この記事は約 17 分で読むことができます。
こんにちは、翼祈(たすき)です。
皆さんは、男性が「乳がん」になることがあるとご存知でしょうか?
男性にも乳汁を作って分泌する乳腺はあるので、乳がんになる可能性はみんなにあります。
乳がんは一般的に女性に多い病気ですが、男性の乳房に発生すること(「男性乳がん」)で、乳がん全体の約1%を占めると推定されています。
アメリカのデータでは、女性が一生涯に、8人に1人[女性乳がん]を発症するのに対して、男性では一生涯に1000人に1人が「男性乳がん」に発症すると言われています。女性の患者さんの数が多い乳がんという病気ですが、発症する年齢では男女で違いがあります。
女性の乳がん患者さんは、40代と60代が多い傾向です。これに対して、「男性乳がん」は全年齢の男性に発症しますが、発症する人が多いのは60~70代です。
全ての乳がん患者さんの中で、男性が発症する割合は1%未満と想定されています。
男性も女性同様ホルモンバランスが乱れる時期が2度あります。声変わりなど第二次性徴の思春期と、男性の更年期症状が出現しやすい60~70歳です。
女性の更年期症状が出現しやすい50歳代よりも10歳程度遅いです。
女性の乳がん(女性乳がん)と比較しても、診断された時点で既に進行している時が多く、同じ進行度であれば、女性と男性で大きな違いはありません。
国立がん研究センターの「がん情報サービス」の2021年度のデータによりますと、日本では全ての乳がんの中で男性が占める割合は0.7%。毎年約700人の男性が「男性乳がん」を発症していると報告されています。ここ数年では、乳がんを発症する患者さんの数が全体的に増加傾向にあり、それは「男性乳がん」患者さんでも例外ではありません。
「男性乳がん」を発症する人は、家族に卵巣がん、乳がん、膵臓がんなどの患者さんがいる時には「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」と言われていて、がん化しやすい体質を持つ可能性があります。
遺伝カウンセリングを受けると、希望すれば採血で診断することが可能です。仮に「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」であれば、乳がんだけでなく、膵臓がん、前立腺がんなどになる確率も高いことが認知されています。
今回は、「男性乳がん」を発症した有名人の方の話、症状、原因、診断基準、治療法などを多角的にアナウンスしたいと思います。
2023年8月、
画像引用・参考:「みんなに知ってほしい男性乳がんのこと」啓発リーフレット 製作! PR TIMES(2021年)
2024年8月29日、男性デュオ「バブルガム・ブラザーズ」のブラザー・コーンさんが自身のインスタを更新し、「男性乳がん」であることを明らかにしました。
「この度、私Bro.KORN(ブラザーコーン)は左胸にしこりができて、病院で検査を受けた結果、乳癌(がん)と診断されました」と報告し、「乳癌は男性では本当に珍しいらしく、自分でも寝耳に水でしたですが、この現実を真摯に受け止め、この乳癌の治療に専念する事に致しました」と治療方針を明かしつつ、
「この先ですが、抗がん剤治療の副作用が余りに酷い場合以外の仕事は体調次第でできる限りやる方向でいきますので、宜しくお願い致します」と説明しました。
「男性乳がん」がステージ2であることを明かし、「早期発見できたことから、何とか命には別状ないと主治医から告げられておりますのでご安心下さい。本人は元気です」としながらも、「抗がん剤治療の副作用が予想以上に大きく、キツい治療に耐える日々が続いておりますし、来年また元気なブラザーコーンの復帰まで応援宜しくお願い致します」と症状を報告しました。
参考:男性の乳がん発症は全体の約1%「60~70代」に多い…ブラザー・コーンがステージ2公表 スポーツ報知(2023年)
ここからは、「男性乳がん」の症状や原因などの基礎知識を紹介したいと思います。
▽症状
画像引用・参考:男性の乳がんとは? 社会福祉法人 恩賜財団 済生会(2024年)
乳腺は、母乳が作られる母乳と小葉を運ぶ乳管から成立しています。この乳腺に発症したがんを乳がんと呼び、男性でも発症する病気です。
「男性乳がん」の初期症状として、皮膚の引きつりや乳輪の後部にしこり(腫瘤,痛みを伴わないことが多い)、乳頭の内陥、乳頭からの出血、乳頭変形、乳頭からの分泌物などが挙げられます。
分泌物は、粘度の低い、透明な液体または血性の液体が多いです。乳腺は乳頭と結び付いていて、乳腺で生じた腫瘤からの膿や出血が、乳管を介して乳頭から出て来ることが少なくありません。
これらの症状が出現した時、速やかに病院へ受診することが重要な行動です。「男性乳がん」が進行すると、腋窩(えきか)リンパ節の痛みや腫れ(腋窩リンパ節腫脹)、乳房の皮膚の潰瘍や変色が出現する時もあります。
男性は乳腺の組織が薄いため、乳頭や皮膚への浸潤が女性よりも早く進行し、肺やリンパ節などへの転移も早く起きると言われています。
「男性乳がん」の自覚症状は少ないのが一般的で、加えて、「男性乳がん」の認知の低さによるセルフチェックをしている人の少なさなどがあるので、女性の乳がんと比較しても発見した時には既に進行してしまっている事例が多いと言われています。
▽原因
◉ホルモンの影響
乳がんは女性ホルモンの影響でリスクが高まるとされていて、女性では閉経後にホルモン補充療法を受けている人は注意が必要となります。
乳がんは、身体内の女性ホルモンが増加することで発症リスクが上がると想定されています。男性の身体内でも女性ホルモンは分泌されていますが、健康な人の場合だと男性ホルモンの方が優位になっています。
男性では何らかの原因で男性ホルモンが減少したり、女性ホルモンが増加したりした場合に「男性乳がん」のリスクが高まりますが、肝硬変など肝疾患・加齢・精巣異常・肥満・クラインフェルター症候群などにより女性ホルモンが増加する時があります。
◉遺伝子の異常
がんの発症には遺伝子の変異が関与すると言われていますが、ここ数年になって遺伝性乳がんの発症にはBRCA1・BRCA2という遺伝子の変異が関与していることが明らかとなりました。
これらの遺伝子に異常が起きているか解析することで、乳がんのタイプを判別し治療方針の選択に活かす時があります。
◉家族歴
ほとんどのがんの場合、発症リスクは家族歴に左右されると推定されています。「男性乳がん」の場合も、近親者に乳がんの患者さんがいる人は、そうではない男性と比較しても発症リスクが2倍上がります。
この時の乳がんの患者さんは、男性だけでなく女性も含まれます。
「男性乳がん」の患者さんで、近親者に乳がん経験者がいる割合は10~15%という報告データもありますが、乳がん全体では遺伝性乳がんの割合は10%以下と言われていて、近親者に乳がん患者さんがいる人が特別ハイリスクということではありません。
◉環境要因
男女同率で、胸部への放射線被ばくは乳がんのリスク因子とされ、特に若い頃に被ばく量が多かった時には、乳がんのリスクが上がるとされています。
頻回の放射線治療や胸部X線検査などを受けた人は、特に注意が必要です。
▽乳がんで、男女差の推移
画像・引用:男性が乳がんになる確率とかゆみや痛みなどの症状や治療法。受診すべきなのは何科? ピンクリボンうつのみや(2024年)
年齢階級別罹患率に関しては、女性は45〜49歳の時に一度目のピークを迎え、70〜75歳の二度目のピークを基準に下落しますが、「男性乳がん」は全年齢で発症するする可能性があるものの、全体的にはほぼ横這いとなりますが、60代から少しずつ右肩上がりになって、基本的にそのまま加齢に合わせて、発症率も高まり続ける傾向です。
▽「男性乳がん」の種類
「男性乳がん」の種類で1番多いものが、浸潤性乳管がんです。乳房の中にある乳管の内側を覆う細胞の層から発症し、その層を越えて拡大していきます。それ以外にも、非浸潤性乳管がん(乳管内がん)や乳頭のパジェット病、炎症性乳がんなどの種類があります。
▽診断基準
画像引用・参考:男性の乳がん対策について教えてください。 JOBHOC
◉触診
医師による乳房にできた腫瘤の触診を実施します。第一段階として医師が乳房の大きさの違い・しこり・くぼみがないかを手で触れながら入念に確認します。触診でしこりを発見することで、がんの早期発見に繋がる・薬を使用しないポイントから身体に負担がない点がメリットです。
その反面デメリットは、しこり全てが「男性乳がん」という判断ではないことや、「男性乳がん」との鑑別が必要となる女性化乳房は痛みを伴い可動性があることで、見分けることが可能ですが、触診だけで診断されることはありません。
◉マンモグラフィー検査
マンモグラフィー検査とは乳腺X線撮影とも言われ、乳房専用のX線検査法です。
女性の乳がん検診でも広く実施される検査ですが、「男性乳がん」に対しても使用することが可能です。高濃度乳腺の女性は、がんを発症していても検査で見落とされやすいことが問題となっていますが、男性は乳腺組織が薄いため、病変を観察しやすいと言われています。
◉超音波検査
痛みなどもなく、身体への負担が少ない為、高齢者でも検査を受けられるのが特徴です。
簡便に実施できて、病変を観察しやすい検査です。「男性乳がん」の腫瘤は、周りの組織との境界がハッキリとせず、内部が不均一に見えるのが特徴です。
◉生検
生検とは病気によって変化してしまっている組織の一部を針やメスなどで切除して解析する検査法です。悪性の疑いがあるかを病理医が念入りに解析していきます。
乳房の腫瘤に針を刺し、組織の一部を切除して病理学的診断を実施する検査です。腫瘤が「男性乳がん」によるものなのかを判断するのに必須の検査で、ほぼ全例で実施します。
乳がんの生検には以下の4つの種類があります。
・摘出生検
・コア生検
・切除生検
・穿刺吸引生検
また、がん細胞に、プロゲステロンやエストロゲンなどの女性ホルモンに対する受容体(ホルモン受容体)や、HER2という遺伝子や蛋白が過剰に発現していないかを検査することも、治療法を決定する上で重要な行動です。
◉CT検査、MRI検査
CTとはX線を使用して身体内の断面を画像にする検査法です。治療前にがんの拡大などを確認する時に活用され、細部まで見えるのが特徴です。
検査時間は10〜15分程度で終わります。MRIとは磁気共鳴画像とも言われ、電波・磁気を使用して、身体内の断面を画像にする検査法です。問題がある部分と正常な部分の差が理解しやすく抽出されるのが特徴です。
全身の画像検査を実施することで、乳房の病変だけでなく、リンパ節やそれ以外の臓器への転移を評価することが可能です。また、「男性乳がん」との鑑別が必要な女性化乳房の原因となる腫瘍や肝硬変などの描出にも優れています。
MRIは、検査時間はCTと違い15〜45分と長く要する時もあります。
◉血液検査
肝機能やホルモン値の異常などの全身の状態を評価するために実施する検査です。
▽セルフチェック
乳房の正常な組織の中にがんが出現すると、その周りだけえくぼの様にへこみが出現したり、皮膚が引きつった様に見えたりする時があります。
筋肉量・体形などによりへこみ・引きつりが分かりづらい時もありますが、日頃から1ヵ月に1回程入浴後に鏡で異常がないか確認したり、左右の胸を見比べたりする時間を設けることが大事です。
▽「男性乳がん」のステージ別
画像・引用:男性が乳がんになる確率とかゆみや痛みなどの症状や治療法。受診すべきなのは何科? ピンクリボンうつのみや(2024年)
▽治療法
◉外科治療
外科治療は、切除の範囲により幾つかの種類があります。腫瘍の数が少ない場合に選択される方法が、腫瘍と周りの組織のみを切除する「乳房部分切除術」です。
その反面、腫瘍が周りに拡大していたり、複数箇所に腫瘍があったりする時には「乳房全切除術」を実施する時があります。
男性では、進行がんで発見されることがほとんどで、乳房の大きさが小さいため、現状は乳腺を全て摘出する手術(乳房全摘術)を実施することが一般的です。ステージI期の早期がんでは、乳房温存術(乳房を残したままがんを摘出する手術)が選択されます。手術する前の画像検査で、腋わきのリンパ節に転移を疑う所見がなければ、最初に転移しやすいリンパ節であるセンチネルリンパ節のみを摘出し、手術中に転移がないか解析します。転移がなければ腋のリンパ節は温存します。
その反面、リンパ節に転移を認める時には、腋のリンパ節を摘出する手術(郭清術)が必要です。リンパ節を切除した時には、手術後のリハビリテーションが必要で、腕のリンパ浮腫が出現する可能性が3割程度あります。
また、乳房温存手術は、乳房からがん組織とそれを囲む正常組織を少し切除し、乳房そのものは切除しない手術です。
その他、手術前の生検・画像検査などの結果でリンパ節転移を指摘された時には、腋窩リンパ節を切除します。
◉抗がん剤治療
抗がん剤治療とは、がん細胞を攻撃する薬物を投与してがんの縮小・死滅を狙う治療法です。抗がん剤はリンパ節・血液を介しての広範囲の転移を予防するために治療を実施します。
抗がん剤には細胞障害性抗がん薬・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬などの種類があって、がんのタイプや患者さんの状態に応じて薬の調整・選択をします。
◉放射線療法
放射線療法とは、高エネルギーの放射線をがんに照射することで、がん細胞の縮小・死滅を図る治療法です。強い痛みなどはないと言われる治療法ですが、照射部分が日焼けの様にヒリヒリしたり、水ぶくれができたりする場合があります。
残した乳房からの再発を阻止したり、手術で取りきれなかったがんを死滅させたりすることを目的として手術後に実施します。
また、正常な組織にも放射線が当たり体調に影響が出ることもあるので、治療後の体調の変化は必要に応じて医師に相談して下さい。
◉ホルモン療法
乳がんの増殖・発生には、ホルモンの働きが深く関与すると想定されています。ホルモンを利用して増殖するタイプのがんに対しては、ホルモン療法を実施する場合があります。
ホルモン療法とは、エストロゲンという女性ホルモンを身体内から取り除くことによって、がん細胞の増殖を阻止する治療法です。これらの治療を実施することで、エストロゲンを抑制し、エストロゲンが受容体と結合するのを阻止します。
その結果、がん細胞が増えるのを抑制することに結び付きます。
ホルモン療法薬は、ホルモンの機能・分泌を阻害してがんを攻撃する薬です。ホルモン療法を受けると、体内のホルモンバランスが変化するので更年期障害的な症状が出現する時があります。
「男性乳がん」はホルモン療法の効果が高いことが多く、5年から10年の内服治療を実施します。腫瘍が大きい場合やリンパ節転移を認める時には、放射線療法や抗がん剤によって術後の生存率の改善が明らかとなっています。
また、進行がんでは手術前に抗がん剤などの薬物療法を一定期間実施し、腫瘍を小さくさせてから手術を実施するのが一般的です。
▽予防策
◉定期的な健康診断の受診
男性で定期的な乳がん検診を受ける方は少なく、「男性乳がん」は進行した状態で発見されることが少なくありません。
健康診断で男性は、乳がん健診は含まれていませんが、それ以外の生活習慣病などの兆候から医師に相談し、「男性乳がん」が発見される時もあります。
健康診断は身体の全般的な健康状態を解析するもので、健康診断を受けることで生活習慣への意識が向上し、結果的にがんを予防可能です。ご自身の身体のチェックのためにも、健康診断は毎年受診する様にして下さい。
◉健康的な生活習慣の維持
乳がんは女性ホルモンの影響を受けていて、男性の女性ホルモン過剰は乳がんのリスク因子となります。
男性であっても女性ホルモンは分泌されていて、通常は男性ホルモンとのバランスで女性ホルモンが抑制されている状態です。
男性ホルモンが減少すると相対的に女性ホルモンが増加してしまい、女性化乳腺症や乳がんなどを発症するケースが少なくありません。
男性ホルモンが減少してしまう原因は、主に以下の生活習慣があります。
・運動不足
・喫煙
・肝硬変
・アルコール多飲
これらのリスク因子を避けて、健康的な生活習慣を維持することで、結果的にがん全体の予防にも結び付くでしょう。
参考サイト
男性乳がん(だんせいにゅうがん) 国立がん研究センター 希少がんセンター(2024年)
男性の乳がん「原因から治療法、予防までの詳細ガイド」 OGC大阪がんクリニック
「男性乳がんの治療法」はご存知ですか?原因・症状も解説!【医師監修】 メディカルドッグ(2024年)
男性乳がんの特徴・症状・原因は? 女性の乳がんと何が違う? 乳がん専門医監修 乳がんのブログ(2018年)
乳がんは男性でも発症する〜男性と女性の違いや、男性乳がんの注意点とは〜 メディカルノート(2020年)
男性の乳がん「原因、症状、治療法と予防についての詳細解説」 東京がんクリニック
「男性乳がんの症状」はご存知ですか?原因・検査・治療法も解説!【医師監修】 メディカルドッグ(2023年)
乳がん「男性は患者の1%」でも知るべき3つの事情 東洋経済オンライン(2023年)
「男性乳がんの特徴」はご存知ですか?治療法や予防法も解説!【医師監修】 メディカルドッグ(2024年)
▽「男性乳がん」の注意点
「男性乳がん」そのものは、女性の乳がんと変わらない病気ですが、以下のことで、女性の乳がんに比較してもリスク因子もあります。
◉女性の乳がんに比べて進行がんで発見される
診断時の進行度合い(ステージ)が同じであれば、「男性乳がん」と女性の乳がんの生存率はほぼ同率ですが、「男性乳がん」は認知度が低く、男性に対する乳がん検診がないことで、診断や発見が遅れ、がんと診断された時には既に進行しているのが現状です。
「男性乳がん」はホルモン療法の効果が高い大人しいタイプの乳がんも多く、手術に加え、抗がん剤治療や放射線療法などの治療を適切にかけ合わせることによって、完治できる可能性が十分にあります。
◉病気として認知度が低い
乳がんの患者さんの99%は女性であることで、「男性乳がん」は病気としての認知度が低い故に、診断が遅れたり、乳がんと疑うことなく放置してしまったりする時がありますが、
「男性乳がん」も女性の乳がんと同様に、乳房の周りにしこりができるので、男性も女性と同様に乳房に変化がないか定期的に確認することが大事です。
ここまで、「男性乳がん」について観てきました。60〜70代が多い中で、全年齢が発症するというこの病気。なかなか男性はセルフチェックなどしないと思いますが、気になるところがあれば、病院を受診して頂きたいです。
noteでも書いています。よければ読んでください。
コメントを残す