LGBTのための法律や制度 性の多様性を考える 

性の多様性

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1.性同一性障害

 原則として日本では、生まれたときに役所に届け出ている戸籍に登録された性別を変更することができません。運転免許証やパスポートなどにも、戸籍上の性別が記載されています。しかし、髪形や服装などを自分が思う「心の性」に近づけているトランスジェンダーのの中には、空港や病院など公共の場で、戸籍上の性別で扱われることにとまどいを受ける人もいます。

 そこで、2004年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(性同一性障害特例法)が施行されたのです。これは、戸籍に記載されている性別を、「心の性」と同じ性別に変更することを認めるための法律です。

 だからといって、誰でも自由に性別を変更できるわけではありません。性別を変えるためには、次のような要件を満たしたうえで、家庭裁判所の審判を受けなければなりません。

・20歳以上であること

・現在、結婚していないこと

・現在、未成年の子どもがいないこと

・生殖腺(卵巣や精巣)がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態であること

・望んでいる性の性器に近い外観をそなえていること

・性同一性障害についての知識や診断経験のある医師二人以上から、「性同一性障害」と診断されていること

 とくに手術によって生物学的な「体の性」を変更する必要があるため、体を傷つけたくない人にとっては、極めてハードルが高い状態です。

2.セクシャリティ

 私たち人間のセクシャリティ(性のあり方)を構成する主な要素は、身体的な生物学的性、心理的性別であるジェンダー・アイデンティティ、性的魅力を感じる対象(異性愛・同性愛・両性愛)、社会的な性役割(男らしさ・女らしさ)などがあります。

 このなかで、生物学的性とジェンダー・アイデンティティが一致しないため苦悩している状態のことを、医学的疾患として「性同一性障害」と判断します。

 性同一性障害に悩む人は、以前から存在はしていました。しかし、1998年に埼玉医科大学が公に知られる形で性別適合手術(性転換手術)を行ったころから、社会的な関心が急速に高まってきました。それにともない、医療機関で受診する人も増えてきました。

 現在の日本では、性同一性障害特例法以外で、LGBTの権利と直接、関連する法律はありません。

 たとえば、日本には同性同士の婚姻を認める法律はありません。また、刑法の強姦罪は男性が加害者で、女性が被害者の場合でないと適用されないほか、パートナーからの暴力に対して保護を受けるための「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(DV防止法)も、婚姻関係がないと適用されにくい状態です。

 しかし、2017年7月、強姦罪を「強制性交等罪」に変更し、女性から男性に対して、あるいは同性間にも適用できるよう改正された刑法が施行されるなど、LGBTのための法律改正の動きも見られるようになりました。

 日本国憲法第24条1項には、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有する」と明記されています。また、夫婦や家族について定めた民法や戸籍法に関する項目にも、「夫婦」や「夫」「妻」という言葉が出てきます。つまり、「両性」や「夫婦」は、従来から「男性と女性」と考えられてきました。

 このように、現在の日本では異性同士の結婚を想定した法律しかなく、同性カップルは、まだ法律上のうえでは夫婦になることはできません。

 法律上の夫婦になれないと、健康保険や税金、遺産相続などで不利な扱いを受けるので、同性カップルの中には養子縁組(血の繋がっていない人同士が、一定の手続きを経て法律上の親子となること)をして、法律上の家族になろうとする人もいます。

3.同性カップルにとって困難なことの例

・財産の法的な相続権がない(遺言書で相続させることは可能)

・配偶者控除など、税金の控除が受けられない

・健康保険の被扶養者になることができない(別々に保険に加入しないといけない)

・カップル名義で家や土地、自動車などを購入できない場合が多い(どちらかの名義でないとローンが組めない)

・家族向けの公営住宅(市営住宅、都営住宅など)に入居できない(認める自治体もある)

・どちらかを受取人とする生命保険に加入できない(認める自治体もある)

・どちらかが病院に入院したとき、面会できない(認める病院もある)

 日本では現在、国として同性婚を認めるところまでは進んでいません。しかし、地方自治体の中にはそれぞれ対応を始めたところもあります。

 2017年6月現在、日本では6つの自治体で、届け出た同性カップルに、「パートナーシップ証明書」などを発行し、同性カップルを法律上の夫婦に相当する関係として認める制度を導入したりもしています。

 この制度には強制力はなく、法律上の婚姻と全く同じ権利を受けることができるわけではありませんが、各自治体が同性カップルの存在を受け入れることで、同性カップルが少しでも暮らしやすくなり、住民の理解も少しずつですが広がっていくのかもしれません。

4.同性カップルに関する制度を持つ自治体

・条例を制定し、「パートナーシップ証明書」を発行し、住民や事業者に対し、協力への「努力義務」を課す自治体

[東京都渋谷区(2015年より)]

・「パートナーシップ宣誓受領証」の発行を開始した自治体(条例ではない)

[東京都世田谷区(2015年より)]
[兵庫県宝塚市、三重県伊賀市、沖縄県那覇市(2016年より)]
[北海道札幌市(2017年6月より)]

 現在でも、日本ではLGBTに対する偏見や差別が残っています。そこで、国会議員や政党などの間で、LGBTにとって困難な状況を改善するための法律を制定しようとする動きがあります。

 具体的には、行政機関や事業者が差別的な取り扱いをすることを禁止し、職場でのハラスメント(いやがらせ)や学校でのいじめなどを防止するための取り組みなどが検討されています。

 LGBTが少しでも幸せに生きることができるための取り組みが、少しずつではありますが始まっているのです。

     参考

 藤井ひろみ(2017)『よくわかるLGBT 多様な「性」を理解しよう』PHP研究所.

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