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はじめに
TANOSHIKAに月1回来ていただいている、外部講師の宮本孝之さんと、障害者雇用に関するトークセッションを行いました。
宮本さんははゲオの店長を過去に務められ、障害者雇用にも携わる中でこの業界でお仕事をされるようになりました。
現在は合同会社Dweildという障害者雇用に関するコンサルティングやジョブマッチングを行う企業の代表も務められているお方です。
今回、お話を聞いたのは島川、ゆた、どんはれ、Pink、salad、りんごいくら、piasuです。
前半では、主な話題として、このような内容でトークセッションを行いました。
・障害者雇用で採用される人物像
・オープンとクローズのメリット・デメリット
・法定雇用率引き上げの影響
・障害年金について など
上記のような幅広い質問に答えてくださいました。熱いトークを最後までお読みください!
宮本さんの回答は、太字で記載しています。
障害者雇用について
島川:障がい者雇用をする企業は、手帳の種類を問わず、どんな人物を採用したがるのでしょうか?
どういう方が採用に繋がりやすいのかについては、企業によって求める人物像が変わってきます。
企業側が求める条件を大きく分けて3つお伝えをします。
1つ目は『自分で考えて行動ができる方』。
2つ目は『他責(たせき)傾向にならない方』。
3つ目は『自分でふんばる力を持ってる方』。
1つ目の自分で考えて行動ができる方は、「何もかも自分でやってください」という話ではありません。
企業側から共通して出てくる採用したい人物像は、『分からない時に分からないって言ってくれる人』です。
自分でどうにかしようとするという、責任感は大事ですが、『それが本当に正しいかどうか』を、周りに確認できるかどうかの方が大切です。
会社側として、1番上手くいきにくいのは、『自己判断で動く人』です。
仕事に慣れてくれば、当然能動的にアクションを起こしてくれる人は、成果としては出やすいですが、これは土台ができて初めてそこに辿り着きます。
なんでも「自分としては、このやり方がいいからこうしたいんです」って言われちゃうと、教えたのと違うことが起こります。
こうなると、会社側からすると『言ったことを聞いてくれない人』っていう見え方になってしまいます。
でも、働いてる本人からすると「自分で考えてアクションしてるんだから、なんで分かってくれないんだ!」ということが起こるんです。
では、何が大事かっていうと、ちゃんと『すり合わせ』をしないといけないんです。
自分がなぜこういう風に変えたいのか、ということを伝えることが必要なんです。
「どういう方法だと意思疎通が出来るか」を考えていくことが大事になってくるので、そこを整理してほしいなと思います。
今の『自分から動ける』、『アクションを起こせる人』というのは、『自分で責任を持って仕事に取り組める人』という部分は、強みとして見えます。
2つ目に言った他責傾向になりやすい方っていうのは、 自分のせいじゃなくて、人のせいにしやすい、要は『何かのせいにしやすい』ということです。
例えば、仕事を誰かから頼まれた際、言われた通りにやってるのに、上手くいかないことは起こり得るんです。
まずはそれを「自分のやり方が違っていたのかな?」と1回考える必要がありますが、これを「言ったあいつが悪い」という風になりやすいのです。
そのため、自分の思考のパターンや、物事の捉え方を、整理していく必要があります。
どういう時にどういう風に考えるのかな、どういう風に捉えるのかな、という形です。
その為に普段している、指導員や支援者との面談の中で、改めて支援者に「他責傾向ってどういうことですか?」と聞いてみてもいいと思います。
3つ目については、踏ん張る力は持っておいてほしいんです。
ただ、仕事をするのに、不必要に自分が我慢することは、僕は1番やってほしくないです。
このニュアンスの違いを伝えるのは、難しいんですけど、頑張るっていうのは、『自分に無理をさせていること』なんです。
仕事をしていく中で、頑張っては欲しいけど、あれもやれこれもやれって言われて、やらないといけないって言って、自分に負荷をかける、ストレスかけるような頑張りはいらない。
ただ、そういった部分でちゃんと自分が、踏ん張る力を付けておいて欲しいです。
何か困ったことが起こった時に、一旦自分で考えてみようとか、自分でどうにかしてみようとか、どこまでが踏ん張れるかは、人によって当然変わってくるとは思っています。
ただ、この踏ん張る力が弱い場合、どうしてもすぐ無理になってしまうんです。
自分が1番辛くなってしまうからこそ、自分のふんばり方を作ってほしいです。
一言で言うと、『甘え上手な人』の方が就労としては、上手くいきます。
人を頼っちゃいけないと思いがちなんですけど、そんなことはないです。
頼り過ぎは良くないですが、うまく甘えたり、頼ったりっていうのは、就労していく中で、すごく大事な部分だと思いますし、働くだけじゃなくて、 生きていく上でもそうです。
だから、『甘えられる人、頼れる人、困った時に助けを出せる人』を増やしていくことを大事にしてほしいんです。

ゆた:障害者雇用では身体障害者が優遇される、などの意見もありますが、実際にそのようなことはあるのでしょうか?
優遇ということはないのですが、イメージとして身体の方を採用しやすいと考えている企業が多いことは事実です。
分かりやすい例でいくと、身体の方で、上肢・下肢に欠損があったり、視力的に課題がある場合だと、配慮する部分が分かりやすいですね。
例えば工場のレーン作業をする時に、両手を使わないといけない作業がある場合、片腕で欠損や麻痺がある方だと、作業が難しいので、「違う作業がどこだったら適性があるのかな」という形で、組み立てがしやすいんです。
そういう意味では身体の方の方が障害者雇用が上手くいきやすいんです。
要は『サポートするところが見えやすい』というのが、1番大きな理由にはなります。
正直、障害種別よりも、こうした『業務的な適性の部分』が重要です。
知的の方の場合、会社としてどういった配慮を入れるのかは、人によってそれぞれ違うので、手帳種別によって考えるというより、ご本人の困りごとがどこにあるのかというところをしっかりと整理をするというのが、大前提になってきます。
ゆた:身体障害者、精神障害者、知的障害者では障害者枠での採用を目指すうえでどのような違いがありますか?
基本的に大きな違いはないと考えています。
どのように自身を正しく知ってもらうか、就業していく上でどのようなポイントで、サポートがあれば一緒に働くことができるかを一緒に考えていくという視点で何を伝えていくか、ということに変わりはないと考えているからです。
ゆた:個人個人の状況で変わるかも知れませんが、宮本さんの考えだと、障害者雇用枠での就職とクローズでの一般就労では、それぞれどんなメリット・デメリットがありますか?
障害者雇用枠と、一般枠の大きな違いは、『配慮を受けやすいかどうか』です。
合理的配慮の内容は、別に一般のクローズでいったとしても、面接で伝えてもOKです。
『求人票の仕事に対して役割を果たしてくれる人であれば採用しますよ』というのが求人の考え方なので、それが当事者であろうがそうでなかろうが、実は採用の可否に影響しないんですよね。
でも、例えばその困りごとの部分が『この仕事をする上で難しいよね』という意味で、不合格になるケースはあるわけです。
クローズだから、伝えちゃいけない、隠さないといけないっていう話ではないんですよ。
ただ、そこを正しく伝えた上で採用してくれるかどうかっていうところまで持ってかないといけないので、正直ハードルは上がります。
「何がなんでも障害者雇用でいってください」って言うつもりもさらさらなくて、なんならチャレンジできるんだったら、一般で行ってくれた方がいいと思うケースも正直あります。
ただ採用する企業側からすると、例えば10人面接を受ける人がいた中で採用する数名の枠に中に入る確率の問題になってくるわけですね。
「10人のうち8人が、健常者と呼ばれる方で、 2人がクローズだけど、当事者の方でした」、というのは、結構採用している際はあるあるです。
その中で面接官が何を見ているかというと、『採用後に一緒に働けるかどうか』という視点なので、別にそこの配慮事項に関して、全てを出さないといけないって話ではないです。
ただ、気を付けないといけないのが、例えばクローズの場合、面接の時に完全に伝えない場合も多分出てくると思います。要は、障害等について知られたくないケースですね。
そうなると、入社したあとに『虚偽報告』と捉えられる可能性が実はあります。
面接する時に健康状態とかの確認が絶対入ってくるのですが、実際診断されてるものを、偽って報告したという捉えられ方をする可能性があります。
また、企業側に配慮事項をお願いする時に、入社のタイミングで確認したけど、これ言ってなかったよねって捉えられる可能性もあります。

ゆた:私以外にも、クローズか、オープンか、どのように働くか、迷っている方もいらっしゃるかと思います。その方に何か、アドバイスはありますか?
それぞれのメリット、デメリットを正しく理解していくことが必要です。私はオープン、クローズに関してはどちらがいいかは一緒に考えていくポイントだと思っています。
自身でその違いを理解した上でどちらを選ぶのか、ということが大切だと考えています。
今は合理的配慮が義務化されているので、本人の困りごとに対しては、企業側はある程度対応しないといけないことになっているんです。
ただ、現実的に対応できない企業がほとんどなので、経験上やり取りをしても不毛なやり取りしかないことが多いです。
そこを理解してくれない会社だと、そのあとも同じことが起こるので、正直本人にとってはキツイだろうなと感じます。
いわゆる障害者雇用でいくか、一般でいくかで言うと、ハードルが上がるっていうのは事実ありますが、別に一般じゃ駄目だよ、っていうつもりもありません。
ただその場合、自分の働きやすさを自分で作っていくことが、必要になります。
なので、フルオープンで、一般でチャレンジするのもアリだし、それでも欲しいと思ってくれる企業に巡り合える可能性はゼロではないと僕は思っています。
障害者雇用であったとしても、一般であったとしても、「会社と対話ができるかどうか」というのが、1番大事なんですよ。
会社から一方的に「これはこうだから」と言われるのは、絶対しんどいですよね。
なので、「会社と自分の現状のすり合わせができる環境かどうか」というのは、正しく知った上で、就職先を決めてほしいと思っています。
ゆた:インターネットで調べると、平均的な給料の差、または障害の特性の差から精神障害者や知的障害者は就職しても一人での生活は難しいのではないか、という意見がありますが、宮本さんはどう思いますか?
現実的な障害者雇用での給与体系については確かに難しいと感じるケースは少なくないと思います。ただ、本当に自身が生活していく上で必要な収入とはどのくらいの金額になるのか、また年金等も含めて様々な情報を整理した上で、しっかりと必要な金額や応募職種を検討していくことが必要と思います。
ゆた:インターネット上では障害者の法定雇用率引き上げに伴い、「障害者雇用で働くのは簡単だ」、という意見が散見されるようになりました。
宮本さんから見て、雇用率引き上げは障害者の雇用にどのくらい影響があると思いますか?
雇用率の引き上げに伴い確かに就業率(実雇用数)は増えていると思いますが簡単になっているとは思いません。現実的な部分で言えば定着率はやや下降傾向です。
職種の幅が今後広がっていくことになると思うのは事実と思いますが、配慮が期待できる企業が少ないところ(経験値としてサポートの実績が少ない)も対象企業として出てくるので、入社時にしっかりと企業と連携しながら本当に自身にあった就業先かを見極めていくことがより重要となります。
現在の障害者の法定雇用率は2.5パーセントで、来年の7月から2.7パーセントに上がるのですが、このタイミングで何が起こるかというと、企業側は『採用しないといけない状況』になっているので、採用枠はかなり増えます。
ただ、同時に起こるのが、『数合わせの雇用』が生まれてきちゃうんですよ。
要は「何人か入れないといけないから、1人取り敢えず欲しい」みたいな形です。
その場合、会社の中での業務の切り出しとか配慮は、行くと大体あまりよろしくないです。
だからそういうところに、行ってほしくないっていうのが正直なとこなんすよ。
入社はできるかもしれないけど、そのあと苦労するところに送り出したくないですよね。
面接のタイミングとか、実習でやり取りしてる時に本当によろしくない企業さんも多いのは事実なのですが、採用条件とか求人条件だけで選ぶと、その部分は見えないんですよ。
働いてからの方が大事なので、皆さんにお伝えしておきたいのは、「うまく支援者・スタッフを使ってください。」ということです。
支援者を頼りながら、「企業の中をどうやったら知れるかな?」「ここは不安要素だな」ということを、少しでも整理してからチャレンジしてほしいと思います。
どんはれ:障害年金をもらいながら働いているのですが、障害年金を減額されないで障がい者枠で働くとき、どれくらい働いていいのかわかりません。障がい者枠での働くときのバランスの取り方をお聞きしたいです。
正直1番難しいところです。
というのが、障害年金の考え方として、更新のタイミングがあります。
更新のタイミングで、本人の収入の状況に応じて判断されることがあります。
また、どうしても制度事業なので、途中で制度が変わることも起こり得るんです。
なので、今もらってる金額が安定的に受給し続けれるかどうかは制度によって変わってくる可能性が高いということは、頭に入れておかないといけないです。
ここに関しては、僕が専門ではないので、100%こうですよ、っていうお答えは難しいんですけど、「障害年金を受けながらどう働いていくかという整理の仕方」はお伝えできます。
まず、『今もらっている年金の更新のタイミングがいつなのか』は、把握しておいてください。そして、就労していく中で、「自分が生活していく中で、最低ラインがいくら必要なのか」ということを、整理をすることが必要になります。
どれくらいの金額が必要なのかは、ご本人やご家庭の状況で当然変わってきますが、自分の中で、月の固定費が、大体1か月どれぐらい必要なのかっていうのを、1回整理しておくと、そのバランスも見えてくると思います。
なのである程度自分の中で、『どのタイミングまでに、一般就労に移行しておくか』とか、『その先の生活をどういう風に作っていくか』という、ある程度の「ライフプラン」を考えておくのが、まず大前提として必要かなと思います。
また、障害年金に限らないですが、定期通院の部分が年金が打ち切られるケースで多いかなと思っています。
月に1回、2か月に1回など決まった形で通院されてる、かつ診断を受けて医療のサポートを受けながらやっているかどうかは、特に精神手帳では厳しく見られるケースが多いです。
いきなり年金が打ち切りになって、一般就労で同じ金額を稼ぐとなると、やっぱりハードルは一気に高くなっていきますので、年金の部分は、誰か詳しい方に聞いてみるといいと思います。
salad:物価が高騰しておりますが、障がい者の賃金も上がったりすると思いますか?
年一回の最低賃金の変更時点では今後も変化していくことは変わらないと思います。
また雇用率の上昇に伴い雇用賃金も変化していくと思いますので、情勢の見極めを今後もしっかりと行う必要があります。

どんはれ:体調が悪くなったとき、企業はどこまで対処してくれるのかが、わかりません。早退ができるのか、休憩をとれるのか、仕事内容によりますけど、急ぎの仕事があって、フォローができない仕事もあるかと思います。それは事前に聞くことはできるのでしょうか?
実習前面談や入社時にしっかりと企業側とすり合わせが必要ですし、聞くことは全く問題はありません。その点のサポートができるかどうかは企業側の課題と考えています。
おすすめは職場実習などの際に現場の様子を見ておくと具体的にわかりやすいと思います。
Pink:ミスマッチの少ない雇用のサポートはとても大切なことで、素晴らしい取り組みだと思いますが、現場の状況を正しく把握するうえで、最も重要とされていることは具体的にどのような点でしょうか?
ミスマッチが1番最初に起こるのは、自分自身と会社の認識のずれです。
ミスマッチが起こるかどうかに関しては、皆さんが自分が働く上で、何を大事にしてるかによって変わってきます。
業務の内容によるミスマッチが起こるのか。
人によるミスマッチが起こるのか。
環境によるミスマッチが起こるのかは、人によって変わってきます。
要は仕事内容は変わらないけど、人が変わることもミスマッチが起こる原因になってきますし、業務内容がそもそもミスマッチの可能性もゼロではないです。
では、ミスマッチを0にはできないけど、できるだけリスクを減らすためには何が大事かというと、『自分に頼れる人がいるかどうか』です。
僕が支援していく中で、『実習をできるだけ体感してほしい』と言うのはそこなんです。
1回見学に行っただけだと、外見がきらきらしている会社ってあるじゃないですか。
でも、中に入るとどろどろ、みたいなことがやっぱりあるんですよね。

(後編につづく)

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