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本当に殺人事件は増えているの?
テレビで殺人事件を報道するニュースを見てみると、どうしても最近、日本の治安が悪化してきていると感じてしまいます。しかし、2016年の日本における殺人の認知件数は戦後最小の895件でした。
1日に2件は、殺人事件が起きている件数となり、殺人事件は多いではないかと思われるかもしれません。
ですが、厚生労働省の人口動態統計(2016年)によれば、日本人の主な死因別の年間死亡者数は以下の通りです。
・総死亡者数 130748人
・悪性新生物(がん)372986人
・循環器系の疾患 339847人
・呼吸器系の疾患 208603人
・不慮の事故 38306人 うち交通事故 5278人
・自殺 21017人
・他殺 290人
これを見る限り、日本人の多くが病気で亡くなっていて、不慮の事故、自殺、他殺といった病気以外の原因で亡くなる人は限られているのです。なかでも、他殺で亡くなる人は、わずかです。
さて、この数字を見て妙に感じる方もいるのかもしれません。殺人事件の件数が895件以上あるのに、殺されて亡くなる人は300人弱であるからです。
殺人事件の件数は、「犯罪白書」で発表されていますが、「犯罪白書」の凡例には次のような記述があります。
刑法犯の基本罪名には、特に掲げる場合を除いて、次の罪を含む。
[1]未遂 [2]予備 [3]教唆及び幇助 [4]強盗致死傷等の結果的加重犯 [5]業務、目的、身分等による刑法犯上の加重軽減類型(自動車運転過失致死傷・業過を除く) [6]盗犯等の防止及び処分に関する法律による加重類型
つまり、「殺人事件」としてカウントされている事件の中には、殺人未遂事件も含まれているのです。殺人事件の被害者のうち、死者は半分以下で、他は重傷者もしくは軽傷者です。
もちろん、人の命は重いのであり、たとえ一人たりとも殺されてはいけません。ですが、日本では他殺によって亡くなる人の約2000倍の人が病気で亡くなります。また、他殺によって亡くなる人の約70倍の人が自殺によってなくなり、殺人で亡くなる人の18倍の人が交通死亡事故によって亡くなっていますが、たとえば自殺事件が殺人事件の70倍も多く報じられているわけでも、交通死亡事故が殺人事件の18倍も頻繁に多く報じられているわけではありません。
ようするに、メディアは殺人事件が多く起こっているから報道しているわけではありません。たまたま、殺人事件をメディアが報道して、それを私たちが「治安が悪化している」と認識してしまうのです。メディアは、現実をありのままに映し出しているのではないのです。
参考文献一覧
厚生労働省「2016年人口動態調査」
藤川大祐(2011)『学校・家庭でできるメディアリテラシー教育』金子書房.
法務省「2017年犯罪白書」
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