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こんにちは、翼祈(たすき)です。
2012年にノーベル賞を獲得して以来、様々なところで治療法として確立しつつあるiPS細胞。あれから10年、今現在はどの様なところで活用されているのでしょうか?ここ数年で用いられた、iPS細胞の活用法について、
今回は主に移植を中心にお伝えしていきます。
iPS細胞とは?
人間の皮膚や血液などの体細胞に、ごく少数の因子を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。 この細胞を「人工多能性幹細胞」と呼びます。英語では「induced pluripotent stem cell」と表記しますので頭文字をとって「iPS細胞」と呼ばれています。 名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授です。
iPS細胞と脊髄損傷。
慶応大は2022年1月14日、iPS細胞からつくった神経のもとになる細胞を、症状が重い脊髄(せきずい)損傷の患者1人に移植したと発表しました。iPS細胞をつかった脊髄損傷の治療は世界で初めて。術後3週目の時点で経過は順調で、リハビリをしながら、術後今後1年かけて安全性や有効性を確認します。運動機能が実際に回復したかなどはまだ判断できないといいます。慶応大研究チームは「大きな1歩だが、実用化には少なくとも3~5年かかる」と説明しています。同日1月14日午前に開いたオンライン記者会見で、教授(生理学)は「やっと一例目の手術ができて、うれしく思います。様々な難関を飛び越え、ここまでやってこられた。今後は(損傷からの経過期間がさらに長い)慢性期の患者を対象とした臨床研究の計画も急ぎたい」と話しました。
脊髄損傷は交通事故やスポーツ中のけがなどによって脊髄が傷つき、重症だと手足のまひなど運動や感覚の障害が残ります。現在はリハビリでわずかに残る機能の回復を目指すくらいしかありません。移植の対象は、スポーツ中のけがや交通事故などで運動や感覚の機能が失われた「完全まひ」という最も重い状態で、脊髄を損傷してから2~4週間の「亜急性期」の18歳以上の患者。別の教授(整形外科)は1月14日の記者会見で「世界初の手術であり、iPS細胞移植の有効性が認められる可能性もありますが、安全性の確認を第一としたい」と話しました。
執刀した別の教授らによると、全身麻酔をかけた患者をうつぶせにし、背中側から脊髄を覆う膜を切開して、神経細胞のもととなる細胞約200万個が入った液体20マイクロリットルを損傷部位に移植しました。手術は約4時間で終わったといいます。患者は手術の翌日からリハビリを始めました。手術から3週目に磁気共鳴画像装置(MRI)で撮影した検査では、明らかな異常は見つかっていないといいます。
臨床研究では、京都大学iPS細胞研究所が第三者の細胞から作って保管しているiPS細胞を利用しました。iPS細胞から神経のもとになる細胞(神経前駆細胞)を作製して凍結保存しておいて、患者1人当たり200万個の細胞を脊髄の損傷部に注射でiPS細胞を移植しています。患者本人のものではなく他人のiPS細胞を移植するため、拒絶反応を抑える免疫抑制剤を使います。個人特定の恐れがあるとして、患者の性別や年齢、負傷からの具体的な期間、現時点でのまひなどは非公表としています。
まずは最小限の数のiPS細胞を移植し、安全性を中心に検証します。その後、iPS細胞数を増やした場合の有効性や、脊髄の損傷から時間がたった慢性期の患者に対する安全性や有効性を調べるための臨床試験(治験)などの実施も検討します。
脊髄損傷は、リハビリ以外に有効な治療法は確立しておらず、移植した細胞には、いたんだ神経回路を修復したり、脳からの信号を伝える組織を新たにつくったりする効果があると考えられています。慶応大は今年2022年4月以降に2人目の患者に移植など、4人の患者に移植する予定です。
慶応大の臨床研究の計画は2019年2月に厚生労働省の部会で了承されていましたが、新型コロナウイルスの流行などで、患者の募集が延期となっていました。態勢が整った2021年6月下旬から患者の受け入れを始めていました。
現時点で移植の効果が確認できているかどうかは明らかにせず、「悪い方に向かっているということはない」との説明にとどめました。
脊髄損傷の国内の新規患者は年約5000人おり、全国で回復が難しい慢性期の10万人以上の患者がいるといわれます。障害から半年以上経過し慢性化すると確立した治療法がありません。再生医療が実現すれば、まずは特に亜急性期の患者で有効な治療法となることが期待されます。
iPS細胞を使った再生医療の技術分野では、目の難病「加齢黄斑変性」やパーキンソン病などの神経疾患、重症心不全などの心臓の疾患、頭部や卵巣のがん、再生不良性貧血など臨床応用の対象が広がってきています。交通事故やスポーツ中のけがなどで傷ついた神経細胞を修復することが可能になれば、失った臓器や組織を再生する医療の可能性が広がります。慶応大はこれまでマウスやサルを使った移植実験を行い、手足などの機能が回復することを確かめたといいます。従来はiPS細胞から分化して成熟しきった細胞やそれに近い段階の細胞を移植してきましたが、今回は体内で神経細胞や神経の働きを補助する細胞へと成熟させ、情報伝達組織として機能させるために未成熟な細胞を使いました。未熟過ぎると腫瘍化の恐れがあり、安全性の確認が重要となります。
参考:慶応大学、脊髄損傷にiPS初移植 治療法に高まる期待 日本経済新聞(2022年)
まだはっきりとした移植の成果の発表があっていませんが、精髄損傷で悩まれている方の、光となる移植手術の結果であって欲しいです。
患者の声
脊髄損傷の患者や家族でつくる「日本せきずい基金」の理事長で、自身もスポーツの試合で脊髄を損傷して、肩から下をほとんど動かすことができないという男性は「1例目の手術が行われることを、私たちはずっと待っていた。まずは安全性の確認が目標だと思うが、有効性も証明されることを願っている。手が動くようになるとか、自発呼吸ができるようになるというだけで、生活環境が大きく変わるので、早くそういった段階まで進めてほしい。脊髄損傷は、交通事故などで、ある日突然起きるもので家族もパニックになる。それが少しでもよくなれば、希望を持てるようになると思っている。今回は、けがをして間もない人が対象だが、慢性期の患者も対象になるよう研究が進むことを期待している」と話していました。
iPS細胞と腎臓。
熊本大発生医学研究所の教授らの研究グループは2022年2月1日、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)で腎臓を作ることに世界で初めて成功したと発表した。腎臓は再生しない臓器で、教授らは「移植可能な腎臓を作るという次世代の再生医療に向けて前進した」と話している。
同日2月1日付の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ電子版に掲載された。
腎臓を作るには3種類の細胞が必要で、研究グループは既に「ネフロン前駆細胞」と「尿管芽[にょうかんが]」の2種を、マウスES細胞とヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)双方で作る方法を確立している。
残るのは「間質前駆細胞」。今回、講師と宮崎大医学部助教(研究当時は熊本大大学院生)らが、マウスES細胞から作ることに成功した。
発表によると、胎児期のマウス腎臓から間質前駆細胞を作るために必要な因子を特定。その上でES細胞から間質前駆細胞を誘導する方法を確立した。ES細胞由来の3種類の細胞を組み合わせて試験管で培養したところ、腎臓本来の複雑な構造を構築したという。
この手法で作製した1・5ミリ~2ミリの腎臓組織をマウスに移植すると血管が進入して成熟し、ろ過機能や血圧調整に重要な他の細胞が分化することも確認した。
腎臓は構造や機能が複雑で、ES細胞やiPS細胞での作製は難しいとされてきました。腎不全での人工透析患者は国内で33万人に上り、今後ヒトiPS細胞によって間質前駆細胞が作られるようになれば、移植可能な腎臓作成に向けた重要な技術基盤になるとしています。
以前記事に書いたブタの腎臓移植同様に、iPS細胞でも腎臓作ろうとしているんですね。凄い医療の進化ですね。
私だったら、
私がもしiPS細胞を使う場合であれば、糖尿病と膝の痛みの緩和が出来たらいいなと思いました。目も家族に目の悪い人がいるので、それがその目の疾患にも効く様に研究が進んでいけばと思っています。
何にでも変身出来る無限の可能性を持っているiPS細胞。これからも研究や臨床試験が進んで、多くの方を助けられる様に、実用化されて欲しいですね。
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noteでも書いています。よければ読んでください。
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