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この度、JICA国際協力賞受賞のために来日された、コスタリカ障がい者自立生活センター「モルフォ」の代表を務めるウェンディ・バランテス氏にインタビューをさせていただく機会をいただきました。
ウェンディさんは車いすでの280km行進に代表される行動力により、コスタリカでの法制定と、ラテンアメリカ14カ国への障がい者の自立生活制度の普及を実現されました。
2016年に制定された「障害者自立推進法」によりコスタリカは成年後見制度を廃止し、個人の自律権や生き方を決める権利を制限する権限を、他の誰にも持たせないことを保障。いまその取り組みはラテンアメリカで広がり、域内の多くの障害者が自立した生活を送る権利を擁護するまでになりました。
その功績が評価され、この度『2025年度JICA国際協力賞』を受賞。
今回はその記念取材として、法整備までの道のりと障がい者の自立への想いを伺いました。
ぜひ最後までご覧ください。
受賞の喜びの声と、JICAでの研修を通じて起きた考え方の変化

ウェンディ氏とJICAの田中明彦理事長
hibiki:まずはこの度の受賞について、喜びの声を聞かせてください。
とても、名誉なことで、大変喜んでおります。
これまでやってきた活動を、受賞という形で、認めてくださったのですが、それは私個人でだけではなくて、障がい者の方々全体の代表として、こうした栄誉に預からせて頂いていると思っています。
また私が代表をしている障がい者自立生活センター「モルフォ」として、またモルフォで働くスタッフの皆で、この賞をいただいたのだと感じております。
私の夫と、大変名誉な賞を頂いたと二人で喜んでおります。
hibiki:ウェンディさんは、どのようなきっかけでJICAの活動を知りましたか?
コスタリカでは、障がい者の市民参加計画を当時の国家障がい者全国審議会という組織が行っていました。そこでJICAが実施したカロイエプロジェクト(コスタリカのブルンカ地方でコミュニティに根差した誰もが取り残されない地域づくりの開発の仕組みを構築)と連携し、障がい者向けの様々な会合が行われておりました。
その専門家の方々の講演会の1つとして、兵庫県の障害者自立生活センターであるメインストリーム協会の廉田さん・井上さんがJICAから派遣された専門家として参加してお話をされました。
そこで、障がい者の自立生活や自立した生活についての理念を説明されました。
当時の私は、「自分は自立している、独立している」と考えていましたが、今から思い返すと、全く自立していなかったと気づきました。
廉田さんのお話を伺い、その後、廉田さんがメインストリーム協会としてJICAと別途契約を結ばれて、日本で研修を実施するという運びになっています。
その研修コースは2008年から実施されました。
日本の専門家の勧めで、その日本での研修に2009年に応募したところ、参加することができました。その研修コースでは障がい者の自立生活について色々学びました。
hibiki:JICAのその研修を受けた際に、日本の障がい者の暮らしや福祉制度に興味を持たれたと聞いていますが、特にどんな点が印象深かったですか?
日本で行われたJICAの研修コースの中に、1人で暮らしていらっしゃる障がい者の家でホームステイをするというプログラムがございました。そこで重度の障がいがあるにも関わらず、介助スタッフの手を借り、1人で家族から離れて、ご自分が好きな生活を送っていらっしゃる様子を直接見ることができました。
その当時の私の状況は、コスタリカでは、母の介助に頼りきりで、私の母は外へ出ることもなかなか出来ませんでした。母は自分の好きなことも諦めて、私の介助に付きっきりという状況だったんです。
また、日本でのホームステイでお邪魔した方・自立した生活を送っていらっしゃる方の中に、酸素吸入器を使っているような本当に重度の障がいの方もおられました。
コスタリカだったらこれほどの重度の人が、1人で生活しているということは、まず考えられないです。生きているだけで精一杯という有様なのが、コスタリカの現状です。
しかし、その方は自分の生活を楽しんでいらっしゃる様子が、接してありありと理解できました。「ぜひ、コスタリカでもこういう状況を作り出していけるようになりたい」という願いになりました。
hibiki:JICAで研修を受ける前と後で、福祉に関する考え方は変化しましたか?
考え方がかなり変わりました。
『障がい者が必要とするものを提供することが福祉だ』と考えるようになりました。
『インクルーシブ(誰もが取り残されない)な社会を実現し、障がいのある方でも自分らしく生活を楽しめるよう支えることが福祉の役割だ』という考えに至りました。
コスタリカ障がい者自立生活センター「モルフォ」の取り組みについて
hibiki:ウェンディさんが帰国後の2011年に立ち上げた「モルフォ」は青い羽根が美しい「モルフォチョウ」から名付けたと聞いています。そこに込められた、『幼虫から蝶になる』という意味が素敵だなと感じました。どんな気持ちでこの言葉やロゴのデザインを選びましたか。
本当のところ、名前を決めるまで6か月から1年ぐらい、凄く時間がかかったのです。
スペイン語では「蝶々」を「マリポッサ」というのですが、「蝶々」 は、スペイン語ではあまりいい意味合いを持たないので、「蝶々」とつけるのは難しいと感じ、今の名前に落ち着きました。
青い蝶々は、私の妹が、私達の自立生活センターのキャンペーンのロゴマークとして考えてくれました。当時はオレンジ色を使っていたのですが、その蝶々のデザイン自体は気に入っていました。
キャッチフレーズである、「自立生活の理念を知って変身していく障がい者」、「幼虫からさなぎになり、やがて蝶々に変身する」ということを表現するため、このデザインにすることを、初代のモルフォの自立生活センターの代表であったルイスが決めました。
残念ながらルイスはその後亡くなってしまったのですが、「人権の大切さを知り、研修を受けてエンパワーメントを受けて、さなぎから蝶に変身していくということ」を表す為に色をオレンジから青に変えて今のロゴに決まりました。
モルフォのロゴ
hibiki:「モルフォ」では、これまでどのような活動をされてこられましたか?
たくさんありますが、まず自立生活センターとして維持していかなくてはいけないので、そのための資金の調達のために、サイクリングやツーリングなど、様々なスポーツイベントを実施しております。
そこで参加費を徴収したり、色んな食料品を売ったりしております。
また、エンパワーメントを推進していくために、自立生活についての様々なセミナーやワークショップを開催したり、講演会をしたりします。
こういった講演会をすることによって、様々な障がい者同士の出会いを作ることにも役立っています。
もっと他の地域にも自立生活センターを作っていきたいのですが、そのためにはリーダーとなる人材が必要です。これまで3回会合をやってきましたが、参加者の中から次のリーダーを見つけることに成功しました。
今後もさらにリーダーとなる人材を見つけるために、そういった活動も、今後継続していくつもりですし、お陰で実際私共のモルフォセンター以外にも、センターカドタとか、アデインビとか、国内の他の地域で自立生活センターが生まれてきております。
それ以外にも、無料で様々なサービスを提供しております。
コスタリカでは、障害を持っている人や、その家族というのは、往々にして非常に貧しい状況にある方が多いので、法的支援を無料で提供しております。
例えば彼らが、障がい者年金をきちんともらえるように、様々な書類を書いて提出しなければなりませんが、その際の支援をしたりしています。
障害がありながら障がい者認定を受けてない人もいますので、そういった人々に無料で様々な行政上の手続きをきちんとできるようなサービスを提供もしております。
他にも、障がい者に向けての自立支援プログラムもお受けしておりまして、知的障害の方々にも自立支援プログラムを提供しております。
知的障がいがある方がコミュニティで、インクルーシブ(誰もが排除されない)な地域づくりを目指し、ボランティアの募集・研修を行っております。
またコスタリカには、障がい者全国評議会もございますので、こうした組織や保健所、市役所と協力して、人権保護、障がい者の自立生活といった、様々なテーマでの介護ワークショップ等も無料で提供しています。
しかしながら、今後は私共もセンターの運営費を稼いでいかなくてはなりません。
例えば障がい者の自立に関する研修サービスを提供するのは有償にしたり、一般市民に対して、障がい者のこと、障がい者の権利のこと、自立生活のことなどについての研修コースを有料で提供する活動もしております。
研修に関しては、非常に大切な障がい者の自立を担保していく「介助者」の存在があり、コスタリカでは介助者の養成は、法律で決められた組織しか研修コースを提供できないことになっています。
私共は、その資格を持っており、認定を受けた組織が提供した養成コースを修了しないことには、介助者として働くことができないということに法律で決まっておりますので、介助者研修は、非常に重要な活動です。
その研修は介助者のみならず、ラテンアメリカ全体のリーダーに対する研修という側面もあり、2020年からラテンアメリカの14か国の障がい者運動のリーダー達でネットワークを作り、先進国に行かなくてもできるラテンアメリカ域内での研修を実施推進しています。
また政治的な活動として、国会や色々な社会福祉組織の職員に対し、ロビー活動を行っております。
現在、コスタリカにおける介助時間の見直しや制度変更の動きについて、利用者の生活への影響を強く懸念しております。財政的な制約があることは理解しつつも、必要な支援が十分に確保されることは社会として守るべき原則です。私たちは、現場の声が政策に反映されることを願い、対話と理解を求める立場からいろいろな対策も検討しています。
国家障害者審議会の意見をまとめる中で、障がい者の声がきちんとすくい上げられていない状況もありますので、今後も我々が自ら声を上げていかなければならないと考えています。
障がい者自立支援推進法について

壇上でスピーチをされているウェンディさん
hibiki:これまでの活動の結果、「障がい者自立推進法(自立法)」が2016年に成立しましたが、これはどのようなことを目指した制度になりますか?
障がい者自立推進法は、「障がい者の自立を推進していくこと」を目指す制度ですが、そのために不可欠なのが『介助者』の存在です。介助者の制度を整備し、定着させていく必要があります。
そして、ローマ時代から「ローマ法」として、障がい者を保護監視する目的で、成年後見制度があったのですが、それがかえって障がい者の自立を妨げていたため、「成年後見制度を廃止すること」も、この法律の目的の1つです。
そして、またそれ以外に他の国内法として、 障がい者が法的な権限をちゃんと持っていることを規定している第十二条や、障がい者が人間として自立する権利があることを規定している十九条もありますので、それらとの整合性も取って、この法律が制定されたことは大変意義があります。
hibiki:2016年の障がい者自立支援推進法の成立後、母国の障がい者に対する意識や暮らしは、どのように変化がありましたか。
大きく変わりました。
障がい者の中には、自分たちの権利、自立生活というものに関する意識が深まり、エンパワーメントされ介助サービスをより良く利用するようになった人が増えています。
介助サービスを使って買い物に行ったり、レクリエーションに出かけたり、外に出かけたりしています。
また、コスタリカはカトリック教徒の国ですので、中には介助を使って、教会でその人自身がボランティア活動を行っている人もいます。
事例として、あるファミリーの母親が障がい者になってしまって、家族全体が彼女の世話をするために、息子や娘としての役割ができず、また彼女自身も、母としての役割ができませんでした。
ですが、介助サービスを使うことによって、それぞれの家族内での役割をきちんと果たせるようになったという事例もあります。
hibiki:ボリビアの自立ネットワーク「レヴィボ」の理事長を務めるフェリザ=アリ=ラモさんとも交流があるようですが、現在のボリビアの状況は、ウェンディさんにはどう見えていますか?
素晴らしいです。ボリビアは、フェリザのみならず、ガリという人物も自立生活センターを立ち上げて非常に活発に活動しています。
本当に大きな課題を抱えているにも関わらず、私共がかつて受けることができた様々なサポートも受けずに、大変なやる気と強い意志を持って活動を続けていて、心から尊敬の念を抱いています。
ボリビアの政府からの支援は、なかなか期待ができず、障がい者担当組織も、いまだに医学モデル、リハビリが主体という状況の中にも関わらず、非常に頑張って努力を続けています。
『志(こころざし)』という言葉を日本の研修で、叩き込まれました。
この志をボリビアの仲間達は強く持っていると思います。
中南米全体の福祉について
hibiki:現在の中南米全体の福祉の状況について、どのように感じていますか?
ラテンアメリカ全体の福祉の状況というのは、非常に悪いです。ラテンアメリカのみならず、世界レベルで悪化の一途を辿っているという風に見ております。
アルゼンチンでも福祉関係の組織が閉鎖されたり、コスタリカ現政権は障がい者全国評議会のような、障がい者の問題を担当する組織に対して、様々な制限をかけております。
こうした組織が実施する障がい者を含む様々な社会プログラム計画が、制限を受けてきております。
介助制度に関してはコスタリカでは公の制度が認定されていますが、高齢者の対応と子供や病気の人の対応との統一化・標準化という美しい理屈のもとに、実際は、障がい者の権利の削減とも思えるような、介助サービスの利用時間数の削減等が行われている状況です。
フェミニズムの運動の推進に関しても、女性の労働負担を減らすという名のもとに、実際は利用サービスの時間を削減するという方向へ進行しつつあります。
5つのR、英語で言うdistribution、スペイン語で言うと、労働の配分とか、権利を認めるとか、国民全体を代表する、そういう言葉がRで始まるので、5つのRという目標があるのですが、それが反対の方向に向かっているというのが現状です。
様々なワークショップの中で、介護サービスの標準化、統一化の中に障がい者の状況が考慮されていないのでは、と排除の方向に向かっているとすれば心配です。
コスタリカのことわざで、「全てを1つの袋の中に入れる」という言い方があるのですが、まさにこの言葉通り、悪い方向に全てのことが1つの袋に取り込まれようとしていると感じております。
障がい者のサービスと言っても介助のサービスのみならず、様々なソフトウェアを使える・提供することや、車いすの提供など、様々なサービスがそこには含まれているはずです。
今やそうした社会福祉全体が、死の絶滅の淵にある、死に瀕しており、非常に危機的な状況にあると考えております。
hibiki:今後の中南米全体の福祉がどう変わっていくことを望んでいますか?
もっと人間性を尊重する方向に向かっていくことを望んでいます。
障がい者のみならず、子供たちも、貧しい人達も高齢者も、全ての人々に対しての人間的な政策、施策というものを協調して強めていってほしい、もっと支援を提供し、推進していってほしいです。
今は「予算がない」ということを口実にしていますが、これまでも予算があって、そうしたサービスを提供してきてもらっていましたので、今もあるはずです。
国・地方レベルで、そうした人間的な政策、社会的な政策というところの優先順位を変えてしまっている、落としてしまっているということが問題です。
色んな困った人達に経済的な支援を提供する、雇用や就職口が見つけられるように支援をする、学校に通えることを支援する、 こうした道を閉ざしてしまっては、貧困問題は解決しませんし、国としても発展を遂げることができないと考えています。
hibiki:これを読んでいる読者の方に、メッセージがあればお願いします。
私が見るところ、日本の障がい者の方々は、既に様々なサービスを利用できています。特にまだ若い世代の障がい者は、生まれた時から様々なサービスを受けることができる環境にあります。ですが、こういう幸せな状況も、ひとたび何かの危機が訪れるとなくなってしまうリスクもあります。
そういう点で、運動を続ける、常に闘い続ける、継続していくという状況を維持する必要はあると思っています。 現に今、世界レベルで人権というものが損なわれつつある傾向が見られています。
そういったことに目を背けて闘いを続けなければ、たとえ今人権を擁護する法律があっても、それがどんな内容なのかをよく知らないことには、それを守るための闘いをしていくことができません。
そして、国連の障がい者権利条約についても、それをきちんと学んで理解し、実施していくための闘いはやはり続けていかなくてはいけません。
夢は決して諦めず、たとえ今日落ち込んでいて色々な悩みがあっても、それはきっと変えることができる。
現に私はコスタリカで、カトリック教徒で、イエスやマリア様を信仰していますが、神頼みではなくて、変えていく為には、自分でできることをまずやる。
意欲や夢を持ち続けること、そして、まだ声を出すことができない、ほかの人々の権利も尊重するということを、大事にしていきたいと思っております。
それをメッセージとして日本の皆様にも、届けたいと思います。

田中会長の(左)ウェンデイさん
お話を伺って
島川:この度はスケジュールの合間を縫っての取材対応、大変ありがとうございました。
なかなか日本に住んでいると、諸外国の福祉のことを知る機会は少なく、また日本の福祉の良さにもなかなか気付かないでいたと思います。
まだまだ家族が介護をすることが多く、当事者の自立と言う部分がおろそかになっていること、日本の介護や福祉の制度が当たり前ではないことを今回のお話で改めて自覚しました。
今後も遠く日本からではありますが、ご活動を応援させていただきたいです。
hibiki:私は日本も福祉後進国だと思っていたので、日本の福祉が進んでいるというウェンディさんの意見に、私は少なからず驚きを覚えました。
中南米の障がい者が直面している状況も、衝撃的でした。
世界を見ると、貧困問題を抱える国は福祉に割くための十分な予算がないという現実もあります。
それでも負けずに政府相手に戦うと決意した、ウェンディさんの姿勢は立派だと思います。
今の日本人はどこか「してもらうのが当たり前」ということが、どこかに根付いてしまっているような気がします。
ウェンディさんのような姿勢が、今の日本人には足りないものかもしれません。
まだまだ、知らないことが多いことを痛感し、いい経験をさせて頂きました。
今回はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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(独立行政法人 国際協力機構JICA)コスタリカにおける「自立生活革命」2025.05.26
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