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こんにちは、翼祈(たすき)です。
2023年11月11日と11月12日に東京ビッグサイトで行われていたイベントで販売されていたマフィンからの食中毒。
「糸を引いていて、納豆みたいな匂い」、「食べて嘔吐と腹痛が止まらない」など、数百人規模の食中毒感染者が出て、「CLASS1」という毒キノコやフグと変わらない毒性を出しました。
「CLASS1」の一覧詳細を観ていた時に、ボツリヌス菌という文字が目に留まりました。
今回はボツリヌス菌の怖さを多角的に特集したいと思います。
ボツリヌス菌とは、土壌や海、川、湖などの泥砂中に分布している細菌で、偏性嫌気性の芽胞(がほう)形成菌の一種です。
ボツリヌス菌の正式名はクロストリジウム・ボツリナム(Clostrium.botulinum)です。ヨーロッパでは古くから血液ソーセージによる食中毒であることが知られ、1895年にベルギーでソーセージで食中毒を引き起こす細菌が発見され、ボツリヌス(botulism)はラテン語のソーセージ(botulus)に由来します。19世紀のヨーロッパでハムやソーセージなどを食べた人に起きる死亡率の高い食中毒(腸詰め中毒)として恐れられていました。
ボツリヌス菌は熱に強く、酸素がない状態を好み、ボツリヌス芽胞が低酸素状態に置かれた時に、菌の発芽・増殖が起こり、食中毒を引き起こすボツリヌス毒素が産生されます。
ボツリヌス毒素が含まれる食品を食べると、食中毒の症状が引き起こされます。このボツリヌス毒素は、現在知られている自然界の毒素の中では最強の毒力があると言われていて、A~Gまでの型に分類されています。およそ0.5kgで全人類の致死量に相当します。
ボツリヌス症は感染症法4類疾患であり、患者、疑似症、無症状病原体保有者、死亡者は、速やかに保健所への届け出が必要です。
▽症状
ボツリヌス毒素は、神経毒となります。そのことで、神経系組織に影響を及ぼします。食品由来のボツリヌス中毒は、筋力を低下させる弛緩性麻痺が特徴で、呼吸不全を引き起こします。
ボツリヌス食中毒では、ボツリヌス毒素が産生された食品を摂取した後で、早い症例は5~6時間、遅い症例は2~3日間で、一般的には8時間~36時間で、初期の症状には、吐き気、下痢、便秘、嘔吐が始まり、その後神経症状が現れていきます。
神経症状は両側対称性を特徴で、脳神経に始まり下行性に脱力および麻痺がそれに続いていき、全身の違和感や、視力低下、複視・かすみ目(眼調節麻痺)、対光反射の遅延・欠如、瞳孔散大、眼瞼下垂などの視力障害、これらと前後して口渇、言葉が出にくくなる構音障害(発語・言語障害)、物を飲み込みづらくなる嚥下困難などの神経症状が出現します。
また、自律神経の機能にも影響を及ぼすことから、汗や唾液の分泌が減少するなどの症状も見受けられる様になります。
ボツリヌス症は、発熱はなく、意識が消失することもなく、通常清明なまま。知覚障害は認められず、意識は通常は発熱を欠き、脈拍も正常のままだといいます。
また、これらの症状は1ヵ月以上持続し、改善するまでに1年以上かかることもあります。
その後、呼吸筋や下肢の筋肉に影響が達し、重症の場合は、病状が進行すると、腹部膨満、尿閉、腕や首の衰弱、便秘、四肢の麻痺、著しい脱力感がみられ、次第に呼吸麻痺による呼吸不全を引き起こし、亡くなります。強力な毒素で、他の食中毒に比べて致死率が高い(10~20%)と言われています。
症状は、ボツリヌス菌そのものによって引き起こされるわけではなく、ボツリヌス症で産生される(菌体外)毒素によって引き起こされます。ボツリヌス症の発生率は低い傾向ですが、早い段階の診断と早期の抗毒素剤の投与と万全な呼吸管理の、適正かつ速やかな治療が実施されなければ、亡くなる割合が高くなります。このボツリヌス症での患者の致死率は5%から10%です。
▽原因
一般的に、ビン詰め、缶詰、レトルトパウチ食品(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)、保存食品(缶詰、ビン詰めは特に自家製のもの)など、酸素のない状態の食品が感染の原因となります。また、ボツリヌス菌が自然界から食品に付着し、加熱せずに作られ、衛生管理が不十分なまま長期保管されることで、自家製の“いずし”などの保存食品もボツリヌス食中毒の原因となる場合もあります。
日本では、東北地方や北海道の特産である魚の発酵食品“いずし”による食中毒が、1997年頃までは報告されていましたが、 自家製の“いずし”がほとんど作られなくなり、“いずし”によるボツリヌス食中毒もほぼ見られなくなりました。
それに置き換わり、特に、レトルトパウチ食品(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)に類似していますが、120℃4分間の加熱処理がなされていないもの、自家製の缶詰、ビン詰めによるボツリヌス食中毒が発生しています。容器包装詰め食品の中でボツリヌス菌が増殖すると、容器は膨張し、開封すると異臭(酪酸臭)がする時があります。
ヒトからヒトへのボツリヌス食中毒の感染は基本的にないので、病院内における特段の感染対策は必要ではありません。感染者から医療従事者への感染性はなく、標準予防策のみで特別な隔離は不要です。
▽ボツリヌス食中毒が発見された食品
ボツリヌス毒素は、ホウレンソウ、枝豆、キノコ、カブなどといった酸性度の弱い保存野菜、マグロの缶詰、塩漬けの魚・発酵させた魚・燻製の魚などといった魚介類、飯寿司(“いずし”)、あずきばっとう、熟寿司(なれずし)、辛子レンコン、ソーセージやハムなどの肉製品、缶詰、レトルトパウチ食品(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)、ビン詰め、自家製の野菜・果物の缶詰などで、自家製の海産物や、保存状態の悪いビン詰めなどが色んな食品が、原因食品として挙げられています。
1951年、北海道の岩内町で “いずし”を食べた14人の方がボツリヌス食中毒になって、4人が亡くなりました。日本で最初のボツリヌス食中毒が発生した記録です。
それ以来120件以上のボツリヌス食中毒が日本国内で報告され、今でも2~3年に一度ボツリヌス食中毒が発生しています。
ボツリヌス食中毒に関連する食品は国によって異なっていて、食品の保存のやり方や現地の食習慣などが反映されています。時に、商業用に調理された食品がボツリヌス食中毒に関連する場合もあります。
アメリカでは野菜・食品・果実などの自家製ビン詰め・缶詰、ヨーロッパでは塩漬やキャビア、発酵させた食肉製品から多数発生していて、沿岸部では魚介類(ニシン、アユ、ハタハタ、サケ、イワナ、ホッケ、ハヤ、ニシン、ハスなど)と米飯を数週間塩漬けにした発酵食品でのボツリヌス食中毒の発生によるケースも見受けられます。
▽診断基準
ボツリヌス食中毒の診断は、理学所見と臨床経過に基づきながら実施されます。それに続いて、便、血清、食品中のボツリヌス毒素の存在、或いは創傷、糞便、食品からのボツリヌス菌の培養で存在を示した場合など、確定診断の為の臨床検査が実施されます。
ボツリヌス症が疑われる時は、下記の様な検査が必要です。
◉血液検査
ボツリヌス症での炎症の程度など全身の状態を把握する為に実施されます。また、発症から数ヵ月後にはボツリヌス抗毒素抗体が検出できる様になることから、ボツリヌス症の診断の材料にもなります。
◉細菌学的検査
ボツリヌス症の診断をする為に必須な検査であり、血液、便、吐物、腸内容物、傷口から出ている浸出液などの中にボツリヌス毒素が有るか否かを解析します。
また、食品が原因でボツリヌス症だと想定される時には原因食品を特定する為のさらなる検査が必要です。
◉画像検査
ボツリヌス症は神経疾患との鑑別が困難な場合も多く、脳に異常が出ていないか解析する為にMRIやCTなどによる画像検査を実施することがあります。
ボツリヌス症の誤診は、ギラン・バレー症候群、脳卒中、重症筋無力症と混同された時に起こり得ます。
▽治療法
抗毒素は、臨床診断でボツリヌス症だと確定された後、できるだけ速やかに投与する必要があります。早い段階での抗毒素の投与は、死亡率の低減に有効です。1ー3ヵ月程度の長期入院を終えた後に回復することが多いです。
重度のボツリヌス症の感染者には、数週間から数ヵ月間におよぶ対症療法、特に人工呼吸器の管理が必要です。抗生物質は不要です。ボツリヌス症にはワクチンがありますが、有効性が完全に評価されていなくて、有害な副作用も示されてきたことから、ほとんど使われていません。
日本では抗毒素療法が導入された1962年以降に、ボツリヌス症の致死率は抗毒素両方の導入前のおよそ30%からおよそ4%にまで低下しています。
▽予防策
ボツリヌス菌の芽胞は土壌や海、川、湖など広範囲に分布していることから、 食品原材料の汚染を特定し防ぐことは困難な状況です。ボツリヌス食中毒を予防する為には、食品中でのボツリヌス菌の増殖を抑制することが重要な鍵となります。
・食品に表示されている保存方法を守って、表示された保存期間内に食べること
・レトルトパウチ食品(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)や大部分の缶詰は、 120℃4分間以上の加熱がきちんと行われていることから、常温での保存できますが、これとよく似た包装であっても、冷蔵保存が必要な食品も流通しているといいます。食品の保存方法は、形態だけで自己判断するのではなく、表示でしっかり観て確認して下さい。
真空パックなどの密封食品でも、常温で放置してしまうと、ボツリヌス菌が増殖し、命に関わる重大なボツリヌス食中毒を引き起こす恐れがあります。
レトルトパウチ食品(容器包装詰低酸性食品)とは、容器包装に密封した常温流通食品の中で、pH4.6を超化し、水分活性が0.94を超過したものであって、かつ120℃、4分間に満たない条件で殺菌を行った食品となります。
そのことで、120℃4分以上又は同等の加熱加圧殺菌が行われ、レトルトパウチ食品(容器包装詰加圧加熱殺菌食品)と表示されているものは常温で保存可能です。
また、ボツリヌス食中毒の症状の直接の原因となるボツリヌス菌が産生する毒素は、80℃、30分間といった100度で数分以上の加熱で失活すると推定されていることから、食べる直前に十分に加熱調理すると効果的で、実施する必要もあります。
・「食品を気密性のある容器に入れ、 密封した後、加圧加熱殺菌」という表示が書かれていない食品、または「10℃以下で保存して下さい」「要冷蔵」などの表示が書かれている時は、必ず冷蔵保存して 期限内に消費して下さい。
・真空パックや缶詰が膨張している状態であったり、食品に異臭(腐敗した様な酸っぱい臭い)がある時には絶対に食べないで捨てて下さい。
・ボツリヌス菌は熱に強い芽胞を作ることから、120℃4分間以上の加熱をしなければ完全に死滅しません。そのため、 ご自宅で缶詰、ビン詰め、真空パック、“いずし”などを作る場合には、原材料をきちんと洗浄し、加熱殺菌の温度や保存のやり方にしっかり注意を払わないと大変危険な行為です。 保存は3℃未満で冷蔵又はマイナス18℃以下で冷凍して下さい。
・自家製の保存食を作る時は、何らかの変化が見受けられる保存食は摂取しないこと、使うビンなどの容器を煮沸することなどの対策でボツリヌス症を予防することが可能です。
参考サイト
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum) 東京都保険医療局 食品衛生の窓
ボツリヌス中毒症 (ファクトシート) 厚生労働省 検疫所 FORTH
ボツリヌス菌による食中毒の防止について 兵庫県(2023年)
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum) 滋賀県(2017年)
WHOの定義
生鮮物と調理物とを分けて取り扱うこと
清潔を保持すること
調理は徹底して食中毒対策を行うこと
新鮮な材料と安全な水を使うこと
食品を安全な温度に保持すること
WHOの「食品をより安全に保持する5つの鍵」が、食品取扱業者の人への訓練と消費者の教育へのプログラムの基礎要件として役立てられます。特に、食中毒を予防する上では重要な鍵です。
ボツリヌスについては知っていました。母が「名前だけで恐ろしい感じがするよね」と言っていたので。実際にこうして記事にすると、最強の毒素を持っているだけに、症状も酷く重たいものばかりだと思いました。
後日、同じボツリヌスで問題となっている、「乳児ボツリヌス症」を別記事にまとめて紹介させて頂きます。この記事では1つの記事内で同じ扱いにすると混乱するでしょうし、一般的なボツリヌスだけを紹介したかったので。
また「乳児ボツリヌス症」の記事も読みに来て下さると嬉しく感じます。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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