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はじめに
ジャニーズ事務所の性加害問題の一連の報道をニュースで見て、日本の性被害の認識の変化を今目の当たりにしているのではないかと考えました。
これまでの判例を踏まえて、特に未成年者、若年者の性被害問題に焦点を当てながら、現在までのおおまかな流れをご説明していこうと思います。
2017年に新設された監護者性交等罪とは
【監護者性交等罪】親など子どもを現に監護している者が、その影響力を利用して18歳未満の子どもに性交やわいせつ行為をした場合、暴行や脅迫がなくても処罰できる監護者性交等罪と監護者わいせつ罪を新設した。従来、暴行や脅迫がなければ、こうした行為は量刑の軽い児童福祉法違反で処分されていた。
このように、2017年に18歳未満の子どもなら暴行や脅迫がなくても処罰することできる法律ができました。
愛知県での判例
2017年、父親が当時19歳の娘に性的暴行をしたとして準強制性交等罪で起訴されました。
認定事実
・小学生のころから娘に暴力
・中学2年から娘に性的虐待
・性行為に娘の同意はなかった
一審
名古屋地裁岡崎支部は性行為に娘の同意はなかったと認めた一方、過去に娘が抵抗して拒んだ事実があることや、アルバイトの収入があって一人暮らしを検討していたことなどを挙げ、完全に父親の支配下にいたとは言えないと指摘しました。それゆえに「抗拒不能」の状態だったと認定するには合理的な疑いがあり、無罪判決が下されました。
争点
事件当時娘は抵抗が著しく困難な「抗拒不能」の状態だったのか?
二審
名古屋高裁
検察側 長期間繰り返された性的虐待で抵抗の意思、意欲を喪失状態だった→娘は抗拒不能だった
弁護側 控訴棄却を求める
その後、名古屋高裁は一審の判決を破棄し、逆転有罪として懲役10年を言い渡しました。
最高裁は上告を退け、最終的に二審判決が確定しました。
<参考>娘に性暴力、「抗拒不能」どう判断 12日に控訴審判決
監護者性交等罪は、18歳未満の者を対象とするものとして設計されました。この裁判は被害者が当時19歳の時の性交を対象とするために、いわゆる「保護漏れ」となり、継続的な虐待を受けていた背景を持っていたとしても、監護者性交等罪が適用されなかった事案でありました。18歳以降も虐待を継続的に受けていた場合、それ以降の行為をどのように処罰するのかが今後問題になるでしょう。
<参考>継続的虐待と抗拒不能の判断(仲道祐樹) | Web日本評論
いったん無罪判決が下されたこの判例は、フラワーデモのきっかけの一つになりました。
フラワーデモ
同じころに福岡、静岡での性犯罪事件に無罪判決が相次いだこともあり、実の父親の娘への性的虐待が罪に問われない一審判決に対して、憤りと疑問の声が上がりました。
一審の無罪判決から逆転有罪判決となった二審では、多くの支援者から、「当たり前だよ」「素晴らしい」などの声が上がりました。
「一審判決はおかしかったけれど、全部ひっくり返した。動けば事態が変えられるとわかった」とコメントも寄せられました。
<参考>傍聴席からは拍手。娘への性的暴行、懲役10年の逆転有罪に「素晴らしい判決だ」(名古屋高裁) | ハフポスト NEWS
実の父親の性的暴行という明らかな異常行為にいったんは無罪判決が下されていたことに私は大きく驚きました。当たり前が当たり前ではなかったことにショックを受けました。逆転、有罪判決がくだされたのは2020年のことであり、今からわずか3年前のことです。
実態に即した判断が求められる
「スプリング」のwebアンケート
2020年8~9月に実施されたアンケートによると
・「挿入を伴う被害」の場合、加害者の言動では暴行・脅迫が多いわけでなく、被害者ははっきりとした暴行・脅迫がなくても恐怖を感じ、戸惑い、身体が膠着状態になると分析が示されています。
・被害者が性被害にあった認識できるまでの時間が、平均7.46年かかるとの結果を受けて、10年の公訴時効の大半が過ぎてしまうことも明らかにされました。
法務省検討会の議論は、このような性犯罪の実情を元に行われました。
・暴行・脅迫という客観的にわかる行為はないが、同意のない性交に関し、「性犯罪の処罰される規定の本質については、被害者が同意なしに性的行為を行うことにある」との総論では一致しました。
・不同意性交罪を新設するには、「国際水準に則って不同意の性交等を処罰すべき」との意見のある一方で、不同意を立証するには、やはり暴行・脅迫など行動での客観的要素を証拠とすることが有効であるとして、「不同意だけを要件とすると立証の対象を特定しにくい」との両論併記になりました。
・公訴時効撤廃に関しては、未成年者、若年者層には性的行為の意味が分からず、成人した大人であっても加害者が身近な人の場合、被害にあったという認識が困難になるとの見解は共有されました。
・「時間の経過による証拠の散逸や法的安定性にも留意しながら」さらに検討をすべきとされました。
<参考>論点整理 性犯罪の規定見直し | ニュース | 公明党
不同意は処罰の対象になるが、実際に立証するには、やはり暴行、脅迫などの客観的要素が必要となることに性犯罪の処罰の難しさが垣間見えます。
未成年者、若年者を取り巻く「地位・関係性」を利用した性暴力の規定に学校の先生やスポーツ指導者を対象とするかどうか
2017年の改正で新設されたのが、「監護者性交等罪」と「監護者わいせつ等罪」です。
これにより、18歳未満の子どもに対し、親など「現に監護する者」が影響力があることに乗じて性交などをした場合は、暴行や脅迫がなくても処罰の対象になりました。
しかし、この「現に監護する者」の範囲が狭いことや、18歳以上の被害は対象にならないという問題は積み残されたままです。
教師やスポーツ指導者、上司、施設職員など、こうした地位や立場につく者も処罰の範囲内とするか、検討会で議論が続いています。
ジャニーズ事務所の性加害問題報道もショービジネスの言わば上司に当たる人物に性加害を受けたことになります。青少年をたくさん抱えた事務所であってはならない行為が行われていたのでしょう。
このように保護者に罪を認める法律がありますが、教師やスポーツのコーチ、施設職員など、子どもたちの上位に立つ大人を罰する法律はありません。
同意があるなしに関係なく、未成年者との性交は罰するべきだと私は考えますが、歳が近い、同世代の未成年者同士の性交や、未成年者側も真摯な恋愛の延長線上で積極的に性交を行っていた場合でも罰せられるのか、もしくは、未成年者と知らずに関係を持ってしまった場合も罰せられるのかとケースケースによって判断が分かれるところであると思います。
また、性加害が行われていたと知った場合、通報義務がないことも問題点となることでしょう。
終わりに
ここまで論じてきて、重要なのは、性行為には性的同意が不可欠であることが浮き彫りになってきました。
特に未成年者が性犯罪に巻き込まれたとき、それが性的暴行なのですらわかっていない状況もあるように感じます。
そこで、性に関しての正しい知識と、ともに性的同意が成り立ったといえるコミュニケーションの問題があります。どういった場合が性的同意が成り立ったか共通認識が必要になってくるように思えます。
早急な性教育が必要なのではないかと私は考えてしまいます。
みなさんはどうお考えになりますか?
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noteでも書いています。よかったら、読んでみてください。
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記事を読ませていただきました。考えさせられることばかりで、子供の人権を養育者が自由にしていることに憤りを感じます。他人と同じように養育者であろうとも子供に恐怖感を与えている場合は接近禁止もつけ加えてもいいのではと思います。次の記事も楽しみにしています。
ダックスフンド様、最後まで記事を読んでくださりありがとうございます。
養育者、保護者が処罰される「監護者性交等罪」は2017年に設立されました。わずか6年前のことです。それまでは、量刑の軽い児童福祉法違反で処分されていました。これは、大きな一歩といえるかもしれませんが、まだまだ子どもたちを性犯罪から守るには不十分に思えてなりません。難しい問題ですが、目を背けることなく大人として考えていかねばならない問題だと思います。今後もお役に立つ情報を書いていきたいと思っておりますので、ご期待にこたえられるよう頑張ります。