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はじめに
前回、取り上げた「Protect Children~えいえん乃えがお~」代表森田志歩さんの活動~子ども人権を考える5~に引き続き、こどもの人権について考えていきたいと思います。
今回は日本初の第三者機関として兵庫県川西市での「子どもの人権オンブズパーソン」の取り組みと、来年度から公布される子ども基本法、子ども家庭庁の活動をご紹介しようと思います。
前回の記事はこちらです。
兵庫県川西市で日本初の「子どもの人権オンブズパーソン」誕生
日本は、1994年に国連の「子ども権利条約」に批准しました。
その4年後の1998年、元教員だった兵庫県川西市の市長によって、子どものための公的第三者機関の設置を目指した市の条例が可決され、翌年に「子どもの人権オンブズパーソン」が日本で初めて誕生しました。
オンブズパーソンは、保護者でも、教員でもない中立な立場で子どもたちの話を聴くことを大切にしています。そのことが、「子どもの意見表明権」の保障を通じて」「子どもの最善の利益」を確保するという、「子どもの権利条約」(児童の権利に関する条約)の理念の具体化へ向けた第一歩となります。
対象となるのは同市に在住・在学・在勤する18歳までの子どもたちで、まず相談員が相談者の話を聞き、オンブズパーソンが指揮・支援する体制をとることになります。
これまでいじめ、体罰、虐待等で苦しむ子どもたちのSOSを受け止め、子ども自身が権利の主体として問題解決に取り組めるようオンブズパーソンは支援してきました。
21年度のオンブズパーソンの構成は、弁護士や大学教員など、市長に委嘱されたオンブズパーソンが3名、調査相談専門員の4名は、教育学、心理学、福祉学などの大学院修了者らが担当しています。
そのほか、精神科医やNPO関係者、元オンブズパーソンの11名がオンブズパーソンへ助言する専門員として控えており、事務局職員1名を合わせた総勢19名で子どもの救済にあたりました。
オンブズパーソンを務める弁護士の男性は「制度的にも日本の子どもの権利に関する取り組みは遅れている」と話しています。
事実日本は94年の子どもの権利条約批准以来、数年ごとに国連の子どもの権利委員会から勧告を受けており、子どもの権利のための独立した公的第三者機関の設置を促されているものの、いまだに国レベルのものはつくられていません。
1990年代に学校現場で子どもの権利条約が注目された時期がありましたが、結局、立ち消えてしまいまいました。日本には『子どもは大人が導くもの』『子どもに権利や自由を与えるものではない』と考える文化が根強くあり、影響はまだ残っています。
児童福祉法改正で『児童の権利』という言葉が条文に入ったことからも、国も課題を感じているのがわかります。今後は子どもの権利を教員養成課程でも学ぶようにするなど、いかにして浸透させていくかが重要になります
〈参考サイト〉東洋経済 苦しむ子どもを救う「公的第三者機関」の設置が日本で遅れている理由 川西市「子どもの人権オンブズパーソン」に聞く
子ども基本法
子ども基本法案とは
「子ども基本法案」は令和4年6月15日に国会で可決成立し、令和5年4月1日に公布されます。
下記は日本財団が作成した、障害者・女性・子どもの権利についての基本法の概念図です。
既にある障害者基本法や、男女共同参画社会基本法に加え、「子どもの権利の尊重」や、「国・地方公共団体の責務」などを定めた、「子ども基本法」が今後制定されることになります。
画像引用:日本財団作成 権利
これまで少年法や教育基本法、児童虐待防止法など、子どもに関する法律はあるものの、それぞれ法務省、文部科学省、厚生労働省と管轄が違う法律であり、日本には「子どもの権利が守られるべき」と定める基本の法律がありませんでした。
そういう意味で、日本は子どもの権利が守られているとは言いがたい状況です。
「子ども」だけ権利を守る基本法がない!?
基本法とは「国政に重要なウエイトを占める分野についての国の制度、政策、対策に関する基本方針・原則・準則・大綱を明示するもの」で、国や地方公共団体の責務、基本計画の作成、法制上・財政上の措置、年次報告の国会への提出等が定められています。
しかし現在子ども権利や国の方針を定めた基本法が存在しておらず、子ども政策が後回しにされる一因となっています。子どもを社会の中心に据えて考え、常に子どもの最善の利益を優先する社会にしていくためも、子ども基本法の早急な制定が求められています。
〈参考サイト〉「子どもの権利を保障する法律 (仮称:子ども基本法)および 制度に関する研究会 提言書」
地方自治体任せによる地域間格差
子どもの権利はすべての子どもに普遍的な権利であるにもかかわらず、住む地域によっても格差が生じている問題があり、国レベルでの法整備が急がれます。
もちろん先に述べた兵庫県川西市のように先進的な活動をしている地方自治体もあります。独自に子どもの権利に関する条例を定めていたり、地方自治法を用いて子どもの権利擁護機関を設置する動きもありますが、そうした事例は約1,700ある自治体のうち40程度に留まります。
自治体任せにしていることで、地域間格差が出ているようでは、まだまだ不十分と言えるでしょう。
この状況を改善するために、最近設置されたのが「子ども家庭庁」です。
子ども家庭庁とは?
子ども家庭庁とは、どんな組織なのか?
今回成立したこども家庭庁設置法や、その基本方針によれば、総理大臣直属の機関として設置され、子ども政策担当大臣を置いて、各省庁などに子ども政策の改善を求める「勧告権」を持たせるとしています。
そして担当大臣のもとには、他の府省の大臣と事務次官と同じようにこども家庭庁長官が置かれます。
そこに子ども・子育て本部(内閣府)や、子ども家庭局(厚生労働省)などが移管され、300人規模の職員を配属する予定だそうです。民間や地方自治体との人材交流も積極的に行うとしています。
子ども家庭庁の体制
ここからは子ども家庭庁の体制についてです。下記は組織図になります。
画像にあるように、3つの部門に分かれています。ここからはそれぞれの部門の役割を整理します。
「企画立案・総合調整部門」は、全体をとりまとめる部門です。
子どもや若者から意見を聞くとともに、各府省庁ごとに行ってきた政策を一本化し、子ども政策に関する大綱を作成します。
個々の子どもや家庭状況や、支援内容などの情報をデジタル庁などと連携してデータベース化します。
「成育部門」は、子どもの安全・安心な成長のための政策立案を担います。
子どもの性被害を防ぐため、「日本版DBS」と呼ばれる子どもと関わる仕事をする人の犯罪歴をチェックする仕組みの導入を検討しています。さらに子どもが事故などで死亡した際に、その経緯を検証し、再発防止つなげる「CDR=チャイルド・デス・レビュー」の検討も進めます。
文部科学省と協議し、これまで管轄が違っていた幼稚園・保育所・認定こども園などの教育や保育の内容の基準を策定します。
「支援部門」は、虐待やいじめなどの困難を抱える子どもや、ひとり親家庭などを支援します。
障害児の支援や施設や里親の元で育った若者などに対して支援を行います。「ヤングケアラー」の早期把握に努め、福祉や介護、医療などの関係者が連携して必要な支援を行います。
重大ないじめが発覚した場合には、文部科学省に説明や資料の提出を求める勧告なども行います。
終わりに
幼稚園は文部科学省、保育園は厚生労働省、認定こども園は内閣府と3重行政と揶揄されていた縦割り行政がこども家庭庁により、一本化される可能性が出てきました。
転居にともない自治体の引継ぎは不十分だったために、虐待が見逃されてしまった事案も、「こども家庭庁」という一つの受け皿ができたことで対応できるようになると思います。
いくつもの組織からの隙間から取りこぼれていたこどもたちを手厚くカバーしようという施策が今始まろうとしています。
参考サイト
内閣府 特集 「子ども・若者ビジョン」~先進的な取組事例の紹介~
東洋経済 苦しむ子どもを救う「公的第三者機関」の設置が日本で遅れている理由 川西市「子どもの人権オンブズパーソン」に聞く
朝日新聞デジタル こども基本法案、自公で了承 第三者機関設置は見送り
NHK 野田少子化相 “子どもの意見も反映し政策実現” こども家庭庁
これまでの子どもの人権を考えるシリーズ
noteでも書いています。よかったら、読んでみてください。
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