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皆さんは、『医療的ケア児』という存在について、ご存知でしょうか?
〇医療的ケア児とは、医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと。
〇全国の医療的ケア児(在宅)は、約2万人〈推計〉である。
先日、そんな医療的ケア児をご家族と一緒にサポートをする『医療的ケア児コーディネーター』のお仕事をされている、増子さんにお話を伺いました。
今回のインタビューを通して、医療的ケア児に関することや、医療的ケア児コーディネーターのお仕事についてや、どんな取り組みをされているかなど、詳しくお話を聞くことができました。
インタビュアーは翼祈、ゆた、島川が担当しました。
最後までぜひご覧ください!
医療的ケア児コーディネーターのお仕事の内容
私は、NPO法人に所属している現場スタッフです。
「居宅訪問型児童発達支援」という事業の児童発達支援管理責任者をしております。
多くの事業所が、児童発達支援事業所の通所型に通っているお子さんが多いのですが、
東京都都市部においては、訪問型を利用される医療的ケア児や重症心身障がい児が、増えています。
訪問型の場合だと、看護職員等がおうちに訪問をして、口と鼻の吸引、ミルクの注入、経管栄養などの医療的ケアも行いながら、子どもの遊びを通じた発達の支援をします。
東京全体でおよそ2000人の医療的ケアが必要なお子さんが暮らしていると言われていて、特別支援学校や、都立療育支援センター、各区市町村児童発達支援センター、民間の児童発達支援事業所に行っていらっしゃいます。
私たちの訪問型事業所では、過去6年間でおよそ200名程度のお子さんを担当し ております。
医療的ケア児コーディネーターを始められたきっかけ
今から13年前。まだ法律『医療的ケア児支援法』がなく、『医療的ケア児』という言葉も出始めた段階だった頃でした。『身体障がい児』とか、『医療的ケアが必要な子ども』と呼んでいた時代です。
当時、相談支援専門員として退院支援をした時に、利用できる制度が訪問看護しかないことを知って驚きました。
医療的ケアのお子さんを出産されて退院されると24時間お母様がケアにあたるのですが、新生児の吸引、経管栄養、浣腸等、看護師さんであっても難しいケアをされていました。
訪問看護さんが週3回1時間、お風呂のお手伝いをしていましたが、それ以外全てお母様ということが当時の現状でして、支援の少なさに驚きを感じたことがきっかけでした。
その後、大変熱心な保健師の方と出会いまして、 保健師訪問の際に「増子さんも一緒についてきてくれませんか?ショートステイの申請や介護ベッドの導入をしたいです。保健師の私が教えますので、一緒に来てください」と言われたのがきっかけでした。
当時は、高齢者分野のケアマネージャーや、身体障害者の相談支援専門員はいらっしゃいましたが、小児期の障がいのある子どものコーディネートは初めてで、私はそれを目指したいなという想いがあって、東京都医療的ケア児コーディネーター養成研修に参加しました。
医療的ケア児コーディネーターの実際
実は、医療的ケア児コーディネーターという国家資格があるわけではなく、養成研修を受けた方が医療的ケア児コーディネーターを名乗ることができます。

増子さん提供資料
実際に、コーディネーターの研修を受けなくても、訪問看護や相談支援専門員、病棟の退院指導看護師。MSW等、医療的ケア児の支援を担うことは可能です。しかし、子どもを支援する関連法令や行政機関、関係機関は多岐に渡ります。

増子さん提供資料
子どもですので、幼稚園や保育園にも通われますし、小学校にも進学されます。
ただ、「ケアのサポート」をお手伝いするだけではなく、「子どもの育ち」について、子どもとお母さん、お父さんの思いを受け止め、子育ての負担、悩みの相談を受けるという、「家族支援」が大切にしています。
医療的ケア児のお子さんご本人だけでなく、「きょうだい」の心理的なサポートも必要です。
訪問する時、「お兄ちゃんやお姉ちゃんは最近はどう?困っていることはない?」というような、声がけも大切です。
医療的ケア児コーディネーターの役割としては、「訪問看護との連携や、入退院の支援」といった「医療と福祉の連携」のイメージがありますが、実際には「子どものライフステージに応じて医療機関、福祉サービス、保育、教育と様々な機関と連携」が必要になります。
子どもたちは可能性に満ちていて、将来、社会に出て、お仕事につながるケースも出てくるのではと感じております。お友達のお手伝いが大好きなお子さん、ダブレットの操作が上手なお子さんもいらっしゃり、今後は就労支援機関との連携も必要と感じております。
居宅訪問型児童発達支援事業所の児童発達支援管理責任者の役割としては、子どもたちの直接支援に加えて「地域連携や移行支援」を大切にしています。
保育園を目指しているお子さんには、地域の保育園の園庭開放に参加の機会を設けたり、相談支援専門員や保育課との連携をしています。地域の小学校を目指したい場合にも、教育支援課との連携や「就学支援シートの作成」等も個別に行っています。
様々な機関と連携をすることで、子どもたちを地域の皆さんと一緒にサポートしていけたらと思っています。
医療的ケア児コーディネーターの組織と役割
医療的ケア児コーディネーターは、東京の場合どういう組織になってるのかというと、
①広域相談は都医療的ケア児支援センターが行っています。
②各市区町村の障害福祉課等に配置されている医療的ケア児コーディネーターは、障害福祉課や保育課、教育支援課等の庁内連携を行っています。
③地域の医療的ケア児コーディネーターは、相談支援事業所や児童発達支援事業所、訪問看護事業所等に配置されており、私は居宅訪問型児童発達支援や保育所等訪問支援において、地域連携を行っております。児童発達支援の事業に、医療的ケア児コーディネーターの配置は任意です。

東京都福祉局様提供資料
こちらが医療的ケア児コーディネーターの組織図になっています。
私たち地域の医療的ケア児コーディネーターが一番下のミクロの支援。
各市区町村の医療的ケア児コーディネーターがメゾ。
都医療的ケア児センターがマクロを担っており重層構造で支援しています。
東京都では、福祉サービスを利用していてもセルフプランといって、相談支援事業所を利用していないご家庭も多く、医療的ケア児支援センターを中心にネットワークができているので、「板橋区でしたらこちらの相談支援員さんがご相談乗ってくれますよ」と繋げる事ができたりします。
支援の中で大切にしていること
相談支援専門員と児童発達支援管理責任者の業務内容がクロスしている部分もあるのですが、社会資源につなげるサポートもしています。
具体的な相談事例では、
「子どもがご飯食べられるようになったのですが、なかなか摂食外来の受診が大変なんです。この子は走り回ってしまって私も仕事があるので、なかなか行けなくて…」。という相談が来た時は「お母さん、それでしたら、訪問歯科のご利用はどうですか。訪問歯科では、歯の治療だけではなく、摂食の訓練やご相談にも乗って頂けますよ」という形で、子どもの発達支援につなげるお手伝いもしています。
また、子どもの成長に応じて安全な入浴環境のご提案をする場面では「お母さん、シャワーチェア試してみませんか?入浴を2人介助にしてみませんか?」「体重30kgになりましたら、ヘルパーさんも利用してみませんか?千代田区でしたら、こちらの事業所に男性のヘルパーさんもいて手伝ってくれますよ」といった支援をしています。
お子さんと家族に会うこと
東京都の場合、大都市で人口も多く支援者が不足している事から、相談支援専門員さんや障害福祉課さんも、電話相談等の一次相談で終わってしまう事が多いです。
相談支援専門員さんも業務が多忙で、半年に1回のモニタリングでしか、ご本人とご家族に会えないため、お子さんと家族に会う事を大切にしています。
お母さんから「地域の小学校に通いたい、どういうところから、進めたらいいか?」とご相談があった時にも必ず、お子さんと家族に会うようにしています。
なるべく専門用語は使わない
医療機関の外来受診や退院会議など、ご家族も医療従事者と接するなかで、専門用語が飛び交う中で関わっていることが非常に多いです。
私たちはできる限り家族が使ってる言葉とか表現を大事にして関わってます。
お母さんにも「レスパイト(休憩)した方がいいよ」と専門用語で声をかけられる場面があり、初めて聞く言葉で戸惑ったと伺った事があります。
ちょうど、今日の午前中、都立病院の受診同行をした際、そのお子さんはお口からではなく、胃の管からお水を飲むのですが、「お母さん、検査の前にお水を30入れてください」と言われていました。
外来の看護師さんも、お子さんの安全の為、医療的ケアをご家族にお願いしていらっしゃるのですが、日頃から「お母さんやってくださいね」の一声で難しい医療的ケアを医療従事者からもお願いされている場面が多いと感じます。
その中で、私たちは、お子さんとご家族が「ホッ」としてもらえるような関係の構築を大切にしています。ご家族が日頃から使ってる言葉とか、ご家族の気持ちに合わせて、関わっていくことを大事にしています。
受診同行の際には、「今日はこういう検査を先生はしたいと希望しています。お母さんが一緒にいていただくことで、Aちゃんにとっても安心に繋がっていますね」と通訳をします。
看護師さん達にも、「お母さんは、Aちゃんのケアに関して、今勉強してる段階なので、できればお母さんに分かりやすいように、お伝えして頂けませんか?」とお願いなどもしています。
例えば、医療器具の役割や名称についても同様でして、「だ液の誤嚥(ごえん)の対策のためで必要です」など、目的も伝えずに、「メラチューブを使いましょう」と、ただケアの内容だけを言われる場面もあります。
僕達としては、お母さん達にも安心していただけるように、「メラチューブを使うことで、だ液の誤嚥が減って嘔吐することも減るので、ケアが増えますが、一緒に頑張ってみませんか?僕もメラチューブを使うのは始めてですが、僕たちもどういった内容か一緒に勉強していきますので、一緒に覚えていきましょう」など、丁寧にお話しをしています。
私たち、医療的ケア児コーディネーターが医療従事者の代替になるというよりは、ご家族と同じ目線で一緒に悩んだり、考える関わりや関係性。ナラティブさを大事にしています。
関係機関との連携と連絡
僕は、看護師ではなく福祉職です。相談支援専門員をした頃は事業所内に医療従事者が居なかった為、医療領域については分からない事が多く悩んでいましたが、訪問診療の先生や訪問看護師、通所先の児童指導員さん達にこまめにご連絡をするようにしました。
普段は、お母さん等家族にヒアリングをしがちですが、関係機関の方にもお電話をして、「ご家族からこう聞いたんですけれども、主治医の先生はどう思われますか?」など、二次アセスメントが重要です。
通所型の児童発達支援事業所に通ってる看護師さんに「ご家族からは、胃ろうのガーゼの交換の頻度が1日5回もあり大変さを感じていらっしゃるのですが、どうしてガーゼの交換多くなってしまうのですか?」と電話で聞くこともあります。
すると、『動いちゃうと出血しちゃうんだよ』『ある程度胃ろうの形が出来上がってくると、挟まない方がよかったりする場合もあって主治医とご相談するとよいですよ』など、色んな情報をお聞きすることができます。
医療的ケアのお子さんだと、発熱や息止めの発作やてんかん発作など、命に直結したり、注意しないといけない場面が多いため、福祉職の立場として、かなり意識をしています。
例えば、ひとり親のご家庭でお母様が倒れてしまった時にどうするのか、という点です。
バーンアウトして急に朝起きれなくなってしまったり、昼夜問わずに1日中一生懸命ケアをやっている故に、ケアが抜けていらっしゃる場合もあり、主治医の先生や訪問看護師さんとタイムリーに連携することを大事にしています。
電話以外にもMCSという掲示板を使って、随時医療機関の方とやり取りをしながら、ご家族の方にも「時間外でもいいので、何か困った時はもう遠慮なく電話していいですよ」
「行政は平日9時から5時だけど、民間の事業所は時間外でもLINEとか、携帯電話でいいので、メッセージ送って下さいね」とお伝えしています。
ここは命に直結するところでして、ご家族が頑張り過ぎてしまう傾向にあるため、バーンアウトしてしまうことがないようにしています。
医療機関やそういう環境って、専門用語が飛び交っていて、私達はできる限り家族が使ってる言葉とか表現を、現在の児童発達支援管理責任者の業務でも大事にして関わってます。
ご家族とのコミュニケーション
私は、小児科クリニックの往診介助として働いていた時代に小児科の先生から「家族支援の重要性」について教えていただきました。
子どもたちは家族と暮らしており、24時間のケアでご家族が疲弊してしまったり、“きょうだい”が置いてきぼりにならざる負えない状況がありました。
そこで、おうちに訪問する際は、お子さんやご家族、お母さんだけじゃなくて、“きょうだい”にも必ず声をかけるようにしています。
“きょうだい”に対して、「お兄ちゃん、お姉ちゃん」と呼びがちですが、同居しているご家族のお名前や呼び名を確認して、「Bちゃん。今日の保育園どうだった?」とか、「Cくん、今日は部活動頑張ったって聞いたよ」とか、「妹のAちゃんが体調が悪くて、お母さんも大変な状況だよね。Cくんは困ってることない?」
そんなちょっとした一言ですが、声をかけるとお子さん達もホッとしていただけます。
なかには、「おうちにお友達を呼びたいけど、呼べなくて困っている」とか、「実は私、お母さん、お父さん構ってほしいけど、妹のケアで、全然、構ってもらえないんだ」とか、そういう悩みを聞かせてもらえる場面もあります。
その瞬間を逃さない
先日訪問したご家庭では「将来の事を考えると不安で、夜寝る事ができなくて睡眠導入剤を飲んで凌いでいます」という話を聞いたり、お子さんではないのですが、同居のご家族の抗がん剤治療の受診も必要になって「子どもの送迎時間とバッティングしてしまって大変なんです。」という話もありました。
今すぐ、解決する事が難しい問題もありますが、困っているお声もしっかりとお聞きするなかで、「大変だけど、聞いてくれる人が1人でもいれば頑張れる」とおっしゃっていただけることもあります。
面談や受診同行での、その瞬間を逃さないように気をつけています。
お母さんが顔色が悪い中、一人で頑張っている場合もあります。
訪問看護さんにも根回しをしながら「もしもの時は、訪問看護さんに2時間くらい留守番看護をお願いするのはどう?」と背中を押したり、ご家族を労ったり、家族の健康状況を必ず確認するようにしています。
→後編に続く







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