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こんにちは、翼祈(たすき)です。
遠位型ミオパチーとは、遺伝性の筋肉の病気(筋疾患)の国の指定難病の1つです。発症理由は原因不明ですが、筋疾患のほとんどは、近位筋と呼ばれる体幹に近い筋肉から障害が現れます。ですが、この遠位型ミオパチーという疾患は、遠位筋と呼ばれる体幹から遠い筋肉、例を挙げると指先を動かす筋肉や足首を動かす筋肉から障害が現れます。そんな3つの遺伝性の筋疾患をまとめて、遠位型ミオパチーと呼ばれています。
そんな遠位型ミオパチーの話になりますが、2023年8月2日に治療薬を開発し、その有効性や安全性、効果などが確認され、薬事承認への目処が経ったとの、大きなニュースが飛び込んできました。
徐々に筋肉の力がなくなる難病、『遠位型ミオパチーの患者会』は、会の立ち上げから約15年間、研究者や製薬会社など専門家に要請し続けた結果、遂に治療薬が開発され、薬事承認に向けて、申請が行われたと明らかにしました。
『遠位型ミオパチー患者会』の織田友理子代表は、「ここまで辿り着くことができて、やっとこのような会見を開けるまでに進展して、感無量の想いです」と語りました。
今回は遠位型ミオパチーの症状と治療法、治療薬が開発されるまでの道のりについて発信します。
遠位型ミオパチーについて
遠位型ミオパチーは3つとも遺伝性の疾患となります。筋疾患は3つ共に患者さんの数の少ない希少疾患となります。その希少疾病の中でも例外的に遠位筋が主に侵食されるので、かなり珍しい疾患となります。
10個超の違う遠位型ミオパチーが存在することが広く認知されていますが、日本では、「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(GNEミオパチー)」と「三好型ミオパチー」は比較的患者さんが多いと推定されています。患者さんの数は、各々約400人と推測されています。3番目に患者さんの数が多い遠位型ミオパチーは、「眼咽頭遠位型ミオパチー」という原因不明の難病で、50人前後の患者さんの数がいると推測されています。
「縁取り空胞(ふちどりくうほう)を伴う遠位型ミオパチー」と「三好(みよし)型ミオパチー」の患者さんのほとんどは20代~30代で発症します。「眼咽頭遠位型(がんいんとうえんいがた)ミオパチー」は中年期以降に発症することが認知されています。男性女性の双方に発症する可能性もあるといいます。
症状
「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」では、前脛骨筋という足首を上に持ち上げる筋肉が主に1番障害が現れます。そうすると、知らない間に足首が十分に上に持ち上がっていなくて、物が持ちづらい、細かい作業が困難になった、階段を上りにくくなった、といった症状が出現します。
その後、握力が落ちて、足首が持ち上がらないことで小さな段差でつまづくなどが多々起こる間に症状が進行し、数年から数十年経過し歩くことが困難となり、日々の暮らしに補助が必要になります。
それ以外にも走りづらいとか歩きづらいという症状で「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」が見つかるケースがよくあります。また筋肉が徐々に痩せ細っていきます。発症すると平均10数年で車椅子を常に必要にする状態に陥ります(個人差はとても大きいです)。
「三好型ミオパチー」はふくらはぎの筋肉に障害が現れやすく、ふくらはぎが痩せ細っていきます。ふくらはぎの筋肉は足首を下に曲げる筋肉なので、つま先立ちが無理になります。そして少しずつ歩き方に変化が見られたり、走りづらくなったりします。進行していくと近位筋も侵食され、椅子からの立ち上がりが困難になるとか、階段が上りづらいという症状が出現します。発症から10数年で歩行が不可能になると想定されています。
この2つは、両側(まれに片側)の目の「眼瞼下垂」に関連する症状や、食物が飲み込みづらくなる「嚥下困難」が生じます。
また、咽頭筋が弱まることから、言葉がはっきり出なくなることで見つかるケースもあります。
さらに10年以上経って症状が進行すると、眼球運動を司る外眼筋(がいがんきん)、目・口・鼻・耳の開口部に広がる表情筋の機能低下、脚の筋力の低下や舌の萎縮までを生じる様になり、歩行障害に陥るケースも引き起こします。
歩行がしにくくなるケースは、膝下の外側から土踏まずまで続く長い筋肉のことで、歩く時につま先を持ち上げる役割を担っている前頸骨筋(ぜんけいこつきん)に障害が出現しています。
「眼咽頭遠位型ミオパチー」は、「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」と同じ様に前脛骨筋が特に1番障害が現れ、小さな段差などでつまづくなどの症状が出現します。これに加えて、眼瞼下垂、嚥下困難といった症状が出現することが大きな特徴です。
全身に血液を送り出すポンプの機能を担う心筋や、目のレンズともいえる水晶体で遠近調節をする役目を担う毛様体筋(もうようたいきん)と、光の量を調節する虹彩筋(こうさいきん)の2つを総称する内眼筋(ないがんきん)が侵食させることはなく、視力や生命の危険に晒されることはないと言われています。
治療法
どの疾患も現時点では有効な治療法はまだありません。対症療法では、主に拘縮を予防する目的でのリハビリが実施されています。装具を活用することで歩行可能な期間をある一定期間延長可能なことが分かっています。最近では、ロボットスーツを活用する試みも行われています。
「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー」では、シアル酸を補充する治療法の臨床試験が実施されていて、数年の内に治療薬が使える様になる可能性があります。治療薬の使用に向けて、患者さんたち自身が立ち上がり、患者会の啓発活動を積極的に行っています。
「三好型ミオパチー」では、患者さん自身から採取したiPS細胞を用いて、有効な薬剤を探求する研究が実施されていますが、現段階では臨床試験にすぐさま結び付く成果はまだ出ていません。
原因不明の「眼咽頭遠位型ミオパチー」といった、発症理由が分からない疾患に関しては、治療法開発の糸口すら発見できていません。
参考サイト
ここからは、遠位型ミオパチーの治療薬の開発で、薬事承認の目安が付いた話についてお知らせします。
2023年8月2日、有効性のある遠位型ミオパチーの治療薬が開発され、薬事承認している段階だと、患者会が明らかにしました。
遠位型ミオパチーは2015年に国の指定難病となり、詳細な仕組みは不明ですが、シアル酸と呼ばれる物質が足りなくなることが原因だと明らかになっています。
また、治療薬への望みが叶いそうな出来事もありました。国の研究機関である「国立精神・神経医療研究センター」の研究グループが遠位型ミオパチーの症状の進行を抑制するのに有効とされる物質を見つけました。
動物実験をベースにした報告でしたが、現時点では有効な治療法がない「遠位型ミオパチー」の治療薬の開発の糸口になる可能性が出てきました。
織田さんは、自分の足で製薬会社に出向いて治療薬の開発を訴えてきました。遠位型ミオパチーの様に、希少疾患の中でも患者さんが1000人以下の病気の治療薬は【ウルトラオーファンドラッグ】と言われています。
活用する患者が少ないことで、採算が取りにくく、製薬会社が治療薬の開発に足が向かないのが現状です。
仮に効果が見込めそうな物質を発見したとしても、最初は動物実験で効果と安全を確認する臨床試験が必要となります。
その段階を経てヒトでの治験に進めることができますが、ヒトでの効果と安全性、さらに適切な量や投与の方法を確かめるために、一般的に3段階の治験を行わないといけません。
治験には膨大な費用と時間がかかる上に、治療薬の開発が失敗に終わるリスクも常に伴います。
その上、遠位型ミオパチーの患者さんが日本で約400人と非常に少ないことから、治療薬の開発に参入する製薬会社がなく、当事者の織田さん自身が製薬会社や研究者を訪問して説得し、多くの製薬会社に断られ続けましたが、ようやく1つの製薬会社が前向きに織田さんの話を聞いてくれました。
手を挙げた会社で別の病気の新しい治療薬の開発を担当していたノーベルファーマの島崎茂樹副社長執行役員は、粘り強く冷静に説得しようとする織田さんの揺るがない姿が印象に残っていました。
ノーベルファーマの島崎副社長執行役員は、「遠位型ミオパチーの有望な治療薬の候補となる化合物が発見できただけでは、なかなか開発に参入することは難しいです。それでも患者会の熱心な想いは重要で、新しい治療薬を開発をする上で背中を押してくれる患者さん達がいらっしゃることはとても開発への意義が大きいと思います」と説明しました。
日本の製薬会社ノーベルファーマが織田さんの熱意に応え、すぐに国の助成金の獲得に働きかけることを決心しました。4ヵ月後、国から助成金の申請が許可され、治療薬の開発へと進みました。2010年から、国の内外で治験が定期的に実施されてきました。
次の課題は、治療薬開発への治験に協力してくれる患者さんを集めることでした。治療薬を実際に投与して効果や安全性を確認する治験を実施するためには、一定の数の患者さんを集める必要がありますが、症状の進行度や年齢など厳しい条件が幾つかあります。
希少疾患のケースでは、元々少ない患者さんの中から条件に適合する人を集めなければなりません。
先陣を切って治験の開始に向けて活動していた織田さんは症状が進行し過ぎていたため、治験に参加することが叶いませんでした。
そこで織田さんら患者さんは、『遠位型ミオパチーの患者会』のコミュニティーで遠位型ミオパチーの治験の最新情報を共有し、治験への参加を積極的に発信していきました。
また、患者さんが顔を合わせる交流の場を幅広く提供し、その交流の場で専門家らに詳細な解説をして頂くといった治験の狙いや遠位型ミオパチーへの理解を深める支援も行いました。
さらに、治験に参加するハードルを下げるために、治験が実施される病院に遠方から参加する患者さんには、クラウドファンディングなどを用いて、交通費を補助しました。
そして、治験を開始してから丁度12年が経過した2022年11月。専門の学会で治験を総括している東北大学の青木正志教授が、開発中の治療薬の最終段階の治験の成果を公表しました。
治療薬を投与した患者さんとプラセボを投与した患者さんで、遠位型ミオパチーの症状の進行の度合いを比較した結果、治療薬を投与された患者さんでは症状の進行を遅らせられる効果が確認されました。
「有効性や効果がしっかり示されました。再現性や安全性も確認が取れたと考えています」と、やっと有効性と安全性、効果などのデータが獲得できて、2023年7月26日、薬事承認を獲得するための国への申請が行われました。
治験を総括した東北大学の青木教授は、「患者さん達の治験への協力がなかったら、ここまで辿り着きませんでした。治療薬を開発して欲しいという熱意を私たちに発信して頂き、実際の治験では、『遠位型ミオパチー患者会』の参加者自身が呼びかけて治験に参加する患者さんを確保してくれました。また、全員で力を合わせて協力しようというムードを作ってくれましたし、治験の成功に至ったと思っています。ぜひ開発した治療薬を国の承認まで向かわせ、すぐにでも患者さんに治療薬を届けたいと思っています」と説明しています。
『遠位型ミオパチー患者会』の織田代表は、国への薬事承認を受けて、「2022年に開発されていましたが、同じ桜の時期に『今回もできなくなかったな…』って毎年痛感して、悲しくて悔しい想いを抱いてでも、それを受容すること」と説明し、「治療薬が飲める様になれれば嬉しく思います。『遠位型ミオパチー患者会』の取り組みが同じ様な状況下に置かれている希少な疾患のお役に立てるとなによりです」と述べました。
参考記事
難病「遠位型ミオパチー」ついに治療薬 患者自ら研究者を訪ね歩いて15年 日テレNEWS(2023年)
『諦めたら、何も始まりません』 サイカルjournal byNHK(2023年)
2024年2月、
厚生労働省の専門部会は2024年2月29日、国の指定難病「遠位型ミオパチー」の治療薬『アセノベル』の製造販売の承認を了承しました。東京都にある製薬会社ノーベルファーマが開発し、世界初の「遠位型ミオパチー」の治療薬となります。
『アセノベル』は飲み薬で、「遠位型ミオパチー」の筋力低下の進行を抑制する効果に期待が持たれています。
長年『アセノベル』の実用化を訴えてきた【遠位型ミオパチーの患者会】代表の織田さんは、「超希少疾患のため、厚生労働省が審議に入るまでのハードルは厚かったです。次世代に希望を残そうと私たちは活動し、ようやく『アセノベル』が、今に繋がりました」と述べました。
参考:難病「遠位型ミオパチー」 世界初の治療薬の販売承認へ 厚労省 毎日新聞(2024年)
この記事を書く前、
参考記事を読んだ時に、「あれ?この女性、どこかで観た事あるな」と思って、調べていくと、去年AKARIの記事で紹介した[Wheelog!]というアプリを開発した織田さんでした。
この難病の記事を書いていくとほとんど情報がありませんでした。それだけ患者さんも少なく、希少難病だと言えるでしょう。患者さんが少なく実例がほとんどない分、新しい治療薬や治療法の開発、研究は、他の難病よりさらにハードルが上がってしまいます。
それでも開発された治療薬に有効性が認められたことはとても素晴らしいことだと思います。これから薬事承認などもありますが、この薬が飲める日も近いですね。
本当に織田さんの並々ならぬ努力とそのことでの粘り勝ちの賜物だと言える嬉しいニュースだなと思いました。
最近は「軽く書くことは当事者の人にとっては失礼ではないかな。きちんと細部に渡り調べて記事化する方が読者の方にもよくそのことが理解できるし、当事者の方にも私が書いた想いが届くのではないか?」と意識し始め、病気・障害・難病に関しての記事は、しっかり書ける様に特に力を入れています。
今後とも記事の発信を通じて、当事者の皆さんの活動を陰ながら応援していきたいです。
参考サイト
noteでも書いています。よければ読んでください。
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