世界の米軍基地ドキュメンタリー映画『誰も知らない基地のこと』

米軍基地

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1.世界中の米軍基地を追ったドキュメンタリー映画『誰も知らない基地のこと』

 連日、国内のメディアを沖縄の問題が賑わせています。しかし、基地問題は沖縄、まして日本だけの問題ではありません。世界を見渡せば、約40ヵ国に700箇所以上の米軍基地が存在します。

 僕は今回、『誰も知らない基地のこと』という映画を観ました。本作は、2007年にイタリアで起こった米軍基地拡大への反対運動をきっかけに、イタリアの若手監督2人が世界中の米軍基地問題を追いかけるドキュメンタリー作品です。

 主な取材地は、ビチェンツァ、(イタリア)、ディエゴ・ガルシア島(インド洋)、普天間(沖縄)です。

 基地の騒音や兵士が起こす事件に苦しむ住民や各種の専門家への取材を通じ、戦後も今なお拡張を続けるアメリカの基地問題の深層を追っていくのがこの作品です。

2.増え続けるアメリカの軍事予算

 2009年のバラク・オバマ大統領の誕生で、新しい「平和への時代」の到来と人々は予感し熱狂、大統領はノーベル平和賞をも受賞しました。

 しかし、当選からわずか1年後、オバマ新政権の軍事予算は6800億ドルと発表、これはブッシュ政権時の国防費よりも300億ドルも多く、リーマン・ショック後の金融対策用に確保された7870億ドルに迫る勢いでした。そして、その予算の多くは世界中のアメリカの基地の維持に使われているのです。

3.米軍基地はアメリカの「帝国化」の象徴

 米軍が世界に展開している基地について、アメリカの作家で国際政治学者でもあるアメリカの作家で国際政治学者でもあるチャルマーズ・ジョンソンさんは、

 米軍基地は古代ヨーロッパに君臨したローマ帝国のような帝国化の象徴

だと語ります。

 第二次世界大戦後、アメリカによる基地帝国化は始まりました。アメリカ国防省の報告書によると、現在、世界38ヵ国に716の基地があり、25万の兵士が駐留し、世界110ヵ国に常備軍を保有しています。その中でも、ドイツ・イタリア・日本には、戦後70年以上たっても米軍が‟駐留”しています。

 その典型が沖縄です。1972年に日本に返還されるまでアメリカの統治は続き、現在でも38の基地があり、35000人の兵士が住んでるのです。

4.ディエゴ・ガルシア島では島の全員が基地建設のための追い出される

 インド洋に浮かぶディエゴ・ガルシア島では、この島に住んでいた島民全員が、基地建設のために追い出されました。

 アメリカアメリカ国防省によると、この島は世界戦略に必要な拠点であり、9.11テロ以降、重要な役割を担っているといいます。

 チャルマーズ・ジョンソンさんは続けます。

 かつて私はソ連を脅威だと思っていたし、アメリカを自国で守る権利があったと思う。考えが変わったのは1991年以後ソ連崩壊後だ。驚いたことにアメリカはすぐに新たな敵を探し出したのだ。中国、テロリスト、麻薬・・・。なんでも良かった

5.軍産複合体

 人類学者のキャサリン・ラッツさんはこう分析します。

 ほとんどの基地は戦争の産物です。戦利品であり、略奪品です。戦時中に奪われ、決して返還されないものです。そして基地には軍産複合体がからんでいることを忘れてはいけません。軍産複合体と呼ばれる、基地や武器関連を輸出する企業、つまり武器商人としての巨大企業が存在しているのです

 政治地理学者のゾルダン・グロスマンさんはこう考えます。

 基地を残すことが戦争の究極の目的なのです。基地はイラクのような土地に、半永久的に駐留する絶好の口実なのです

6.沖縄の実情

 そして沖縄の問題です。ベトナム戦争の退役軍人で、今は平和活動家のアレン・ネルソンさんは、沖縄で少女が米兵にレイプされた事件を聞き、衝撃を受けて日本へとやってきました。そこで初めて、沖縄に今も変わらず基地があることに驚きます。

 沖縄にとって米軍基地はガン細胞のようなものだ。米兵は世界最強の男になったような高揚感で町を歩いている。兵士は沖縄の文化などについて知識も無い。アメリカは自国内に他国の基地を置かれた経験が無いから、他国から迷惑をかえられたことが無いのだ。それが問題だ

 映画では、普天間基地に近い保育園である緑が丘保育園では、騒音やトラブルから子どもたちを守ろうとしていえる母親たちの苦悩が映し出されます。

 基地に対して激しく抵抗する住民や、静かに座り込むを続ける人たちなど、沖縄では今もなお‟占領軍”の爪痕が残っていることが映画の中で描かれるのです。

7.そしてイタリア

 そして、監督たちが米軍基地問題に取り組むきっかけともなった、イタリアの基地問題も映画では描かれます。2007年にアメリカがビチェンツァという街に基地建設の計画を発表しました。

 世界遺産にも登録されているこの美しいビチェンツァという街に、なぜ基地が必要なのか。当然のように住民は反発しました。選挙では、基地に関する住民投票を約束して、反対派のヴァリアーティ氏が当選しました。しかし、イタリア最高裁は住民投票を阻止してしまうのです。

8.撤退もありうる

 専門家によれば、米軍基地を受け入れるホスト国の政権交代があれば、米軍が自主的に、あるいは強制的に退去する確率は80%を超えます(フィリピン、イラン、フランス、韓国など)。現に政権交代によってアメリカ軍が撤退した国もありました。

 実現するか否かを左右する要因は複雑ですが、最近注目されているのが、アメリカ側の事情というよりもホスト国側の事情です。日本では、アメリカの影とは意図とかが喧伝されますが、何よりも受け入れ国である日本国政府の対応能力がまず問われているのです。

9.僕がこの映画を見て考えたこと

 僕がこの映画を見て思ったことは、まず、世界中でアメリカ軍の基地にまつわる問題が起きていることに驚きました。沖縄のような問題が、世界のあちらこちらで起こっているのです。

 そして、基地を持つ国全体で‟連帯”して「アメリカ軍の基地をどうにかしよう」と動かなければ、何も解決しないのだなと思いました。

 いつの時代も、強き者は傍若無人に振る舞い、弱き者はその支配下に置かれる。こういった状況があるのです。それは、障がい者もそうかもしれません。障がいを持っている人は、いつも惨めな立場に置かれやすいです。

 しかし、それに立ち向かうためには連帯が必要です。連帯といえば、とくにフランスで強く叫ばれる言葉だそうです。

 連帯とは、民主主義社会の核心部分です。小さい、弱き者でも連帯すれば、強き者にも立ち向かうことができ、困難を変えることができるかもしれません。

 その民主主義社会を実現するために、必要なことは、まずもって「真実を知ること、そしてそれを知らせること」です。その点で言えば、この映画は、世界中の知られざるアメリカ軍の基地問題を世界中に発信することに成功しました。

 そして、私たちAKARIにも、「これからも、もっと読者の皆さんによい情報を伝えたい」と思うような気持ちにさせてくれる映画が本作でした。

参考

ゴア・ヴィダル、ノーム・チョムスキー(出演)、エンリコ・パレンティ、トーマス・ファツィ(監督)(2012)『誰も知らない基地のこと』紀伊國屋書店.

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