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こんにちは、翼祈(たすき)です。
網膜色素変性症とは、遺伝子のキズが素因となって、眼の中で光を感じる組織の網膜に異常が現れる遺伝性の病気で、日本では人口10万人に対し18.7人の当事者がいると推定される、国の指定難病です。
日本では網膜色素変性症は、緑内障に次ぐ失明の原因です。世界にはおよそ150万人の当事者がいると推定されています。暗いところでものが見えづらい夜盲(やもう)、視野が狭い視野狭窄、視力低下が特徴的な症状として現れます。
今回はそんな網膜色素変性症と、その治療法の「光遺伝学」で活用する、たんぱく質「キメラロドプシン」について特集します。
網膜色素変性症の症状と原因について
網膜色素変性では夜盲が1番初めに出現することが最も多く、進行すると周辺の視野が狭くなることで、物が消えたり見えたり、物にぶつかりやすくなったりするという症状が出て来ます。さらに網膜色素変性症が進行すると、視力低下を自覚していきます。
一般的には若年成人の頃に発症しますが、若年成人以外でも、全年代で発症する可能性もあります。それ以外の症状では、色覚異常、羞明、光視症などがあります。
基本的には進行していく病気ですが、その進行性はとても緩やかなもので、数年または数十年をかけて少しずつ進行していきます。また病状の進行速度には個人差があり、症状が現れる順番にも個人差があり、最初に視力低下をした後で夜盲を自覚する当事者もいます。
網膜色素変性症の原因となる遺伝子のキズは、現在判明しているだけでもおよそ50種類あります。このキズの原因となる遺伝子によって遺伝形式が違ってきます。
遺伝形式は、常染色体劣性遺伝(およそ25%)、常染色体優性遺伝(およそ15%)、伴性劣性遺伝(およそ2%)と様々で、家系に同じ網膜色素変性症の人が確認されず、その遺伝形式が推測不可能の弧発型が半数を占めます。
急に視力が低下した時、眼の中で合併症を引き起こしている恐れもあります。
そんな網膜色素変性症は、光を照射することによって狙った神経細胞の機能を操つる「光遺伝学」という最先端の技術が、脳研究などで広く浸透してきました。脳の仕組みを理解していくなど基礎的な研究以外にも、失明した人の視覚の再生などにも「光遺伝学」の治療への活用に期待が持たれています。
「光遺伝学」とは?
「光遺伝学」とは、「光学」と「遺伝学」を組み合わせて命名された最先端の技術で、2005年にアメリカのスタンフォード大学のカール・ダイセロス教授が開発しました。狙った神経細胞の機能を自由自在に操つり、行動への影響を調査することをできる様になりました。
慶応大学の栗原俊英准教授らなどで構成された研究グループは、網膜色素変性症の治療薬の開発に力を注ぎ、2024年度にはたんぱく質「キメラロドプシン」の遺伝子を掛け合わせたウイルスを人に投与する臨床試験開始を掲げています。
栗原准教授は「健常者の視力と同じレベルまで視力を戻すのは困難かと思いますが、この最先端の技術で夜間でも歩行可能な水準まで、視覚が回復する様にしたいと思っています」と言葉に力を込めます。
「光遺伝学」のキーマン、ハイブリット型のたんぱく質「キメラロドプシン」とは?
「光遺伝学」のキーマンとなるのは、藻類から発見された「チャネルロドプシン」というたんぱく質です。光が照射されると電気パルスが出現し、神経細胞の機能をオンとオフで切り替えるスイッチ的な役割を担います。
このたんぱく質「キメラロドプシン」を作り出す遺伝子を特定の神経細胞に差し込むと、光に反応してピンポイントに働き始め、その神経細胞の役割を理解することが可能となります。現在では、「チャネルロドプシン」以外にも、光を感じる色んなたんぱく質「ロドプシン」が研究などで活用されています。
網膜は、カメラに例えるとフィルムや撮像素子に相当する部分となります。目から入ってきた光は、網膜で像を捉え、視神経を介して脳の後頭葉に伝わり、ものが見えます。網膜には三層の神経細胞があって、1番外側の層にある「視細胞」が、外からの光を受容し、暗いところでものを見たり、色を識別する役割を果たします。網膜色素変性症は、この視細胞が働かなくなる病気です。暗い所でものが見えづらくなって、最終的には失明に至ります。
網膜の三層の神経細胞の中で、真ん中にある「双極細胞」、その内側にある「神経節細胞」は、視細胞で受容した光を脳へと伝える「電線」の役目を担っています。網膜色素変性症では、視細胞が喪失してもこの電線部分はある程度は残っている状態です。網膜色素変性症の治療法では、視細胞の代用で網膜の表面に人工網膜と呼ばれるチップを埋め込む研究も加速していますが、目から入る画像の解像度が低いことなど課題も山積しています。
網膜色素変性症の治療薬は、薬物療法(視虹合成促進剤、ビタミン剤、血管拡張剤)などがありますが、遺伝性の難病なので、現在では治癒するのは極めて困難です。網膜色素変性症の進行を遅らせるために、薬物療法以外に、強い光を目に浴びると、逆に症状が悪化することもあるので、オレンジ色または赤色のサングラスの装用が推奨されています。
慶應大学の研究グループの治療法は、「光遺伝学」を活用し、「ロドプシン」の遺伝子を差し込んだウイルスを目に注射を行いました。ウイルスは無害化されたものを活用し、遺伝子の運び屋役を果たします。手術は不要なので、網膜色素変性症の当事者の身体的な負担は軽くなります。双極細胞や神経節細胞に「ロドプシン」が差し込まれ、視細胞が無い場合でも光が受容でき、ものが見ることができるという働きがあります。
色んな種類がある「ロドプシン」は、「動物型」と「微生物型」に大きく分けることが可能です。「動物型」の方は光を強く感じ取ることが可能な反面、「レチナール」と呼ばれる光センサー分子の調整を行う必要があります。ですが、双極細胞や神経節細胞へは調整した「レチナール」を補うことが不可能です。「微生物型」の方は「レチナール」を調整する必要はありませんが、光の捉え方が「動物型」ほど強くないことが弱点です。
そこで、慶應大学の研究グループは、「動物型」と「微生物型」を掛け合わせたハイブリッド型の「キメラロドプシン」を創り出すことに成功しました。行われた実験では、網膜色素変性症の発症で全盲になったマウスの視力が回復し、光の捉え方も今までの研究よりも強く働く様になりました。
参考:慶大、治療法のない網膜色素変性症に対する光遺伝学の有効性を動物実験で確認 マイナビニュース(2023年)
「光遺伝学」を開発したダイセロス氏は、精神科医の一面もあります。脳研究を飛躍的に発展させた功績から、常にノーベル賞の化学賞、医学生理学賞の有力候補に挙げられています。
感情などを操作する脳の機能の解明以外にも、うつ病や睡眠障害、PTSD、アルコールや薬物の依存症など脳神経に関連する病気の原因究明や新しい治療法の開発にも結び付くとし、研究が盛んに行われています。
東北大学の教授の男性らで構成された研究チームは2020年、サルの脳に「チャネルロドプシン」の遺伝子を差し込み、光を活用しながら神経細胞を操作し、サルの手を動かすことに世界初となる成功をしました。人に近いサルでの実験が成功したことを受けて、人の病気治療への応用ができることに結び付くと注目を集めています。
私の家族。
私の家族はみんな目の疾患を持っています。私は基礎疾患からの気を付けなくてはいけない高眼圧症、母は近視と乱視、加齢に伴う目の病気で眼鏡をかけています。父はプライドが高く、「眼鏡は格好悪いし、老けて見えるから」と言い張って、眼鏡はしていませんが、目の疾患を持っています。
父は大の病院嫌いで、かなり進行するまで病院には行きません。父の目の病気も、片目が見えなくなるまで病院には行きませんでした。また喫煙者で、「煙草の値段がどんなに上がろうと、自分は死ぬまで煙草はやめません」と宣言しています。
今はマシになった方ですが、眼底検査も長いこと、数値が機器で出せない位、高水準を辿っていました。ある日同じく測れなかった時、主治医から、「かなり目の状態が良くない。大学病院に行かないと駄目。うちではどうしようもないから」と言われて、母の運転で大学病院に行きました。
大学病院では、「このまま治療しないと、目の真ん中に穴が開いて、水が出て来ます」と言われて、集中的に大学病院も処方して頂いた目薬を差しました。
父は処方された目薬を差し続けて、今は大学病院には行っていません。流石にあの件で懲りたのか、父は目薬も自己判断でほとんど差さなかったあの時に比べたら意識的に差すことを心がけて、眼科も病院嫌いの父からしたらきちんと行く方に変わりました。
それでも片目は失明したままで、母は「お父さんには本当に色々思いやられるけど、あの大学病院に行って下さいという話もとてもしんどかった」とか、「お父さんの片目はやっぱり見えない分、目に光がないよね」とよく言います。
父はここで紹介した網膜色素変性症ではありませんが、特に父を通して、目の病気の大変さを知っています。私も病院で教えて頂いたソフトサンティアをこまめに差していて、今のところ病院にも短期間で受診する様に、とは言われていません。
目の病気もやっぱり怖いですね。目が見えないのも本人も家族も辛いので。この「光遺伝学」で、網膜色素変性症が治る病気になります様にー。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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