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はじめに
ジェネリック医薬品メーカーの不祥事が相次いでいます。主に、「小林化工」「日医工」の不祥事にポイントを絞って、日本のジェリックメーカーに何が起きているのかご説明したいと思います。
小林化工「イトラコナゾール」睡眠導入薬混入
2020年12月、小林化工が製造販売した水虫などの感染症治療薬「イトラコナゾール」に睡眠導入薬を混入させる前代未聞の事件が発覚しました。
混入は厚生労働省が承認を得ていない「原薬の継ぎ足し」という工程で、原料を取り違えたのが一因であり、加えて、本来なら2人で行うべき作業を1人で行い、ダブルチェックが機能しなかったのも理由に挙げられています。
同剤を処方されたのは344人、3月8日時点で245人に健康被害が出ており、この中には、車の運転中に意識を失うなどして事故を起こした人が38人おり、服用した80代男性と70代女性の2人が死亡しました。
福井県から21年2月9日、製薬会社としては過去最長となる116日間の業務停止と業務改善命令を受けました。その後、医薬品の承認申請書類の虚偽記載なども明らかになり同年4月、厚労省から12製品の承認取り消しと業務改善命令を受けました。
小林化工は自力再建を断念。工場の譲渡金を原資に今後、被害者への補償や、流通するすべての自社製品の自主回収を行い、補償は大半が終わっているとしており、今後、清算・廃業に向かう模様です。
日医工 業務停止命令
日医工業務停止命令2016年以降、
不正製造で製薬企業に行政処分が下る事案は頻繁に起きています。
2020年12月の小林化工に続き、2021年3月にはジェネリック業界最大手の日医工に業務停止命令が下されました。
同社は、10年ほど前から品質試験で「不適合品」となった製品を、「適合品」となるように不正な処理をして出荷していて、その上品質管理体制に不備があることがPMDA(医薬品医療機器総合機構)などの立ち入り調査をきっかけに発覚しました。
これを受けて、同年4月から今年1月中旬にかけて同社は75品目を自主回収しました。
ずさんな状況の背景
このあまりにもずさんな状況の背後には、2015年に政府が掲げた、市場拡大目標である「ジェネリックの普及率を80%」という数字の影響が大きかったとみられています。
メーカー間の競争が激化した結果、市場の圧力に耐え切れず供給を優先した結果、小林化工や日医工は品質をおろそかにしてしまったと推察されます。
とはいえ、他のメーカーが努力している以上、言い訳にはなりません。
最大の原因は両社の企業モラルの欠如と言えると思います。
それ以前の制度では、製造工場を持つことが医薬品販売業者に義務付けられていたのですが、 外部業者に全ての製造工程を委託することができるように制度が改正され、販売と製造を販売業者は完全に分離することができるようになりました。
結果的に、自社工場を持つ必要がなくなり、販売だけに専念することができるようになったことで大幅なコストカットになり、 200社以上ものジェネリックメーカーが新たに設立されることになりました。 市場は一気に拡大しましたが、 そのほとんどは工場を持たない販売業者でした。 この薬事法改正を機に市場は拡大し市場競争は激化し、小林化工や日医工のような自社工場を抱えている企業にその影響が出てしまいました。
2021年現在、目標80%はほとんど達成され、次なる目標を政府は立てているようですが、これ以上を目指すよりも80%を保ちつつ、品質改善に重点を置くべきです。加えて、メーカーを監督指導する行政の体制にも問題はあります。 両社には県の立ち入り調査が入っていましたが、不正を見抜くことはできませんでした。偽資料を作成してごまかしていたのです。
一般企業でも監査法人がごまかされることが多々ありますが、その不正を見抜くのが監査法人の仕事なはずです。 ジェネリック医薬品メーカーへの調査の場合、県の監査法人の数が少ないことも問題ですが、スキルの向上も必要です。
今後への提案
今後必要だと考えることとして、以下のことを提案します。
第一に、抜き打ち検査の回数を増やし、同時に監視員の技術も向上させること。
第二に、『一斉監視指導』を増やし、既に使用されているジェネリック医薬品の再試験をすること。 現在各都道府県の試験場で年間900品目のジェネリック医薬品が承認時と同じ試験を受けて品質を確かめられています。 この試験の結果、回収につながっている例もあるので、この試験の頻度を増やすことは有効だと思われます。
第三として、『患者の声』を届けること。 医薬品の副作用が疑われる事態が発生した場合、PMDAの相談窓口に積極的に報告するのがよいでしょう。 日本は世界一ユーザーが厳しいので、医薬品の品質・安全性の向上に貢献できると思います。
第1次安倍内閣の「骨太方針」ジェネリック医薬品のシェアが8割に
ジェネリック医薬品は、特許の切れた先発薬と同等の成分や薬効を持ちながら、開発費を抑える分だけ安く供給できる医薬品です。 患者の費用負担や国の医療費を減らすとされています。
国内でのシェア最初こそ低調でしたが、第1次安倍内閣時に示された「骨太方針」の中でシェアの目標数値が盛り込まれました。 厚生労働省によると、ジェネリック医薬品が占める割合は、2011年はの4割から、2020年には約8割になり、小林化工もそれに呼応して業績を伸ばしました。
19年度は約370億円を売り上げた一方、品質管理に必要な人材が不足しました。「国の施策に応えるべく工場を積極的に建てました。ただ、それに教育や人的なインフラが追いつかなかった」と引責辞任した小林広幸社長は悔やみました。 19年度の売り上げ約1900億円を誇った日医工の田村友一社長も法令違反を公表した3月、「拡大の中で現場に無理をさせすぎた」と認めました。
「不健全な企業文化」
去年10月に発表した検証結果では、「小林化工」や「日医工」の問題が起きた要因の1つとして「不健全な企業文化」があったとして次のように指摘しています。
「上位者の指示は絶対であって下からの問題提起が許されない風土」
「経営者は従業員を管理の対象としか考えておらず、育成の対象と考えていなかった」
現場からもこのような声が上がっていました。
メーカー関係者A
品質を管理する部門の人材が足りないのに『数を作れ』という指示ばかりで適切な製造の知識がない。風通しも悪く現場が問題を報告しても黙殺されてしまう。
メーカー関係者B
中小メーカーで設備投資ができず、給与が安くて人材が定着しない。現場のモチベーションが低く、承認された手順を飛ばしたりミスや事故が起きてもうやむやで終わらせてしまうことがあった。
製薬業界団体の品質委員会の委員長を務めた熊本保健科学大学の蛭田修特命教授への取材によると、
「安全性が認められた手順を守って製造するのは当たり前のことなのに、想像以上に違反が多い。さらに自主的にミスを申し出たメーカーが少ない。患者が直接服用する薬を製造するためであるのにあってはならないことだ」と指摘しています。
「問われる経営者のモラル」
2016年、熊本市の製薬メーカー「化血研」が当時としては過去最長の110日間の業務停止命令を受けました。国の承認と異なる方法で血液製剤などを製造し、組織的に隠蔽していたからです。
その際に、厚生労働省はメーカー各社に自己点検を求めましたが、7割余りのメーカーから軽微な手続きの遅れなどが報告された一方で、今回相次いで発覚している「10年以上前から」とされる不正は申告されませんでした。
このような事態を深刻に受けとめ、うみを出し切るために、メーカーや業界自身の立て直しが徹底して行われることが、今後の信頼回復への課題になります。
「不適切な製造は会社の存続に関わるリスクだ」と学習したはずなのにまだ隠していたというのは、経営者のモラルの低さが大きな問題になると思います。
適切な製造は多くの会社で実践できています。経営と共に両立できるはずです。
今回、次々と悪質な不正が発覚したジェネリックメーカーは、国の改定でどんどん薬の価格が下げられているので経営的に厳しい側面は確かにあると思います。
けれども、企業の組織文化を根本から見直し、経営者が先頭に立って不正を許さない意識を現場に浸透させていかなければいけないとこの問題は解決しないと思います。
まとめ
国の方針で医療費の削減のためにジェネリック医薬品を早急に製造させていました。しかし、工場の数が足りず、工場を増やしたとしても、それの品質を管理する人材を育てなかったため、大規模な不正を起こして誤魔化していた実態が浮かび上がりました。
私も通常服用している薬が手に入らず、眠れないなどの支障が起きました。ましてや、血圧を下げる薬など、命に関わる薬が手に入らず、深刻な影響を受けている方もいらっしゃいます。
健全な企業への早急な立て直しを望みます。
参考サイト
不祥事に揺れた1年…後発品 供給不安で市場混乱|製薬業界 回顧2021(1)
ジェネリック不正製造事件が浮き彫りにした、医薬品製造の「構造的課題」
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noteでも書いています。よかったら、読んでみてください。
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