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こんにちは、翼祈(たすき)です。
世界の絶滅危惧種の数は、2022年のWWFジャパンの調査では、4万1,459種以上の野生生物が記載されています。
日本でも2022年9月29日からニホンザリガニや、メダカ、オオムラサキなどがインターネットオークションの取引が禁止されたり、2022年7月には沖縄県でウミガメが網に引っかかり、漁に差し支えるからと大量に駆除されたりと、痛ましい事件も起きています。
ここでは主に絶滅危惧種の保護について行われている日本の取り組みを、幾つかご紹介したいと思います。
iPS細胞×絶滅危惧種
絶滅危惧種のヤンバルクイナとシマフクロウ、ライチョウ、ニホンイヌワシの4種の鳥類に関して、iPS細胞を作ることが出来たと、国立環境研究所や岩手大学などのチームが公表しました。絶滅を防止すべく、今回のiPS細胞は研究への応用に期待が持たれます。この研究論文は専門誌[コミュニケーションズ・バイオロジー]に掲載されました。
まずヤンバルクイナなど4種の鳥類の死体や抜け落ちた羽の軸から細胞を摘出し、特殊な遺伝子を混ぜることで、iPS細胞が出来ました。iPS細胞については再生医療や創薬への活かすことに期待が高まる一方で、希少動物の生殖細胞に変化させて「種の保全」に役立てようとする活動も活発です。今回の研究はその「種の保全」でのプロジェクトです。
iPS細胞は身体にある細胞に変化させることが可能で、無限に倍増させられます。
種を絶滅させる可能性のある感染症や汚染物質に関しては、希少な動物そのものを使用せず、iPS細胞の与える影響を評価する実験も出来ます。
iPS細胞においては、京都大学の山中伸弥教授が2006年にマウスで、2007年にヒトでそれぞれ出来たと公表。今までに哺乳類ではニホンザルやウマ、チンパンジー、サイなど約10種でiPS細胞が出来たと報告されています。
参考:ヤンバルクイナ・ライチョウなど絶滅危惧種の鳥類4種のiPS細胞作製に成功 読売新聞(2022年)
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絶滅危惧のサイ、iPSから繁殖を 卵子・精子のもと作製 日本経済新聞(2022年)
また、クローン技術を使った絶滅危惧種の保存の方法も探られています。
クローンマウス×絶滅危惧種
山梨大の研究チームは、凍結乾燥させたマウスの体細胞を使って同じ遺伝情報を持つクローンマウスを作製することに成功したと、発表した。チームは「絶滅の恐れのある種を救う新たな手段につながる」としており、論文が6日、国際科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載される。
チームは、マウスの尻尾などから採取した体細胞を凍結乾燥させ、零下30度で最長9か月間保存した。その後、体細胞から取り出した「核」をもとに、様々な細胞に変化する胚性幹細胞(ES細胞)を作製。ES細胞の核を卵子に移植した。この卵子をメスの体内に移したところ、赤ちゃんマウスが誕生したという。
チームは、クローンの赤ちゃんマウス計75匹の作製に成功。このうち、メスは妊娠能力も正常で、健康な子どもを産んだ。チームは既に凍結乾燥させたマウスの精子から子どもを作ることに成功している。
絶滅危惧種に指定された動物はワシントン条約により、他国への移送が難しくなっています。制限で移送が難しい絶滅危惧種ですが、「種の保全」のために特例で他国に移送出来るケースもあります。
下記の取り組みはそんな特例が認められ日本へ移送されて来た、チーターの物語です。
動物園で絶滅危惧種の繁殖プロジェクト
千葉市動物公園で2021年6月に誕生した六つ子のチーターの中で4頭が2022年秋、繁殖目的で他の動物園に引っ越しをしました。「地上最速の動物」として人気の高いチーターですが、近年絶滅危惧種に指定され、その頭数は少なくなっています。
近親交配上の問題で繁殖が厳しくなっている中、お父さんとお母さんが海外から日本にやって来て誕生した6頭への期待が日々高まっています。同千葉市動物公園の飼育員は「これから先の未来の新しい命の誕生が楽しみです」と4頭のチーターを送り出しました。
日本国内の個体同士だけの繁殖では近親交配の問題上限界に達し、六つ子のチーターが海外の新しい血統を日本各地に拡大させることで、日本での交配のバリエーションも拡がるということです。
参考:チーターの赤ちゃん6頭誕生 千葉市動物公園 朝日新聞デジタル(2021年)
絶滅危惧種の繁殖の問題は、他の動物においても同じ問題が発生しています。日本国内の飼育動物に関しては、1980年代に人気者だったラッコについても、ピーク時には122頭いましたが、現在はたった3頭を残すだけとなっています。ゴリラも50頭から20頭に減少しました。
関連記事
絶滅危惧種マルミミゾウ 山口の動物公園から広島に 繁殖目指す NHK NEWS WEB(2022年)
王子動物園のユキヒョウ「フブキ」、繁殖で東京へ 見られるのは6日が最後…かも 神戸新聞NEXT(2023年)
ニホンイヌワシ「復活プロジェクト」in長野県
標高2568mの群馬・長野県境にある浅間山で確認される絶滅危惧種に指定のニホンイヌワシが雄1羽のみとなり、繁殖が見通せないことが喫緊の課題となっています。原因は森林環境の激変にありました。環境省信越自然環境事務所などにおいては、2022年8月に「浅間山イヌワシ復活プロジェクト」を設立し、ニホンイヌワシが暮らしやすい日本の森林の再生への活動をスタートしました。
ニホンイヌワシはつがいで縄張りを持つことで、雌雄どちらか片方がいなくなると縄張りの外から来た他の個体とでつがいが維持できます。浅間山に関しては1985年頃までつがい2組が生息していましたが、その中の1組が2000年ごろから確認が取れなくなりました。残る1組も2020年に入り雌の確認が取れず、雄1羽しか見られない状況に陥りました。
個体数が減ったことについては、ニホンイヌワシが日本の森林で狩りが行いづらくなったせいだと言われています。
日本は戦後、復興のために家を作る時に木材が必要で、日本全国の山地で多くの森林で伐採が行われました。その後も木材の需要が増加した経緯で、伐採跡地に素早い成長が見込まれる針葉樹が植樹されました。浅間山に関してもカラマツなどが植樹されましたが、木材輸入の自由化が行なわれたことで国産木材の価格が落ち込み、伐採量も減少しました。
浅間山の伐採跡地はニホンイヌワシには上空から獲物を発見しやすい絶好の狩り場となっていましたが、現在浅間山の森林一帯では、過去に植樹されたカラマツなどが伐採されず生い茂ったことで、上空から獲物が発見しにくい状況下に陥りました。
参考:浅間山におけるイヌワシ保護増殖事業実施計画策定について 信越自然環境事務所(2022年)
同「浅間山イヌワシ復活プロジェクト」は2029年3月までの計画になっており、まずは雌を浅間山に引き寄せるべく日本の森林を整備し、つがいで永住的に生息が可能な環境にします。
伐採が止まっていた樹木の伐採などを加速させ、とある一角にニホンイヌワシの狩り場にも出来る広い開放空間も整備します。樹木を伐採した後は、ニホンイヌワシの獲物であるノウサギなどの生息環境や狩りの実態の調査も実行します。
生息環境を整備してもつがいが確認が取れないケースとなれば、餌やりや動物園で飼育し育てた個体を野生復帰させることも検討に入れます。
2024年1月18日、
岩手県は、絶滅危惧種のニホンイヌワシの鍵となる生息エリアを地図に出すことで風力発電での経営者に建設回避を要求する「レッドゾーン」(要回避区域)を設ける方針を県環境影響評価技術審査会に議論しました。これまでは希少動物の生息地に関連する情報は開示して来なかったといいますが、ニホンイヌワシの衝突などが危惧される風力発電計画の急激に増えたことを受け、風力発電での経営者に配慮を要求する狙いでいます。岩手県によれば、この条例が導入されるのは、全国で初めての取り組みだといいます。
岩手県内では2023年度、風力発電事業の環境影響評価(アセスメント)開始手続きが過去で1番の8件に増えた一方、環境影響評価(アセスメント)の審査では、ニホンイヌワシなどへの影響が危惧され、立地場所の大幅な見直しを要求する意見が続々届きました。
岩手県はこれを受けて、2024年度中にも、ニホンイヌワシの重要な生息エリアに関して、営巣地が特定されない様に配慮した地図を作成するといいます。その地図と、砂防指定地や保安林など環境保全に影響を与える可能性がある区域を重ねて設けたレッドゾーンを風力発電での経営者に考えて頂きたいと思っています。
現実では、レッドゾーンを含んだ事業計画を規制する条例などは岩手県にないことから、岩手県はレッドゾーンでの建設を回避した風力発電での経営者への優遇措置を検討しています。
岩手県の環境生活部長の男性は「地域環境と共生する風力発電の導入を促進したいです」と説明しています。
参考:風力発電事業者にイヌワシ生息エリアでの建設回避要求へ…岩手県、地図に「レッドゾーン」設定 読売新聞(2024年)
どんな記事にするか悩んだ。
この記事はかなり前から書こうと決めていて、その時はどう書いていいか分からず、最初は冒頭に書いた、絶滅危惧種のオークションでの取引禁止なども載せようかと思っていました。
ですが、絶滅危惧種はとても存在が脅かされているもの。わざわざそんなマイナスなことを発信するのではなく、種を守る為にされている取り組みを紹介する方が、読んでいる方にも良い取り組みをしていることを発信出来るのではないかー?という決断に至りました。内容を変えたので少し記事を書くのがより難しくなりましたが、自分が当初考えていたものより、より良い内容になったのではないかと思います。
私が小さい頃人気者だったラッコも今は日本に3頭しか居ないのはやっぱり悲しいですね。ラッコは本当に水族館の人気者だったので。人との共生社会も大事ですけど、他の生き物との共生社会の両立もとても大事なことです。
1人1人がこの壮大なプロジェクトを果たしていく為には、小さな一歩ですが、この小さな一歩が沢山集まれば大きな一歩となる。そんなことを改めて感じさせる、そんなプロジェクトですね。
関連記事
ウナギ資源保護 伝統の食が途絶えないように 読売新聞(2022年)
参考サイト
絶滅の危機に瀕している世界の野生生物のリスト「レッドリスト」について WWFジャパン(2022年)
noteでも書いています。よければ読んでください。
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