【お金2.0】分散化する未来が変える経済のカタチ 共有経済・トークンエコノミー・評価経済

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1.はじめに

 これまでの経済や社会は、「中央集権化」によって秩序が保たれてきました。どこの組織にも必ず中心には「管理者」が存在し、そこに情報と権力を集中させることで、何か問題が起きた時にも、すぐに対応できる体制が整っていました。それが近代社会では最も効率的な仕組みでした。

2.情報の非対称性

 この状態は「情報の非対称性」とも呼ばれています。「売り手」と「買い手」の間において、「売り手」のみが専門知識と情報を持ち、「買い手」は何も知らない状況のことを情報の非対称性と呼びます。情報が偏って存在し、それぞれがリアルタイムで完全に情報共有できないことを前提に、間に入る代理人や仲介者を「ハブ」として全体を機能させてきました。

 必然的に、力は中心である「ハブ」に集まるようになります。現代で大きな影響力を持つ組織を眺めてみても、このハブが重要な役割を担ってきました。国家においては政府に、議会政治であれば代議士に、企業であれば経営者に、物流であれば商社が、ハブとして機能します。

 近代社会では、この情報の非対称性が存在する領域に仲介者や代理人として介在することで、情報の流通を握り権力を集中させることができました。そして、この情報の非対称を埋めるために代理人として介在すること自体が需要な「価値」でした。

3.ハイパーコネクティビティ

 しかし現在は、皆がスマートフォンを持ち、リアルタイムで常時繋がっている状態となりました。さらにこれからは、常時モノとモノがインターネットに接続している状態であるIoT(Internet of Things)が当たり前の状態になるだろうと予想されています。佐藤航陽さんは、この状態を「ハイパーコネクティビティ」と呼んでいます。

 そして、この状況がさらに進むと、オンライン上で人と情報とモノが「直接」かつ「常に」繋がっている状態ができていきます。そうすると、これまでのような中央に代理人がハブとして介在する社会から、全体がバラバラに分散したネットワーク型の社会に変わっていくだろうと、佐藤さんは指摘します。

 この状況では、情報の非対称性はあまり意味をなさず、間に入っている仲介者には価値はありません。むしろ、情報の流れをせき止めようとする邪魔者扱いされるかもしれません。

 そうなってくると、これまで力を持っていた代理人や仲介者はどんどん価値を提供できなくなっていき、力を失っていきます。分散化が進んでいくと、情報やモノの仲介だけではその価値を発揮できず、独自に価値を発揮する経済システムそのものを作ることができる存在は力を持つようになっていきます。

 この「分散化」という現象は、近代までの社会のシステムの前提を全否定するパラダイムシフトであり、中央集権的な管理者から、ネットワークを構成する個人への逆流、あるいは「下剋上」のような状態を生み出すのです。

4.個人をエンパワーメントする

 IT企業は、「個人をエンパワーメントする(力を与える)」という表現を使うことが多いですが、分散化という現象は、まさに従来の代理人が持っていた力を奪い、個人をエンパワーメントすることになるのです。これまでの仲介者としての立ち位置はもはや意味はなく、分散化の中で力をつけていくだろう「個人」をサポートする側にIT企業は立ち位置を持っていく戦略を取らざるを得ません。

 この分散化の流れの一部として現れた新しい経済のシステムが、UBERやAirbnbに代表される「共有経済(シェアリングエコノミー)」、仮想通貨やブロックチェーンなどを活用した「トークンエコノミー」、YouTubeやインフルエンサー(SNSなどで社会に与える影響力が大きい人物のこと)とそのファンなどが作る「評価経済」などです。

 この、共有経済(シェアリングエコノミー)、トークンエコノミー、評価経済の三つは全く別のように見えますが、度合いが違えど、実は分散化が引き起こした大きな流れの一部のようなものです。

5.共有経済

 共有経済(シェアリングエコノミー)と呼ばれるサービスは、社会が常に繋がっている状態ができて初めて機能することができます。このシェアリングエコノミーの代表例としてよく挙げられるのが、UBERとAirbnbです。

 UBERは本来、タクシー会社がドライバーを束ねて展開する配車サービスを、しかし個人のドライバーをネットワーク化し客と結びつけるアプリで提供することで成功しました。

 UBERは配車サービスを行っているものの、車を所有しているわけでもドライバーを社員として雇っているわけでもありません、UBERはただ、ドライバーと、客を個人としてネットワーク化しているだけです。UBERの企業価値は5兆円以上と言われ、これはフォードやGMなど世界的な大手自動車メーカーの時価総額を上回る規模となっています。

 またAirbnbは、空き部屋や空き家を提供したい個人と、そこに泊まりたい個人をマッチングする、いわゆる民泊サービスです。Airbnbも、UBERと同様に不動産を所有しているわけでなく、だた個人と個人を繋ぐネットワークを構築し、支払いの仲介や、レビューによる信頼性の担保などのシステムを作っています。設立からわずか8年で、3兆円以上の企業価値を誇る世界的な企業に成長しました。

 これらのサービスは、個人が余ったリソース(資源、資産)を直接的に共有しあうことでコストを大幅に削減できるメリットがあります。インターネットが生活のあらゆるところに浸透してきたことで、「共有」できる範囲が地球全体に広がり、巨大な経済として機能し始めているのです。

 シェアリングエコノミーは、ネットワーク化した個人を束ねて一つの経済システムを作り、煩雑な支払いや中立性を求められるレビューのような最低限の機能だけを、代理人として提供する立ち位置を確保しています。

6.トークンエコノミー

 シェアリングエコノミーをさらに推し進めたのが、トークンエコノミーと呼ばれるものです。

 トークンとは、仮想通貨の根幹で使われるブロックチェーン(ブロックと呼ばれるデータの単位を一定時間ごとに生成し、鎖(チェーン)のように連結していくことによりデータを保管するデータベース)上で流通する文字列のことを指す場合が多く、一般的には仮想通貨やブロックチェーン上で機能する独自の経済圏をこう呼ぶようになりましたが、正確な定義があるわけではありません。

 トークンエコノミーと、既存のビジネスモデルとの大きな違いは、経済圏がネットワークの中で完結している点です。従来のビジネスモデルでは、国家が通貨発行者として円やドルなどの法定通貨を発行し、企業や個人はその通貨の「プレイヤー」としてビジネスや生活をします。そこでは、「通貨発行者」と「消費者」は完全に区別されています。

 しかしトークンエコノミーでは、特定のネットワーク内で流通する独自の通貨をトークンとして生産者が発行して、完全に自立した独自の経済圏を作り出すことができます。通貨であるトークンにどのような性質があり、どんなルールで流通するかも企業や個人や組織が自分たちで考えて自由に設計することができます。つまり従来、国家がやってきたことを、トークンを用いて独自に企業や個人が手軽にできるようになるのです。

7.評価経済

 インターネット上では、さまざまな個人が情報を積極的に発信し、インフルエンサーと呼ばれるたくさんの人々から注目されている個人が影響力を持っています。このように他者からの評価によって回る経済は、「評価経済」と呼ばれていて、日本でも2011年ぐらいから話題となっています。

 たとえば中国で最も稼ぐと言われているインフルエンサーはZhang Dayiという名前の29歳の女性で、ソーシャルメディア上で500万人のフォロワーがいて、年収は50億円を超えると言われています。

 中国では、スマートフォンを通した決済が整備されていたり、既存のインフラが未整備だったり、平均年齢が若く新しいものに対する感度が高かったりといった点から、企業が介在せずに個人間で経済が完結するような仕組みが多く存在しています。

 中国のライブ動画配信などは巨大な市場を形成しおり、スマートフォンで個人個人がリアルタイムで動画配信を行い、視聴者と会話を楽しんだり、歌などを披露したりする人もいます。視聴者は面白いと思ったら、有料のアイテムを購入してその人に送ることができる「投げ銭」のような機能が備わっており、配信者は受け取ったアイテムを換金して自分の報酬とすることができます。

 人気の配信者は、一般的な中国人の平均月収の数十倍を稼ぎ、ライブ配信のみで月収1000万円以上稼ぐ若い女性も現れてきており、社会現象となったりもしています。

 このように、従来は「企業と個人」の間が主流であったお金のやりとりが、ネットワーク型の社会に移行すると、「個人から個人」への流れがメインとなり、そこには全く異なる経済は発展しつつあるのです。

    参考

 佐藤航陽(2017)『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』幻冬舎.

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