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こんにちは、翼祈(たすき)です。
皆さんは、『ジェンダード・イノベーション』という言葉を聞いたことがありますか?
『ジェンダード・イノベーション』とは、性差に基づいたという意味を持つ「ジェンダード」と新しい価値の創造(知的創造)と技術革新を意味する「イノベーション」をかけ合わせた造語のことです。
科学技術分野の研究や開発をすることにおいて、男女の分析(性差分析)を追加することでイノベーションを呼び起こす、という思想です。
『ジェンダード・イノベーション』は2005年に提唱されたまだまだ新しい思想で、提唱者は、科学史界でのジェンダー研究の第一人者、アメリカのスタンフォード大学のロンダ・シービンガー教授です。
今までの研究開発の多くは男性に任せてきたことで、無意識の間に男性を基準として研究開発が進み、性差が見過ごされている、と、ロンダ教授が問題提起しました。
この様にまだまだ新しい思想ですが、最近では、性差の違いで、病気の発症リスクが変わることが分かって来ました。
今回は、性差での病気の発症リスクの示した内容と、『ジェンダード・イノベーション』を取り入れている、お茶の水女子大学について取り上げます。
最近分かってきた、『ジェンダー・イノベーション』での、病気の発症リスクの違い
①“隠れ”狭心症
男性は太い血管が詰まって発症する狭心症が多い反面、ある女性の場合は0.5mm以下のごく微小な血管が狭まり、血流が悪くなって狭心症になっていました。最新の実態調査では、女性の患者さんの7割がこの微小血管の狭心症だと明らかになってきました。更に分かってきたのは、狭心症など心臓病の男女の痛みの違いがあることです。
男性の心臓病では胸に痛みが起こりやすいのに対し、女性の心臓病では肩や首、お腹にも痛みが起こることもあって、心臓の病気だと女性自身が自覚しづらいとされています。
アメリカでは各州に女性専門の循環器のクリニックが設置され、専門知識を持っている医師たちが女性の心臓病の診断を担当しています。
また、アメリカでは詳細な心臓病のガイドラインも作成され、そのことで一般の病院の人たちが狭心症における男女差を正確と認知し、すると、アメリカでは2000年以降、女性が心臓病で亡くなる人が20%低下したというデータもあります。
②たんぱく質、オステオカルシン
NPO法人「日本女性技術者フォーラム」理事長で、中央大学特任教授の女性は、『ジェンダード・イノベーション』に関して、「色んなことが男性メーンで開発され、女性が弊害を受けてきました。そうしたマイナス要素ではなく、女性と男性、または性差に着目して、解析を重ねて新しいものを生み出すことを基準としてきました」と説明します。
例えば創薬実験のマウスは、以前はオスが多く使われていたとされます。
中央大学特任教授の女性は、
「女性は妊娠・出産の可能性があって、臨床試験でも創薬の危険性が危惧されました。
メスには生理周期があることで身体の状態が変わるので、臨床実験の結果がブレやすく、データを取るのに不便でした。そのことで、主に男性メーンで創薬実験のデータ集めが進められて、動物実験でも同様にオスが使用されることが多い傾向でした。
そのことで女性に効きづらい治療薬が完成することもありました。その反面、オス・メス両方で検証すると、女性だけに効く成分も発見できます。この様なイノベーションに結び付けることがベースの思想です」
と述べました。
創薬実験では、オス・メス、それぞれにたんぱく質のオステオカルシンを毎日、口から投与していきました。
九州大学歯学部での創薬実験を始めてから1ヵ月後のネズミ。見た目はそこまで変化はありませんが、その身体内ではオス・メスでは興味深い変化が起こっていました。
オスの内臓脂肪の脂肪細胞は、オステオカルシンを投与した後、脂肪細胞が大きくなっていて、肥満が進んでいました。
一方、メスでは内臓脂肪の脂肪細胞が小さくなっており、内臓脂肪の量は何と40%近くも少なくなっていました。
それだけではなく、メスの膵臓を観察してみると、赤い斑点はインスリンを生み出す細胞の塊で、インスリンは血糖値を下げるホルモンです。その細胞の塊が大きくなって、細胞の塊が増殖しました。
分泌されるインスリンが増加したことで、血糖値が下がりました。そのことで、オステオカルシンは女性に対してだけ糖尿病や肥満を予防・改善する可能性を秘めています。
福岡歯科大学の教授の男性は、
「女性に対してだけ、効果のあるサプリメントになる可能性も秘めています。オステオカルシン以外にも、オスとメスで違う作用を持つ臓器などがまだまだあります」
と述べています。
③前十字じん帯損傷
選手生命を脅かし兼ねない深刻な怪我ですが、女性選手は実は、前十字じん帯損傷を負うリスクが、男性選手の3倍以上と高い傾向だと明らかになってきました。
前十字じん帯損傷の原因を実態調査をするセントメリーズ大学のカトリン・クライガー博士は、原因は女性の足に適していない靴にあると考えています。
クライガーさんのアメリカやヨーロッパ人を対象とした実態調査では、女性は甲のカーブも男性より急で、土踏まずの形も異なります。それにも関わらず、実はサッカーを始め、スポーツの靴は男性の足形をもとに女性用の靴が作られていることがあります。実際に、ヨーロッパのプロリーグでプレーする、実に女性の82%が靴が合わず、プレーに悪影響が出ていると答えています。
クライガー博士は、
「女性の足は男性より、長さに対して幅が広いのが特徴です。長さで靴を選択すると圧迫されます。状況は変えられると思います。パフォーマンスを存分に発揮できて、怪我のリスクを最小にするためには、女性に合う靴を用意すべきです」と説明しています。
④大腸がん
男性は肛門の近くに大腸がんができますが、女性は大腸の奥の方に大腸がんができます。さらに、腫瘍の形状を見ても男性は分かりやすいですが、女性はへん平で分かりにくい形状をしています。そのことで、大腸がんが見つけづらいということがあります。その上、奥の位置に出現する大腸がんは悪性度も高い傾向だということも周知されています。
⑤シートベルト設計がこれまでの男性の体格前提の開発では女性の重傷率が高くなってしまうこと。
車の衝突事故で女性ドライバーの方が男性ドライバーよりも重傷を負う確率が47%高いという、2011年のアメリカでの実態調査があります。
⑥骨粗しょう症
70代で骨粗しょう症になる人の3分の1は男性という実態調査もあります。
更に、病気のなりやすさも、男性は肥満、高血圧、糖尿病などが高く、痛風は女性の65倍なりやすいということ。更に、女性はうつ病、ぜんそく、骨粗しょう症、自己免疫疾患が男性よりもなりやすいということが、男性・女性でこれほどまで違ってきます。
参考サイト
“性の違い”がイノベーションに 病やけがのリスクを減らせ! クローズアップ現代(2023年)
「ジェンダード・イノベーション」ってナンだ?課題解決のカギは性差の分析?“男女はこうあるべき”を生み出す可能性は A BEMA TIMES(2024年)
2022年から、ジェンダード・イノベーションを取り入れているお茶の水女子大学
2022年4月、東京都文京区にあるお茶の水女子大学が、【ジェンダード・イノベーション研究所】を立ち上げました。ジェンダーの分析に基づいてイノベーション(技術革新)を起こすという意味を持つ研究所です。
男女の性差の視点を配慮した研究を加速し、新しいサービスや製品の開発を掲げる日本で初めての研究所です。見過ごされてきた性差が、人の命や生活にも関与することが明らかになってきたことで、立ち上げました。
色んな分野で性差が見過ごされてきたことが【ジェンダード・イノベーション研究所】が明らかにしてきました。最初に医学分野では、例を挙げれば「ゾルピデム」という睡眠導入剤を内服した時に、女性の方が身体外に排出されづらく、居眠り運転をしてしまう人の割合が男性の5倍高いと分かりました。2013年、米国食品医薬品局(FDA)は、「ゾルピデム」の女性の量を男性の半分にして処方し、ボトルを男女で色分けして処方することにしました。
さらに、2013年、イギリスのエリザベス・ポリッツァー博士は、人の身体の細胞レベルで機能に男女での性差があると発見した研究が、イギリスの科学誌[ネイチャー]にて掲載されました。
性差は生物学的なもの以外にも、社会学的なものも存在します。スマホなどで質問に答えるAIアシスタントの音声の初期設定は女性の声が多く採用されています。【ジェンダード・イノベーション研究所】の石井クンツ昌子所長は、「女性は素直で扱いやすいという偏見を助長させる考え方ではないでしょうか?」と思っています。
アメリカやヨーロッパでは、科学研究の論文を投稿する時や助成金を得る時に、性差を配慮する様に義務付ける流れですが、日本はそこにも遅れを取っています。そこで、お茶の水女子大学は【ジェンダード・イノベーション研究所】を立ち上げ、18人体制で、文理融合研究に励みます。
生活経済学が専門の斎藤悦子教授は、介護保険制度の下で貸し与えられる車椅子の利用者の性差を数年前に調査してきました。すると、介護保険受給者は女性の方が多いのにも関わらず、男性になるほど車椅子は貸し与えられていなくて、介護度が上がるほど男女差が拡大しました。
最も手厚いサポートが必要である「要介護5」では、介護保険サービスを受給している男性全体の中で、車椅子を利用する男性は13.9%、車椅子を利用している女性は8.8%と男女で5ポイント、差が出ました。
斎藤教授は「理由はハッキリとしていませんが、介護用車椅子を利用することには介助者が必要なこと、女性の体形に合っていないということ、費用の問題も考えられます」と説明しています。これから企業と連携して、原因を調査し超高齢社会に適した車椅子の開発ができればと思っています。
医工学が専門の太田裕治教授は、歩行の転倒リスクを調査するため10年以上前から、中高年の男女およそ1000人の靴に圧力センサーを着けて動作データを収集してきました。「性差の視点を入れることで、新しい発見があるかもしれないです」と調査範囲を見直しています。
また、斎藤教授と太田教授はキッチンの環境改善も掲げています。20〜90歳代の男女25人の調理動画を撮影してアンケートを行って総括し、身体に負担の少ないキッチンの設計を検討することを始めました。
性差を配慮した研究は、手間をかけ調査した結果では性差がないことや、今までの研究に比較してお金や時間がかかることも想定され、ほとんど進んでこなかったからでした。
久しぶりに書いた
ジェンダーの話題でした。久しぶりにジェンダーの話題を書いている間に、私の周りも随分変わりました。
私が所属しているTANOSHIKAでの話ですが、支援員さんが凄く増えました。以前はどちらかと言えば、女性の支援員の多い職場でした。
この半年足らずで、女性だけではなく、男性の支援員さんも増えました。男性も増えたことで、私もそうですが、性別特有の悩みとかも、男性のメンバーさんも相談しやすくなったのではないか?と思っています。
支援員さんは色んな人が増えたことで、1つの役割を複数の人で持つことができて、仕事量の調整とかも、前よりしやすくなったかもしれません。
この記事を書いている間に、私のライターの後輩が一気に4人増えました。私も入社した勤務の期間はまだまだ真ん中ですが、後輩が増えたことで、できることを人に教える立場にもなってきました。
「これはこの人の役割」と決め付けず、それぞれが得意なことを持ち寄って、みんなで後輩のライターさんを迎えようと準備していて、それも良い変化だと思っています。
この記事を書いて思ったことが、1つあります。女性が男性より自己免疫疾患になりやすいという部分ですが、私の母が2023年冬から手が痛いらしくて、この間の退院した後の通院で、そのことを主治医の先生に話すと、「リウマチかもしれない。膠原病内科を受診した方がいいかもしれない」と言われたそうです。
リウマチは自己免疫疾患で、私も知っている人はみんな女性でした。
この記事を書いて、リウマチが女性に多いと書いて、少し納得しました。
まだまだ新しい『ジェンダード・イノベーション』の思考ですが、この概念がもっと広く進んでくれたらと思います。
参考サイト
noteでも書いています。よければ読んでください。
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