AIはどこまで賢くなれるのか?シンギュラリティとAIの未来

シンギュラリティ

この記事は約 9 分で読むことができます。

 こんにちは、nonoです。最近、AI(人工知能)に関するニュースをよく耳にしますよね。

 数年前に話題になった、LINEで会話ができる女子高生AI「りんな」に、将棋電王戦でプロの棋士と対局する「コンピュータ棋士」、さらには東大入試合格を目指す「東ロボくん」まで、未来の存在だと思っていたAIはどんどん進化して、私たちにとって身近な存在になりつつあります。

 このまま技術が進歩していけば「AIを搭載したロボットが家にいるのが当たり前」というフィクションさながらの未来世界が実現するのかも…なんて夢を見てしまいますが、将来的にAIはどこまで賢くなれるのでしょうか。

AIが人間を超える「シンギュラリティ」の予言

 いずれ、人間よりも高い知能を持つAIが作られる日が来る―そんな未来予想図を描いたのは、ヴァーナー・ヴィンジというアメリカの数学者でした。ヒューゴー賞を受賞したSF作家でもある彼は、1993年に「The Coming Technological Singularity」という著作で「シンギュラリティ」という言葉を用いてAIの時代の到来を予見したのです。

 さらにその12年後、2005年にアメリカの発明家・実業家であるレイ・カーツワイルが「2029年にはAIが人間と同等以上の知能を備え、2045年にはシンギュラリティが訪れる」という説を唱えました。

 この二人の主張の軸となる「シンギュラリティ」とは、もともと数学用語で「特異点」という意味を持つ単語です。技術の発展によってAIがどんどん賢くなっていくと、AIはいつしか人間の知性を超え、世界に大きな変化が訪れます。

 AIによって革新がもたらされた後の世界は、誰にも予想はできません。人間より賢くなったAIは人間の仕事をすべて引き受けるようになり、働く人間は一人もいなくなるかもしれません。医療や化学の方面でもAIが新たな発見をして暮らしがもっと豊かになる可能性がありますし、もしかすると人口問題や食糧問題なども一気に解決するかもしれません。

 そんな人類にとっての転換期を、ヴァーナー・ヴィンジ達は「シンギュラリティ」、いわば「技術的特異点」と表現したのです。

AIが仕事を奪う?AIの発展に伴う失業問題

 AIが進化すれば、きっと人間の暮らしはもっと便利で豊かになり、とても快適な社会に変わるのでしょう。しかし、AIの進化はそう手放しで喜べることではない、と主張する人々もいます。

 その主張の中で語られるリスクのひとつが失業問題です。もしAIが人間よりも賢くなったら、AIは人間に代わって大量の仕事を請け負うようになり、追いやられた人間は路頭に迷ってしまうのではないか…と、不安に思う人は多いようです。

 近い未来、人間はAIに仕事を奪われてしまうのでしょうか。マサチューセッツ工科大学のエリック・ブリニョルフソン教授は、この問題に対して「AIが多くの仕事を奪う、という事態はそうすぐには起こらない」といった見解を示しています。

 教授によれば、AIによる仕事の自動化はあらゆる場面に適応されるわけではなく、特定の分野を受け持って人間の手間や負担を減らしてくれる、と考えたほうがいいようです。

 たとえば、会社の受付にAIを導入する場合、AIはアポイントメントやスケジュールの確認はできますが、来客や電話の応対を柔軟にこなせるかどうかというと、少し難しい部分があるでしょう。

 なので、確認作業など単純な作業はAIに任せて来客応対のような仕事は人間がこなす、というのが効率的なAIの使い方になります。このように、AIと人間がそれぞれ得意とする仕事は違うので今のところは住み分けができている、というのが教授の意見です。

 また、レイ・カーツワイルによれば、AIが完全に人間の代わりができるほどに賢くなる頃にはベーシックインカム(最低限所得保障)制度が導入されるので、人間は「仕事を奪われる」というよりは「労働から解放される」ことになるそうです。

今のAIはまだまだ「弱い」?

 レイ・カーツワイルによれば2029年にはAIは人間を超える知能を手に入れるそうですが、現時点でAIはどのくらい賢くなっているのでしょうか。

 近年ではAIが囲碁で世界でも有数の実力を持つプロ棋士を打ち負かしたり、センター模試で高得点を挙げたりしています。それだけ賢いのならすぐに人間を追い越すんじゃないか、と思ってしまいますが、実際はそうでもないようです。

 というのも、現状のAIはまだ「強いAI」に近づけていないからです。

「強いAI」の定義

 強いAIとは、簡単に言えば「人間のように自分で物事を考えられるAI」のことです。

 反対に、人間がプログラムした行動はできても、プログラムにない行動はできないAIは弱いAIになります。

 強いAIの例としてわかりやすいのが「ドラえもん」です。ドラえもんはのび太に「何か道具を出して」と言われてひみつ道具を出すのですが、時にはのび太に頼まれても「ろくなことにならない」と考えてひみつ道具を貸さない場合があります。また、のび太がいない間に自分でひみつ道具を出して使っていることもあるのです。

 のび太の性格や過去の経験から「ろくなことにならない」という予測を導き出してひみつ道具を貸さないという判断をするだけでなく、自分の意思でひみつ道具を出して遊んだりするところを見る限り、ドラえもんはかなり優秀なAIを搭載していると言えるでしょう。

今のAIの課題

 囲碁のAIなどの現代のAIとドラえもんのようなAIを分ける要素として「自律性」と「汎用性」があります。

 まず、「自律性」は自分の意思で行動・学習ができるかどうかということです。たとえばチャットで会話ができるAIがあるとして、そこにAIが知らない言葉を投げかけてみます。

 弱いAIの場合、人間に「この言葉にはこう返答する」とプログラミングされている言葉には適切な返答ができますが、知らない言葉の場合はうまく返答できません。新しい言葉とそれに対する返答を学ばせるには、人間がデータを集めてAIに教える必要があります。

 しかし、強いAIの場合は人間に知らない言葉を投げかけられた時、自分でその言葉の意味を調べて学習し、適切な返答をすることができます。誰かに教えられずともひとりでに学んで成長していくからこそ、「強い」AIであると言えるでしょう。

 次に「汎用性」ですが、こちらはさまざまな課題に対応でき、総合的な判断が下せるか、ということを指しています。

 今回はオセロのAIを例にしてみましょう。コンピュータ上でオセロで対戦でき、自分の戦績やほかのプレイヤーの戦法を参考にしてどんどん成長していくAIがあるとします。そのAIはデータを集めれば集めるほど強くなり、人間では太刀打ちできないほどの腕前になりました。

 では、そのAIに対して少しルールの違うオセロの勝負を挑んでみたらどうなるでしょうか。盤面を狭くしたり広げてみたり、どこにでも自由に石を置けたり…おそらくルールを変えれば、AIはそれに対応しきれずに戦績が悪くなってしまうはずです。

 一方、人間の熟練したプレイヤーとルールを変えたオセロで勝負すると、こちらはきちんとルールに適応して戦えるでしょう。ここで人間とAIにどのような違いがあるかというと、それは「想定外の出来事に対し、自分の知識と経験をもとに対応できるか」ということです。

 基本的なルールのオセロならばある程度「最善手」のパターンがありますが、ルールを変えたオセロにそのパターンが通用するとは限りません。通常のオセロに特化させたAIはここでつまづいてしまうわけですが、人間の場合はルールの違いを把握した上で「どうすれば勝てるか」というパターンを導き出すことができます。

 また、現代のAIが何かひとつの分野に特化しているのに対し、人間はどんなことでもある程度こなせる能力があります。お笑いタレント、ミュージシャン、俳優とマルチに活躍している人間はいても、作曲ができるAIに漫才のネタを作らせることはできませんよね。これが「汎用性」です。

 現代のAIのように、特定の分野で人間以上に活躍できても他のことはできないAIは「特化型AI」、汎用性を備えあらゆる出来事に対処できるAIを「汎用型AI」または「AGI」と呼びます。

AIが人間を超える日が来たら…

 レイ・カーツワイルの予測によれば、今から10年後の2029年には人間と同等以上の性能を持ったAIが作られるそうです。

 現在のAIはまだまだ特定の分野でしか活躍できませんが、人間の脳の仕組みを参考にして作られたAIがディープラーニング(深層学習)で優れた認識能力を持つようになり、めざましい進化を遂げています。

 また、レイ・カーツワイルの提唱した「収穫加速の法則」によれば、ひとつ重要な発明がされればそれが他の発明と結びつき、次の重要な発明が現れる期間が短くなるそうなので、このまま技術の発展が進めばあと10年で人間より賢いAIが現れるというのも夢物語ではないのかもしれません。

 将来的に賢くなったAIは自分でAIを開発し生産するので人は何も作らなくてよくなる、として「AIは人類最後の発明になる」と言われることも多いようですが、それならば人間よりも賢いAIが登場した時、人間はAIよりも劣る生き物になってしまうのでしょうか?

 おそらくですが、AIが進化した時、人間もまた新しい「進化」を遂げるでしょう。そのための技術として、「人間拡張工学」という分野の研究が進められています。

 人間拡張工学とは、読んで字のごとく人間の認識・行動能力を「拡張」する技術のこと。腕力を強くする、速く走れるようにする、といった運動能力の増強のみならず、五感や認知能力、表現能力を拡張するための研究も行われているそうです。

 人間拡張工学が発展すれば、私たちは将来水の中で呼吸をしたり、頭の中で思い浮かべていることをそのまま映像にして他人に見せたりすることが可能になるかもしれません。そして、その人間拡張工学の発展を助けてくれるかもしれない存在がAIです。

 将来的にAIと共同研究をしたり、AIを体に組み込んで身体機能を拡張したりすれば、人類は歴史的に大きな一歩を踏み出せることでしょう。AIが私たち人間を脅かすのではなく、支えてくれる良きパートナーになる—100年後には、そんな世界があるのかもしれません。

参考元:Ledge.ai WIRED GIGAZINE NHK解説委員室

心理学や日本文学に精通しているnonoのおすすめ記事

HOME

シンギュラリティ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です