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こんにちは、翼祈(たすき)です。
腸チフスとは、サルモネラ属のチフス菌に感染したことによる感染症です。口からヒトに移る病気ですが、下痢はほとんど見受けられません。チフス菌が腸に入った後、血液中などに侵入するのが大きな特徴です。ごく少量のチフス菌によって、腸チフスに感染する場合もあります。
世界では毎年発展途上国を中心に、およそ1100万~2100万人が感染していると推計されています。日本では毎年30~60例の患者が報告されていて、その多くが海外での感染ケースです。その80%が海外からの感染ケースですが、日本での感染ケースも20%ほどあることから、油断はできません。
腹痛や下痢といったお腹の感染症だけではなく、発熱だけで感染する場合も多く、薄い発疹が現れることもあります。診断、治療をしないと重症化する時があって、その15%で死に至ります。抗菌薬で適切な治療を施せば死亡率は1%以下です。
今回は2023年8月に起きた国立感染症研究所の研究者の感染の話や、症状などを細かくまとめていきたいと思います。
研究者1人がチフス菌に感染
2023年8月18日、国立感染症研究所は、東京都新宿区にある戸山庁舎でチフス菌を触っていた研究者1人がチフス菌に感染し、腸チフスに感染したと明らかにしました。この研究者は仕事でチフス菌を触っていたということで、現在、保健所が腸チフスの感染経路の調査を実施しています。
国立感染症研究所はチフス菌の扱い方が正しかったかどうか「確認中」ということです。
国立感染症研究所によると、腸チフスに感染したのは、チフス菌の治療法の研究や予防法、検査などの仕事を担当していた研究者です。
この研究者は、2023年8月11日に腹痛や発熱の症状を訴えて病院を受診するとそのまま入院し、8月15日に腸チフスと診断を受けました。現在も腹痛や発熱などの症状が持続しているといいますが、命に別条はないということです。
国立感染症研究所は、研究者が使ったと思われるトイレや実験室などを消毒し、現時点でそれ以外の感染者は居なくて、体調不良を訴えている人はいません。
「腸チフス」は世界では毎年2690万人が感染すると推定され、経口感染でヒトのみに感染します。感染者の便に汚染された食べ物や水、氷を通して移り、特に東南アジアや南アジアでの感染者が多く、衛生水準が良くない国で流行ります。
日本では近年、「腸チフス」の感染ケースは数十例で推移し、そのほとんどが流行している地域への旅行者によるものでした。
その反面、海外渡航歴のない感染者も毎年確認されていて、その昔飲食店でのチフス菌への集団感染が発生したこともあります。
研究者は直近で海外への渡航歴はなく、現在保健所が感染経路を特定するための調査を実施しています。チフス菌を触る中で感染した恐れも考えられますが、その研究者から聞き取りができておらず、研究者の体調の回復を待ちながら詳細な聞き取りをするということです。
参考:“研究者がチフス菌に感染し腸チフス発症” 国立感染症研究所 NHK NEWS WEB(2023年)
感染症法上は[コレラ]や[細菌性赤痢]と同じ「3類感染症」扱いで、感染者を診断した医師は、速やかに保健所を介して都道府県知事への届け出が義務付けられています。
国立感染症研究所は「保健所の腸チフスの感染経路の特定に協力し、実験室での病原体の扱い方などに問題があるとすれば、再発防止策を検討することにします」と発表しています。
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チフス菌感染は実験室内か 国立感染症研究所が調査結果を発表 NHK NEWS WEB(2023年)
感染研職員の腸チフス発症、感染場所は「実験室内」と結論…二次感染は確認されず 読売新聞(2023年)
▽症状
7~14日の潜伏期間を経て、38~40℃の長引く発熱が起こり、1日の中で体温の変化1℃以内という熱型の稽留熱(けいりゅうねつ)が引き起こされます。発熱では頭痛、寒気、身体のだるさなどを伴います。一般的な食中毒に近い下痢、全身倦怠感、食欲不振、吐き気、腹痛、嘔吐といった症状が現れますが、便秘気味になる症例も多く見受けられます。
他、チフス性疾患の三徴である、高熱に対して脈拍が少ない比較的徐脈、ピンク色の発疹が胸や背中、お腹に出現する特徴的なバラの花の様に見える発疹であるバラ疹、脾臓が腫れる脾腫
の全部が現われる頻度はあまりなく、腹痛や下痢などの消化器症状も分かりにくいこともあります。そのことで、輸入感染症として代表的なデング熱やマラリアなどと初期症状が類似しているので、渡航先や潜伏期間を考えた上で感染時は常時鑑別をする必要性もあります。
他に、急性期の白血球減少(3,000/mm3近くなるまで低下)や軽度の肝機能(AST、LDH、ALT)の上昇が見受けられます。
▽合併症
重症したケースでは難聴や意識障害に達することもあって、解熱し始める頃に腸内出血や腸穿孔を発症することで知られています。
腸チフスは腸管の症状よりも、むしろ全身の至る場所での症状が中心となり敗血症を発症する場合が多く、血液からチフス菌が分離されることがよくあります。およそ5%に髄膜炎・脳炎などの合併症も発症すると言われています。
典型的な経過では、治癒するまでに約4週間要します。
無症状であってもチフス菌を持った状態、つまり無症状病原体保有者の多くが胆嚢内保菌者で、慢性胆嚢炎や胆石保有者に合併するケースが多く、チフス菌の永続保菌者となるケースが多いとします。
▽腸チフスの感染が多い国
腸チフスは世界中で見受けられる感染症ですが、特に南アジアでは他の地域の6から30倍のハイリスクがあります。
日本を除いた東アジア、東南アジア、南アジア、インド亜大陸、中東、東欧、中南米、アフリカ、カリブ海中央および南アメリカなどに広く分布していて、途上国に多く見受けられます。
特に腸チフスの感染者が多いのがインド、パキスタン、バングラデシュというインド亜大陸地域です。 特に、バングラデシュでは、治療が困難なので、渡航前に事前のワクチン接種が必須です。
▽診断基準
診断は、血液や胆汁、骨髄、便、尿などの培養によるチフス菌の検出です。
血液検査での所見にも特異的なものがなくても、軽度の肝機能異常、LDH値上昇、CRP値上昇、好酸球消失所見などが見受けられ、CTや超音波検査で脾腫や回盲部の腫脹などの所見が見受けれれればチフス性疾患の可能性も考えられます。
正しい診断、適切な抗菌薬治療が必要とされることもあって、腸チフスは輸入感染症診療経験を持つ感染症専門医の下での管理が望ましいといえます。そして、感染者を診断した医師は速やかに最寄りの保健所へと届け出なければなりません。
▽治療法
効果を持つ抗生物質を長い期間飲みます。チフス菌に効果がある抗菌薬を使うことで、症状を迅速に改善し、死亡リスクを下げていきます。
世界的に広く使われている抗菌薬は、フルオロキノロン系の抗生物質(そのほとんどがシプロフロキサシン)です。抗菌薬を先に飲んでしまうと血液検査の精度が落ちることもあって、海外旅行時や帰国した後の発熱での腸チフスを疑った時は、自己判断で抗菌薬を飲まずに適切な検査を受けることが重要です。
従来はニューキノロン系抗菌薬が第1選択薬として使用されていましたが、東南アジアや南アジアなどでは薬剤耐性菌を持つ腸チフスも多く報告されています。医師から処方された抗菌薬を、処方された期間分で正しく飲み続けることが必要となります。5~10%の人で再発が見受けられます。
▽予防策
・食べ物・水に注意しましょう!衛生面の整った宿泊先でも、水道水は飲用を推奨できません。
・生水、氷、生野菜、生肉、カットフルーツなどの喫食を避け、十分加熱調理してある飲食物を食べましょう。
・屋台など衛生状態が悪いエリアでの飲食はできる限り止めましょう。
・しっかりこまめに手を洗いましょう!
・野菜、魚介類などは加熱した食べ物を食べましょう。
・調理や食事の前、トイレの後には石けんと流水でこまめに手を洗いましょう。
▽ワクチン
ワクチン接種は腸チフスの有効な予防法となります。 日本で承認されている腸チフスワクチンは存在しないこともあって、輸入ワクチンを使います。ワクチンの効果が出るまでに最低2週間が必要なので、渡航する前の最低2週間でのワクチン接種が必要です。
また、生ワクチンもありますが、日本ではほとんど使われていません。
副反応で、注射部位の痛みや腫れ、発熱、施主部位の赤み、頭痛などの全身的な症状が出現する時があります。
1回の接種で十分な効果はありますが、2、3年経過すると効果が切れることもあって、再度ワクチンの接種が必要です。
輸入ワクチンなので、国内承認ワクチンに適応される「医薬品副作用被害救済制度」や、「予防接種健康被害救済制度」は適応されません。副反応などが起こり、被害が発生した時は輸入代理店などによる「輸入ワクチン副作用被害補償制度」の方が適応されます。
▽登園・登校の目安など
感染症法での位置付けは3類感染症となり、確定患者、無症状病原体保有者、疑似症患者、死亡者も併せて、腸チフスだと診断した医師は速やかに最寄りの保健所に届け出なければなりません。病原体を感染者が保有しなくなるまで、飲食物の製造、調整、販売または取り扱いの時には、飲食物に直接接触する仕事への就業は厳しく制限されます。
また学校保健安全法では第3種の感染症に定義されていて、学校医またはその他の医師から、感染の恐れがないと認められるまでは出席停止とされます。チフス菌からの食中毒が疑われた時は食品衛生法に基づいて、24時間以内に最寄りの保健所へと届け出なくてはなりません。
参考サイト
決して珍しい病気ではない
日本国内でも腸チフスは昭和初期から戦後にかけて代表的な感染症の1つでしたが、環境整備が実施され、衛生面の進展に伴い感染者数が減少しました。現在、日本の感染者は海外渡航での感染によって感染しますが、渡航歴のない人やチフス菌の食中毒事例が報告されていて、日本でもチフス菌の保菌者からの感染のケースもあります。
2014年8~9月、東京都内で国内ケースのチフス症の感染者の報告が増加したことで、保健所が感染経路の調査を実施すると、共通の飲食店が原因での感染であることが分かりました。本ケースは食品衛生法が1999年に改正され、チフス菌が食中毒起因菌に指定されて以降、初のチフス菌からの食中毒のケースとなりました。
先日の国立感染症研究所の研究者の方の腸チフスの感染は、恐らく扱っていたことからの感染だと思いますが、その約1ヵ月前には松山市で感染者が出るなど、終息した感染症ではないので、やはり毎年日本のどこかで感染した人が出ます。
もし海外出張などで流行している国に行く予定のある方は、ワクチンを接種して出国し、食べ物などを食べない様に気を付けないといけないなと感じました。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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