社会全体が医療的ケア児を支えるための支援の在り方とは?現場から見た災害への備えの大事さについて【後編】

医療的ケア児コーディネーター増子様に聞く、”支援の在り方”とは?【後編】 そっと支える、もう一つの手を。社会みんなでつくる未来へ。

この記事は約 12 分で読むことができます。

この度、医療的ケア児コーディネーターのお仕事をされている、増子さんにお話を伺いました。

前編では、増子さんが医療的ケア児コーディネーターという仕事の中でされている内容と、始めたきっかけ、介護をするご家族やきょうだい児(きょうだい)となる子の支援や配慮がいかに必要なのか、などをお聞きしました。

前編はこちらから

後編では、社会全体が医療的ケア児を支えるための支援の在り方や、災害に対する備えなどのお話がありました。

インタビュアーは翼祈、ゆた、島川が担当しました。

後編でも貴重なお話が沢山詰まっております。最後までぜひご覧ください!

社会全体が医療的ケア児を支えるための支援の在り方とは

医療従事者の男性と女性

育児・介護休業法』が10月に改正されて施行されました。

大手企業や公務員のご家庭は、育児・介護休暇が取りやすい場合があり、ご両親合わせて有給休暇が年40日取れるケースもありますが、子育て世帯の多くが休暇が取れません。

とくに、エッセンシャルワーカーや運送業、出勤を必須な会社員等は、休みが取れず、テレワークもできないご家庭が多いです。

そのため、障がいのあるご家族がいらっしゃるご家庭には、介護・育児休暇を取得しやすくする、テレワークができるような整備等も企業側でできたらいいなと思っています。キャリアを諦めないといけないことになりますので、介護育児休業法の改正に合わせて各企業に整備して頂き、ママ達だけに子どもたちの育児や介護を押し付けてはいけないと思います。

補足:育児・介護休業法とは?

育児介護休業法とは、育児や介護などで時間的な制約を抱えている社員が、家庭と仕事を無理なく両立できるようにすることを目指して制定された法律です。

引用元:(パーソルテンプスタッフ)「育児介護休業法の4つの制度や改正内容・企業で必要な対応を解説」(2025.08.07)

今様々な改正が行われており、令和7(2025)年10月1日から新たに施行された、「柔軟な働き方を実現するための措置等」では、事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下5つの選択して講ずべき措置の中 から、2つ以上の措置を選択して講ずる必要があります。
労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。

選択して講ずべき措置①	始業時刻等の変更②	テレワーク等(10日以上/月)③	保育施設の設置運営等④	就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇 	(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)⑤	短時間勤務制度	注:②と④は、原則時間単位で取得可とする必要があります

画像引用元(厚生労働省)育児・介護休業法 改正ポイントのご案内(PDF)

また、妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前の個別の意向聴取を行い、子や各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立を目指すことが義務化されました。

①勤務時間帯(始業および終業の時刻)②勤務地(就業の場所)③両立支援制度等の利用期間④仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)

参照元:(厚生労働省)育児・介護休業法 改正ポイントのご案内(PDF)

その他の情報はこちらからご覧いただけます。

参考元:(厚生労働省)育児・介護休業法について

放課後等デイサービスもショートステイも足りていない現実

東京でも放課後等デイサービスやショートステイが不足しています。

放課後等デイサービスはご利用ができても週1~2回という状況です。

ショートステイ(医療型短期入所)も初回利用まで1~2年待機の状況です。

人工呼吸器や気管切開など医療的ケアが濃厚なお子さんの場合は宿泊できる日数も3~5泊となる場合もあります。

ご家族が就労している場合は、放課後デイサービスの利用ができない日は在宅レスパイトサービス(1回2~4時間の留守番看護サービスを、年間96~288時間利用できる仕組み)のご利用をあてたり、夏休みも長い為、有給休暇も不足しているご家庭も少なくありません。医療的ケアが必要な子どもたちも通える放課後等デイサービスを整備していく必要があると感じております。

東京都の一部の多摩地域でも、ローカルルールにより放課後等デイサービスの支給量を月22日までしか支給できない地域がありました。

草の根ですが、市議会議員さんや相談支援事業所ともご相談をして、月23日まで使えるようにして頂けました。特に、障害児を育てるひとり親の家庭ですと通所の日数はライフラインで、通える日数が1日増えた事により、お子さんがお友達と楽しく交流ができたり、ご家族もホッと休むことができるようになりました。

東京でさえ放課後デイサービスやショートステイが不足しており、地方になればなる程厳しいのですが、行政の財政的な後押しなどもして頂きながら増やしていけると良いと思います。

ご家族が身体を壊すことも

お子さんのご家族とお会いするとお母さん、お父さんが24時間ケアに追われており、睡眠時間も4時間程度だったり、断続的に睡眠をとっている状況で、休めていない状況を目の当たりにしています。

本来は看護師さんが24時間3交代で行っている医療的ケアを、ご家族が寝る間を惜しんで行っています。

外来受診の為に、朝3時に起きて、ミルクを4時に入れて、早朝に排痰ケアを行う等、病棟で働く看護師でも大変なケアを日々行っている場合があります。

私も、相談支援専門員時代にご家族と一緒に受診同行をさせて頂いた際には、お子さんをみておくので、カフェ休んできてくださいねとお伝えして休んで頂いた事がありました。結果的には30分程度しか離れられなかったのですが、少しでもご家族には休んで頂けたら嬉しいです。

健康調査でも、介護者の長期にわたる睡眠不足や心身の疲労は、不安症やうつ病、適応障害、高血圧、心疾患等の健康リスクにもつながります。5時間未満の睡眠の場合は、6時間以上は睡眠がとって頂けるように、私たちも一緒に考えています。

災害発生前から備えておくことの大事さ

家族で災害が起こる前の備えについて話し合い

災害のお話は、とても大事なテーマです。

医療的ケア児は、自主努力だけでは命のリスクがあるため、皆さんのサポートが必要です。

東京都の場合は、在宅で人工呼吸器を使用している医療的ケア児者に向けて「災害時個別支援計画」を各自治体の障害福祉課等が作成していますが、計画書の作成だけでなく、みんなで防災について気にかけられると良いと思います。

メーカーによりますが、災害時や破損時に備えて、人工呼吸器を2台配置するケースも出てきております。ただ、蓄電池等を含めてもバッテリー稼働時間はおよそ24時間程度です。

訪問看護さんも入浴支援があったり、保護者さんも毎日のケアや生活もありお忙しいのですが、年に1回は防災についてお話しをしたり、考える時間がとれる事が大事かと思います。

可能であれば、実際に避難訓練として、ベッドから玄関先まで抱っこ紐で移乗してみる。

3日分のお薬や避難物品をバックに詰め込んで、外に避難するまでの練習をしてみる。

お散歩する時に、指定されている福祉避難所(小学校等)まで行ってみるのも効果的です。

おうちから外に出るのに早くて、15~20分かかる子がほとんどです。

医療器具や荷物がとても多いため、「屋内避難」が基本です。

外に避難はあまりしていないのですが、火事になった時に、外に避難しないといけないので、やはりできればどちらにも対応できるようにしたいです。

地震があった時は屋内避難しようとか、物が落ちるから家具に支え棒を置こうとか、枕元にアンビューバックとか置いといた方がいいよとか、本当なら実務的な動きも確認したいですが、それが二の次になってしまうおうちが多いため、ご家族も、関わってる訪問看護さん、訪問診療、ヘルパーさんと一緒に防災認識を持っていきたいです。

誰しもミラー細胞、共感する心を持っている

息子を抱っこする笑顔のお母さん

子どもを抱っこして、「可愛いな」と思う気持ちってあるじゃないですか?

小さなお子さんのお鼻に管がついているのを見て、「なんでお鼻に管がつけているのかな?」 、「もしかして痛いのかな」 「かわいそうだな」って思うかもしれません。そういった純粋な気持ちが大事だと思います 。

相手に「共感」とか「興味」を持って頂けたら、子どもたちや家族、僕たちも嬉しいなと思います 。

誰にでもミラー細胞、共感する心はあります。今回、翼祈さんが興味を持ってくれたのも、きっとこのミラー細胞が動いたからなのかなと思います。

子ども達にもミラー細胞があるので、どんなに重たい障がいのお子さんでも、子ども同士の交流ができる場所で過ごせるようにしてあげたいなって思います。

補足:ミラー細胞とは?

ミラーニューロン(ミラー細胞)とは、他人の行動や感情を「見る」だけで、自分の脳内でも同じような神経活動が起こる神経細胞です。

1990年代にイタリアの研究者たちがサルの脳を調べている中で偶然発見されました。サルがピーナッツを取る動作を観察しているだけで、自分がその動作をしているときと同じ神経が反応したのです。

このような神経細胞が「ミラー細胞」と呼ばれるようになりました。

引用元:(匠本舗)他人の感情が自分に伝わる理由:ミラーニューロンの秘密

最後に

気合を入れている医療チーム

今回、全国に2万人と言われている医療的ケア児と家族支援に興味を持っていただけたことは、わたしも非常に嬉しい思いです。

福祉業界あるあるですが、僕の周りでも、支援者自身もきょうだい児でケアラーであったりとか、生きづらさを感じていたり、様々なルーツで働いています。

翼祈さんが今回着目していただいたのは、私の生い立ちの部分もあるかと思います。

みんなそれぞれのビジョンやパッションで働いているのですが、共通しているのが『我がごと』として捉えているのかなと感じています。

命を守る、成長を支援する、家族支援など、課題も多いのですが、自分だったらどうかという『我がごと』と思って携わっているところが、僕たち福祉業界の熱いところだなと思っています。

インクルーシブな社会になりつつありますが、なかなか障害をお持ちのお子さんとか、ましてや医療的なお子さんと出会う機会はほとんどありません。

やっぱり見たことがなくて、怖い、不安というお声が非常に多いので、引き続き、皆さんとの繋がりを大切にしたいですし、ぜひ一度、子どもたちに会いに来てほしいなと思っています。

まず、知りたいというところが入り口だと思うので、知りたいと思っていただくことが本当に大きな一歩だなと思います。

今、各地域で、「庁内連携のため障害福祉課に医療的ケア児のコーディネーターを配置しましょう」という動きがでてきていたり、Webメディアでも医療的ケアの親子の紹介動画がたくさん配信しています。

ですが、実は結構、相談支援員とかケースワーカーさんでさえ、就任したばかりで会ったことないという話は、結構あります。

実際にはどうなの?ということは、会ったことが無ければ、なかなか想像することも難しいと思います。今日の取材はその入り口だと思いますし、今後の我々の課題でもあります。

私も今回のインタビュー記事で、知って下さる方が1人でも増えると、子ども達の支援者も増えるんじゃないかなと期待しています。

アフタートーク

翼祈

今日は貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

私が今回増子様にインタビューの依頼をしたきっかけは、私自身医療的ケア児の本質的なことを自分自身が知らないなと思ったことでした。

私は医療的ケア児の記事を過去に何度か書いてはきたのですが、身近に医療的ケア児や家族を持っている人がいないため想像ができなかったのですが、

今回のインタビューで知らなかった医療的ケア児に関することや、深い部分まで知れて、今回お声をかけさせていただき、貴重なお時間を過ごせました。

増子様のお話から、医療的ケア児の親御さんの睡眠時間は平均5時間未満なこと、色んな病気を発症するリスクの高さを知りました。

私の個人的な体験談ですが、亡くなった母方の祖父が延命治療のため胃ろうをし、面会に行く祖母の疲れが顕著でした。

増子様の当事者だけでなく、きょうだい含むご家族のケアまでされ、「自分たちが何とかしますから、少しは寝て下さい」という言葉をかけられたら、泣くほど嬉しい言葉だと思います。

医療的ケア児コーディネーターという色んなところに配慮しながら向き合い、難しいお仕事を増子様は日々こなし、自分のことで精一杯な私は凄いとしか言えません。

増子様たちの存在があることで、助かるご家族が多くいることも知りました。

今日の経験を何かの記事を書く時に、活かしたいです。

本当に丁寧かつ真摯に、医療的ケア児の支援の仕方について教えて下さり、ありがとうございました。

ゆた

医療的ケア児コーディネーターの仕事は、単純に子どものケアをする仕事ではなく、様々な機関やサービスと繋がり、ご家族と一緒に子どもの成長に携わるお仕事だと思いました。

増子様の熱意のあるお話がこの記事を通して少しでも伝われば嬉しいですし、今回のこの記事で興味を持っていただけたら幸いです。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

島川

医療的ケア児のご家族の話の中で、ただでさえ子育てへの不安と命の危険がある緊張の中、医療の人間がするようなケアを個人が自分の責任でしないといけない状況にさらされているお話を聞いて、非常に心を痛めました。

そういった事態にならないためにも、行政や皆さんが奮闘しておられることが知れて、非常に重要なお仕事をなさっているのだと感じました。

素敵だなと思ったのは、皆さんが医療的ケア児のお子さんだけでなく、ご家族やきょうだい児のことも意識して気にかけて、家族全体をケアしようとなさっていることです。ついおざなりになってしまうこともまた根深い問題なので、救われている方も多いと思います。

ちょうど今弊社でも、ご家族の方にレスパイトをしていただくためにショートステイを立ち上げようと動いています。

その取り組みがお子さんを支える親御さんのバーンアウトや、キャリアをあきらめなくて済む社会を創ることに繋がるかもしれない。

今回のお話を伺って、そうした希望を持つことができました。

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