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AKARIの編集長の島川です。
この度、貴重なインタビューの機会を頂戴しました。
お相手は、特定非営利活動法人WEL’S代表理事の橋本一豊(かずとよ)さんです。
ホストから福祉の世界に転身した異色の経歴を持ち、ロックを愛する経営者でもある橋本さんのこれまでの歩みと、課題山積の障害者雇用についてのご意見をたっぷりお話しいただきました。
25歳でホストから児童福祉の道に転職。
27歳の時にスウェーデンに⾏き、そこで出会った障害ある⽅の⽣き⽅に感銘を受け、帰国後に障害福祉の職に就き国家資格である社会福祉⼠を取得。
30歳で障害者の就労⽀援に特化した現NPO法⼈を設⽴。
⼤⼿から中⼩まで延べ100社以上の障害者雇⽤相談、500⼈以上の障害者の⽀援を⾏う。
趣味のロックバンド活動歴は30年超。
障害者福祉の専⾨家として、メディア出演多数。
インタビューに参加したライター:salad、どんはれ、ゆた、M.J、島川
太字が橋本さんの回答です!ぜひ最後までご覧ください!
【これまでの歩みについて】
アルコール依存症の家庭で育った幼少期から、ロックに出会った学生時代
(salad)私の父もアルコール依存症で、依存症の家庭が、どれほど悲惨かを知っています。そんな中でもロックに目覚めたということですが、ロックのどんなところが刺さりましたか?
1番は、ロックを表現する人達が、本当に思っていることやコミュニケーションの中ではなかなか使えないような言葉を、音というものに乗せて表現するというやり方です。
アルコール依存症の家庭の中では、暴言や物が飛んできたりするのですが、それに対して怒りとかやるせなさなどの感情をストレートな音で表現する力とか、人に暴力振るうとかではない表現の仕方としてエネルギーを出し切るところが凄く自分に合っていると感じ、ロックに魅了されました。

ロックに出会った頃の橋本さん
(島川)この時代で特に影響を受けたミュージシャンや人物はおられますか?
ニルヴァーナのカートコバーンの生き方や表現の仕方に1番影響を受けました。日本人で言うと氷室京介さんの音楽というよりも追求する姿や、カリスマ性、人間性に惹かれました。
ホスト時代について
(どんはれ)ホストと福祉の仕事の共通点といえば、接客業だと思ったのですが、お客様や利用者さんのニーズをすくいとるために心がけていることがあれば、教えてください。
全身でその人の持っているものを受け止めるというか、浴びるということです。
例えば表情やその人が発する声とか音、しぐさ、目線といったもの全てを見た上で、その人が興味や関心を持っていることを想像しながらコミュニケーションを取っています。
また、最初から本当のことを言う人はなかなかいないので、その人の興味・関心にまず僕が興味を持ってコミュニケーションを取っていくことを、ホスト時代も今も、凄く大切にしてます。
(ゆた)25歳で福祉の業界にキャリアチェンジしていくときに、「自分のような人間にも務まるのか」と思ったとお聞きしましたが、どのような気持ちでチャレンジしてみようと思われたのでしょうか?
25歳で転職をして27歳で障害者福祉に入りましたが、今までどちらかというと、職業柄後ろ指を刺されるようなことが多かったんです。
ホストが裏社会とは言えませんけども、色んな繋がりがあるので。
人を傷つけたりしてきた人間が、本当に人の為に仕事ができるのかという、自分に対しての疑問がものすごくありました。
でも、根は真面目だと思っていたので、真面目な仕事をしたくて、「そこで働いてる人達がどんな心持ちで日々仕事をしているんだろうか」、「こんな自分でも何か、その中で役割があるんじゃないか」と感じて飛び込んだのが最初のきっかけです。

ホスト時代の橋本さん
(ゆた)ホストという世界は私にとって全く未知な世界なのですが、ホスト時代に培ったもので、今も大事にしている考え方や言葉はありますか?
テーブルについたらホストである僕と、来てくれたお客さんと一対一でテーブル上で一緒に世界を作っていくのですが、そこでオーナーさんから、「もう一従業員ではなくて、そのテーブル自体があなたのお店ですよ。」と言われたのを覚えています。
お客さんが提供してくれている時間とお金に対して、自分ができることを提供することが価値だと思うので、ホスト時代も今の仕事においても大事にしています。
例えば相談をする時には、その時間の中でいかに関係性を作れるか、本人が思っていることや困っていることを自分の言葉で表現してもらえるような世界観を大切にすることを意識しています。
相談の中で凄くテンションが上がる方もいれば、ほとんど何も喋らない方もいますが、それはその人の世界観なので、そこを崩さないようにします。一方でその人が相談に来るということは、何か変化を求めてきているので、ペースに巻き込まれないように適切な距離を取って、その人の行動変容が起きるようなタイミングを見計らうことを大切にしています。
スウェーデンでの重度障がい者の女性との出会いについて
(どんはれ)スウェーデンの重度障がい者の女性との出会いが印象的ですが、他にも見方を変えてくれた出会いはありましたか?
これは本人から許可を得てお伝えするのですが、僕が障害福祉に入ってジョブコーチとして一番最初に支援した方が、挨拶ができない方で、支援をしてほしいと言われました。
最終的には挨拶できるようになったんですが、本人が望んだ形ではありませんでした。
「社会人になってから急に挨拶をしろって言われても、これまで教えてもらってきてなかったので困る、辛かった」と話されて、理由を遡ると、この方は児童養護施設の出身だったんです。
児童養護施設では自分が挨拶をするというよりは、職員さんが「はい、おはよう。起きて次これだよ。」 と次の行動が全部指示されるので、挨拶する習慣がなかったんです。
その話を聞いて、福祉の専門家である私達が、その人達の習慣とか個性とか、その人が本来持ってる力を引き出すという視点が欠けているなと感じました。
そこから僕はその人の影響で「挨拶は人に強要するものじゃなくて、自分から積極的にするものだ」と感じ、利用者さんにまず僕から挨拶をしに行くことを凄く意識するようになりました。
会社に行っても、街の中でも自分から率先して挨拶をする。それに対して真似してみようと思う人がいればいいし、挨拶をしないのもアリ。でも自分はする。ということを実践しています。
その人が課題だと思われているものを深いところを見ていくと、実は専門家によってそういう状況が起きていることも、見失ってはいけないということを学ばせてもらいました。
(どんはれ)即実行できる行動力と、スウェーデンまで出かけていくフットワークの軽さがすごいと思いました。行動をおこせる活力の源には、どんなやりがいがあるのでしょうか?
色々準備して調べて理解してから行動をするタイプの人もいると思いますが、僕の場合まず行動して、行動したことによって学び、その学んだことを理解するために勉強をするというプロセスで学びを積み上げていく経験が、幼少期から多かったんです。
転校したことがあったのですが、転校するとアウェイな環境で、自分から行動起こしていかないと友達は作れないので、そういった経験の中で培ったものだと思います。
自分の感性とか直感を信じているので、色々情報を詰め込んでいくと自分の考えがいつの間にかなくなってしまうので、それってロックじゃないなと思います。
自分が大切にしている価値観とか感性を自分の中に落とし込むためにまず行動して、そこで感じたこと、理解したことをベースに他の情報をインプットするっていう学び方、歩み方が自分に合っていて、その自分の感性と価値観を信じているのが源だと思います。
(どんはれ)スウェーデンと日本の福祉の違いについては、どんな点で感じますか?
1つ大きな違いとしては、『言葉』だと思っています。
スウェーデン語は分かりませんが、コミュニケーションを取るとき、そもそも『障害』という言葉はあまり使わなかったです。『そういう特徴がある』とか、『そういう障壁がある』とか、『不自由がある』といった表現をしていました。
『障害』という言葉は日本の場合、「良くないもの、分断されているイメージ」があるのですが、言葉を置き換えて『健常』という言葉を抽象化すると「特徴がない人」って言えると思うんです。
どっちがっていう境界線はなくて、今どんどん特徴がある会社とか特徴がある人の方が活躍している時代になってきているので、時代とともに概念も変わってきていると思います。
言葉1つとっても多様性があって、言葉の捉え方って十人十色でそれぞれ違いますが、言葉の概念とか捉え方がスウェーデンでは共通言語になっていると感じました。
日本でコミュニケーションを取ると、言葉に囚われ過ぎてしまっていて、本当にその人が想っている言葉って違うんじゃないかなと思うことがあります。

スウェーデンでの出会いが橋本さんの人生を変えていきます。

特定非営利活動法人WEL’Sについて
(どんはれ)障害者福祉の分野の事業所を運営されていますが、どんな障害をお持ちの方が利用されているのですか?
一般的に3障害(身体・知的・精神)と呼ばれる中では、うちの法人に相談に来られる方のほとんどは知的に障害のある方、精神保健福祉士手帳もしくは精神疾患をお持ちの方が圧倒的に多いです。
手帳をお持ちでも発達障害と診断をされている方もいらっしゃいますので、ここ1、2年は精神疾患のある方の相談の割合が増えています。
(ゆた)福祉業界で働いていると色んな障害を抱えた人と接することも多くあると思います。その時、これだけは気を付けようと思っていることなどがあれば教えてください。
「その人が持っている価値観とか世界観が、どういう人生の歩みや関係性の中から生まれてきたんだろう」ということが分かるまで、その人のことに興味・関心を持って声かけをしたり、沈黙があったら沈黙の時間も大切にするなど、一緒に過ごす時間を大切にしながら、その人のことを理解することを凄く大切にしてます。
(M.J)WEL’Sで働いている利用者さんに対して、どのようなことを望まれてますか?
目標設定などについて教えていただけるとありがたいです。
いい質問をありがとうございます。
大切にしたいと思ってるのは、その人の価値観の理解です。
例えば「あなたには無理、できない」と抑圧されてきてしまった方であれば、まずそこを解放するような目標設定が必要なので、本人が本当はどういうことをしたいかを確かめます。
本人がパソコンが得意だけど、今までPCゲームしかしてこなかったので、それが仕事に繋がるとは思っていないとしたら、ちょっと方向性を変えれば社会で活躍できる人になれる可能性もあります。
ただ、周りからは「パソコンばっかりやってないで」と言われたてきたから「パソコンはやっちゃいけないものだ」と思って抑圧されてしまっているので、まずそこのブロックを外すことが必要になります。
このように、その人のことを理解して、今まで周りからどう言われてきていたか、それを本人はどう受け止めてきているかということを理解した上で目標設定をしています。
さっきのケースで言えば、今までパソコンは駄目と思っていたから清掃とか体を動かす仕事をしていたが、それよりも圧倒的にパソコンで仕事をした方がパフォーマンスが高い方であれば、Excelを使って入力作業をやってみるなどチャレンジをしてみる。
それが物凄く早かったのであれば、「実はこれはお仕事として凄く役に立つんですよ。」ということで目標設定をし、作業プログラムを変えて、その作業スキルをアセスメントして目標を変更していくことをやるようにはしています。
まだ全員適切に理解しきれていない状況に今は正直ありますが、そこを目指しながら日々のトレーニングを提供したいと思っています。
(どんはれ)障害者と雇用主を繋ぐ、情報不足とは具体的にはどんなことだとお考えですか?
代表的な例をお伝えすると、そもそも障害者雇用をする企業の方は私たちのような就労支援者のことを知らないということです。なので、専門用語をなるべく使わずに私達が何者であるかということを分かりやすく伝えることが凄く必要だと思います。
それ以外にも情報不足がたくさんありますが、まずは私達の仕事って知られてないっていうことを自分たちが知り、私達の仕事のことを知ってもらうことが重要だと思ってます。
なので、皆さんのように取材してくださる方がいらっしゃるのは凄くありがたいです。
(どんはれ)私も社会福祉士の資格を持っているのですが、資格を生かす働き方など、あれば教えてください。
まずは社会福祉の学問に基づいた実践、そしてその実践に基づいた情報発信、この2つが現場でやることだと思います。
社会福祉士には、その人のエンパワーメント引き出す役割があるので、ジェネラリストの視点でその人を理解して、ICFに落とし込んだ時に、その人の課題ではなく生活構造モデル、環境との相互作用で物事を見ていくことが、現場で役立つ実践方法だと思います。
また、それを論理的かつ学問として、今あるケースをこれから先、次世代やより多くの人達に転用できるように情報発信をしていくことも大切なことです。
僕もYouTube等で情報発信するなど、言語化して社会福祉士という価値を発信していけるように努力しています。
(島川)コロナ禍で、オンラインコミュニティ「WELʼS ON」や、利⽤者向けのオンラインコンテンツ、事業所とのコミュニケーションツール機能、就労先をPC画⾯上で360度体験できるツールなどを開発されてこられましたが、これらの利用者さんなどの反応や、事業所運営における効果は、どんなものがありましたでしょうか?
「WELʼS ON」のサービスの中で利用者さんに体験していただく中で1番利用者さんの声で多いのは、「楽しく学べる」ということです。
例えば挨拶の仕方、履歴書の書き方、自分に合った仕事の探し方とかは、今までは職員さんが伝えていたんですが、アニメーション動画で学べるコンテンツが今70個ぐらいあるので、それを使って「利用者さん楽しく学べる」というのが効果の1つです。
また、『求人マップ』と言う地図上で、自分に合った求人を探すコンテンツもありますが、デジタルを活用することによって楽しく学べ、パソコン操作にもだんだん慣れてくるので、結果的に作業スキルも高くなるという効果もあります。
事業所運営においては、利用者さんに伝えるために職員さんが色んなプログラムを作ったり、開発したり、履歴書の書き方も調べたりする手間が省けることが大きな効果です。
今あるコンテンツを使ってグループワークを行えるなど、副次的な効果も出ています。
障害者雇⽤のメリット
(島川)橋本さんが考える、障害者雇用のメリットとは、どんな点が挙げられますか?
1つは「人材不足の解消」です。
今日本全国で人材が足りている企業はないので、人材不足に対して障害のある方の能力を活かして作業することで、人材不足の解消になります。
もう1つは「相乗効果」です。複雑な相乗効果があって、結果的に生産性が上がることが色んな研究からも明らかになっています。
視点を変える必要があると思うのは、障害のある人の能力だけを見るのではなくて「障害のある人を雇ったことによって周りの人達の能力が、どれぐらい上がったか」という点です。
僕も今就労支援を通じて、リサイクル工場や洗濯など、色んな現場で一緒に障害のある方と働くことがありますが、僕が1人の作業員としてリサイクルの仕事をやるとなったら多分僕はその仕事を選びませんが、「障害のある人達と一緒に働ける環境」があると、僕のモチベーションやパフォーマンスが凄く上がるんですね。
これは僕の価値観なので、障害のある人と一緒に働くのは嫌だっていう価値観も現実としてあると思いますが、相乗効果で一緒に作業をするとパフォーマンスが上がる人達ってたくさんいると思うんです。
これは障害者雇用を研究している横浜市立大学の影山摩子弥教授の提唱している数字のロジックですが、分かりやすく表現するために障害のある人の能力を『0.5』とします。
これは必ずしも0.5じゃないですが、基準として0.5にするんです。
健常者の方の能力を「1」とした5人のチームがいると、5人で元々「5」だった能力が、0.5の障害のある人が入るようになって、『能力が1人20パーセントずつ上がる』ことが分かったんですよ。
計算式 1.20×5=6 6+0.5=6.5
『障害のある方を一人雇うことで、チームの能力が6.5に上がる』
これは企業の方に伝えるのにわかりやすい事例で、私もこれは実感しています。
このように人材不足と、相乗効果の2つのメリットがあると思います。
参考:障がい者雇用を戦力に|横浜市立大学 影山教授に聞く障がい者を雇う企業のメリットとは? | Puente
(M.J)障害のある方が、就職活動や就職した後働き続けるために努力すべきことについて
スウェーデンで生活していた時に、「あなたは何がしたいの?どんな生活がしたいの?と聞かれました。
言葉を発する際にヘルパーさんの介護がいる方もいましたが、外的な環境や、周りから言われたことを言い訳にしないで、「自分はこれをしたい」というのを明確に伝えていました。
「寿司が食べたい。あなたは寿司を作れるのか?」と言われて、おすしもどきを作ったこともあります。
難しいと自分で思ってしまうこともありますが、「私はこういう価値観があり、いままでこういうことをしてきた、これからこういうことをしたい」ということを周りの人に伝えられる関係性を作れることがフェアであり、パートナーシップを組む時にもいいと思います。
してあげるとか、してもらうという関係ではなく、「これをしたいからあなたがいる」という環境を作っていくことが1番いいです。
これは就職活動においてもそうですし、働き続ける上でもそうだと思います。
合わなかったら私は転職したいんだっていうのも1つありだと思います。
「この仕事を続けないと次はないよ」とか、そういう周りの言葉とか影響に惑わされずに、自分が思っていること、自分が大切にしたいことを言葉にして伝えていくのは凄く重要だと思っています。

ジョブマッチングに必要な要素
(島川)これまで橋本さんはお仕事を通じて数多くの障害者雇用を実現してこられましたが、当事者のジョブマッチングについて必要な要素には、どんなものがあるとお考えでしょうか?
転職したいと思ったら転職支援もできますが、自分たちのサービスを利用する価値は、「自分に合った仕事を探したい」ということなので、そうならないように自分たちはジョブマッチングを凄く大切にしています。
その人が働き続けるためにどういう情報を一緒に共有していけばいいか、どういう企業を見学に行った方がいいか、どういうチャレンジをしていくとその人がより自分が働くイメージを持てたり、自分に合った仕事に出会えるのか、ということをサポートするのが自分たちの役割だと思います。
ただ、気持ちは変わりますし、やっぱりこの仕事がしたい。という場合はあると思います。
僕もホストの仕事が合っている、自分らしさを活かせる仕事だと思っていて、福祉の仕事は全く発想になかったですし、とてもできるとは思わなかったんですが、25年以上この仕事をしているってことは、この仕事が合っているかどうかはともかく、自分は好きなんだと思います。
そういう仕事に出会えたことは凄くラッキーで、誰かとの出会いによってチャレンジしたいって思えるきっかけ作りができればいいなと思っているので、その人に合ったジョブマッチングを支援していくことを目指したいと思ってます。

諸外国と⽇本の障害者雇⽤の事例
(島川)諸外国の障害者雇用の現場では、日本とはまた違った動きもあるのではないかと感じております。橋本さんが特に日本でも取り入れた方がよいと感じられた事例などは何かございますでしょうか?
ハード面で言うと、テクノロジーの導入をどんどん進めた方がいいと思います。
以前アメリカで研究されているライアン先生という方が見学に来てくれたんですが、アメリカでは今、テクノロジーを凄く活用しているそうです。
例えばその人が働きたい職場があったら、職場を映像で撮影し、仕事内容を事前に説明して、困りごとが起きそうなところでストップをかけてヒヤリングするそうです。
また、アセスメントも職員の感覚だと必ずバイアスが出てくるので、AIを取り入れることによってその人に合った仕事の傾向を莫大なデータベースの中からAIが導き出すそうです。
今まで福祉は属人的な仕事と言われてきましたが、それを仕組化・DX化・デジタル化することにより、クライアントさんにとって有益な情報に繋がる可能性があります。
ソフト面で言うと、スウェーデンには障害者雇用率も、障害者手帳がカウントになるということもなく、「私には障害があります。」という自己申告で障害が認められます。
これは大きな違いだと感じていて、自己認識をしているかどうかだと思うんです。
日本は障害者雇用率とか手帳を持っている人とか法的な根拠制度に基づく事業が展開されているので、サービスの数は多いんですが、「本人が自分の生きづらさをどう感じているか」ということが大事だと感じています。
逆に手帳持っていても、「私には障害がない」と言って企業の方が対応に困るケースもあるので、本人の認識は尊重する必要はあるのですが、それによって関係性が歪になったり、本人の自己認識が進まないまま周囲が疲弊してる状況は、誰も幸せにならないなと思います。
日本の場合、本来障害者雇用促進法は共生社会の実現や、ノーマライゼーションという理念があるわけですが、実際には「雇用率を達成すること」が目的化されている。
達成をするための手段がどんどんできて、キャリアが積み重ねにくかったり、数合わせのための雇用が増えている状況があるので、その人がどう思っているかが、見えなくなってきているのが課題だと思うので、そこがソフト面での大きな違いだと感じてます。
(島川)日本の障害者雇用の中にも、優れた事例などもあるのではないかと思うのですが、何か橋本さんが注目している事例などはございますでしょうか?
大企業の障害者雇用でも、チームとして進めているところもあり、凄く働きやすい環境だと感じています。そのための仕組みづくり、その人が働きやすい環境を作る、現場を作るということに力を入れておられます。
また、中小企業の職場の文化や大切にしていることを明確にしているところは面白いので、2社ほどお伝えします。
1つは東京にある古田土会計事務所という従業員約200名の会計事務所です。
会計事務所は知的産業なので、雇用しづらい業種と言われているんですが、障害のある方が凄く誇りを持って働いています。
業務としては、例えば給料明細の発行業務とか勤怠の入力業務など、会社の税理士・会計士さんのバックサポートオフィスが中心です。
古田土会計事務所は、とにかく「挨拶」を大切にする企業さんなんです。
お客さんが来たら作業途中でも全員立って大きな声で「いらっしゃいませ!!」って言うんですが、その文化に合う人と合わない人が明確なんです。
その文化で働きたくない人も、元気な職場で働きたいっていう人も選択がしやすいって、優しいなと思います。
私達はこういうことを大切にしています。とにかく日本を元気にするために、挨拶をします。だから挨拶が得意な人や大きい声で挨拶をしたい人はその職場に合っているっていうのが分かりやすいので、こういう風に文化を明確にする事例って素晴らしいなと思いました。
参考:障がい者雇用|中小企業の経営サポートなら古田土経営・古田土会計
もう1つは宮崎県日向市で清掃のお仕事をしている株式会社グローバル・クリーンさんという企業です。障害のある人とチームを組んで色んな現場で清掃するんですが、素晴らしいところは、徹底したマニュアル作りです。
社長さんがアメリカでマニュアルを版権なども買って持ってきて、手順通りにやる、用具等も全部色分けをする。そういった取り組みがコロナ禍で衛生面が重視される中、そのマニュアルによって凄く活かされて、仕事が増えてきたんです。
障害のある人にも分かりやすいマニュアルなので、例えば自閉傾向のある方にとっては、その1つ1つのプロセスが終わらないと気が済まないので、きっちりやってくれるんです。
他の挨拶とかお客さん対応などは、付き添った別のチームの方がやるなど、分担しながら仕事の幅を広げています。
また社長さんがSDGsとか、障害という言葉をなくしたいという理念を持っている方で、絵本を作るなど社会貢献をしていることもあり、人手不足や人が集まらないと言われる清掃業の中にあって、大卒の方や若い人達が会社説明会にたくさん来るようになっています。
社長さんが掲げるビジョンや理念、明確なマニュアル作りが結局は障害者雇用だけではなく皆にとって働きやすい職場作りになった2つ事例でした。
⽇本における障害者福祉の課題と解決策、今後の展望
(島川)以前受けられていた、障害者雇用に関する取材の中で、「雇用率達成のために働く環境が整わないまま雇用され、その方の力を伸ばせないこと」への危惧を伝えておられ、同じく社会に送り出す仕事をしている身として、非常に共感しました。
こうした懸念を解消するには、企業や行政は、どのような解決策を講じていくとよいとお考えでしょうか?
極論『障害者雇用率なくした方がいいな』と感じています。ここに囚われ過ぎているので。雇用率を達成するのは障害者雇用促進法上の目的や理念ではないですが、企業にとってみれ見ればそれが目的化されて、結局雇用代行ビジネスとか、数合わせの雇用が増えています。
働く場所があるなら働きたい人が、B型事業所と一般企業だったら一般企業の方が給料が高いから雇用代行ビジネスであってもそっちのがいい、という選択をすると、どんどん広がっていく実情があるので、難しいとは思いますが、雇用率がなくなると、がらっと変わると思います。
行政・企業がやるべきこととしては、「その人の能力を活かした雇用」に尽きると思います。
障害者雇用する企業さんと色々やり取りをしていくと、先程の2つの事例の働いてる社員さんは本当にいきいきと働いていて、全従業員にとって働きやすい職場作りをしています。
雇用率達成を目的に数合わせをしている企業さんは、そこで働く社員さんも数として見ている可能性もあったり、雇用代行ビジネスを使っている会社さんはかなり疲れています。
雇用率が伸びることによって、数は伸びてくけども、ミスマッチも増えていくので、働きたいと思って就職した人ももう働きたくないと思うし、雇用したいと思って雇用した企業の方も、やっぱり障害者の雇用は難しいからもう雇用したくない。でも法律がそれを許さないから、仕方なく雇用する。これでは誰も幸せになってないし、悪循環がどんどん広がっていくので、危惧しています。
雇用率は法令順守のために揺るぎないものだとしても、せめて『その人の能力を活かしたジョブマッチングをする仕組み作り』に力を入れていきませんか、ということを実際に提言をしていますし、これからも、提言したいと思います。
この部分に視点を向けることで、雇用の質の向上への具体的な実践に繋がると思います。
(島川)今後の障害者雇用に関する、希望や展望について、橋本さんのお考えをお聞かせください。
僕個人としては、この仕事に凄くやりがいを感じているので、こういう仕事をやる人がもっともっと増えればいいなと思ってます。
この仕事をしていて、元気で働いている人もいれば、疲れている人もいるので、自分たちの価値を提供する時には障害のある人から見ても、企業から見ても「この人のサービスを受けたい」って思ってもらえることが重要だと思うので、まずは社会福祉士として、そして就労支援者としてこの仕事の価値を一緒に働く人達や企業の方、そして障害のある方伝えていくことが私の使命ですね。
もう1つはミクロレベル・メソレベル・マクロレベルで言うと、仕組みをどうやって作っていくということです。この業界自体もマンパワー不足とどこでも言われているので、うまく仕組みを活用することを広げていくことを目指したいと思います。
インタビューをさせていただいた感想・感謝の言葉
(salad)実際の橋本さんは、すごく気さくな方で、インタビューしていても緊張しませんでした。
私自身、一般就労を目指しているので、橋本さんの「明確な目標を持つ」というお言葉はすごく心に響きました。インタビューさせていただき、ありがとうございます。
(どんはれ)今回のインタビューで、障がい者雇用率だけでは見えてこない、量ではなく、質の部分を事例を踏まえて説明してくださり、とてもよくわかりました。
そのためには雇用者と障がい者の間の問題を言語化することが大切であり、それをつなぐ支援員の存在が雇用側に認識されていない実態などがわかり、大変驚きました。
私もここTANOSHIKAに来る前はA型事業所ってどんなところかわかりませんでしたし、一般には知られていないことも多くあるのだなと感じました。
障がい者の雇用率が上がれば、それだけチャンスが多くなり、いいことではという単純な発想でいましたが、障がい者という枠組みで雇用率を上げるだけではなく、その質の部分が大事で大量に雇っては大量に辞めていくのでは意味がないのだなと思いました。
思えば、障がい者と健常者の違いもはっきりしたものはなく、なんの特徴もない人が健常者というのもおかしな話です。個人の個性に合った働き方ができれば、それは会社の利益につながりますし、なにも特徴のない人はいないとも思うので、障がい者という枠組みさえもなくして個人として見れば働き方も変わるのかなと思います。
スウェーデンでは障がい者という言葉はないということですし、チャレンジする人というぶんには皆同じなのかもしれません。
雇われる側も会社になにを求めているのか明確にし、なにがあれば働けるのか企業とのマッチングをしながら働くことが大事だなと痛感しました。
私も一般就労に向けてなにを配慮していただければ働けるのか明確にしながら活動していこうと思います。今回は貴重なお話をありがとうございました。
(ゆた)お忙しい中、インタビューに応えて頂き、ありがとうございます。
橋本さんのお話を聞く中で、ロックは音楽のジャンルではあるけれど、本当の魅力は生き様にある、ということが凄く伝わってきました。
橋本さんはきっと、心中にある熱い思いをこれからも行動に移していく、格好いい人なんだなって素直に憧れました。
私も就活や日々の業務の中で、少しでも「ロック」な行動を意識したいなと思います。
(M.J)お忙しい中、インタビューにお答えいただき、誠にありがとうございました。
一つひとつの質問に対して「熱心に、丁寧に」答えていただいたので、すごく有り難く感じました。
橋本さんのおっしゃった「利用者に合った対応」が心に響きました。また、熱意のこもった「何とかしてこれがしたい」という思いの大事さも強く感じました。
インタビュー全体を通して「熱い思いは伝わる!」と感じさせられました。
貴重なお時間、どうもありがとうございました。
橋本さんからのメッセージを取り入れて、より一層「熱い人」になりたいと思います!

橋本さんこの度は取材のご協力本当にありがとうございました!
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