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こんにちは、翼祈(たすき)です。
児童虐待が後を絶ちません。2023年3月の発表で、2022年に全国の警察が虐待の疑いがあるとして児童相談所に通告した子どもの総数は11万5762人(2021年比7.1%増)で、18年連続で過去最多を更新したことが、警察庁の調査で明らかになりました。
警察庁によりますと、虐待通告の内訳は、暴言を吐くといった「心理的虐待」が73%に該当する8万4973人と最多でした。この中で半数以上が子どもの前で家族に暴力を振るう「面前DV」でした。暴行などの「身体的虐待」は2万662人、「ネグレクト」は9805人で、「性的虐待」は322人でした。
摘発件数も2021年比7件増の2181件で、今までで最も多かったとします。「身体的虐待」の摘発が1718件でおよそ8割を占めました。被害を受けた子ども達は2214人に上りました。
2022年も私は2021年度の虐待の記事を書きまして、毎年増え続ける児童虐待に心を痛めています。そんな時代に投げかける映画が、2024年3月に公開されます。
2021年に本屋大賞を受賞した、75万部を売り上げるベストセラー『52ヘルツのクジラたち』が、俳優の杉咲花さんが主演、成島出監督で実写映画化され、2024年3月1日(金)に東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開されます。
タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラのことを指します。たくさんの仲間がいるはずなのに、何も届かない、何も届けられない。そのことで、世界で1番孤独だと言われています。
今回はこの映画のことと、児童虐待を受けてきた人たちの心の声などを届けます。
あらすじ
ある傷を抱え、東京から海辺の街の一軒家に移り住んできた貴瑚(杉咲花)。虐待され「ムシ」と呼ばれる少年との出会いが呼び覚ましたのは、貴瑚の声なきSOSを聴き救い出してくれた、いまはもう会えないアンさんとの日々だった…。
画像・引用:杉咲花主演でベストセラー小説を映画化『52ヘルツのクジラたち』2024年3月公開 cinemacafe.net(2023年)
予告編も公開中
ここからは児童虐待を受けた子ども達の心の声や、毎年11月の国の児童虐待防止推進月間で、児童虐待について考えた中学校について、お伝えします。
児童虐待を受けた子ども達の心の声
毎年11月は国が定義する児童虐待防止推進月間です。虐待を受け続けていても、周りの大人にSOSを発信できない・しない子ども達や、SOSを発しても適切な対応を受けることができない子ども達は多いといいます。6割が児童虐待を受けているとの本人に自覚がなかったり、助けを周りの大人に求めたいと思わない事例だったとの調査結果もあります。
エッセー漫画家として活躍するやぶうちゅうさんは、「物心ついた時から、両親から虐待を受けて育ちましたが、父が怖くて、周りの大人に助けを求めることなんてできませんでした」。声を上げられなかった、児童虐待の当事者の一人です。
飲み物を机にこぼした、食事を食べ残した。そんな些細なことで、父から蹴飛ばされたり、母から夜中まで暴言を吐かれ続けました。「私が悪いから」と思っていましたが、小学3年生になると、「うちの家は頭がおかしいんじゃないか」と思い始めたといいます。
「外には話してはいけないことが、自宅の中では起こってるんだ」とハッキリと自覚したのは、父の暴行で母が怪我をした時でした。病院に行こうとした母に、父が「俺にされたって言うなよ。自分で倒れて怪我をしたって言えよ」と釘を差しました。「お母さんが外でお父さんのことを話したらどうなるんだろう。きっと私も、お父さんからボコボコにされるんだろうな」。そう思うだけで、怖くてSOSを発することができませんでした。
顔の傷に教師が気付き、児童相談所の一時保護に至ったのは高校生になってからでした。「家から逃げ出したくても、頑張っている子ども達ほど家庭の状況を受け入れてしまう時があります。子ども達にSOSを発して、と求めるのは余りに残酷です」。
こうした事例は決して珍しくありません。愛知県名古屋市にあるNPO法人・ひだまりの丘が主体となって、2020~2023年度、10~40代の児童虐待の被害者トータル52人からヒアリングした実態調査で、子ども達自身が「『児童虐待』だと認識していない」事例は58%。さらに別の質問では「家庭外の周りの人へ相談する意思を持たない」との回答が60%にまで上りました。
実態調査では、「本当のことを話したら、父が逮捕されると思っていた。私自身が父に依存していて、父がいないと暮らしていけないと思っていたし、父がいないと私自身や、母、弟妹も暮らしていけないし、まだ小さい弟妹から父を奪ってしまうのも嫌だと思っていたから」「僕をどうにかするとか、周りの大人に相談するとかいう意識は全く持たず、母をとにかく怒らせない様にしないといけないだったり、僕がどう対応したら母を怒らせずに済むかをずっと思っていたから」という声も届きました。
同ひだまりの丘の理事長の男性は「集まった当事者の方の声を児童虐待の早期発見、早期介入のための制度設計に結び付けたいです」と述べます。
画像引用・参考:2021 年度 児童虐待に関する実態調査 報告書 よだか総研
子ども達がSOSを発し、大人がキャッチして児童虐待から守るには、どうしたらいいでしょうか?
こうした子ども達の居場所づくりに励む、大阪府にある団体、CVV(Children’s Views and Voices)副代表の女性は「大人が『子どもの権利』を理解し、子ども達に幼い時から伝える必要もあります。子ども達が自身の虐待を自覚できず、大人が気が付かないのは、『子どもの権利』への意識が育まれていないことが背景にあります」と懸念します。
「現在は、この『子どもの権利』の意識が日本社会に根付く過渡期」とした上で、「子ども達がSOSを発しやすい環境を整えるのは大人の役目です」と主張します。
例を挙げると、子ども達用の相談先を記載したカードです。保育園や幼稚園、学校で配布されていますが、「子ども達がその機関に相談した後どうなるのか、その子の意見はどう扱われるのかなど、相談前後の流れを授業で説明するといった丁寧なフォローがあることで、安心して子ども達も利用できます」。
子ども達の声を聴き、必要なシーンで代弁する「アドボケイト」という支援者の活動に関しても、CVVの副代表の女性は「今は児童養護施設などがメーンで活動をしていますが、学校や地域の子ども食堂の様な場所にも活動が拡大するといいでしょう」と危惧しました。
児童虐待防止推進月間について考えた中学校
若い時から児童虐待などに関して理解することで、未来の児童虐待などの防止に結び付けたいとする特別授業が、青森県弘前市の石川中学校で開講し、生徒54人が特別授業に参加しました。
まず最初に講師を担当した家庭相談員が、児童虐待は全国で増加傾向で、弘前児童相談所の管内でも2022年度に対応した児童虐待の件数は、8年前の2倍以上となる400件程度に達することなどを話しました。
その後「どうして児童虐待が起きるのか」や「児童虐待しない大人になるためにはどんなことが必要なのか」、「どうすれば児童虐待を撲滅できるか」に関して意見を出し合う時間が設置しました。
石川中学校の生徒たちはお互いに意見交換するなどしながら自分なりの意見をワークシートに記入し、▽虐待をしそうになれば、まず周りの大人に相談するべきだ、▽身近な人になればなるほど虐待してしまうのではないか、という意見を発表しました。
中学3年生の女子生徒は「児童虐待をきちんと考えたことがなかったので、良い機会になりました。絶対に虐待をしない大人になります」と語ります。
講師を務めた弘前市こども家庭課の家庭相談員の男性は「若い時から児童虐待の知識を持つことで将来、児童虐待などを絶対にしないという意識づけも可能です。これからもこの特別授業を開講していきたいです」と述べました。
参考:児童虐待を理解し 虐待防止につなげる授業 弘前の中学校 青森 NEWS WEB(2023年)
今年は心を痛めることが多い
2023年に児童虐待の問題が明るみになってから、より色んな媒体で児童虐待の記事を紹介する様になりました。
2022年に比べると、詳細な児童虐待の内容まで書かれていることが多く、「それだけ多いんだ」と感じる一方、内容が具体的過ぎて、「ここまで書かなければならないのか?」という感情のせめぎ合いで、心が毎回痛みます。
細かく書くことは真実だとは思いますが、被害者のフラッシュバックを考えると、スンとは腑に落ちません。
この映画に関しても、あらすじもそこまで詳細ではないので、どんな風に描かれているかは分かりません。しかし世の中の流れが変わった2023年の翌年に公開することが、この映画の持つ意味だと思います。
参考サイト
『52ヘルツのクジラたち』出版元の中央公論社:https://www.chuko.co.jp/special/52hertz/
noteでも書いています。よければ読んでください。
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