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近年、人口減少や労働力不足が深刻化するなか、生産性を上げるために、AIの活用が官民問わず進められていますが、AIを活用する「テクノロジー人材の不足」も叫ばれています。
また企業には、障がい者雇用など、※ダイバーシティの推進も同時に求められています。
これらの企業が抱える問題を同時に解決できる、新たな取り組みが始まったことをご存知でしょうか?
この度、生成AIを使ったノーコードのシステム開発を、障がい者を抱える方に担っていただく新たな試みに取り組む、株式会社綜合キャリアトラスト代表取締役の伊藤 努 氏へインタビューをさせていただく機会をいただきました。
これまで株式会社綜合キャリアトラストは、全国で300社以上の障がい者雇用を支援されていらっしゃいました。
その中でも業務内容に生成AIなどの先端テクノロジーを導入する取り組みは、国内でも極めて先進的な試みとなります。
AIアプリ開発エンジニア職への障がい者採用に踏み切った背景や展望、そして企業が向き合うべき「人材の多様性と成長の本質」について伺います。
前後編合わせてぜひ最後までご覧ください。
AIエンジニア職の障がい者採用に踏み切った背景と戦略的意義

島川:この度、AIエンジニア職の障がい者採用を開始された背景について、伺ってもよろしいでしょうか?
弊社には『CVT事業部』という部署があり、様々な障がいをお持ちの方を積極的に雇用し、それぞれの特性に適した作業や、個々の強みを活かせる業務を担当いただいております。
CVT事業部でも重要な技術としてAIを活用していますが、AIだけに特化しているわけではなく、パソコンを使った事務作業や資料の封入作業などの業務も行っています。
そんな弊社も所属している、キャコムグループに「綜合キャリアオプション」という、派遣や人材紹介以外にも、業務委託、BPO事業など、様々な事業を展開している会社があります。
この綜合キャリアオプションで、ノーコードで生成AIを活用したアプリ開発、エンジニアを育成し、人材派遣を行う育成・派遣プログラム『※キャリアファンド』を立ち上げました。
キャリアファンドは、多方面の顧客より大変ご満足をいただいているのですが、キャリアファンドの開発者より、障がい者とエンジニアの相性の良さについての提言があり、それを契機として、今年度(2025年度)から、『CVTキャリアファンドプロジェクト』がスタートすることになりました。
現在はグループ内のDX化を中心に、活動範囲は拡大傾向にありますが、外部クライアントの業務を遂行できるようなチームにすることを将来的に考えています。
島川:どのような戦略的な意義があるかについても、伺ってもよろしいでしょうか?
グループ内だけでDXを推進していくだけでは、働いている方々の達成感・充実感には繋がりません。
より大きなやりがいや達成感、面白みを肌で感じていただくためには、様々な外部のお仕事を受注して経験していただくことが重要です。
最終的には自社の利益に関わるようなサービスにして、自分たちで収益性を担保できるような組織を形成していく必要があります。
将来的には我々が作り上げた、障がい者の方によるDX推進や、デジタル人材として育成するノウハウをパッケージ化して、他の企業さんに障がい者雇用の実現に向けたサポートに入ることも検討しています。
そのため自分たちだけで完結せず、「障がい者雇用 = 法律を守るため」や「義務」ではなく、「戦力として貢献できる」ということを形として提示していきたいと考えています。
地平線:御社で採用を進めているエンジニアは、現在どのようなお仕事をされているのでしょうか?
現在は、グループ内の営業活動を円滑に進める事を目的とした各種サポート業務が主です。
具体的には営業提案資料の作成と標準化、顧客リスト・営業データの集計・管理および、それらに付随する業務マニュアルの策定・整備などです。
また、※プロンプトを改修し、品質の向上や生産性を高めていく工程を、皆さんに取り組んでいただいております。
他にも、社内の教材動画の制作と整備、SNSで投稿する画像・動画の作成に尽力していただいています。
hibiki:現在、どのくらいの方が、AIのエンジニアとして働かれていますか?
2025年11月12日現在、キャリアファンドに携わっている方は、5名です。
エンジニアの中には、女性の方も1名いらっしゃいます。
【CVT池袋(AIアプリ開発エンジニア職での障害のある社員数)】
5名(男性4名:女性1名)
(2025年11月12日現在)
他にも管理者が2名在職しており、キャリアファンドの教育プログラムをCVT向けにかみ砕いて導入し、サポート体制を敷いています。

hibiki:AIエンジニアになる上で、何か資格や技能は必要でしょうか?
特段スキルや知識については必要ありません。
技術職の方だけがこのプログラムに参加できるということではなく、「全く未経験の方でもエンジニアを目指せる」という部分がセールスポイントです。
実際入られた5名の方の中にも、個人的にAIに触ったことがある方もいますが、全くの未経験から始めた方もいますので、私はこの事業は門戸が広いと感じています。
弊社では「kintone」というノーコードのアプリを使用していますが、中には個人で自主的に契約してご自宅でも触るなど、熱意の高い方もいます。
hibiki:今回の取り組みを通じて、AIエンジニアの育成を目指されているのでしょうか?
AIエンジニアの育成も行いますが、弊社はAIエンジニアの育成機関ではございません。
あくまでも働き方の1つとして捉えておりますので、それに専念する考えもありません。
AIを使いこなすことが目的ではなく、我々がAIを使用することで今まで難易度が高く不可能だった業務が可能になるなど、生産性に繋げていく過程が重要です。
生成AI時代における障がい者雇用の新たな可能性

地平線:障がいのある方々が、AIアプリ開発エンジニアとして活躍できる新たな雇用モデルとは、具体的にどのような雇用なのでしょうか?
今回のAIアプリ開発エンジニアは、業務の生産性を上げることや、他の方の業務負担を軽減するなど、本業にプラスアルファの成果を出せる雇用モデルとして構築していくことを目指しています。
また、法人の立場で考えると、人を雇用する本来の目的は会社を成長させることです。
義務的な雇用ではなく、『戦力としての雇用』という部分を我々は重要視しており、本来の目的に沿った雇用が必要だと考えています。
hibiki:障がい者を採用することで、企業にどんな変化があるとお考えでしょうか。
障がい者の方を雇用することで、特に企業は多様な方を受け入れていくことになります。
弊社もさまざまな企業や自治体の方とお仕事をしてきましたが、いわゆる健常者、同じ志向性の人ばかりを雇用していくと、受容度の狭い組織になる傾向があります。
それは、考え方が統一されていて、想いが通じ合い、別に言葉にしたり、仕組みをたくさん作る必要もない組織ですが、そうした組織は、外からの攻撃に弱いなど、一つずれると崩壊していくことが多いです。
障がいをお持ちの方を受け入れる際は、人によってさまざまな特性を持っておられるので、合理的配慮が必要な場合もあり、組織を運営するためにルールを変更をしていくことや、受容度を高く保つことが必要になります。
そうした前提に立って組織を作ると、心理的安全性が高い組織になっていきますが、実は心理的安全性が高い組織は、成果が出やすい傾向にあります。
実際にGoogleが2012年に、「※プロジェクトアリストテレス」という生産性の高いチームの条件を検証する実証実験をしています。
心理的安全性が高いチームと、低いチームで比較したときに、高いチームの方がマネージャーの評価が2倍ほど高かったそうです。
障害をお持ちの方を雇用し、チームに受け入れていくために心理的安全性の高い組織を作っていけば、結果的に生産性の高いチームを作ることができます。
こうした考え方が浸透すれば、生産性の高い企業になっていくことは間違いないです。
雇用現場で直面してきた課題と、突破口になる支援モデル

島川:現在、100名を超える障がい者を雇用されていらっしゃいますが、採用の過程において、どのような課題に直面されてきましたでしょうか?
これまでに、採用や定着について、様々な課題に直面してきました。
弊社には、CVTが東京の池袋と上野、そして長野・富山・福岡と5拠点あり、その店舗ごとの特徴に適合した人材を採用することに難しさを感じています。
信頼できる支援機関の方と密に連携し、弊社の業務内容や職場の雰囲気などを障がいをお持ちの方に伝えていただくなど、大変ご協力をいただいております。
また、障がいをお持ちの方に限った話ではありませんが、面接で自分をよく見せようとするあまり過大申告される方も中にはいらっしゃいますので、見学や面接だけでは、特性や実務の実行力の把握が難しいという問題があります。
定着に関しては、障がいの特性に合わせた配置を進める中でも生じており、体調面が不安定になることや、職場内でのコミュニケーションに関する課題もあります。
また、企業として就職者に「自律して行動すること」を非常に重視し求めていますが、うまくいかないケースがあります。
こういった事例は、我々も初めての挑戦が多く、対応の部分で不備があったり、スムーズにいかないこともありました。
島川:定着に向けて、どんなことに特に力を入れておられますか?
声掛けやコンディションの確認の頻度を増やし、1on1面談も始めました。
加えて5~10分の休憩をこまめに入れることで、早退や欠勤の予防につなげています。
また、支援記録よりもライトに状況を把握する手段として、「業務リポート」を書いていただき、毎日どんな業務を行い、どのように感じたのかなどを記録していただいています。
これらを通じて生じた問題に対応できるように心がけています。
他にも業務内容を細分化して、成功体験をたくさん積んでいただき、自信をつけていただけるようにマネジメントしています。
一度に大きく変更するのは難しいですが、出てきた課題に対する対策を繰り返した結果、CVT開設初期から比較して、大幅に改善されています。
これらの取り組みが、一歩ずつですが、成果として形になりつつあり、CVTの3年間の定着率は8割程度と長期的に勤務いただいています。
【CVTの定着率について】
1年間 93%
3年間 87.3%
(2025年5月21日現在)

後編に続く
用語集
多様性を意味する言葉で、年齢・国籍・障がいの有無・さまざまな違いを持つ人々が共存している状態。
AIとの対話などを日本語で「促す」という意味
2012年にGoogleが開始した「生産性の高いチームの条件」を調査・定義したチームプロジェクト。
チームの相互作用が生産性を高める上で、重要であることを実証し、「心理的安全性」を含む5つの効果的なチームに不可欠であることを結論づけた。
(心理的安全性とは、組織のメンバーが、自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態のこと)
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