アメリカでALSの新しい治療薬『トフェルセン』が迅速承認。日本では世界初、遺伝子治験も。 

ALS トフェルセン

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こんにちは、翼祈(たすき)です。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、 身体を動かす神経が徐々に壊れて筋肉が衰える国指定の難病です。50~70歳代の発症が多く、進行すると呼吸や歩行が困難になります。日本には患者がおよそ1万人います。

ALSは、全身の筋肉が少しずつ動かなくなり、発症した後、平均で3年から5年で亡くなるとされています。

現在、国内外でALSの症状の進行を抑える薬が複数承認されていますが、根本的な治療法の確立には至っていません。今まで、神経を保護する薬などがアメリカで3剤、日本では2剤承認されていましたが、遺伝子に機能する薬は存在しませんでした。

2023年4月25日、アメリカでALSの新しい治療薬『トフェルセン』が迅速承認されました。

また、2023年3月には、日本でALS患者さんに遺伝子治験を施していたことが明らかになりました。

少しずつ動き始めたALSの環境。今回はALSを取り巻く最新情報についてお伝えします。

アメリカで迅速承認のALSの新しい治療薬『トフェルセン』ってどんな薬?

アメリカ食品医薬品局(FDA)は2023年4月25日、アメリカの製薬会社「バイオジェン」が開発したALSの新しい治療薬『トフェルセン』を、新たな治療薬として迅速承認したと明らかにしました。

『トフェルセン』は、RNAやDNAという遺伝情報を含む「核酸」と呼ばれる物質を使用した「核酸医薬」の一種となり、「SOD1」と呼ばれる特定の遺伝子変異が素因で、遺伝性のALSを発症した患者さんが治療薬投与の対象となります。

「SOD1」の遺伝子変異が起こると、毒性を持つ異常なたんぱく質が合成され、筋肉を動かす運動神経を破壊し、ALSの症状が少しずつ進行していきます。

『トフェルセン』は、遺伝情報を細胞に届けるmRNAを切断することで、異常なたんぱく質が合成されるのを予防し、ALSの症状の悪化を抑制することが期待されています。

今までに『トフェルセン』の安全性や有効性の確認を取るために、国際的な最終段階の治験が実行され、「SOD1」の遺伝子変異がある日本やアメリカなどの合わせて108人のALSの患者さんが参加して貰いました。

治験では、『トフェルセン』を投与するグループと偽薬(プラセボ)を投与する2グループに分けて実行され、28週間経過した後の時点での運動機能など、重症度の変化を分析しましたが、総合的に意味のある28週間後の進行抑制効果を示す有効性の目標は達成できず、脊髄炎などの有害事象の報告もあったといいます。

その反面、その後の継続試験も合わせた分析では、『トフェルセン』を投与したグループでは異常なたんぱく質や、血液などに含まれる神経の損傷を示す物質が減少していることが証明されました。

これらの分析データを受け、FDAの外部の専門家で構成された第三者委員会は2023年3月、『トフェルセン』が治療薬としての効果は十分に証明されているとは言い難いとしながらも、「ALSの患者さんにとってリスクよりも利益が上回ることが合理的に予測できる」として、深刻なALSの患者さんに対し、素早く治療薬として『トフェルセン』を提供する「迅速承認」の仕組みで許可し、これから先、有効性を検証する条件を設置しました。

開発した「バイオジェン」によれば、この『トフェルセン』はALSの患者さん全体の約2%、アメリカ全域では約330人が対象となり、ALSの根本的な素因に機能させる薬が承認されるのは、今回が初となりました。

アメリカで迅速承認されたALSの新しい治療薬『トフェルセン』の日本での承認申請の見通しに関して、製薬会社の日本法人「バイオジェン・ジャパン」はコメントで、「日本の医薬品審査当局との協議を継続しています。日本での『トフェルセン』の承認申請等の頃合いについては、現時点ではお伝えする情報はありませんが、日本でも『SOD1』の遺伝子変異を抱えるALSの患者さんに1日でも早く『トフェルセン』をお届けできる様に努力していく所存です」としました。

参考:アメリカで難病ALS=筋萎縮性側索硬化症の治療薬を承認 NHK NEWS WEB(2023年)

新しい治療薬『トフェルセン』がアメリカで迅速承認されたことを受け、脳や神経の難病が専門の東京医科歯科大学の教授の男性は「今まで使われている治療薬の有効性は限定的で、ALSの患者さんが十分な効果を実感する程の効果を持たないため、ALSの素因に直接機能する『トフェルセン』が承認されたという意味で、非常に意義のある成果だと感じました」と述べ、『トフェルセン』の価値を強調しました。

その反面、『トフェルセン』は日本でも治験が行われましたが、日本国内では現在も承認されておらず、現状では承認手続きに時間を大幅に要したり、高額な薬代を自己負担する必要がある観点から、ほとんどのALSの患者にとって日本で『トフェルセン』を使うことは極めて難しいだろうということです。

このことに関して、脳や神経の難病が専門の東京医科歯科大学の教授の男性は「進行が非常に早いALS患者さんは2年程度で亡くなる場合もあることで、日本で『トフェルセン』が承認されるまでのドラッグラグの期間があることで、ALSの治療開始が間に合わないでしょう。そのような患者さんが迅速に『トフェルセン』を治療薬として使える様な社会的な判断に期待をしたいです」と語りいました。

2023年3月、日本で遺伝子を使った治験が行われました!

ALSの症状の進行を抑制しようと、ALSの患者さんに遺伝子薬を投与する治験が自治医科大学附属病院でスタートしました。世界初の遺伝子治療となり、新しいALSの治療法として国への承認を目標に掲げています。

ALSは、遺伝性と遺伝性ではない「孤発性」の大きく2つに分類されます。9割超を占める「孤発性」のALSの患者さんは、脳の運動神経や精髄に存在する「ADAR2」という酵素が減少することが、発症原因の1つと推定されています。

自治医科大学の森田光哉教授らの研究グループはALSの進行を抑制しようと、2023年3月に発症2年以内の50代の男性患者さんに対し、この「ADAR2」を合成する遺伝子薬を投与しました。

研究グループによりますと、遺伝子の輸送係となる無害な「アデノ随伴ウイルス」を使用して、カテーテルを通じて、ALSの患者さんの脊髄に遺伝子薬を送り込みました。神経細胞内で遺伝子を機能させ、減少した「ADAR2」を補完することでALSの進行を抑制します。

遺伝子治療でALSの患者さんへ遺伝子薬の投与が行われるのは日本では初の試みで、これから先、発症から2年以内の遺伝性ではない「孤発性」のALSの患者さん、トータル6人に遺伝子薬を投与する計画で、およそ半年費やし、研究グループでは森田教授が主導する治験として安全性以外にも、遺伝子薬を投与する前と後の症状の進行具合を比較して効果と有効性を分析し、新しいALSの治療法としての確立を目標にしたいと掲げています。

既存する治療薬は、ALSの進行を数ヵ月遅らせる有効性しかありません。その反面、遺伝子薬は有効性がさらに持続し、ALSの進行を抑制する可能性もあり、森田教授は「なかなかALSには有効な治療法がないこともあり、少しでも神経の細胞死を止めることが可能になれば、さらに良い治療法の開発に結び付くのではないでしょうか」と説明しています。

妻がALSの当事者でもある岸川忠彦・日本ALS協会事務局長は、遺伝子治療に対し期待をしていて、「ALSの症状が日々進行する患者は藁にもすがる思いを抱え、良い結果を待ち望んでいます」と訴えます。

脳神経内科が専門の東北大学教授の男性は、「『アデノ随伴ウイルス』を使用した神経疾患の治療は実用化が加速していることで高い期待が持てますが、『ADAR2』を合成させる遺伝子薬の有効性には慎重な検証を重ねることが必要となります」と述べました。

参考:ALS患者に「遺伝子薬」投与、症状の進行止める可能性も…自治医科大が「世界初」治験 読売新聞(2023年)

以前アイス・バケツ・チャレンジの記事を書きました。

去年アイス・バケツ・チャレンジの記事を書きましたが、あの記事もアイス・バケツ・チャレンジによって寄付金が沢山集まり、それで新しい治療薬が開発されたという内容でした。

自分の感想の前に、

「アメリカのALS協会は世界中のALS研究に向け、日本円で約140億円超を研究費に当て、現在は世界12ヵ国で130に上るALS研究の一大プロジェクト、そして開発段階の40の潜在的なALSの新たな治療法への研究費を支援しています。」

とも書きました。今回この記事を書いて、アメリカで開発された新しい治療薬『トフェルセン』と、日本で治験が行われている遺伝子治療は、このアイス・バケツ・チャレンジでの寄付金が支援され、研究費に当てられたのでは?と思いました。

あの記事から1年も経たない間に新しい治療薬の迅速承認、新しい治療法のニュースを嬉しく感じます。ALSに関しても新しい治療の開発がまだまだ見込まれる分野だと思います。

アイス・バケツ・チャレンジで有名人から一般人まで数多くの人が参加したチャリティイベントで、この様な大きな成果が出ることに、あの当時を知っているからこそ、驚きと感動があります。

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左耳感音性難聴と特定不能の発達障害(ASD,ADHD,LD全ての要素あり)、糖尿病、甲状腺機能低下症、不眠症、脂漏性皮膚炎、右手人差し指に汗疱、軽く両膝の軟骨すり減り、軽度に近いすべり症、坐骨神経痛などを患っているライターです。映画やドラマなどのエンタメごと、そこそこに詳しいです。ただ、あくまで“障害”や“生きづらさ”がテーマなど、会社の趣旨に合いそうな作品の内容しか記事として書いていません。私のnoteを観て頂ければ分かると思いますが、ハンドメイドにも興味あり、時々作りに行きます。2022年10月24日から、AKARIの公式Twitterの更新担当をしています。2023年10月10日から、AKARIの公式Instagram(インスタ)も担当。noteを今2023年10月は、集中的に頑張って書いています。昔から文章書く事好きです、宜しくお願い致します。