VR技術でつくる「バリアフリー社会」

バリアフリー社会

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 こんにちは、nonoです。皆さんは、VRに興味はありますか?

 VRとはバーチャル・リアリティ(仮想現実)の略で、簡単に言うと「目の前の現実とは違う世界を体感できる」技術です。VRを使えば家にいながら海外の街中をゆったり散策したり、好きなアーティストのライブで他のファンと一緒に応援をしたり、剣と魔法のファンタジーの世界で戦ったりできるんです。

 VRの最大の特徴は、その世界に入り込んだ気持ちになって楽しめること。ゴーグルやヘッドセットなど専用の機材を使うことによって、一味違った映像体験ができるようになっています。

 たとえば、テレビやスマホのような普通のモニターで街中を歩く映像を見る場合はカメラが映している範囲しか景色を見ることができませんよね。画面の端に映った建物に「もっとよく見てみたいな」と興味を持ったとしても、カメラがそっちを向いてくれないとじっくり見ることはできません。

 しかし、VRでは自分の好きなタイミングで好きなものを見ることができます。歩いている途中に「あの建物、何だろう」と思ったら首をそちらに向けるだけでカメラを動かせますし、コントローラーなどで操作ができるならば歩く速度やルートを変えたり、立ち止まったりして自由に街並みを眺められます。

 モニターを通して別の世界を見るのではなく、その世界に自分自身が足を踏み入れた気持ちになれるのがVRの大きな魅力であるといえるでしょう。

VR技術で、障害のある人を支援する

 仮想現実がフィクションの中のおとぎ話だったのは、もう昔の話。現在ではイベントでVRの展示が盛んに行われ、VRを利用したライブイベントまで開かれています。さらには「Oculus Rift」や「PlayStation VR」のような家庭用VR機材が発売されたことにより、自宅でもVR体験ができるようになりました。

 今や遠い未来の技術ではなく時代の最先端を行くアトラクションとして注目を浴びているVRですが、実はこのVRを障害のある人々のために役立てる活動が始まっているんです。

VRで「日常の中の障害」を体験

 視覚障害、聴覚障害、発達障害といった障害があることは広く知られるようになりましたが、そういった障害を抱えた人々が普段どんな悩みを抱えているか、またどんな配慮を必要としているかについてはまだ理解が進んでいるとは言いがたい状況です。

 そこで、障害への理解を少しでも深めてもらうために「VRによる障害体験」が活用されています。

 たとえば、一般社団法人発達障害支援アドバイザー協会が制作した「自閉症体験VR」では、音や光に対して敏感だったり話し声がうまく聞き取れなかったり、といった自閉症の子供が抱える症状をVRで実際に体験することができます。

 また、昨年神戸で開催されたイベント「アクセシビリティの祭典2018」では「Blind Station」というVR作品が展示されました。これは制限時間内に地下鉄に乗ることを目標にした体験型ゲームですが、周りのものがほとんど見えないため白杖や点字を頼りに切符を買ってホームまで降りる…という、視覚障害を持つ方の気持ちを体験できる作品になっていました。

 狭い範囲は見えるけれど周りの様子はわからないタイプの視覚障害や、少しの光でもまぶしく見えたり、小さな物音がとてもうるさく感じられたりする感覚過敏の症状のような感覚的な問題は口頭で説明してもうまく伝わらないことがあります。しかし、VRで障害を抱えた人の目線を体験してもらえば、障害に対してより理解を深めやすくなることでしょう。

VRを使ったソーシャルスキルトレーニング

 発達障害や知的障害などの要因で社会生活にうまく馴染めない人には「ソーシャルスキルトレーニング」が必要になることがあるのですが、このソーシャルスキルトレーニングにもVRが活用され始めています。

 ソーシャルスキルトレーニングは社会の中で暮らしていくために必要なスキルを身につける訓練で、「挨拶を交わす」「頼みごとをする」といった他人とのコミュニケーションを取る能力のほかに、「毎日の入浴や着替え」「買い物、掃除などの家事」のような日常的な生活スキルを含む場合もあります。

 基本的なソーシャルスキルトレーニングではゲームやロールプレイを通してスキルを身につけていくのですが、この訓練にVRを取り入れたのがVR支援プログラム「emou」です。

 ロールプレイは「先生役」「同級生役」という風にその場にいる人に役割を当てはめてお芝居をするような感覚でコミュニケーションなどの練習をするのですが、「相手の表情の変化」「周囲の状況」といった言葉では表しづらい部分を再現するのは難しく、指導する側にも一定のスキルが求められるという難点がありました。

 一方、VRのトレーニングでは教室、オフィスなど日常の場面を想定して作ったVR映像を見ながら練習をするのでより現実に近い状況でトレーニングを行えるほか、スキルを身につけるために繰り返し練習するのが容易であるという利点も備えています。

 emouには小学生から高校生程度の子供を対象にしたプログラムと、就労前あるいは就労中の大人が対象のプログラムがあり、emouを使ったソーシャルスキルトレーニングはすでにいくつかのクリニックや就労移行支援サービスで導入されているそうです。

VR世界で障害にとらわれず活動する

 「仮想現実」の世界なら、現実では難しいことだってできる—そんな想いを胸に、先日とあるYoutuberがデビューしました。

 新人Vtuber(バーチャルYoutuber)の「さきゅばのえ」として活動するのえろちさんは、幼い頃からトゥレット症候群という難病に苦しんでいます。

 トゥレット症候群は自分の意思とは無関係に体を動かしたり、顔をしかめたりしてしまう「動作チック」と咳払いや叫び声などの音声を発してしまう「音声チック」を伴う病気です。このチック症状のためにのえろちさんはいじめを受けたり、電車内で胸ぐらを掴まれたりするなどつらい経験をしてきました。

 自分だって、ほかの人と仲良くお話したり笑ったりして普通の人と同じ生活を送りたい…そんな風に悩んでいたのえろちさんは、バーチャルの世界に関心を向けました。

 最近、Youtubeではアバターを通して活動する「Vtuber」が流行しており、ここ数年で大勢のVtuberが生まれています。そこで、自分もVtuberになれば障害に阻まれることなく活動ができるのでは、とのえろちさんは考えたのです。

 現実世界においてチック症状を抑えるのは困難ですが、バーチャル世界なら自分の動きに連動してアバターを動かすソフトウェアを首振りなどの動作チックに反応しないよう設定したり、音声チックを音量で検知するプログラムを作成したりすれば、チック症状を抑えることができます。

 のえろちさんは障害を克服してVtuberになるためにクラウドファンディングで支援を募り、2019年10月26日についにYoutubeでデビューを果たしました。

 Vtuber・さきゅばのえさんの目標は「トゥレット症候群についてもっと多くの人に知ってもらうこと」、そして「バーチャル世界で生活できるようになること」。

 車椅子では上がれない段差や読みづらい案内板だけでなく、差別意識や偏見など…バリアフリー社会の実現が叫ばれていても、現実世界にはまだまだたくさんの壁が残っています。しかし、バーチャルの世界ならばアバターやソフトウェアを使うことで障害に苦しめられず、「なりたい自分」の姿で「やってみたいこと」を叶えられるのです。

 バーチャルの世界には、障害をなくせる場所がある—自分の活動を通して、さきゅばのえさんはバーチャル世界で生きるという選択肢があることを多くの人々に伝えようとしています。

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