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1.保育園に入所させるには
保育所の利用者の多くは、認可保育所に最も入りやすい、年度初めの4月の入所を目指します。そのためには、前年の10月から翌年1月ごろまでに、親が就労していて家で育児できないといった、「保育の必要性の認定」を受け、入所申し込みをする必要性があります。
そうすると翌年の1月末から2月には入所できるかどうかの結果が分かります。この時に入れなかった子どもが、待機児童ということになります。
保育の必要性を認定されるには、「家庭状況届」という書類を提出し、両親の就労状況などを示さなければなりません。子育てを手伝ってくれる人が家庭内にいないか、祖父母などのほかの同居家族の有無も記入します。
さらに、本当に就労している証明のために、勤務先からの就労証明書も必要です。雇用主である事業所側が責任を持って正確な就労状況を記入することが求められます。また、必要に応じて、自治体から実態把握のために勤務先に電話をすることもあります。就労状況を偽造している、就労時間を実態より長く書いている、というこもありうるからです。
役所には、「友人の会社に就労証明書を偽造してもらっているのではないか」とか、「あの人は、実際は働いていない」といった苦情が頻繁に寄せられると言います。
そうした入所への書類の準備だけでも保護者は大変ですが、自分の子どもを預ける保育所を選ぶのだから、当然、見学が必要になってきます。さらに、待機児童が多い地域では、認可保育所に入れなかったら、当然、認可外保育所の見学や申し込みも準備しなくてはなりません。これは認可の申し込みより早くから準備が必要だそうです。
「妊娠がわかったら、すぐに保育所探し」は、激戦区では当たり前のことになっています。ゆっくり妊娠を喜んでいる暇はないのが実情です。
自治体によって保育所入所判定の基準や方法、優先順位づけの考え方が異なるため、子育ての先輩のアドバイスをそのまま受け取ることは危険です。親は申し込む自治体の書類を読み込み、どうすれば入所確率を上げられるか理解する必要があります。
ただし、保育園入所が大変なのは待機児童のいる都市部だけです。多くの地方では、保育所に入るのにこんなに苦労しません。特定の地域だけの問題ともいえますが、それでも多くの人に関わる問題であることは確かです。
なぜなら、2015年の国勢調査によると、東京・千葉・埼玉・神奈川の4都県に、日本の人口の約3割弱が住んでおり、さらには全国の政令指定都市や県庁所在地に若い子育て世代が集中しているからです。
2.認可の保育料
認可保育所には公費の補助が入っています。認可保育所を利用する場合には、応能負担といって世帯の負担できる能力、すなわち世帯の所得に応じて保育料が決まります。つまり、所得の低い世帯は安く、高い世帯は高い保育料を支払うことになります。
具体的には前年度の住民税所得割課税額に応じて保育料が算定され、自治体は国の基準以上に保育料を貸してはいけないことになっています(住民税所得課税額とは、住民税のうち前年度の収入に応じて課税されるものです)。
さらに国の基準によると保育料は3歳未満と3歳以上で異なっており、3歳未満の保育は人手がかかるため高くなっています。
また2015年度より保育の利用時間によって、保育標準時間と保育短時間に分けられ、保育料が異なるようになりました。保育標準時間とは、保護者がおおむね1ヵ月120時間以上の就労をしている場合で、1日11時間の保育が利用できます。保育短時間とは、保護者の就労時間が月120時間に満たない場合で、1日8時間までの保育が可能となっています。
保育標準時間と短時間に分けられたのは、保育を過剰に利用せず、必要なだけの利用を促しそうとしたと考えられます。しかし、利用できる保育時間には毎日3時間の差があるにもかかわらず、保育料はほとんど差がありません。もし保育短時間の保護者に残業する日があり、保育所へのお迎えが遅くなって、延長保育料を支払えば、あっという間に保育標準時間の保育料を超えてしまいます。
それなら誰もが、最初から保育標準時間で預けようとするでしょう。このようにに今の制度のままでは、機能しない制度となっています。
そして、この保育料はあくまでも国の基準であり、個々の自治体は国の基準を参考に独自の保育料を設定しています。多くの自治体が、子育て支援ということで、もっと細かい所得階層区分を導入し、保育料を国基準より低くしています。
たとえば、企業などが多く、税収が豊かな地域ほど、自治体が多くの公費補助を行い、保育料が安いです。一方で税収が少なく、財政力のない自治体はゆとりがないため、国基準に近い保育料を課しています。
財政破綻した夕張市は、国基準よりも細かい所得割課税額の区分で保育料を算定していますが、基本的には国と同じぐらいの保育料を課しています。
3.保育料をめぐる3つの論点
保育料をめぐってはさまざまな議論があります。待機児童がいるような都市部の自治体の多くは、保護者が負担している保育料は保育にかかる費用全体の2~3割程度であり、残りはすべて税金で賄われています。
特に低年齢児であったり、東京23区のように手厚い補助金を入れて保育士の人員を増やしながら保育料を安くしていると、保育料は全体の保育コストの1割程度しかカバーしていません。
杉並区の保育所入所案内を見ると、保育所の入所児童1人当たり平均で年間235万3000円の経費がかかってますが、保護者が負担する保育料は年間27万円であることが記載されています。裏を返せば、それだけ税金が投入する財政力がある、ということなのです。
これに絡んでは、3つの論点があります。
第1に、認可保育所を利用しない専業主婦や、認可外保育施設を利用している人からの不満についてです。認可保育所に入れた人だけに手厚い公費投入があるのはおかしい、という意見です。特に専業主婦の母親たちは孤立して、子育て負担感が重い人もおり、不公平感を持つ人が少なくありません。
また、待機児童の多い地域では、認可保育所に入所できるのは正社員のフルタイムの世帯ばかりになります。パートタイム勤務の人は労働時間や日数は少ないことから、保育の必要度が低いと見なされ、入所の優先順位が下がります。
ということは、所得の高いフルタイムの共働き世帯の子どもが認可に入り、所得の低いパートタイム世帯の子どもが、保育料の高い認可外に通うことになります。このことへの不満も多いといいます
第2には応能負担についてです。自治体はどこも財源不足であるため、「負担能力がある人には負担してもらおう」と考えるのは当たり前です。ですが、国の基準で見ると、世帯年収が1130万円以上の場合、保育料は月額10万円強、年間では120万円を超える(特に低年齢児の場合、実際の保育コストはもっとかかっています)ことになり、私立大学の授業料とほとんど変わりません。
1歳から5歳まで5年間保育所に通うと、国基準では600万以上を支払わなければなりません。
第3に、税収が豊かな自治体とそうでない自治体の保育料の差についてです。財政力のある多くの自治体では国基準より安くしていますが、3歳以上になるとさらに安くなる場合があります。
たとえば札幌市の場合、所得割課税額39万7000円以上の世帯の保育料は、3歳では4万1800円、4歳以上だと3万6300円です(2017年度)。同じ北海道でも、財政破綻した夕張市にはさまざまな子育て支援策を展開する十分な財源がなく、保育料も高いため、若い世代の流出が続いています。
こうして高齢者ばかりの街になれば、さらに財政再建が難しくなります。夕張市にとっても、非常に悩ましい状況なのです。移動する力のある若い世代は、仕事があり、子育て支援の環境が整っている場所を選んで住みます。そうした都市部に若い世代が集中することが、待機児童を生む出す要因のひとつにもなっています。
とりわけ東京と地方との関係は、待機児童や保育士確保の問題にも影響を与えています。
次回は、待機児童の問題についてお伝えします。
参考 前田正子(2017)『保育園問題』中公新書.
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