善意だけでは続かない‥静かに崩れていく現場で感じた違和感

夕日の浜辺で砂をこぼす手

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みなさん、働く上でこんな経験はありませんか?

「実際に働いたら、求人内容と違う!」
「ちゃんと、面接で伝えていたのに、話が違うじゃないか!」
「なんで、私は〇〇さんのフォローばかりしないといけないの?!」
「なんで、現場の条件に合わない人を上司は雇ったの?!」

こんにちは、中村鮮魚店です。

今回は、障害者雇用と受け入れる現場の齟齬について、お話しさせてください。
こう聞くと「障害者雇用?関係ないよ」と、感じる方もいらっしゃると思います。
実は、この問題は障害だけでなく、働く上で制約や譲れない条件のある労働者、そして、雇用をする企業とそれを受け入れる現場‥
たくさんの人が今も抱える身近な課題なのです。

なぜ、冒頭のような食い違いが起きてしまうのか‥
過去に私が体験した出来事と一緒に、この問題を考えていきたいと思います。
※記事内の登場人物は、個人の特定を避けるため、一部フェイクを入れています。

少しずつ壊れていく現場

以前、私が障害を周りに伝えず働いていた時、その職場に障害者枠でAさんという方が入社されました。
Aさんは、軽度知的障害と強いこだわりの特性、そして、周りが驚くような特技のある方でした。
みんなの前で特技の暗算を披露するAさん「Aさんは、すごく暗算が得意でした」    

障害のある方とのお仕事は初めてでしたが、最初のうちは、特に問題もなく、毎日が過ぎていきました。
ですが、徐々にAさんのこだわりと業務が噛み合わなくなり、現場が少しずつ乱れていきました‥

その日は、朝から忙しく、Aさんが確保していた台車が必要でした。
Aさんに「10分だけ台車を貸してほしい」と、お願いしました。

ですが、「〇〇さん(上司)が午後から使うので、ダメ!」と、断られてしまいました。
「〇〇さんが台車を使うのは、何時間も先だよ?それでも難しいですか?」と伝えてみましたが、Aさんは納得してくれませんでした。
Aさんの特性の中には、上司に指示されたことや決められたルールを守るという、強いこだわりがありました。
そのため、Aさんの中では、「台車を確保する」ということが最優先になったのだと思います。

結果、他部署から台車を借りることはできましたが、その後もこうしたことが起こり、度々業務の流れが止まってしまうことがありました。

そんな中、みんな言葉を選びながら説明していましたが、状況は変わらず、現場には少しずつ諦めの空気が流れていきました。
それは、心のどこかでAさん個人の問題でないと感じていたからだと思います。
だからこそ、誰も強く言うことができませんでした。

そんな状況は、みんなで仕事をしているというより
「Aさんに仕事をしていただいている」
そんな、どこか歪んだ受け入れ方だったように思います。

Aさん自身も「なんで、私ばっかり怒られるの」と、こぼしていました。
「本当はみんなみたいな、もっとカッコイイ仕事がいい」とこぼすAさんと「もっと、Aさんに合った業務があるのでは?」と、思う猫
私もASDの特性で、強いこだわりが出ることがあるので、Aさんの気持ちは痛いほど、共感できました。
上司に相談をしたこともありましたが、「他に頼める仕事も移動できる部署もない」「まぁ、無理せずほどほどにやってよ」と、雲を掴むような返答しかもらえませんでした。

そんなある日、またもやAさんのこだわりがあり、仕事が進まず作業が滞っていました。
その状況を知らない上司がやってきて「なんで、中鮮さんはこんな忙しい時にそんなことやっているんだ!優先順位が違うでしょ!非常識だ!」と、叱責されました。

その瞬間、これまでの感情が大爆発。
「いいかげんにしてくださいよ!私だって好きで、この作業をしていません!Aさんのこだわりと現場が噛み合ってないって、今まで何度も相談したじゃないですか!そうやって現場のことも、Aさんのこともわかろうとしないから、こんな状況になってるんじゃないですか!」

上司は私が大爆発したことに驚き、目を丸くしながら「‥わ、わかった。わかったから、落ち着いて。Aさんには、ちゃんと言うよ」と、その日のうちにAさんと上司の面談が設けられました。

その後、Aさんのポジションは、拍子抜けするほどあっさり変更されました。
Aさんにとっても、新しい業務が合っていたのでしょう。
どこかいきいきとして見え「なんか、みんな怒らなくなったね!」と、口にするほどでした。
この時、安堵よりも「上司の面談ひとつで、こんなにも変わるなら、どうしてもっと早く対応してくれなかったんだ‥」という一言でした。

Aさんをフォローする側、なによりAさん自身が感じたであろう働きづらさを思うと、この問題に蓋をし続けた上司に対して、腹が立ちました。
なにより、Aさんを活かすポジションだって、ちゃんと探せばあったじゃないかと、悔しい気持ちでいっぱいでした。

この出来事は、まるでチクリと刺さる小さなトゲのように、長い間心に残り続けました。
次章は、そんな「フォローする側だった私」「フォローしてもらう側になった」お話です。

障害者雇用だけじゃない!身近な職場との齟齬

子どもを出産してからの仕事選びは、とても大変でした。
子どもが小さいうちは預かってもらえる時間も短い上に、病気による欠勤や保育園から呼び出しなどあるため、子育てに理解のある職場とのご縁が必要不可欠でした。
子供の急な病気による欠勤、急な呼び出しやお迎え、園や学校の行事
その後、長い就活の末、どうにか自分の条件を理解してもらえる職場とご縁があり、ひと安心しましたが、ここでもすんなり事は運びませんでした‥
働き始めて二か月後、子どもが深夜に熱を出してしまったので、朝一で上司に報告したところ、電話で激怒されました。
「そんな急に休まれたら、困るだろ!」
言われた瞬間、私は混乱しました。
その会社は、求人欄にも‘‘お子さんの急な病気などで、休んでも大丈夫です‘‘と記載があり、面接でも急な休みについて伝えていました。

内心、納得はできませんでしたが、当日欠勤でご迷惑をかけているのは、事実なので謝罪をしました。

翌日、上司に呼び出され「欠勤」について話すことになりました。
そして、話していくうちに上司と私の間で、大きな認識のズレが見えてきました。

上司は、急な休みについて、前日に連絡が必ずあるものと思っていたらしく、当日欠勤を想定していませんでした。
結果、その日の現場は大混乱に‥

また、過去に在籍していた子育て中の方たちは、家族のサポートもあり、保育園からの呼び出しや当日欠勤がほとんどありませんでした。
そのため ‘‘当日欠勤や急な早退があるかもしれない‘‘ という前提自体が、この現場にはなかったのだと思います。

話していて、上司が求める人材と私の条件がかけ離れていたので、その職場は退職しました。

ですが、もし前職のように、上司がこの問題に蓋をし、私もそのまま在籍し続けていたら、きっとAさんと私は同じ立場になっていたと思います。

家庭の事情や本人の希望など、働く人には、様々な背景や条件、事情があります。
そして、そういった働く側の条件と職場の条件が噛み合わない時、この問題はどこの職場でも起こり得ます。

本来あってはいけないのに、どこにでもありふれてしまっている。
これは、そんな身近な問題なのです。
「現場が回りません」と困り顔で、求める条件というパズルのピースを持った人と「話がちがいます」と譲れない条件のピースを持つ人。その間で上司が「ちゃんと採用したはずなのに」とオロオロする姿

本当の問題点と原因とは‥

ここまで読むと『上司の人員配置や判断が悪かっただけじゃない?』と思った方もいるかもしれません。
ですが、本当に、上司一人の判断ミスだけで起きたのでしょうか。
この問題の原因は、人ではなく、その構造にあったのではないかと思います。
私が経験した二つの出来事は、立場こそ真逆でしたが、根本にあったものは同じでした。

それは、雇うことと受け入れることが別物になっていたことです。

その結果、採用を決める側、実際に仕事を回す現場、そして受け入れる会社の仕組みーー
これら三つの歯車のズレが起きてしまいました。

最初のAさんや障害者雇用の場合、障害によって得意なことや苦手なことがあります。
だからこそ、業務内容との相性や周囲のフォロー体制と理解が重要になってきます。
そしてそれは、制約や条件がある労働者の場合も同じことが言えるでしょう。

ですが、実際の現場では、人員不足が続く中で障害者雇用も進められ、環境整備や現場の理解がないまま、
・とりあえず採用しよう
・現場になんとかしてもらおう
・問題が起きてから、対処しよう
そんな流れが起きてしまうことも少なくありません。

当時の私は、フォローする立場として、綺麗ごとや善意だけで収まらない精神的な疲れを感じてしまうことがありました。
そして、自分にも障害があるからこそわかる、Aさんの特性や能力と与えられた業務内容のちぐはぐさ‥
それらを無視し、無理やり進んでいく環境にも違和感を抱いていました。

また、フォローをしてもらう側だった時に感じた、「求人内容や面接の話と違うじゃないか!」という、やりきれない気持ちや迷惑をかけてしまった周りへの申し訳なさ‥

こうしたズレの中で、フォローする側は疲弊し、フォローされる側は肩身が狭くなったり、本来の能力を活かせなくなっていきます。
「もっと、自分の能力に合った所がいいのに‥」と嘆く人と「ご迷惑をかけてスミマセン」と困っている人が乗る板を、もう無理だよおとボロボロの人が支える絵

もちろん、雇用側の「そんな綺麗ごとだけで会社は成り立たないよ」といった本音もあるでしょう。

ですが、土台が整わないままの見切り発車は、現場が回らなくなるだけでなく、仕事の質は落ち、優秀な人が離職していきます。

そういった場合、雇用する人数を増やして対策を取る場合もあるでしょうが、根本的な問題が解決しなければ、経験不足な人員ばかりが増えていきます。
最終的に、離職と入職の悪循環を繰り返し、現場は不安定な状態から抜け出せなくなってしまいます。

そして、どれだけ回し続けたとしても、土台が整わなければ、同じことが繰り返されてしまいます。

それは、波打ち際に作られた砂のお城のようなもの。
崩れそうなお城を必死に固めても、引いては寄せる波でいずれ壊れてしまう。
波打ち際で、崩れそうな砂のお城を「崩れちゃう、だれかー」と慌てる人と「自分に合った所へ行こう」「もう無理‥」と疲弊して、去っていく人たち

これらは、if(もしも)の話ではなく、実際に今も起こっている現実の一つです。

まとめ

障害者雇用だけでなく、様々な背景を持つ労働者は本来、会社にとって必要な存在のはずです。

現場が受け入れられる形を作り、その人が働ける環境を整え、そこではじめて雇用が始まるーー
だからこそ、誰かの善意だけに頼りすぎてはいけない。

もし、そのまま進んでしまうと、誰かの善意が利用され、やがて努力という名の苦しみに変わっていきます。
そして、強要された善意はゆっくりと現場を蝕み、静かに崩れていきます。

それは、フォローする側、される側、両者の本来の能力を活かしきれない‥
誰にとっても、負担の大きな環境を生んでしまいます。

だからこそ、雇うことと受け入れることが同じ目線で同じ方向を向くことができれば、働くことへのハードルは、今より優しく下がっていくはずです。

そして、綺麗ごとだったはずの理想が、現実になっていくのだと思います。

夕日の波うち際で遊ぶ少年 「同じ方向を向けたとき きっと 働くは変わる」

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