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こんにちは、翼祈(たすき)です。
マダニは部屋の中にいる小さいダニと異なり、3~4mmと大きく、草地や森林地帯に生息しています。そして、草の葉の上で待ち伏せして、近くを通りがかった人や動物にくっつき、血を吸います。
頭部を皮膚に食い込ませることで、一度寄生するとなかなか皮膚から離れてくれません。マダニに刺された後は軽い痛みやかゆみが起こります。その上、マダニの身体内にはウイルスなどの病原体が存在し、吸血している時に人が感染症を発症してしまうケースがあります。
国立感染症研究所によると、日本では約50種のマダニが確認されています。草地や森林地帯でマダニに噛まれるだけでなく、感染した猫や犬との接触で飼い主や獣医師らに移る感染経路も確認されています。
今回は重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の話をメーンに、マダニによる主な感染症、新たに発見された注視すべきマダニの種類などについてお話しします。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは?
SFTSウイルスを持ったマダニに噛まれたことにより感染し、発症するケースがあります。マダニに噛まれた後、6日から2週間の潜伏期間を経て、主に発熱、血が固まりにくい、頭痛、下痢、筋肉痛、けいれん、嘔吐、腹痛など消化器症状、意識障害などの神経症状、さらに腸などに出血の症状が現れます。免疫を司る血小板や白血球が減少し、重症だと多臓器不全を引き起こします。
国立感染症研究所によると、人の致死率は約30%で、有効な治療薬はなく、高齢者になるほど重症化しやすいとされてます。現在、有効な治療薬やワクチンがないことから、発症した時には対症療法が行われます。
吸血している時のマダニを無理やり取り除こうとしても、マダニの一部が皮膚の中に残って化膿するケースもあり、そのままマダニの体を引きちぎるとウイルスがまき散らされSFTSを感染する可能性が高くなります。数週間は体調の変化に注意を払い、発熱など症状が出た時は、マダニをつぶしたり、引き抜いたりしないで、噛まれたら迅速に皮膚科などの病院を受診することを推奨します。
SFTSは、ウイルス性出血熱の1つで2011年に中国で初となるSFTSの報告がされました。日本では2013年に山口県でSFTSが初確認されました。SFTSは、田畑での農作業中や登山、野山での山仕事の時にSFTSウイルスを持ったマダニに噛まれることで感染する事例が多いといいます。動物へも感染し、猫や犬のほか、野生のタヌキやアライグマ、シカ、イノシシなどからもSFTSウイルスの抗体が発見されています。
日本医療研究開発機構(AMED)の研究班がまとめた統計によりますと、2017年から2022年末までに猫598匹、犬36匹のSFTSの感染が確認されています。症状は食欲低下や下痢、嘔吐、黄色い尿が出る、などで致死率は猫で60%程度、犬では40%以上とされます。犬は症状が現れないケースが多く、猫より感染の報告が少ないと推定されています。
野山や畑の草むらなどに生息しているマダニは、毎年3~11月に活動を活性化させます。近年、SFTSの感染例が増加しているわけは、狩猟者の減少などからマダニを媒介するアライグマやシカ、タヌキ、イノシシなどが増加していることなども懸念されています。これらの野生動物は近年、里山の荒廃や過疎化に伴い、都市部や住宅地にまで生息域を拡大させ、SFTSウイルスを広範囲に拡散させている可能性もあります。
人の感染者も増加傾向です。2013年は46人でしたが、2019年には100人を突破。2021年は110人、2022年は118人と2年連続で最多を更新しました。一方、感染エリアも広がりを見せています。従来西日本がSFTSウイルスを持つマダニの生息地の中心でしたが、徐々に東へと進行しています。2021年には静岡県と愛知県で、2022年には富山県でSFTSが初確認されました。国立感染症研究所などが2021年に行った実態調査では、2017年に採取していた千葉県に住む男性の検体からSFTSウイルスが発見されました。
参考:急増!マダニが媒介する危険な感染症 治療と対処、マダニから身を守る工夫とは NHK 健康ch(2022年)
国立感染症研究所の獣医科学部長の男性は「SFTSウイルスを持つマダニが、イノシシやタヌキなどの野生動物に噛みついて、運ばれ生息域を拡大しています」と推測し、「関東地方にも野生動物が沢山生息していることで、何年先になるかは分かりませんが、関東もSFTSの感染エリアになるのは間違いないだろう」と推定しています。
2024年5月24日、
マダニが媒介して発症する感染症SFTS=「重症熱性血小板減少症候群」の治療薬として、厚生労働省の専門家部会は、抗インフルエンザ薬「アビガン」の適応を有効性が確認できて、安全性にも重大な懸念はないとし、広げて使用を認めることを、了承しました。
これから、厚生労働省が正式承認をする見通しで、承認されると、SFTSの治療薬としては世界初となります。
使用が了承されたのは、抗インフルエンザ薬として開発された富士フイルム富山化学の「アビガン」で、適応を拡大してSFTSの治療薬として了承されました。
SFTSは、今まで有効な治療薬がなく、厚生労働省によれば、日本では致死率が10%から30%に達すると推定されています。日本では2023年、過去最多の133人(速報値)の感染者が報告されました。
「アビガン」は、10年前に抗インフルエンザ薬として承認され、新型インフルエンザの治療薬として、国が備蓄・管理している薬となります。
動物実験で胎児に奇形が出る恐れがあることが判明したことから、妊娠している可能性がある人や妊婦には処方できません。
「アビカン」を開発した富士フイルム富山化学は、2023年8月に、SFTSにも効果があるというデータが確認されたと言い、厚生労働省への承認申請を行っていました。
富士フイルム富山化学がSFTSと診断された感染者に実施した臨床試験(治験)では、発症後、10日間服用した19人の中で、28日以内に3人が亡くなり、致死率は15.8%でした。対象患者が少ないことなどを受けて、富士フイルム富山化学は追加の治験を実施します。
参考:マダニの感染症治療に新型インフルエンザ用薬「アビガン」…厚労省部会が了承 読売新聞(2024年)
SFTSが専門の札幌市医務・保健衛生担当局長の男性は、「マダニに刺されることを完全に阻止することは不可能です。『アビカン』という治療薬が登場したことで、より多くの命を救うことができます」と述べました。
2024年8月7日、
厚生労働相の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)は、マダニに噛まれて発症するSFTS=「重症熱性血小板減少症候群」の治療薬として、富士フイルム富山化学の「アビガン」の保険適用を承認しました。薬の公定価格である薬価は、用法用量通りの使用でおよそ358万円を見込まれています。
SFTSに対応する治療薬として承認しました。「アビガン」1錠200mgの薬価は3万9862円50銭とした。中医協への提出資料によりますと、10日間でトータル90錠を投与します。
2024年8月15日より、「アビガン」を開発した富士フイルム富山化学はSFTS治療薬として販売をスタートします。
「アビガン」は、新型インフルエンザ向けに使用する際は、それ以外の治療薬が効果不十分または無効であると、厚生労働相が判断した場合のみに限定し、使用しています。
参考:マダニ感染症治療で「アビガン」保険適用 1人358万円 日本経済新聞(2024年)
ダニ媒介脳炎(TBE)とは?
マダニによって媒介されるフラビウイルス感染症である。 世界では年間1万から1万5千例の患者が発生していると推計されている。
日本紅斑熱とは?
マダニにかまれることで起きる感染症で、2日から8日程度の潜伏期間のあと、発熱や発疹などの症状が出て、最悪の場合、死亡するケースもあります。
ツツガムシ病とは?
ツツガムシ病は、草むらなどでダニの一種であるツツガムシに刺されると感染する。
この様にマダニには様々な感染症をヒトに媒介しますが、近年これまでは言われて来なかった新たな感染症に注意が必要となっています。下記の内容が、最近のマダニが媒介する新たな感染症です。
エゾウイルス感染症とは?
北海道でマダニに刺されたことで発症するウイルス感染症が新たに発見されました。今のところ死者はいませんが、道立衛生研究所が保存していた血液の検査の解析から、2014~2020年に少なくとも7人がこの新しいウイルスに感染したとする調査データを、北海道大などの研究チームが明らかにしました。
「これはどこかおかしい。私たちが知らない未知なる感染症なんじゃないのか?」
2019年5月、市立札幌病院に入院していた40代男性Aさんを診察した医師(現・長岡赤十字病院総合診療科部長)の男性はそうひらめきました。
診察した医師の男性は、マダニに噛まれて感染症を発症したと推測しました。北海道で多く発見されている「回路熱」や「ライム病」の検査もしましたが、結果はどちらも陰性でした。
その反面、白血球数が減少するなど見慣れない症状が出て、「高齢者だったら生命の危険も有り得る状況でした」と話します。
この男性Aさんのケースとは別に、2020年7月には札幌市に住む50代の男性Bさんがハイキング中にマダニの様な虫に噛まれ、発熱しました。この2人の男性は血液中の血小板や白血球が減少した以外にも、噛まれた部分の周りに強い痛みが持続したり、食欲不振にも陥りました。詳細に血液を解析すると、これまで発見されていたのとは違うウイルスに感染していることが明らかとなりました。
北海道大の研究チームに解析を依頼した結果、発見されていなかったウイルスが原因と判明し、慣例をなぞり、地名から「エゾウイルス感染症」と名付けられました。致死率が最大で4割と言われる「クリミア・コンゴ出血熱」と同グループに属するウイルスだということです。
北海道内のアライグマやエゾシカから感染した経緯を示す痕跡が発見されていて、マダニからもエゾウイルスが見つかりました。本州の動物からも一部でエゾウイルスの感染痕跡が発見されています。
北海道で2014年以降にダニを媒介して感染症を発症した可能性がある248人の血液を解析した結果、この内7人がこの「エゾウイルス」に感染していたことが分かりました。
この研究論文が2021年、イギリスの科学誌[ネイチャー・コミュニケーションズ]で発表されました。
参考:【独自】北海道でマダニにかまれ発熱・痛み…新たな感染症、「エゾウイルス」と命名 読売新聞(2021年)
タカサゴキララマダニ
ウイルス感染症を発症する可能性がある「タカサゴキララマダニ」の被害実態がここ数年、栃木県足利市などで拡大していることが、足利赤十字病院の内科非常勤医師の女性らの研究データより明らかとなりました。
タカサゴキララマダニは成虫の体長が5~6mmで、吸血するとおよそ2倍の大きさになるそうです。関東以西に生息し、幼虫、若虫、成虫になるごとに1回ずつ人や動物に吸血します。
足利赤十字病院の内科非常勤医師の女性によりますと、栃木県衛生研究所などが過去に実施した実態調査から、栃木県内にタカサゴキララマダニはほぼ生息していないだろうと想定されていました。ですが、足利赤十字病院の研究データでは、2015年に4件、2016年に7件の被害実態の確認が取れ、2017年は22件、2018年は19件、2019年は21件と増加傾向に転じていました。
そのことを受け足利赤十字病院の内科非常勤医師の女性は、栃木県猟友会足利中央支部などの賛同もあり、2021年に1年を要して実態調査を行いました。足利市内で害獣駆除などで捕獲されたイノシシ40頭、シカ47頭に付着したマダニを採取したところ、イノシシからタカサゴキララマダニが沢山発見されました。
参考:危険な「タカサゴキララマダニ」の被害、庭や畑で増加…付着したイノシシが人家付近に運ぶ 読売新聞(2023年)
2023年6月23日、「オズウイルス」を持つダニに噛まれた女性が亡くなったと発表。
厚生労働省は2023年、茨城県内に住んでいた心筋炎で亡くなった70代の女性が、マダニが媒介する「オズウイルス」と呼ばれるウイルスでの感染症と診断されたことを明らかにしました。
国立感染症研究所(感染研)などの報告によりますと、女性は2022年初夏、39度の発熱や食欲低下、関節痛、嘔吐、倦怠感などの症状が出て、肺炎の疑いで自宅療養を続けていましたが、症状が治らず悪化し入院しました。その後、マダニが媒介する色んな感染症の検査を行いましたが、どのウイルスも陰性でした。入院から20日目に多発性脳梗塞や意識障害の症状が現れ、その入院から26日経過した後に心室細動が起こり、心筋炎で亡くなりました。
女性が入院している時、右太ももの付け根に血を吸ったマダニの咬着があったことで、女性の血液などを分析した結果、心筋の細胞で「オズウイルス」の遺伝子が発見され、亡くなった後の病理解剖で「オズウイルス」の遺伝子が検出されたといいます。女性に海外渡航歴はありませんでしたが、脂質異常症や高血圧症の基礎疾患を抱えてました。
詳細な感染経路は判明していませんが、「オズウイルス」がヒトに感染して発症したり亡くなったりしたケースが確認されたのは日本では初の事例となり、世界を見ても例がないウイルスでした。
「オズウイルス」はマダニが媒介するウイルスの1つで、2018年にマダニの一種として数えられる、タカサゴキララマダニから愛媛県で世界で初めて発見されました。抗体検査から、ニホンイノシシやニホンザルなどの野生生物やヒトに感染した可能性は報告が出されていましたが、発症や亡くなったケースは確認されていませんでした。
国立感染症研究所(感染研)によりますと、感染が絶対的に致死的な状況や経過に結び付くわけではないとしながらも、症状や危険性に関しては、さらに調査を行う必要があると言いました。
「オズウイルス」を媒介するタカサゴキララマダニは関東より西に広く分布しており、今までに行われた野生動物の実態調査から、千葉県や三重県、岐阜県、山口県、和歌山県、大分県で、ニホンザルやニホンジカ、ニホンイノシシから感染したことを表す抗体が検出されています。
また、山口県で実施された狩猟者の血液の検査によると、2人から「オズウイルス」に対する抗体反応が現れたという報告があるとし、感染に気付いていないか、感染しても症状が軽く済んでいた場合もあると想定されるといいます。
現段階では、有効な治療薬は判明していなくて、症状が現れた場合は対症療法を行います。
国立感染症研究所の鈴木忠樹・感染病理部長は「『オズウイルス』感染症で、無症状や軽症の人がいる可能性も推定されます。危険性を調査すべく、もっと幅広く検査を行う必要があります」と説明しました。
厚生労働省などによりますと、今まで日本では血液中の抗体検査を実施して、「オズウイルス」に感染したと想定される事例があったことを受け、「オズウイルス」を持つダニの特徴や症状などに関して今後も実態調査や研究を実施していくとします。
参考:マダニ媒介「オズウイルス」で死亡 初めて確認 茨城の70代女性 NHK NEWS WEB(2023年)
マダニ対策でして欲しいこと
まずはマダニに噛まれない様な服装をすることが大切です。長ズボン・長袖・登山用のスパッツ等を着て、手袋や帽子、首にはタオルを巻くなどの対策をして、肌の露出する部分を限りなく少なくすることが大事です。その上で洋服などの隙間からマダニに噛まれない様に、シャツの裾はパンツの中に、パンツの裾は長靴や靴下の中に入れる様にして下さい。
また、マダニを見つけやすくするためには暗めのカラーの洋服は避けて、明るめのカラーの洋服を着用し、自宅に入る前に外で作業着や上着は脱ぎ、よく目視でマダニが付いていないかを確認します。野外活動後は速やかに洋服を脱いで、入浴しましょう。そして、靴や洋服に虫よけ剤をスプレーしていることで、マダニが肌に付きにくくなります。マダニ対策の虫よけ剤では、イカリジンとディートとの2タイプが販売されています。
マダニに関しては去年から書こうとしていた題材で、最初は何県で発生したとか安易な内容にしがちだったのを、今年に入って、今書くべき方向性ができて、ようやく納得のいくカタチに至りました。
書いていて、やっぱりマダニも怖いなと感じました。山が近くになくとも、草むらはどこにでもありますし、今後も注意が必要な感染症の1つだと思いました。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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