電子国家エストニアの挑戦 エストニアはいかにして電子国家へと成長していったのか

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1.はじめに

 日本でマイナンバー制度が運用され始めてから、約2年が経過しました。しかし、国民に数字をあてがうという「管理社会」への反発もあり、法案の成立までには膨大な時間がかかりました。そもそも日本は2001年に「e-JAPAN戦略」を開始し、情報通信技術(ICT)国家になることを目標に掲げていましたが、いまだ、インターネットを通した行政サービスが定着していることは言い難いで状況です。

 これに対して、北ヨーロッパの国・エストニアは、旧ソ連から独立してわずか10年足らずでeIDカード(日本のマイナンバーカードに相当する)を全国へ配布し、数年で定着させました。そして、この人口わずか130万人の小さな国が、今、「電子立国」として世界中から注目を浴びています。

 1990年代初めよりインターネットを使った行政改革を進めていったエストニアには、世界中から年間1000組もの視察団が訪れ、今年1月には安倍首相もエストニアを訪問しました。

2.エストニアの電子政府への道

 旧ソ連から独立後、エストニア政府はICTとバイオテクノロジーに国家的資本を集中していくことを決定し、国民もそれを支持しました。独立当初は、道路などの生活基盤や学校などの公共建築物もかなりの整備が必要でもありました。しかし、まずはインターネットの利用環境の整備に力を注ぎ、学校などでは屋根の修理よりもパソコンの導入を優先したとさえいわれています。

 1996年~2000年にかけて、タイガーリープ(虎の躍進)プロジェクトが実施されました。タイガーリープ財団(現Information Techology Foundation for Education:HITSA)が中心になり、経済が急激に発展したシンガポールに代表される東南アジア諸国のように、ICTを活用して“虎のひと飛び”のように先進国を追い越すことを目標に、すべての学校にインターネットを利用できる環境が整備されました。同時に新しいスキルとして教師に対しインターネット教育を実施しました。

 エストニアでは、情報社会の発展は、1998年にエストニア議会で採択された「エストニア情報ポリシーの原則(Principles of the Estonian Information Policy)」に基づいています。

 この文書に続いて、「エストニア情報ポリシーの原則 2004~2006」が作成され、2004年に政府によって承認されました。これにより、政府のポータルサイトの開設、電子閣議、市民の政治参加システム(TOM)などのサービスが開始されました。

 2002年4月からは、民間会社数社がエストニアの人口10%に当たる約10万人に対して無料でインターネット利用の基礎的な教育を行うプロジェクトを実施しました。

 また、同年からeIDカードの配布がなされました。本人認証や電子署名の基本となるeIDカードは、15歳以上の国民は取得が義務づけられています。eIDカードは、エストニア国民であることを証明するほか、自動車の運転免許証、健康保険証、チケットレス切符(方式は違いますがSuicaのようなもの)など、多くの用途に使えるため、多くの国民が携帯しています。

 また国民の意志を政府に伝える方法として、議会が運営しているTOM(Today I Decide)と呼ばれるシステムがあります。インターネット上で、あらかじめ登録した人たちが、新しい立法の発議を提案し議論するシステムです。これにより、エストニア国民は政治プロセスに直接参加することができ、立法提案も行うことができます。このシステムは、2001年よりサービスをスタートさせています。

3.参加型民主主義ポータル「Osale」

 2007年には、「Osale」という新たな民主主義のための参加型ポータルが開設され、2008年にTOMはこのポータルに吸収されました。

 この参加型ポータルの目的は、企業、エストニア居住者、市民団体などの関係者が公共の事柄についての情報を入手し、発言できるようにすることです。参加者はこのポータルを通じて政府が作成した法律草案に対する意見を投稿できます。いろんな関係者が意見を表明することは、意思決定プロセスをより透明に、よりオープンにし、決定、政策、立法の質と社会的正当性を高める効果があります。

 この参加型ポータル(Osale)は、次の3つの機能を持っています。

①市民や利益団体は、政府に対する、新たな法案やアイデア、批判のための会議を立ち上げること、提案を提出することができる。全ての提案は、他のユーザーの投票とコメントを 受け付ける。その後、この提案は、実行するか否かを公式に回答するため、関連の政府部門に転送される。

②市民が公共の協議/公聴会に参加することができる。市民は政府機関が準備している法案について、自分の意見を述べることができる。すべての政府機関は、ウェブサイト上で政策文書の草案、開発計画、法律や規定を公開することを推奨されている。しかし、これは任意であり、行政手続き法によって規制されていない。

③それらの法律の審議がどこまで進んでいるかを市民が知るための検索機能がある。

4.ICTプログラムの実施

 しかしながら現在、130万人のエストニアの人口の内、約30万人がインターネットを利用することができていません。また16歳から74歳の市民の約18%がインターネットを使用する方法がわからない、あるいは必要なスキルを持っていないという調査もあります。これらの人々は、低所得者と低教育レベルの人々、または高齢者です。

 そのため、エストニア政府は、2020年までにインターネット非利用者の割合を現在の18%から5%に減らすことを目指しています。この目的のため、地域やコミュニティがICT技術力のレベルを高めるプログラムを用意したりしています。ここでは、基本的なICT技術力のためのコースの支援を継続し、また学習方法の開発や支援を用意したりしています。

   参考

ラウル・アリキヴィ・前田陽二(2016)『未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界』インプレスR&D.

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