バスの来ないバス停とは 認知症の方への優しいうそについて考えたこと

認知症

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 こんにちは、地平線です。今回はアートから離れ、認知症の人に向けた取り組みについて見ていきたいと思います。

 今回の記事で取り扱う『バスの来ないバス停』は、愛知県豊橋市の「元町グループホーム」の敷地内にあります。

 バスが来ないのになぜバス停があるのか。そこには認知症の利用者を考えた優しいうそがありました。

バスの来ないバス停とは

 このバス停は、認知症の利用者が自宅に帰ろうとするのを引き止める目的で建てられました。

 認知症の方が家に帰りたいと介護施設を出て行こうとする事があります。環境の変化に対する不安から生じるとされ、行方不明につながる心配がある為介護現場では対応に悩まされています。そんな中、利用者に寄り添い穏やかな生活に繋げようとする取り組みとしてバス停は建てられました。

 施設の外に出て行こうとする利用者に職員が「ここでバスに乗りましょう」と持ちかけます。そしてベンチでまつ間、家に帰れると安心して次第に落ち着き、気持ちが切り替わるという工夫です。

 この取り組みについて元町グループホームの施設長は次のように話しています。

施設長の内藤きみ子さん(59)は「行方不明になる危険から利用者を守るため、バス停には『優しいうそ』が込められている」と語る。

引用元:認知症の人が介護施設から「家に帰りたい」…グループホームが敷地内に「バス停」を設置したワケ

こうしたバス停を市内8ヶ所の介護施設が設置し、2ヶ所が設置予定とのことです。

祖父への思い、認知症患者の家族として

 そもそも認知症とは記憶力や判断力が低下することで日常生活への支障が出ている状態を指します。これに加え、環境の変化や周囲の人の接し方で暴言や徘徊、抑うつなど様々な症状が出る事があり「BPSD(行動・心理状態」」と呼ばれるそうです。

 私の祖父も認知症になってしまい、もう私のことを覚えていません。最近施設に入りました。コロナのこともあり施設の面会が厳しく、なかなか会えないことを悲しく思っています。幸い、徘徊などの問題は起きていないのですが、最後に会った時にはベットの上で弱々しく寝ていて私が何もしてあげられないことに苦々しい思いを感じたことを思い出します。

 そんな祖父も家に帰りたいと口にする事があるようで、実際に家へ少しつれて帰ると元気を出したと母から聞きました。祖父の家は林業をしていた祖父自身で切り出した木材がふんだんに使われた家で私もとても好きな場所です。なので、祖父の家に対する思いは強いのでしょう。帰りたいと語る祖父に何も出来ない自分には無力感を感じます。

 だからこそ、こうした「優しいうそ」が必要なのだと強く思うのです。もしかしたら、この優しい嘘は認知症の方本人だけでなくその家族のためでもあるのかもしれないと感じました。

 実際に帰ることはできなくても家に思いを馳せる事ができる。バスを待つ間に思い出話などをすることでカウンセリングのような効果が期待できるかもしれません。認知症の方もどこかで帰れない事を理解しているように私の祖父を重ねて思うのです。

 だから、優しいうそで穏やかに引き止める。できるだけ誰もが傷つかない方法としてバスの来ないバス停がある。

 バスの来ないバス停には、本当はちゃんとバスが来ていて、思いを家に送り届けてくれる。詩的すぎるかもしれませんがそうあって欲しいと強く思うのです。  

高齢化社会が進む中で

 今後、高齢化社会で後期高齢者、そして認知症の患者は増えてゆくとされています。そんな中で様々な問題が発生することが予想されます。けれども、認知症の方も望んで認知症になったわけではないことを忘れてはならないと思っています。関わる全ての人ができるだけ傷つかない方法を模索する必要があると執筆しながら考えました。

 今回はここまでとさせていただきます。

 また、次の記事でお会いしましょう。地平線でした。

参考:認知症の人が介護施設から「家に帰りたい」…グループホームが敷地内に「バス停」を設置したワケ

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4 件のコメント

  • 記事を読ませていただきました。認知症の人に優しいおもいかもしれませんね。母も認知症になり会いたい人に会えた後に病院で亡くなりました。顔も個人も忘れてもこわい人優しい人の感情だけは最後まで残っています。
    これからも記事を楽しみにしています。

    • コメントありがとうございます。本当に優しい取り組みだと思い記事にしました。祖父に忘れられてしまった事は悲しいですが、それでも元気に過ごして欲しいと思い、出来るだけ時間を作って会いに行こうと考えているところです。
      今後の記事もよろしくお願い致します。

  • 良い記事ですね。バスの来ないバス停、これを考案した人は本当に優しい人ですね。在宅で生活できるのが理想ではありますが、あくまでも理想。家族の負担を考慮すると現実はそうはいかないケースが大半です。理想を実現しようとする取り組みが注目されがちですが、こういった現場と現状に即した、悲しみを少しでも減らす工夫こそ、もっと評価されるべきですね。

    • コメントありがとうございます。理想を追い求めることも重要ですが、現実は厳しいことも多いと私も感じます。ある種の妥協が必要な場面も多いのではないかと考えています。そういう意味でこの取り組みはできるだけ誰も傷つかない、傷が少なくて済むようにという理想と現実の間でのバランスが取れた、そして何よりも優しい心から生まれた取り組みだと思いました。今後の記事もよろしくお願い致します。

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