日本は同性愛者に寛容というのは本当か?【書評】同性愛と異性愛

本の紹介『同性愛と異性愛』

1.この本を手に取ったきっかけ

 当サイト「AKARI」で、最近、LGBTに関する記事をいろいろと書いていましたが、その過程でこの本に出会いました。

 近年、少なくとも1990年代以降、同性愛者の手記やリポート、生活のためのガイドブックから難解な理論書や学術研究書にいたるまで、同性愛について数々の書物が出版され流通するようになってきている。いずれも同性愛者の声や生活の息吹、あるいはそのなかで直面するさまざまな問題を浮かび上がらせ、またそうした問題に対する対処法や解決策を教えてくれたり、同性愛をめぐるあらたな考え方や意味を提示してくれるものである。

 そうした類の書物は、同性愛の当事者や同性愛について深く知りたいという読者にとってはアクセス可能であり、また専門的かつ学問的な知的関心を満たしてくれるものとなるだろう。しかし、他方で、これまで日本社会で同性愛をめぐってどのような問題が生じ、どのような歴史的変遷を経てきたについてまとめられている本はあまりなかったように思われる。

 私たちは、同性愛の問題を同性愛者のなかだけで考えるのではなく、社会に広く、まさに異性愛者も含めて、異性愛の社会あるいは異性愛の人々の問題と関連づけて問いかけてみたいのだ。「同性愛と異性愛」というタイトルは、私たちのこのような問題意識も含まれる。

という作者の問いかけに引き付けられました。

2.こんな人にオススメ

 LGBT当事者はもちろん、LGBTをめぐる実情について詳しく知りたい方にオススメです。

3.日本は「寛容」か

 日本は同性愛に寛容であると言われています。男色文化の伝統があること、欧米に根強い宗教的な罪悪観念が希薄であること、法による禁止がほとんどなかったこと、(男性)同性愛者であることをほのめかしたり、名乗ったりする文化人や芸能人が多いことなどが、その背景にあるかもしれませんが、実際のところはどうでしょうか。

 日本において、男色と同性愛はしばしば区別なく論じられてきました。しかし著者は、これらは全く違うと論じているのです。

 男色とは、古代までさかのぼることができるものであり、男性間の単なる性的関係ではなく、「成人前の年下の男性」と「成人した男性」との間の、「年齢差をともなう」、「対等ではない」関係であって、現代の同性愛とは異なっていると、著者は指摘しています。

 江戸時代に男色がもっとも活況を呈したのは、17世紀のことです。男色を取り上げた書物が急激に増加し、武士だけでなく、庶民にも広まるようになりました。歌舞伎や茶屋では、少年たちによる売春がひとつの風俗としての地位を確立していました。

 しかし、こうした事実から、江戸時代において男色が全面的に受け入れられてきたわけではないといいます。アメリカの歴史学者グレゴリー・フルーグフェルダーによれば、江戸時代は、男色が広まっていく一方で、男色を取り締まる法がそれまでのどの時代よりも生み出された時代であったからです。

 今でいう刑事法にあたる公事方御定書(1742年)という幕府の法典に、男性間、女性間の性愛に関しての特別な言及はなかったものの、町人に対する通達を記した御触書と呼ばれる法的文書で、幕府はしばしば男色について触れ、取り締まろうとしていたからです。

 ただし、幕府による男色規制は、欧米のような男性間性的接触そのものを違法なものとして取り締まることを目的としてはいませんでした。むしろ、男色を通して江戸時代に繁盛した茶屋や歌舞伎を舞台にした売春が町人にふさわしい美徳を失わせ、それが幕府による統治の妨げになると考えられていたからでした。また、武士における男色は、家臣どうしが親密に結びつくことによって、「主君」と「家臣」という上下関係に対する脅威になるともみなされていました。

4.辞書と同性愛

 本書には次のような記述があります。時事用語辞典『イミダス』(1990年版、集英社発行)の「同性愛」の項目には、「解剖学的に自分と同じ性に対するエロチックな反応のこと」と同性愛を定義したうえで、「男性ホモの場合は強迫的で反復性のある肉体関係がつきまとい、対象を変えることが多い」と記されていたのです。

 まだ、1990年当時、辞書ですらこのような見方をしていたのです。

5.同性愛者も生きやすい社会は異性愛者も生きやすい

 本書の、次のような記述に感動しました。

 同性愛者として生きることが肯定されることは、異性愛を含めた性的指向が平等なものと考えられ、性が多様なものとして認められているということだろう。そうした社会では、男女が結婚し子どもをもつことを当然とする結婚・生殖イデオロギーや、「男らしさ」「女らしさ」をつねに求めるジェンダー規範が強制されることはなくなっていくはずである。

 「男らしさ」「女らしさ」から外れたとみなされる言動をとったときに、「ホモ」「オカマ」「レズ」といった言葉で嘲笑される。生殖に結びつかないことを理由に同性愛を非難する。こうしたことからもわかるように、結婚・生殖イデオロギーやジェンダー規範は、ホモフォビア(注・同性愛、または同性愛者に対する恐怖感・嫌悪感・拒絶・偏見する見方)とは切り離せないものである。

 したがって、同性愛者がホモフォビアに直面せずに生きられる社会では、異性愛者たちもまた、性にかかわるさまざまな規範や拘束からより自由になり。個々の性や生き方の多様さが尊重されることになると私たちは考えている。

 

 性の多様性を認め合える社会とは、異性愛者が「認める側」で、性的マイノリティが「認められる側」にあるのではない。互いの性のあり方が異なっていること、そしてそれが変わりうることを前提に、性の差異を承認し合える社会なのではないだろうか。

6.同性愛をめぐる「過去」と「現在」と「未来」

 この本は、1980年代以降の、同性愛をめぐる日本での出来事を主に振り返っています。1980年ごろと比べると、同性愛をめぐる状況や環境は大きく変化しています。インターネットを通じて国内外の情報入手は簡単にできるようになり、コミュニティに根差したNGO/NPO活動、レズビアンやゲイを含む性的マイノリティを扱った映画祭やパレードなの文化活動、大学の授業で性的マイノリティが取り上げられることも珍しいことではなくなりました。

 こうした変化の一方で、ほんの20年~30年前の出来事がある世代を境に知られることもなく、また何を意味しているのか振り返られることもなく、埋もれようとしていると著者は指摘します、本書は同性愛者の「過去」を知り、「現在」を考え、「未来」を創造するために書かれました。

7.関連する書籍

 『LGBTを読み解く:クィア・スタディーズ入門は、LGBTの入門書として、多様な性のあり方を知ることができる書籍です。『LGBTを知る』はLGBTの理解を深めるとともに、企業がLGBTについて社内外で取り組むべきことまで、丁寧に解説してあります。

  参考

風間孝・河口和也(2010)『同性愛と異性愛』岩波書店.

森山至貴(2017)『LGBTを読み解く:クィア・スタディーズ入門』筑摩書房.

森永貴彦(2018)『LGBTを知る』日本経済新聞出版社.

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