に勝手なイメージを持ち、客観的に評価しなくなる

自分達が正しいという思い込みは、他者への偏見を招きます。

自分達を批判するような意見を言ったり、まるで違う思想を持っている集団に対しては「向こうが間違っている」と思い、自分達よりも優秀な集団を見ても「本当に優れているのはこちらだ」と相手を過小評価するようになると、ますます自分達の抱える問題点に気付けなくなります。

⑤自己検閲が働く

集団の中に「自分達が正しい」という空気が広がると、仲間はずれになりたくないとする気持ちが生まれます。

例えば集団内で「AとBならばAが正しい」という意見が出てみんなが賛成すると、自分はBが正しいと思っていてもそれを主張できなかったり、Aが正しいと同調してしまったりします。これを「自己検閲」と呼びます。

⑥違う意見を持ったメンバーに圧力をかける

 自己検閲で反対意見が主張できないのも十分に危うい状況ですが、それ以上に危険なのが「同調圧力」がかかる状況です。

 たとえ誰かが勇気を出して自分の意見を主張したとしても「それは間違っている」などと頭ごなしに否定し、多数派の意見に同調させようとすれば、少数派の人はグループを抜けるか自分の意見を捨てなければならなくなるでしょう。

 少数派の意見が正しかったとしてもそれを認めようとしなければ、ますます正しい判断はできなくなっていきます。

⑦過半数に過ぎない意見でも全員の総意と思い込むようになる

 集団内の結束や同調を求める空気が強まっていくと、やがて「全会一致の幻想」を抱くようになります。

 これにより、過半数が賛成しているだけの意見であっても、「残りの人が反論しないなら全会一致だろう」という誤った認識をしてしまい、ますます少数派の意見は無視されていきます。

⑧自分達にとって不都合な情報を遮断する

 自分達の正しさを盲目的に信じていると、他人からの忠告や自分達に対する悪い評価など、不都合な情報を無視し始めてしまいます。

 自分達にとって都合のいいものの見かたしかしていなければ、当然間違いや問題点には気付けません。そのせいで、誤った判断を下しやすくなってしまうのです。

集団浅慮を防ぐ方法

 集団浅慮に陥ると、客観的に物事を見られなくなり、根拠のない自信や見せかけの全会一致の安心感から誤った選択をしてしまう可能性が高まります。

 では、この集団浅慮を防ぐためには、一体どうすればいいのでしょうか。

 集団浅慮に対して、ジャニスは9つの防止策を提案しています。

①批判的な意見を言いやすい環境を作る

②リーダーは最初のうちは自分自身の意見や好き嫌いをなるべく口にせず、公平な態度を取る

③自分達の集団とは別に、違うリーダーの元で動く集団を作る

④集団の中に下位集団を作り、複数のリーダーの下で検討した結果を持ち寄ってさらに検討を重ねる

⑤最終決定の前にメンバー同士が案を検討する機会を与え、その内容をフィードバックさせる

⑥外部から専門家を招いて意見を求める

⑦少なくともメンバーの一人に欠点を見つけ指摘する役割を与える
⑧敵対する集団のことを十分に調査して、目標達成のためのシナリオをいくつか用意する

⑨メンバーの合意が得られた場合、最終決定の前に会合を開いてメンバーが抱いている疑問を率直に表明する機会を与える

 一人では難しいことでも、みんなで力を合わせればできることも多いものです。しかし、ただ集団を作るだけでは、必ずしも一人のときより良い結果が得られるとは限りません。

 より良い結果を得るためには、より良い集団作りが大切なのかもしれませんね。

参考元:集団的浅慮(groupthink)をめぐって -社会心理学における研究の動向-
渥美 公秀

日本的集団浅慮の研究・要約版 阿部 孝太郎

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