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はじめに
コロナ禍により、子どもたちを取り巻く環境は変化しました。中には大変厳しい状況にさらされている子どもたちもいるようです。いじめ、虐待、ブラック校則など、マスメディアを通して入ってくる数々の子どもたちの問題に大変興味を持ちました。改めて子どもたちの人権について考えていきたいと思います。
まずは、子どもに対する体罰について過去から現在の流れをご紹介しながら、なぜ今、懲戒権削除が要請されているかを皆さんに問いていきたいと思います。
懲戒権とは
親の子どもに対する懲戒権は、基本的親子関係について定める民法に規定されています。その規定は、民法の一部改正(平成23年法律第61号、平成24年4月施行)により、次のようになっています。
第820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
第822条(懲戒)
親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
懲戒権の歴史
日本の民法は、明治時代、主にフランスのナポレオン民法とドイツの民法をもとに編纂されました。
民法は懲戒方法を具体的には定めていません。しかし、最も詳細な民法注釈書である新版注釈民法では以下の方法が示されています。
「しかる・なぐる・ひねる・しばる・押入に入れる・蔵に入れる・禁食せしめるなど 適宜の手段 を用 いてよいであろう」
そして、明治民法では懲罰によって誤って子を死なせても親は罪に問われませんでした。
このような歴史的背景があります。
民法820条
改正により、820条に
「子の利益のため」という言葉が挿入されます。そこが評価されるところですが、しかし、
監護教育上「子の利益のため」であれば、なおも暴力の使用を認める余地を残しています。
「子の利益のため」である教育的な懲戒と、非教育的な暴力と虐待は区別されることになります。
けれども、本当に「子の利益のため」の教育的な体罰と非教育的な暴力と虐待は、はっきりと区別できるものでしょうか?
体罰はエスカレートするものです。
軽く叩くことが、子どもの成長とともにだんだんと強くなり、そして、殴ることへと繋がります。子どもへの激しい暴力で有罪になった親は、虐待ははじめ「普通の」体罰だったと説明することがよくあります。
伝統的な子育ての源流にこのような歴史があり、その精神は現在まで続いています。このままの暴力を容認した子育てを行っていってよいのでしょうか。
しかも、男女間の暴力は家庭内でも罰せられるのに、なぜ、幼い子どもに対する暴力は肯定されるのでしょうか。
日本が世界で59番目の体罰全面禁止国へ
今回の改正では、児童虐待防止法14条1項において、親権者による体罰の禁止が新たに規定されました。また児童福祉法33条の2の2項及び47条3項のそれぞれにおいて、児童相談所長、児童福祉施設の長、ファミリーホーム養育者、里親による体罰禁止が盛り込まれました。
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2017年に実施した調査において、日本に住む大人2万人のうち、約6割が子どもに対する体罰を容認している実態がありました。
このように日本社会では体罰が広く容認されています。法律により、明確に体罰を禁止した意義はとても大きいと考えます。
改正法をめぐっては、体罰を加えた場合の罰則がないことに「実効性がないのでは」との意見も出ていました。また、一方で「罰則は親や養育者を追い詰めることにもなりかねない」との指摘もあります。
「スウェーデンやフィンランド、ドイツなど罰則がない国でも、国民の意識や行動を変える成果が出ている。他国の長期的な取り組みに学びつつ、国が定期的に意識や行動の変化を調査する必要もある」という意見も出ています。
懲戒権の削除要請
日本は国際的に体罰全面禁止国として認められましたが、しかし、民法の懲戒権は依然として残り続けています。
そこで、2021年5月26日 日本ユニセフ協会は、民法の「懲戒権」に関する規定(822条)が削除されるよう、法務省に対して意見書を提出しました。
1.民法第822条「懲戒権」に関する規定の削除
弊協会は、法制審議会が2010年に児童虐待防止のための親権制度の見直しをされた際、貴省に対し、民法第822条「懲戒権」規定の削除を求める意見書(添付「協会22A D第5号」)を提出しております.本年2月に公示された「民法(親子法制)等の改正に関する中間試案」では、本件に関する見直し案として、第822条を維持する2案(乙・丙案)と並び、「民法第822条を削除する」(甲案)が提示されましたが、当協会は、協22AD第5号要望のとおり、ここにあらためて民法第822条(懲戒)の削除を求めます。
2.子どもの最善の利益の確保
「民法(親子法制)等の改正に関する中間試案」で提示された嫡出の推定等の規定の見直しについては、子の人権が最優先に確保される形で実現されることを要望します。
残された問題
国内法では、少年院法など体罰を明確に禁じていない法律もあります。
終わりに
日本の民法はフランスのナポレオン民法とドイツ民法を参照して編纂されましたが、これらの国ではすでに懲戒の定めは取り除かれています。
懲戒は、教育的は懲戒と非教育的な暴力あるいは虐待と区別されてきました。
近代社会は子どもに対する力の行使から暴力を排除しようとしました。懲戒が教育的な行為として理解されてきたからこそ、子どもに対する力の行使は子どもの利益を守るものとして肯定され続けてきました。
子どもに対する力の行使の否定ではなく、国家的な規制によって、親の権力を教育の枠内において限定的に使用させ、それによって国家の秩序維持を図ったのです。
現在でも、その伝統は受け継がれ、体罰はしつけの一環として広く容認されているのが現状です。
法律で体罰を禁止し、しつけのためと許されなくなったのは、一歩前進したと思います。
「国の姿勢を定め、法律を変える。言い訳をなくし、国民の意識を変える。そして、現状を変える。」
子どもに対するありとあらゆる暴力についてこのように変化させる必要があると感じます。
皆さんは、子どもたちの人権についてどのように考えますか?
2023年5月追記。
上記のポスターにより、
○懲戒権に関する規定を削除しました。
○子を監護・教育するに当たっての義務を明確にする規定を設けました。
・子の人格の尊重
・子の年齢や発達の程度への配慮
・体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動の禁止
このように改正されました。
参考サイト
親の懲戒権の歴史-近 代日本における懲戒権の 「教育化」過程
民法「懲戒権」規定の削除を求める意見書を提出 日本ユニセフ協会からのお知らせ
セーブ・ザ・チルドレン共同声明 日本が世界で59番目の体罰全面禁止国へ 虐待や体罰等の子どもに対する暴力のない社会を実現するために
「しつけ」でもダメ!4月から体罰は法律で禁止されました 世界で59番目 子供への暴力のない社会へ、意義と課題は
noteでも書いています。よかったら、読んでみてください。
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